第10話②~超次元ゲーム時代の異変~
「あの、スタッフさん。失礼ですが――今、大会は『最後』って言いました?」
世界最大規模の大会『G−1グランプリ』の関西地区大会に出場すべく、エントリーに訪れた剣だったが……突如として不穏な空気が漂い始めた。
「いえ、まだ最後になると確定したわけではございませんが……。この状況が続けばG−1グランプリはおろか、ゲームワールドオンラインそのものが消滅する可能性があるのです」
「な、何やて!? 話の規模がデカなりすぎやろ!」
事態は一瞬にして膨れ上がった。超次元ゲーム時代を象徴するVRMMO『ゲームワールドオンライン』が消滅しかねないという、未曾有の危機。
当然、この話は都市伝説的な噂に留まり、公表はされていない。剣もにわかには信じられなかった。
するとスタッフは、周囲を警戒しながら耳打ちする距離で囁いた。
「実は、この噂には理由があるのです。このゲームワールドを壊そうと企む、サイバーテロリスト集団が潜んでいるという……」
「サイバーテロリスト……!!?」
あまりの衝撃に、剣は言葉を失った。
『伊火様』や大人のチンピラ集団とは、格が違う。
秩序を平然と踏みにじり、己の手を犯罪で汚す不届きな連中が、この時代にも潜んで悪巧みをしているのだ。
今回の件は、ゲームワールドを管理する機関『WGC』ですら手を焼くほど厄介な相手だという。
「『チート行為』という言葉はご存知ですか?」
「………えっ!? あ、はい。多少は……」
「ゲームデータを改ざんして、本来不可能なことを不正に行う行為です。彼らはそのチート行為を繰り返し、プレイヤーたちが築き上げた記録や名誉を奪い、数々の管理システムをクラッシュさせていきました。
これが続けば、WGCへの損害だけでなく、プレイヤー全員の尊厳や秩序をも崩壊させる危険があります。最悪の場合、ゲームワールドの根源となるシステムそのものが破壊され、完全停止に追い込まれることも……!!」
(……おい、マジかよ……!?)
想像以上に深刻な問題だった。身勝手なチート行為が、他のプレイヤーたちの居場所を奪っていく。ゲームを愛する者にとって、断じて許しがたい暴挙だ。
「……ちょっと待ってください。じゃあ、何のために不正防止機能や、槍ちゃんみたいなオフィシャルプレイヤーがいるんですか!? こんな大事態を防げないんじゃ、WGCだって……!!」
「公式の強固なセキュリティを掻い潜る裏工作が、何度も行われてきました。証拠を消すために防止装置を細工したり、証人の口封じにプレイヤーが『蒸発』したケースまで出ているのです」
もはやゲーム内の問題では済まされない。冗談では通じない凶悪犯罪にまでエスカレートしていた。
「本物の犯罪集団じゃないですか! VRMMOでどうしてそこまで――!?」
「それは私共にも分かりません。ただ、彼らの悪意には……『超次元ゲーム時代』と呼ばれる今の時代を良しとしない者の、深い恨みが籠もっているように思えるのです」
(恨み? ゲームに恨みを抱える奴が居るのか? ――そんな奴らのために、俺たちの居場所が失われるのを黙って見てろって言うのか……!!)
剣の不安は、激しい怒りへと変わった。情熱を注いできた場所を奪われることに、どうしても我慢ならなかった。
「……何とかならないんですか? このままゲームワールドが消滅するのを、指をくわえて待つなんて……」
「最大限の尽力はするつもりです。しかし、我々の力だけでは足りないでしょう。けれど、プレイヤーが引き起こした悪意は、同じプレイヤーの手で食い止めることができます。魂を込めてゲームに挑む、『ゲーム戦士』ならば……!」
(―――!!)
剣の心に、一筋の光が射した。
「お話しできるのはここまでです。このことはくれぐれも公にはなさらぬよう、ご協力をお願いいたします」
「はい……」
剣は魂が抜けたような返事をし、窓口を後にした。 もはやエントリーどころではなかった。事の重大さに、背中から押し潰されるような圧迫感を覚える。
だが、かつての孤独な剣ならここで絶望していただろうが、今は違う。様々なゲームを通じて繋がった『仲間』がいる。
「早く皆に、このことを伝えなアカン――!!」
◇◇◇
直ちにログアウトした剣は、みのりと槍一郎を桐山家に集め、事の経緯をすべて打ち明けた。
「そんな、ゲームワールドが無くなっちゃうの!?」
混乱するみのり。その様子を見守っていた剣の祖父・矛幻は、この事態を予見していたようだった。
「……その連中は最近になって、大会や各タイトルで犯行を本格化させたんや。最初は一人のプレイヤーによる些細な悪行やったものが、同じ悪意を持つ同胞を増やし、今やWGCの脅威となっている。槍一郎君のようなオフィシャルが証拠を掴もうとしても、二重三重の妨害工作に阻まれて対処ができん。恐ろしい連中や」
そして、剣と同じように怒りを滲ませる者がいた。親友の槍一郎だ。
「僕らオフィシャルプレイヤーが何もできず、あいつらの悪行がエスカレートしていくのを思うと……僕も、悔しすぎる――ッ!!」
槍一郎の両拳が、怒りでワナワナと震える。
「でも、このままじっと見てるわけにはいかないわ! 剣くん、どうしたらいいの?」
みのりが不安を募らせる中、剣の心には既に、揺るぎない覚悟が宿っていた。
「一人の無名プレイヤーが始めた犯罪を、同じプレイヤーである俺たちが覆せないはずはない―――!!」
「剣――!?」
槍一郎とみのりにはすぐに分かった。誰よりも激しい怒りを燃やしているのは、剣なのだと。
「俺たちはゲームで繋がってここまで来たんや! その大事な居場所を、あんなエゴイスト共に潰されてたまっか! 俺はあのテロリスト集団をぶっ潰す!! ――みのり、槍一郎、俺に力を貸してくれ!!!」
剣の渾身の叫びに、二人の魂が共鳴した。
「……よし、分かった! 僕もプレイヤーとしてのプライドに懸けて、力を貸すよ!!」
「私も! これは超次元ゲーム時代に関わる、大事なことですもの!!」
――やってやるぜッッ!!!!
『超次元ゲーム時代』と呼ばれる狂乱の渦の中、今、魂を共にする三人のゲーム戦士が立ち上がった。
ゲームに生きるプレイヤーたちの未来を、その手に掴み取るために……!!
次回、第11話。テロリストプレイヤーを潰すべく3人は『G-1グランプリ関西予選』にターゲットを絞る!!そして……
戦士達よ、『SHUFFLE』の旗のもとに集え!!
お楽しみに!!




