土方歳三魂
近藤勇と沖田総司が歩いている。
ススキの原である。一年を通して、枯れススキなのである。
「ついて来ているな」
「はい」
道はうねうねと、ススキは白い骨のようである。
二人の後ろをオオカミが歩いていた。
「一匹オオカミなんです」
「あいつは、犬にはしないのか」
「はい。一匹オオカミは、そのままにしておこうと思います」
「うむ」
オオカミは沖田の足元まで来て、それからススキの中に消えていった。
「芹澤さんには会いましたか」
「うむ。相変らず剣術の稽古をしておったわ」
「そういえば、土方さん、もうすぐ来るらしいですよ」
「そうか、歳三も死んじゃうのか」
「芹澤さんは、土方さんが来たら、剣の勝負をここでもするつもりらしいですよ」
「芹澤鴨は剣豪として、この雲上に来れるか、ギリギリだったしな」
「土方さんは、楽勝で、雲上無辺際ですね」
「うむ。歳は蝦夷地まで、やっているからな」
「今のうちに、二人を仲直りさせておいたほうがよくはありませんか」
「先生、というわけで、この世に行かせてください」
沖田が宮本武蔵に報告した。
「さようか。で、わたしは行かなくていいのかな」
武蔵は手にしたブーメランを投げながら言う。
「はい。今回は、内輪でやらせてください」
「さようか」
頷いて、戻ってくるブーメランを見事に受け止めた。
土方歳三の最期の夜であった。
「芹澤さん、来てくれたのか」
土方が最初に声をかけたのは、一番後ろにいた芹澤鴨であった。
「芹澤さん、すまなかった」
意外な顔は芹澤である。
「わたしは、あなたが恐かった。あなたは身分も悪くない。免許は皆伝だ。しかも和歌まで巧みだ」
土方は言葉を続ける。
「だから、だまし討ちにするしかなかった」
そして、土方は頭を下げる。
これが、蝦夷地の土方さんかと沖田は思う。
芹澤はもう笑っていた。
「土方くん、殺されたぐらいは大したことではないのだ」
「ありがとう。芹澤さん」
「ところで、土方くんは、かなり実戦を摘んだようだな」
その軍服姿を、しげしげと眺めている。
「雲上で、ひとつ手合わせをしようではないか」
今度は、土方が意外な顔になる番だった。
「雲上無辺際では、酒より稽古だ」
「芹澤さん。そりゃあ、早く死にたくなった」
土方が笑った。
義経がジンギス・カン説は、大正の頃には、流行したようだ。
もし、土方が蝦夷地からベーリング海を渡ったとしたら、私としては、ジェロニモになって欲しいと思っている。




