第4話①~桐山家、ご案内~
桐山剣を焦燥させる忌まわしき過去。さらに彼の前に立ちはだかる強敵を前に、彼はいよいよ大きな決断を下す事になる。
剣よ、縛られた過去を振り切り己の未来を変えて行け!!
いざ第4話へ、ゲート・オープン!!!
大阪・浪速区。人々の交流を活力に、笑いの絶えないこの町には、喧しいながらも下町特有の風情と人情味が染み渡っていた。 しかし、そんな温かな空気を一変させる、冷徹な威圧感を纏った連中が現れる。彼らを目撃した人々は、皆一様に声を潜めてこう語るのだった。
「下手に手ぇ出したら、その場で撃ち殺される……そんなヤツらが来よったわ」
◇◇◇
そんな不穏な噂など露知らず、舞台は移り変わって夕焼けに染まる路地裏。近未来という時勢にあっても、ここには瓦屋根と木造建築が並ぶ、昔ながらの光景が残っていた。
「――ここ、剣くんの家なの……?」
そこは、ゲームウォーリアーの主人公・桐山剣の自宅だった。玄関先では、威厳を湛えた老人が、言い争う剣とみのりに釘を刺していた。
「剣! 家の前でギャーギャー騒ぐな。中まで筒抜けやないか」
彼こそは剣の祖父、『桐山矛玄(69)』。厳しい口調ながらも、その佇まいにはどこか包容力のあるオーラが漂っている。
「だっておじいちゃん、こいつが勝手に家までついてくるんだよ……」
剣が疎ましそうにみのりを指差すと、矛玄は彼女に歩み寄り、興味深そうに目を細めた。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「え、あ……はい! 『天童学苑高等学校』1年の河合みのりです! 近くのゲーセンで剣くんに助けてもらって……」(河合――?)
その姓を聞いた瞬間、矛玄の眉がわずかに動いた。何か古い記憶に触れたような、奇妙な因果を感じ取った顔つきだ。
「……あの、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。礼儀正しいお嬢ちゃんや。剣、なんでこんな子を追い返そうとするんや?」
「しつこいんだよ! 会ったばかりなのに友達になれとか、ずっと付きまとわれてさ!」
「ええやないか、なってあげれば。こんなしっかりした子は、この界隈にゃ滅多におらんぞ。……ところでみのりちゃん、お母さんには門限の話とかしてあるのかね?」
「いえ、母は今日も仕事で……夜遅くまで私一人なんです」
「そうか。なら、今日は晩飯を食べていきなさい。帰りは剣に送らせるから」
「本当ですか!?」
「ちょっ、おじいちゃん!? 参ったな……」
祖父の強引な招待に、剣はそれ以上文句を飲み込むしかなかった。
◇◇◇
「さぁさ、遠慮せんと上がりなさい」
「お邪魔しま~す♪」
他人の家というものは、見慣れた自分の家とは全く違う世界に見えるものだ。
二階建ての古い木造家屋。廊下を歩けば、古い木材と畳が混ざった独特の匂いが鼻をくすぐり、みのりにはそれがかえって新鮮に感じられた。
リビングや矛玄の部屋を覗けば、そこはまさに「ゲームの歴史」が詰まった空間だった。棚には古びた表彰状や、見たこともない形状のコントローラーが所狭しと並んでいる。
さらに目を引いたのは、精巧な彫刻が施された金色の盾だった。
【初代G-1グランプリチャンピオン・浪速シャッフル騎士団】
その文字を目にしたみのりが、弾んだ声で尋ねる。
「あ、あの! “シャッフル騎士団”って、おじいさんが活躍してた頃のチームなんですか?」
矛玄は、世代を超えてその名を知っていたみのりに驚きつつも、照れくさそうに鼻を擦った。
「活躍やなんて、もう五十年前の話や。今のゲームワールドより規則も緩かったし、ただ運が良かっただけやがな」
「そんなことないです! こんなにトロフィーがあるなんて、今の強豪校でも無理ですよ!」
「ははは、お嬢ちゃんは煽て上手やなぁ!」
謙遜しながらも、女子高生に尊敬の眼差しを向けられ、矛玄はすっかり鼻の下を伸ばしている。そんな祖父の様子に呆れつつ、剣が補足した。
「おじいちゃんは、超次元ゲーム時代が始まる前から浪速で名の知れたプロだったんだよ。その強さに惹かれた連中を集めて作ったのが『シャッフル騎士団』。今でも当時の仲間が集まって、ここでOB敬老会をやってるんだ」
「敬老会は余計や」
感心するみのりに、剣はさらに続けた。
「それだけじゃない。おじいちゃんは、ゲームワールドを管理する“WGC”の創設メンバーの一人なんだ。今は引退してるけど、今でも役員が相談に来たりするんだよ」
「え…………えええええええっ!!?」
伝説のプロゲーマーにして、VRMMOの運営基盤を作った重鎮。そのあまりに巨大な肩書きに、みのりは圧倒された。目の前の少年・剣が、ただの高校生ではない特別な血筋であることを、彼女はこの時初めて悟った。
「おっと、もうこんな時間か。ワシは飯の支度をするから、剣、みのりちゃんを部屋に案内してゲームでもしてやりなさい」
「……分かったよ」
◇◇◇
二階にある剣の部屋は、いかにも男子高校生らしい空間だった。
勉強机には教科書が積まれ、本棚にはゲーム雑誌『G通』や漫画がぎっしりと詰まっている。一方で、別のデスクには最新のゲーミングモニターとチェアが鎮座し、棚には新旧問わずゲームソフトが整然と並んでいた。
(やっぱり剣くん、本当にゲームが好きなんだ……)
みのりは興味津々で棚を眺め、一本のソフトを手に取った。「あ! これ、私がずっとやりたかったやつ! 剣くん持ってたんだ」
「……やるか?」
「やりたい! すっごいやらせて! お願いっ!」
(……なんでこんな時だけ色気出しとんねん)
剣は小さく舌打ちしながらも、手際よくモニターにゲーム機を繋いだ。選ばれたのは、数十年前のレトロなシューティングゲーム。みのりは意外にも、クラシックなタイトルに惹かれる性質のようだった。
「これ、古いけど相当ムズいぞ。クリアできんのか?」
「むっ、バカにしないで。私だってやればできるんだから!」
ゲームスタート。しかし、みのりの操作は敵の動きに全く追いつかず、開始数十秒で自機が爆散した。あまりの呆気なさに、横で見ていた剣が鼻で笑う。
「あはは……今のは練習! 本番はここから!」
強がって再開するものの、二回目も結果は同じ。不意の弾幕に突っ込み、再び画面には『GAME OVER』の文字。
「あーん! 難しすぎるよこれ!」
現代の親切なゲームとは違い、レトロゲームは容赦がない。実力平均点のみのりは、その洗礼をまともに浴びていた。
「貸してみろ。コツを教えてやる」
見かねた剣がコントローラーを手に取り、彼女の隣に座り直した。
「いいか? お前は敵の動きにビビって、レバーを動かしすぎなんだ。だから自分から当たりにいく。基本は持ち場から動かない。敵に近づきすぎず、敵の弾が来たときだけ避ければいいんだ。得点とか気にしないで、進めることだけ考えれば徐々に上手くなるぞ」
これがシューティングゲームの基本。それを剣はちょっとだけプレイしながらみのりに教えた。
「分かった、ありがとう剣くん!」
みのり、再度プレイ! するとどうだろう、さっきまで自分から自滅していったプレイから、高得点とまでいかないが一気に形になっていった。
1面のラスボス。通常よりも激しい敵の攻撃に翻弄され、そのままやられていった。クリアまでは行かなかったが見事な躍進だ。
「あ~惜しい! でも剣くんのお陰でこんなに進めたわ! 嬉しい~♪」
失敗しても楽しそうにプレイするみのりを見て、剣は心情を内に語る。
(あいつ、ホントに楽しそうにゲームしとる。俺もまたあの頃に戻れたら………)
想いに耽る桐山剣。どっこいしょと床から身体を起こして立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくる。あとは一人でもプレイ出来るだろ?」
「うん、大丈夫」
みのりはさっきのプレイで疲れたのか、ポーズボタンを押して一旦休憩。コロンと床に寝転んだ。彼女の目先には本棚の上から飾られた2つの写真立て。
(あれは……?)
みのりは写真立てを手に取る。そこに写っていたのは、矛玄ではない剣の両親の写真。
そしてもう片方は、剣を含めた7人の親友らしき人物と撮った写真だった。
「………………」
みのりは時が止まったかのように立ち尽くしていた。
『みのりちゃん! ご飯出来たぞ!!』
「あっ、はーい! ゲームも消さないと」
1階から矛玄の声を聞いたみのりは、夕食に向かうべくゲームとテレビの電源を落とし、剣の自室を後にするのだった。
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次回もゲームウォーリアーをお楽しみに!!




