第54話③~狂っちまった悲しみに……~
ゲームワールドオンラインの天空より裂けられた先にある『超次元空間』から、紫色の混沌エネルギーが放出された。そしてそのエネルギーは全方位に拡散されていく。
――バリッ! ビキビキ……!!
次元の裂け目に更に亀裂が……
――――バリンッッ!! キュォォォォォオオオオオオオオオ!!!!
まるで卵の殻が大胆に割れたような音を放ったその刹那、超次元空間の入り口がブラックホールの大きさにまで拡がっていった――!
「あれが……『超次元空間』の扉……!!」
テクノロジーを紡ぐ電子回路が腐食して毒々しい色を放つホールは、ゲームワールドのエリアゲートとは対照的に不気味なオーラを放っていた。これには史也ですらも絶句する。
更にこれだけでは終わらない。
コオオオオオオォォォォ……
超次元ゲートから紫色のもやのようなものが霧のようにエリアへと広がっていく。
「……何だよオイ……、病気になりそうな色した霧が出てるぞ!?」
「お父様……止めて……止めてください!!!」
危険予知が身体に迸るように怖じ気付く剣と、絶望感に恐怖する穂香。彼らの察し通り、これはゲームワールドに再び襲う地獄の前兆に過ぎなかった。
◇◇◇
――バスター・キャッスル トライゲート前。
猛毒色の霧が海エリア・ブルーウェーブシーを通り、他エリアへと進んでいく様子を見て、立海の守護者・立壁 瑠璃が団員達にプレイギアで通信を送る。
「……皆、城外にいる団員全員を連れて中に戻って。ここは私だけで大丈夫だから!」
『えっ!? 瑠璃さんは大丈夫なんですか!?』
「私は鍛えてるから。あんなのにやられる私じゃないわ」
流石は立海の門番、守護者の名に恥じない心構えで城を守る覚悟だ。
『わ、分かりました!』
そしてこの通信の後、城の庭で構えていた立海のプレイヤーが総員で城内に入っていった。
(まぁ、死にはしない。けど……こんなことする奴と手を組んでたなんて、尚更恐ろしいわ……!!)
瑠璃は既に、猛毒霧の様子から見て察していたのだった。
――あの霧はプレイヤーを殺しかねないと!!!
◇◇◇
――アーケードの町『アーケード・タウン』。
プレイヤー達がアーケードゲームに戯れる平穏な町に、超次元空間から放たれた混沌エネルギーが名物『EVO・スポット』に着弾!!
そしてそのエネルギーが猛毒の霧へと変わり、町全体を覆い尽くす!!!
「……!? 何だ息が…く、苦し……ッッ!!?」
「お、オイ!どうし……がッ……ぅえぁぁぁぁ……!!!」
猛毒霧を吸ってしまったプレイヤーは身体全体の生気を根こそぎ吸われていくかのように、呼吸が途絶え、そのまま倒れながら動かなくなった。
この惨劇はアーケード・タウンだけでは留まらなかった。『プレイヤー・バザール』も、『デュエルフィールド』も、『テーブルトップ・シティ』も!!
ゲームワールドオンライン全体に、紫の霧が覆い尽くす……!!!
◇◇◇
「ククク……!!」
黒幕・大森賢士朗は不気味に笑う。
かつてG-1グランプリ予選で起こったブラックヘロンによるテロとは残虐性が桁外れに違う。
殺意も意図も無く、邪魔な物を掃除するかのように平気で起こす狂気、即ち無差別殺人……!!!
そして猛毒霧でプレイヤー達のエネルギーを吸収させた賢士朗が、更に人道を外れ覆いに狂う。
「あッッひゃヒャハハハひゃヒャひゃ!!!!!!!!!」
もうこれ以上外道に引き返す道はない。
エネルギーを蓄えた賢士朗は、まるで天使が地獄の悪魔に魂を売り渡した堕天使のような異形の翼を背中に生やし、狂気がプレイヤーを悪魔と化していった。
「苦しめ、苦しみ悶えながら死ね!!! この超次元の神が、電脳世界に天罰を下す!!!!」
「ッッ……、お父……様――!!」
己のエゴがエスカレートするほど、穂香の理想からかけ離れていく父賢士朗。もはや娘が介入する暇すらない。
そして銃司も、剣も何も口を出せず恐怖心と怒りに耐えている様子だ――!
「……どうした剣君。随分と険しい顔だなぁ……!!」
G-パーツの力で異端のパワーを手に入れた賢士朗が我が物顔で勝ち誇る。
「……勝手にアホが調子づいてるけどさ、俺がG-パーツ手放した事の責任取らなアカンらしい。マジで顔面殴ったるから覚悟せぇや……!!!」
剣の怒りのボルテージは既に沸点を越していた。
「ガキはホントに良く吠えるなぁ……今は気分が良いんだ、暴言は聞かなかったことにしよう」
「……その前に、お前に聞きたいことがある」
剣は賢士朗の煽りをグッと抑えながら、もう一回彼に言及した。
「凄いパワー手に入れた所で水差して悪いんだがな、それはお前の娘の穂香のお陰だってのは分かるよな? 何か言うことあるんちゃうか?」
「剣さん……」
「おっと……確かに、私としたことが大切な事を忘れるところだった」
「へぇ、そこは弁えてるんだな。あんた俺よりも大人だもんな」
剣は憎たらしい面でひけらかし冗談をかます。
……しかしこの数秒後に賢士朗が言い放つ言葉は、何か糸の切れるような音を示唆していた。
「――――もう穂香は捨てるつもりだから、お前達の好きにしなさい」
「……………………!!!!!!」
――捨てる。
これを聞いた穂香は屍のように顔が青ざめ、血の気が空になる体感を覚えた。
そして、剣は……
「……あんたさ、プレイヤーを……人を何だと思ってんだよ?」
「――――道具だ。それが何か?」
剣の虚無感にも似た無表情な顔から、内に秘めていた怒りの炎が再び燃え始めた。
「お前……ッッ、ホンマのホンマにえぇ加減にせぇよ……!! 誰のために穂香が、痛いのも悲しいのも我慢してきたか分かってのかよオ゛イッッッッ!!!!!!!」
「黙れ。道具が悲しみなど持たない。それだけの事に何を熱くなる必要があるのだ馬鹿が」
「お前にゃ心ってのがねぇのかクソ親父!!!!」
「あるともさ! 私は大森賢士朗、超次元の神!! ゲームで滅ぼされた妻、子供達の弔の為に新世界を創世する者!!!
その為に私以外のプレイヤーを全て贄にする覚悟があるのだッッ!!!!」
(『私以外』……)
完全なる支離滅裂、覚悟とも疑わしい狂気に最早穂香でさえも手を差し伸べる気が遠退く。
「……ッ、お父様、私は……!!」
「お前ふざけるのも大概にせぇよ!!!? お前一人残して滅ぼすとか『覚悟』でも何でもねぇよ!! 穂香もお前の家族の一員とちゃうんか!!?」
「……口でなら幾らでも文句がほざけるわ下らない。私はこいつが大嫌いだから何度も暴力で仕打ちをしてきた。家族であることを一瞬でも離したかった。GNAの遺伝子が無ければ一刻も早くコイツを殺してやりたかったんだよぉぉぉぉ!!!!!」
穂香はただ一人、GNAというゲームの闘争本能を宿す遺伝子を持つプレイヤー。
己の欲求、GNAの研究の為に、祈願の為に賢士朗は娘を生かしただけに過ぎなかったのだ。
「……もうえぇよ分かった。聞いた俺が馬鹿だったぜ。もう黙れや」
「あー、そうだ。せっかくだから……」
「だから黙れッッつってんだろボケ!!!!!!!!」
「――――最後の挨拶くらいしないとな、穂香」
「…………は、い……」
剣が腹の底から怒鳴り、銃司は殺意のままに鋭い視線を注ぐ事にも省みず、何処まで穂香に追い討ちを掛けていくのだろうか……
賢士朗が『さようなら』の一言を掛けた次の瞬間、穂香がただ一つ希望としてきた父・賢士朗の優しかった笑顔、暖かい温もりを持っていた淡き記憶とは真逆に……
恨み、妬み、憎しみが詰め込んだ賢士朗の悪魔以下の鬼の形相で穂香に冷淡に言い放った。
「お前なんか大嫌いだ。消えろ、何処でも野垂れ死んでしまえ」
…………涙など、何度も流した筈だった。
ゲームに破れた時も、剣に優しくしてくれた事も、もう身体の中の水分を出しきり、枯れ果てた筈だった。
なのに何故、大森穂香はまた泣いてしまうのか……
悲壮という名の涙を流して…………
生きる筋も、希望も無くし、枯れ木のように崩れ落ちる穂香。それを剣が落ち去る前に優しく身体で包み込んだ。
「…………ぁ、剣さ――――」
「もうええ。もう何も、言うな」
「…………わああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………ッッ!!!!!!」
胸に滴り落ちる、慟哭の涙。剣にとっては、死ぬほど辛い痛みだった。
「……! 超次元空間のゲートが――!!」
銃司は超次元空間の入り口が音を立てながらブラックホールの大きさから徐々に縮小していく様子に気付いた。
「……用は済んだ。私も失礼するとするよ。超次元空間からゲームワールドが崩壊する様を拝見するとしよう。生き延びることを幸運に祈ってるよ――!!」
……言いたいこと言って、厄介な事ばかりやらかしておいて、ここで退散する気か賢士朗!!!!!
※地の文の私、Mr.Gも大変怒ってます!!
「オイ逃げんのか、俺が直々にブッ飛ばすつったの忘れたんか!!!!」
「無理な筈だがぁ!!? 残り1分でゲートが閉まるのに行けるわけないだろぉぅが!!!!」
「関係ねぇよ……お前なんか俺の手でぶっ殺して――――」
怒りに我を忘れて、剣は抱き抱えた穂香を手放そうとした……その時!
「剣ッッッ!!!!!!!」
銃司の突然の叱咤に剣はハッとしながら、銃司の方を見つめた。
「貴様、二度も同じ事を言わせるな。貴様は己の怒りの為に、大切な仲間を手放すのか!?」
「――!!!」
剣は改めて、泣き崩れて意識が遠退いている穂香を見つめて思い返した。
今ここで穂香を手放し、逆襲の為に殺意を露にした時点で……剣は己の未熟さを痛感した。
「……貴様は仲間を守るためにこの城に挑んだんだろう? ならば最後の最後まで、その盾は手放すな。
―――手放した剣は……俺が引き受けてやる――!!」
「…………すまねぇ、銃司……ッッ!」
「気にするな。俺も奴に借りが出来たのだからな。俺も一つ焼きを入れねばならぬ。――それに貴様は良いゲームを二度も魅せてくれたんだ。参加料のチップは、弾ませておこう」
己の盾で傷付いた仲間を守ること。それが桐山剣のすべき使命。
そして向かう敵に振るう剣は、今好敵手の元に授けられた――!
さぁ始めよう、ゲーム・ウォーリアー達の逆襲を――!!!
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