任務開始
ブックマークが次第に増えてきてる本作品。
初の感想もいただき、ホクホク気分です(*^^*)
これからも理想世界の想像者をご愛読ください。
いったい、予期せぬ邂逅の第二号とは……((((;゜Д゜)))
プルルルルルッ!
プルルルルルルルッ!
プルルルルルルルルルルルッ!
携帯電話の奏でるけたたましい電子音で目が覚めた。込み上げてくる大きなあくびを一つ噛み殺しながら、手探りで携帯電話を探す。
コツンと固いものが手に当たり、それを半ば無意識に手に取り、通話ボタンをプッシュした。
「……もしもし」
「あっ、やっと出た。あなた帰ってこないっていうことは仕事受けたんでしょ? どう、仕事は上手くいきそう?」
応対した瞬間に聞こえたのは快活な声。姉さんの明るく元気な声が、電話越しに寝起きの頭をガンガン揺さぶってくる。
そういえば、姉さんに報告するのをすっかりと忘れていた。
「……電話では用件よりも先に名乗るもんだぞ。じゃないと相手が困るだろ」
「私と恭弥の仲じゃない。わざわざ名乗るまでも無いでしょうが」
姉さんの最もな指摘。それもそうか。身内同士なら、名乗らなくても大体分かるものだ。
二度目のあくびを噛み殺すころには、完全に眠気は覚めていた。
「一応の形式美ってやつだよ。形式美」
「はいはい、面倒くさがりのくせに相変わらず変な所に拘るのねぇ。はぁ……。私は恭弥のことをこよなく愛する、恭弥の愛しのお姉さまである東雲朱里です。あなたは私の愛しの恭弥でいいのかしら?」
「ずいぶんなおざりな対応だな。いい歳したいたいけな少年を泣かせたいのか?」
「ええ、どんどん泣きなさい。よく言うでしょ。涙の数だけ強くなれるって」
なんてことを宣うお姉さま。泣いて強くなれてれば、オレはとっくに銀河で最強無敵だ。こんなに重度な苦労してない。
「姉さんがそう言うなら、これから泣き寝入りすることにするよ。じゃあ、またな」
耳から携帯電話を話し、ボタンをプッシュしようとして、それは電話口からの声によって止められる。
「こらこらこら、話しは終わってないでしょうが。仕事についての報告がまだよ」
脱線した話は姉さんの言葉により元の軌道に戻される。なぜか姉さんと話していると、いつも話が脱線してしまう。会話が楽しいってのも考えものだ。
オレは義務である任務についての報告をした。
「本当に最悪の内容だった。まさか天堂家に呼び出されて、幼馴染みである御令嬢の護衛任務に就かされるなんてな。冗談にしては笑えないだろ?」
天堂家当主・天堂藤十郎とのやりとりを思いだし自然と不機嫌な声になってしまう。
「相手が天堂だったなんて……。恭弥、もしかしてあなたの事も……」
姉さんは途中で言葉を切ったが、オレには何が言いたいのかは十分に伝わった。
オレは大きなため息とともに答える。
「あぁ、どうやって調べたのかは知らないけど、当主には完全にバレてたよ。名前から経歴、オレがしてる仕事までな。やっぱり、もう少しだけ情報の規制を厳しくしとくべきだってことが分かったよ」
そう伝えた途端に、電話越しに焦ったような大声が耳を打った。
「ちょっと恭弥っ! あなたもしかして天堂家当主を殺ったりしてないわよね!?」
投げ掛けられる焦り混じりの追求。五年以上も一緒に暮らしていただけのことはあって流石に鋭かった。オレのやりそうなことを把握している。
姿の見えない姉さんの、激しい剣幕に思わずどもってしまう。
「い、いや、姉さん。じ、実は、もう……」
「恭弥、まさか本当に殺っちゃったの!? 自首しなさい! 今すぐ、速やかに、迅速に! 私もすぐにそっち行くから!」
やはり、話はおかしな方向に脱線。でも面白いから別にいいか。
オレは小さく笑みを浮かべた。
「もう手遅れなんだ……。日本の警察も……」
「まさか警察まで!? 本当に何してるのよあなたは!?」
「ちょっと奴らに喧嘩を売られたから仕方なかったんだ。返り討ちにして全員地獄送りにしたのはよかったけど、ヘマして銃弾くらっちまったよ。……ゴホッゴホッ……だから、オレはもう……ダメ、みたいだ……」
「お願い恭弥っ、私を残して死なないで!」
姉さんの悲痛の悲鳴。
オレは静かに目を閉じていく。
「……姉さん、ごめん……先に、逝くよ」
「恭弥、恭弥っ!」
「ね、姉さん。オレは、あんたを、心から愛して……。ガクッ……。そこで東雲恭弥は目を閉じた。十五歳。長いようで短い恭弥の人生は、一人の姉の声を聞きながら幕を閉じたのだった。一人残された姉は、先に逝った弟を想い涙を流す……」
「き、きょうやぁーっっ!」
「姉の悲しみを帯びた声が周囲にこだました。それでも死んだ弟は二度と返事をすることはなかった。それでも姉は思う。自分が忘れない限り、弟はいきているのだと。そう、弟は自分の心のなかで、永遠に……」
突然に訪れたエピローグの綴り。
――なんて、そう簡単に物語は終わりを迎えるはずもなく、電話の向こうからは冷静な声が、ノリの欠片もない無粋な突っ込みを入れてきた。
「……ねぇ、いつまでこれ続けるつもりなの? そろそろ本当の事を教えてほしいのだけど?」
「うーん。実は弟は死んでなくて、大切な姉を守るために自ら犠牲になっていた。そして、弟は敵のアジトに捕まって改造されて、人造人間になってしまう……ってくだりと、その後まであるけど聞くか?」
目指すはハリウッド! なんて考えていると、姉さんが盛大なため息をついた。
「長くなりそうだから遠慮するわ。ストーリーはイマイチだし、ありきたりすぎるから大目に見て二十九点。ギリギリ赤点よ。私を感動させたいのなら、もっとまともな物語を作りなさい」
「ちぇっ、さっきまで迫真の演技してた人がよく言うよ、まったく。辛辣な評価にガラスのハートが粉々になりそうだ」
軽口が姉さんに通じるわけもなく、
「嘘おっしゃい。その場で適当に考えたくせに。それよりも、本当はどうだったの?」
にべもなく否定された。悲しさのあまり泣いてしまいそうだ、とか言っても、また否定されるだろうから止めた。
普通に本来の軌道を辿る。
「本当のところはオレがキレかかって、殺気と魔力を振り撒いただけだ。大体のあらましを説明するとだな―――」
オレは姉さんに昨日の出来事を簡潔に伝えた。その最中、藤十郎がオレに喧嘩を売ってきたくだりの時に「天堂家を潰しましょうか」と言ってきたのには心底焦った。
これがいつもの脱線ならそれでいい。でも声音がマジだった。姉さんの手にかかれば、天堂家くらいの規模ならものの一時間で滅ぶ。もちろん存在そのものがだ。
だからオレは頑張ってそれを止めた。渋々といった感じだったが、姉さんもどうにか諦めてくれてなによりだ。
ある意味、人知れず護衛の任務をこなしたとも言える。追加報酬はでないのだろうか。
「――とまぁ、そんな感じ。そっちは変わりないか?」
「こっちは恭弥がいないから仕事が増えてテンテコマイよ。あっ、そうだ、一つ追加でお願いしてもいいかしら?」
「追加でお願い?」
「そう、お願い。日本で最近なんだか変な組織が誘拐事件を起こしてるって話よね? だから護衛のついでに『ごみ掃除』もよろしくね♪ あんまりにもごみが溜まりすぎると困っちゃうもの。それじゃ、そろそろ仕事始まるからまたね~♪」
返事をする間も無く電話は切れてしまった。なんとも可愛らしいノリだったが、内容が物騒すぎる。ごみ掃除よろしくね♪ねぇ。またなんとも七面倒な仕事が増えたもんだ。
この『ごみ掃除』という言葉が示す意味は、『法外で動いている奴等を一人も残さずに捕まえ、獄中に叩き込め』って事を示す隠語として用いている。
ただでさえ幼馴染みである舞華を護衛するにあたって、二重の意味で正体(オレが天月恭弥だったのと、護衛の任務を受けていること)がバレないようにするだけで骨が折れるだろう。
それなのに、ごみ掃除まで任されるとなるとそれなりの苦労を覚悟しないといけない。
「初の単独任務なのに先が思いやられる」
誰にでもなく一人で愚痴った。それくらいは許して欲しい。あっちもあっちで忙しいから現場に居るオレに頼んだんだろうけど、やる仕事が増えたせいでここに滞在する期間が確実に延びてしまった。
正直な話、こっちにはあんまり長く滞在したくないんだよな。
仕事仲間に負担をかけたくないし、天月家に関わってしまう確率も無きにしもあらず。
それに何よりも面倒くさいのだ。まぁ、受けている護衛の任務と追加の仕事が全く無関係では無いってだけマシとしと思う他ない。誘拐している組織を殲滅すれば、舞華が拐われる心配はかなり減る。
つまり、護衛も解任され、晴れてオレは自由の身になる。それに加えて姉さんのお願いも達成できて一石二鳥だ。
そう自己完結してから、時刻の確認をするために、携帯電話のディスプレイに目を向けた。
時刻は七時前。
昨日寝たのが昼の十二時過ぎだった事から考えると、半日以上眠っていたことになる。
「はぁ……鬱だ……」
まさか藤十郎と話しをしただけでここまで疲れているとは思わなかった。
どうやって調べたのか知らないが、天堂家当主はオレの事をきちんと天月恭弥として認識していた。その上で幼馴染みの護衛なんて依頼してくるなんてどんな罰ゲームだよ。
冗談抜きに本当で鬱になりそうだ。
まぁ、結局引き受けてしまったわけだが。
「……さっさと準備済ませちまうか」
いつまでもくよくよしてる暇はない。今日からオレも高校生の仲間入りだ。
意識を切り替え、オレは学校に行くための準備を始めた。今するべきことを順に並べてみる。
荷物の準備、風呂、朝食、歯磨き、着替え。短時間で効率的に手早く終わらせていく。
制服に着替え終わったとき。オレは非常に驚かされていた。
昨日、見た時には制服は一応着れそうという印象だったが、実際に着てみてジャストフィット。袖、裾、丈ともに問題なし。
ここまでくると藤十郎に文句を言う気にもなれなかった。スリーサイズまで知られてるとか、逆に尊敬までしてしまいそうだ。
どんな情報網を持っていれば、そんな事まで知れるのだろうか。
蔓延る疑問を抱きつつ、オレは鏡に写る自身を包む白の制服姿をみて嘆息してしまう。
これはこれから通うことになる私立凪城学園で着用が義務づけられた制服。基調とされた白を引き立てるように黒のラインを奔らせ、ネクタイの赤がアクセントになっている。
「にしても似合わねぇにもほどがあるだろこれ。ネクタイとか特に……」
それが自身の制服姿の感想。等身大の鏡が無いので全体像はわからないが、それでも似合わないと確信できる。
「まぁ、どうせ少しの間の我慢だ。仕事が終わるまでの作業着みたいなもんだと思えばいいか」
そう結論付け、荷物の入った鞄を手にして、仮の家を後にした。
吹きつける柔らかい風と日差しが心地よい朝の風景。
この見慣れない光景が、今日から続くことになる朝の光景になるのだろう。
オレは朝の空気を胸一杯に取り込み、意気揚々と歩き出した。
第二号を期待していた方、誠にすみません。
前書きで振っておいてアレですが、この話でははじめから出ないことになってました。
任務が開始して、いざ学園へ!
今度こそ、第二号を出したいと思います!