第4話②~剣、過去への葛藤~
晩御飯。他の家で食べる食事も乙なものだ。
いつも冷凍食品と、保温してあるご飯が多かったみのりにとって久々に家族の暖かさを感じた味だった。
「さっき上で随分楽しそうにゲームしてたやないか、みのりちゃん」
「はい! 剣くんがやさしく教えてくれて、シューティングが少しは上手くなったんです!」
「そうかそうか。剣もやさしい所あるやんか」
「………」
剣は黙ってうなずいた。
「ところで、そんなにゲームが好きなのだから、ゲームワールドにも良く行くんか?」
「いえ、私この年になって全然そんな世界があったの知らなくて……昨日剣くんが教えてくれたんです。凄く楽しかったです!」
「………そうか」
矛玄はこの時、何を思ったのでしょうか。
初対面で“河合”という名字を聞いてからハッとなり、夕食を作りつつ何か険しい顔をしていた彼。何らかの因果を感じたようなリアクションですが、そんな事など当の剣とみのりは全く知らない話だ。
「……付かぬことを聞くが、みのりちゃんは“ゲームとは何か”と聞かれたら、なんて答えるのかね?」
矛玄は咄嗟に疑問を問いかけた。
「ゲームとは何か? う~ん……私だったらやっぱり、『楽しむもの』です!
ゲームをして争ったり、賭け事をしたりする人は沢山居ますけど、私は昔からゲームが大好きで、ゲームを通じて色んな人と仲良くなる事がゲームなんじゃないかと思ってます! ……勿論、剣くんともゲームで仲良くなりたいです!!」
みのりの本音に交えた答えに、矛玄はしっかりと受け止めた。
「成る程な。ワシがこうして質問したのはな、君みたいな子にもっとゲームが好きになって貰いたいからなんや。その為に先ずは色んなゲームの『知識』を身に付けないとならん。みのりちゃん、プレイギアは持っとるかな?」
「え? はい! ちゃんと持ってます」
「このプレイギアには情報だけじゃなく、辞典のアプリも入っとる。そのアプリが【G−バイブル】! これにゲームの全ての知識が詰まっている」
矛玄はみのりのプレイギアを操作しながら教えた。気になったゲーム用語や単語を検索するだけで、きめ細やかな説明や、余談を交えたトピックも掲載されている優れものの辞書アプリだ。
「これを存分に使って、ゲームというものを存分に学んで活用しなさい! そうすれば、みのりちゃんのゲームの見方が変わっていくだろう。もっとゲームが好きになるようにな」
「ありがとうございます! お祖父さん!!」
みのりは満身の笑みで返した。
「さぁ、もう遅い時間や。剣、一緒に家まで送ってあげなさい」
「分かった」
みのりは玄関前の手提げカバンを持ち、靴を履いて剣と共に家を出ようとしたその時、矛玄に呼び止められる。
「―――みのりちゃん!」
「………?」
「今日はありがとうな。これからも剣と仲良くしてやってくれ。ワシからのお願いだ」
「勿論です! また遊びに来ます!!」
と言いながらみのりと剣は桐山家を後にし、一人になった矛玄はつぶやいた。
「やれやれ、やっぱり逆らえないか。長年紡がれた『因果』ってヤツは……」
◇◇◇
夜遅くの下町帰り道。人気の無い街路はとても静かである。
「今日はありがとう、剣くん。とても楽しかったわ」
「あぁ………」
それっきりみのりが家までの道を案内する他に、二人の会話は進まなかった。
そしてみのりの家の前。剣の家とは打って変わって、下町風情には多少似合わない白塗りの高級住宅だった。
「この辺まで送れば大丈夫だろ。じゃあな」
「―――待って、剣くん!!」
帰ろうとする剣をみのりは止め、剣は振り返った。
「さっき剣くんの両親と、私の知らない友達の写真を見たわ。お父さんお母さんと、友達は今どこに居るの?」
この瞬間、剣の顔色が変わった。
「………関係ねぇよ、お前には」
「関係なくないよ! 私は友達居ないし、お父さんお母さんも毎日会えなくて寂しい思いしてるから分かるもん! 剣くんも、私と同じで寂しいんでしょう……?」
「お前と一緒にすんなアホ! 一回二回ゲームしただけで馴れ馴れしくないかお前!?」
「私はッ、剣くんの力になってあげたいの!! ホントはゲーム好きな癖に、優しい癖に………独りで格好つけて強がんないでよ!!!」
「うるさいッッ!! お前に何が分かんねん!!!!」
剣の怒号にみのりはビクッとした。
「ゲームなんぞに家庭をぶち壊され、友達までも裏切られた俺の気持ちなんか、お前に分かってたまるか!!!!」
「ゲームで、家族と友達を失った―――!?」
みのりは愕然とした。楽しいと思っていたゲームが、時に不幸に追いやるものにも成りかねない事を。
「………いいからお前は家に帰れ!! それと二度と俺に近づくな!!!」
みのりはうろたえながら
「ちょ、待ってよ! 剣くん!!」
「もう誰とも会いたくねぇんだよォォッッッッ!!!!!!!!!!」
剣とみのりの間の時が止まった………
「……分かったらもう行け、俺のようになりたくなかったら……」
と言いながら剣は、静かに河合家の前を去った。
「剣くん………」
みのりは立ち尽くす。そして剣は、帰路に着くまで終始寂しそうな顔で桐山家に戻っていくのだった………