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理想世界の想像者  作者: 夜兎守
1章【Unexpected encounter】
5/71

十五歳、そして――旅立ち

プロローグが終わり、1章が始まりました。

テーマは『予期せぬ邂逅』ということで、主人公にとって予期せぬ出逢いが続きます。

エンディングだけはもう既に「これだっ!」ってものに決まっているのですが、プロローグからエンディングまでに辿り着くまでにどれくらいかかることか……


さてさて、どーでもいい前書きは終わりにして、本編に入ります。

◇のマークが入ってるところは場面が変わるところだと認識してください。


 あれからとても長いようで、とても短い月日が経過した。時間にして五年と数ヵ月。オレは十五歳になっていた。


 身長はようやく170を越えたところ。ちなみにまだまだ伸びるつもりだ。


 容姿に関しては、常闇を照らす白銀の髪(・・・・)と温かい色を宿した琥珀の瞳(・・・・)

 顔立ちは身近にいる人曰く「だらけなければ格好いい……ように見えなくもない」という何とも微妙な評価を頂いている。

 体格は基準より細いが、全体的にバランスよく筋肉がついた理想的な体形を保っているつもりだ。


 まぁ、体格については当然の事だと思う。

 あの後、飛行機に乗ってアメリカについてからの二年間は、食事や睡眠なとの当たり前の活動以外は文字通り全て修行に費やしていた。

 そして、ある出来事をきっかけに自分の中にある可能性を見つけ、ようやく魔法を使えるようになる。


 それからは、朱里の仕事がどんなものか興味を持ち始めていた。

 朱里のしている仕事とは基本的に自由な仕事で、釣り合った報酬さえ貰えばどんな内容でも請け負うという珍しいものだ。簡潔に言ってしまえば何でも屋である。


 オレはそれを知った時に不安を覚え、朱里に一つだけ質問したことを今でも覚えている。人を殺す仕事もしているのか、と。


 返ってきた答えは否だった。朱里が請け負っている仕事の内容は主に、要人の護衛や危険な犯罪者を捕まえることらしい。

 その仕事の上でも人を殺さないのは、自分に課した絶対の不文律だと言っていた。


 それを聞いたオレは、朱里に少しでも恩を返す為に必要な資格を取得し、仕事を手伝うことに決めた。


 そうしてオレと彼女は、一からある小規模な団体を立ち上げ、引き入れた仲間と一緒に仕事をこなす日々を送っている。


 三年間以上も過酷な仕事をしているわけだから、自然と理想的な形で筋肉がつくわけだ。


 仕事のせいで怪我したり危ない目にもあったりしたが、とても充実した日々を送れていると我ながら思う。


 しかし、そんな変わらない日々は突然変化することになる。

 転機の訪れは五月の中旬。それは突然告げられた。




「恭弥に一つ頼み事してもいいかしら?」


 そう切り出したのは、オレに光を与えてくれた恩人こと東雲朱里。光輝く白銀の髪に、透き通った琥珀色の瞳。

 容姿は十人中…………いや、世界中だろうが、その誰もが認めるほどに美しい美貌。

 すらりとした体型だが、服の上からでも分かるほど豊かな双胸にキュッと引き締まったウェスト、そこから伸びるしなやかな美脚。


 その姿は、本人から醸し出される雰囲気と相まって幻想的な印象を抱かせる。言葉にするなら歩く美術館だ。

 それに大抵の事は一人でこなし、性格も優しく温厚で、頭もかなり良い。俗に言われる超人だ。

 そんな人が頼み事をしてくるなんて、珍しすぎることだった。


「姉さんがオレに頼み事するなんて何があったんだ?明日は槍の雨が降るかもしれないから外には出ないようにしないとな」


 言葉を受けたオレは、冗談混じりにそう対応する。

 長い時間を過ごしている内に、会話する際に於いて、敬語を使うことはほとんどなくなっていた。


 ちなみにこの姉さんという呼び方は、以前に会話で弟が欲しかったということ知り、それで試しに呼んでみた。

 するとたいへん喜ばれ、「これからはそう呼ぶように」と厳命され、そのまま定着してしまった故だ。


 それと念のために言ってくが、義姉さんではない。あくまで姉さんだ。オレは彼女を本当の家族だと思っているし、彼女もそう思ってくれている。


 血の繋がりがないことなんて些細な問題だ。


 つまりのところ。彼女はオレにとって、心を許せる数少ない大切な人となっていた。


「何よその言い草は。私だって頼み事くらいするわよぅ」


 姉さんはふてくされたように頬を膨らませ、唇を尖らせている。大人の女性を感じさせる彼女の、やけに子供じみた仕草が妙におかしくて自然と頬が緩んでしまう。


「ごめんごめん、冗談だ。で、姉さんの頼みってなんだ?」

「まったく、もう……。恭弥には一つ仕事をしてもらいたいのよ」

「なんだ、改まって言うから何の話かと思えば、仕事の話か……。今回は何人でやればいいんだ?」

「今回は恭弥一人だけよ」


 もう一回言ってほしい。


「今回は恭弥一人だけよ」


 直接口には出してないのに、律儀にもう一度言う姉さん。


 その一言に心底驚愕させられていた。

 何故なら、姉さんが仕事をオレ一人に任せるのは始めての事。これまでどんなに一人でも大丈夫と言っても、危ないからと言って誰かを同行させ、一人での任務は絶対に許されなかった。


 初めて任せられる単独での仕事に若干テンションが上がってしまうものの、どうにか平静を装いながら訊ねる。


「仕事の内容は?」

「それが分からないのよ」

「ん?どういうことだ?」

「そのままの意味よ。恭弥を名指ししといて、内容はその場で話すの一点張り。あなた以外には内容は話さないそうよ」


 姉さんは呆れたように肩をすくめていた。

 かくいうオレは眉をひそめている。仕事の依頼をしてきているのに、その内容を事前に知らせないなんて不自然すぎだ。何かヤバイ事でもやらせるつもりだろうか。


「それ、怪しい仕事じゃないよな……?」

「まぁ、もし変な仕事だったら遠慮なく蹴っちゃっても構わないから、とりあえず行くだけ行ってきてくれないかしら?」


 そう言って姉さんは何かを差し出してきた。それを受け取ってみるとそれは――――


「パスポート?」

「そ、恭弥には日本に戻って仕事をしてもらうわ」

「マジかよ……」


 テンションは瞬く間にマイナスへ突入。予想外の出来事が続き開いた口が塞がらない。


 なぜよりによって日本なんだ。もう二度と関わりたくもないのに。


 オレは額に汗をにじませ口を開く。


「面倒くさいからい――――」

「『面倒くさいから嫌だ』は無しよ」


 先回りされたようだ。


「お腹がい――――」

「『お腹が痛いから行かない』も当然無しよ」


 またもや言う前に先回り。


「せい―――」

「一応言っておくけど、男には生理痛なんて来ないわよ」


 ……そうですね、その通りです。


「……わかった、わかったよ、引き受けりゃいいんだろ。なんか注意とかってあるか?」


 逃げ道を塞がれたオレにはこう言う他なかった。


「う~ん、これっていう注意は特に無いけれど、強いて言うなら、仕事が終わったら息抜き程度に日本を楽しんできなさいってところかしらね」


 そう言いながら近付いてくる姉さん。姉さんは包むように優しくオレを抱き締め、そっと耳元で囁いた。


「恭弥はどこに出しても恥ずかしくないくらいに立派になった。だから自信をもって仕事をしてきなさい」


 心が満たされるような温かい声音。その言葉を聞き、心が歓喜に震えた。

 理由は訊くまでもない。自分という存在が肯定されているという実感を得ているからだ。


 十年前、魔力の測定をした時に結果を見て周りはオレを持て囃した。

 が、魔法が使えない事が分かると手の平を返したように態度を変えた。それからすぐにオレは周りから欠陥品と呼ばれて蔑まれるようになる。


 唯一、血のつながった姉である天月凛と、幼馴染みの天堂舞華だけは変わらず接してくれていたが、その二人の気遣うような態度がとても辛かった。


 五年前のあの日。天月家に捨てられたオレは、生きる為の希望と自信を完全に失ってしまった。

 姉さんはそんなオレを絶望の中から引っ張り出し、希望の光を与えてくれた。


 そして今の言葉。


『恭弥はどこに出しても恥ずかしくないくらいに立派になった。だから自信をもって仕事をしてきなさい』


 たったこれだけで救われた自分がいる。この言葉だけで、五年前に失ったものを取り戻すには十分だった。


「ありがとな姉さん。頑張ってくるよ」

「ちゃんといつものお守りは持った?」

「あぁ、もちろん。これはオレの宝物だからな」


 オレが襟元から取り出したのは、細いチェーンに繋がれた小さなロケット。中には小さな頃のオレと凛姉が写った写真が入っている。

 捨てられたあの日。家を出る直前に、凛姉から貰った最後のプレゼントだった。


 オレはこのロケットを大切にし、常に肌身離さずに持ち歩くようにしていた。それだけで彼女が近くで見守ってくれているような気がしたからだ。


「じゃあ、行ってくる」


 短な別れの挨拶を済ませてから荷物をまとめ、現在の家を後にする。


「お土産よろしくね~♪」


 なんとも気の抜ける姉さんの見送り。


 オレはこの地から離れることになるのを実感した。それでも、あの時とは天と地程に違う。今の自分には帰る場所がある。


 そう確信が持てる旅立ちだった。


 胸一杯に広がる温かな感情。それを噛み締めながらアメリカを発った。




  ◇




 アメリカを発ち数時間後。オレは日本の地に降り立っていた。


 最近施工されたかと見まごうほどに整備された空港は、何の因果か五年前にオレがアメリカへ渡るために乗った路線飛行機と同じものであった。

 そう思うと空旅もなかなかに感慨深いものに感じられる。


 久しく踏みしめる日本の大地。


「やっぱりどこ見回しても、日本語だらけだな」


 五年ぶりに帰国し、最初に思ったのがこれだった。

 周りにいる人達はみんな日本語を話しており、掲示板などもほとんど日本語で標示されている。


 まったく文化の違う国で暮らしていたから、当たり前であることがひどく懐かしく感じられた。


 ひとしきり郷愁に浸った後、荷物を受け取りを済まし、クライアントが居るらしい場所へと向かう。


「さてと、ここらに……って、あの人か」


 待ち合わせに指定されていた場所には、黒服の男が一人立っていた。おそらくクライアントの護衛役か何かだろう。


 纏う空気だけで一般人でないことが十分にわかってしまう。


「お待たせしました。依頼を受けて参上した東雲と申します。以後お見知り置きを」

「身分の証明を出来る物を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 身分を証明するために、先ほど使ったパスポートを取り出して手渡した。


「結構です。ではこちらへ」


 黒服の男はパスポートを丁寧にたたんで返してくる。それから、黒塗りの高級感溢れる車が停めてある所まで案内された。

 この車から推測するに、オレを雇ったクライアントはかなり身分の高い相手のようだ。


 面倒なことにならなければいいな。そう考えていると、黒服の男は淀みのない動作で車の扉を開けた。


「お乗り下さい」


 それに従ってすぐに乗る。そのことを自分の目で確認すると、黒服の男は丁寧に扉を閉めた。

 本当に一つ一つの動きが洗練された男だ。

 オレが乗っている側の扉を閉めた後、彼も乗車し、車はすぐに発進した。


 オレは車窓から流れていく風景を眺める。日本語で書かれた看板や沢山の建築物を見て再びオレは郷愁に浸った。


「こっちに帰ってくるのも五年ぶりなんだよな……」


 誰に確認するでもなく小さくそう呟いた。『あの日』から早くも五年が過ぎ、すでに六年目に突入している。

 あの頃のオレに変化をもたらすには、十分すぎる年月だった。


 過去の自分と現在の自分。オレ自身の本質は変わっていないが、考えや実力、取り巻く環境はすべからく変わっている。


 そのことが今回の単独任務に於いて、どれだけ実を結ぶことが出来るのか。オレはそれを確かめたい。


 ぎゅっと拳を握り、自分の心を再認識する。


 どれくらい景色を眺めていただろうか。長い時間ノンストップで走り続けていた車が、ようやく停まった。

 どうやら目的地に着いたらしい。


 オレは車窓から外をのぞき、唖然としてしまった。


「おいおい、冗談にしちゃ笑えないぞ……」


 空港から長い時間をかけて着いたのは、昔の自分にとって馴染みの深い場所。今でも鮮明に記憶にも残ってい場所だった。



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