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ドラグレシア竜大国の王宮。
巨大な白亜の王宮は、青空を背に神々しいほどに輝いていた。
王宮を囲む塔の旗が風にはためいている。
一度はパーティで訪れた場所。
しかし、今回通されたのは、
それとはまったく別の奥の間。
玉座がある部屋へと向かっている。
磨き上げられた白い床。
高い天井には竜神伝説を描いた壮大な壁画。
窓から差し込む光が、水晶の装飾をきらきらと輝かせている。
(……何度見ても、技術の高さが分かるわ)
胸が高鳴る。
この国の王太子妃、後の竜妃となる為に来たのだ、
自然と肩に力が入る。
それを、周りには気づかれないように、
ふーっと息を吐きだし、緊張を和らげた。
これでもルーナ神聖国でも王太子妃になる予定だったのだ、
感情のコントロールには自信がある。
やがて、奥の扉が開かれた。
「竜王陛下、竜妃殿下、王太子殿下のおなりです」
騎士の声が響く。
現れたのは、圧倒的な存在感を放つ三人。
金色の髪を持つ壮麗な竜王。
優雅で美しい竜妃。
そして――
「……」
ロザリーは息を呑んだ。
そこにいた青年を見た瞬間、心臓が大きく跳ねる。
金髪。
蒼い瞳。
凛々しく整った顔立ち。
この方が、ドラグレシア竜大国の王太子、クリストファー殿下。
ロザリーは最上級の礼をする。
「……ロザリー?」
クリストファーは、完全に固まっていた。
信じられないものを見るような顔。
だが次の瞬間。
「ロザリー!!」
嬉しさを隠しきれない声を上げると、クリストファーは大股で歩み寄り、
そのままロザリーを軽々と抱きかかえた。
「きゃっ!?」
ふわりと身体が浮く。
そして。
ぐるり。
「えっ」
ぐるり。
「クリストファー殿下?」
ぐるり。
「きゃああっ!?」
三回転。
ロザリーの髪がふわふわと舞う。
大広間の空気が、一瞬止まった。
侍女達が目を丸くし、騎士達が固まり、竜妃がくすりと笑う。
竜王は額を押さえた。
「クリストファー、お前は落ち着け」
「無理です父上!!」
満面の笑みだった。
今にも尻尾が見えそうなほど機嫌が良い。
ようやく地面に下ろされたロザリーは、少しふらついた。
「すまない、嬉しくて」
全然反省していない顔である。
だがその瞳は、本当に幸せそうだった。
その後、一同は応接間へ移動した。
王族専用の豪奢な部屋。
大きな窓からは、美しい庭園が見える。
ロザリーが席へ座ろうとした瞬間。
「ロザリー、こっち」
当然のようにクリストファーが自分の隣を示した。
ロザリーが腰を下ろそうとすると――
ひょい。
「え?」
気付けば、クリストファーの膝の上に乗せられていた。
「っ!?」
ロザリーの顔が一気に赤くなる。
「で・・・殿下!?」
「問題ない」
「問題がございます!」
「私はない」
「わたくしがあります!!」
真っ赤になって抗議するロザリーに、クリストファーは楽しそうに笑った。
その腕はしっかりとロザリーの腰を支えていて、逃がす気がまったくない。
ロザリーの父親は、その様子を見て目を瞬かせた後――
ふっと笑った。
「娘は大事にされそうで、安心しました」
「もちろんです」
クリストファーは即答した。
一切迷いがない。
真っ直ぐで、力強い声だった。
「私は彼女を、生涯大切にします」
ロザリーは思わず彼を見上げた。
その横顔は真剣で。
胸が、じんわり熱くなる。
竜王と竜妃も穏やかな表情を浮かべていた。
「ふふ、ようやく会えたのですね」
「クリストファーがここまで感情を露わにするとはな」
「父上、当然でしょう。つがいですよ?」
「良かったな」
「はい」
ロザリーは恥ずかしくなり、ますます顔を赤くする。
その後。
王宮の庭園へ案内された。
色とりどりの花々が咲き誇り、甘い香りが風に乗る。
中央には大きな噴水。
公園で見た噴水も立派だったが、
大きさこそそれより小さいものの、
その彫刻が何倍も繊細で、王宮に相応しい存在感を放っていた。
透明な水が陽光を反射し、宝石のように輝く。
「綺麗……」
ロザリーが思わず呟く。
すると、隣にいたクリストファーが静かに彼女の前へ進み出た。
そして。
片膝をつく。
「……え?」
ロザリーは目を見開いた。
クリストファーはロザリーの手を優しく取る。
その蒼い瞳が、真っ直ぐ彼女を見つめていた。
「ロザリー」
低く、甘い声。
「私は貴女を愛しています」
風が花びらをさらう。
噴水の水音だけが静かに響いた。
「初めて会った時から、ずっと惹かれていた」
そっと、ロザリーの手の甲へ口づける。
ロザリーの心臓が大きく跳ねた。
「私の妃になってください」
その瞬間。
ばらばらだった記憶が、ひとつに繋がった。
黒髪。
眼鏡。
優しい笑顔。
下町で共に過ごした時間。
「……え……?」
ロザリーは呆然と彼を見つめた。
「……クリス?」
クリストファーが微笑む。
「ようやく気付いてくれた」
「ま、まさか……」
ロザリーは口元を押さえた。
「クリスが……王太子殿下……?」
「正確には、王太子がクリスだった、かな」
悪戯っぽく笑う。
ロザリーは完全に固まった。
声にはならず、ただ口をぱくぱくさせる。
クリストファーは楽しそうに笑う。
「ちなみに、私も今日まで知らされていなかった」
「え?」
「父上達が、ロザリーとサラが同一人物だと教えてくれなかったんだ」
「そ、そうでしたの……?」
「会った瞬間、本当に驚いた」
そう言いながらも、彼の顔は幸せそのものだった。
ロザリーの瞳が潤む。
今までの思い出。
一緒に食べた食事。
交わした言葉。
優しさ。
温もり。
全部、全部、本物だった。
「わたくし、クリストファー様の求婚をお受けします」
その瞬間。
クリストファーは立ち上がると、強くロザリーを抱き締めた。
「ありがとう……!」
その声は震えていた。
ロザリーも彼の背へそっと腕を回す。
「わたくしも、ずっと好きでした、愛しています」
噴水の水音が優しく響く、花々に囲まれた庭園で、
二人は互いの想いを確かめ合ったのだった。




