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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第四章 学園編 第一部
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077_林間学校 ⑧

 林間学校シリーズ終了です。

 次話から、舞台はまたラントスに戻ります。

 生きて行く中で人間は、数限りない選択を強いられる。


 どこに住むのか、仕事は何をするか、誰と結婚するのか。


 毎日だって、何時に起きるのか、何を食べるのか、いつ寝るのか。全ての選択肢は各個人に割り振られ、選択し続けなければならない。


 いつまでも布団の中で寝ていれば会社や学校に遅刻するし、好きな物を好きなだけ食べていれば肥え太り体重は増えていくし、夜更かしが過ぎれば翌朝起きられず、朝寝坊をしてしまう。


 こうした繰り返しの中で無数の失敗と成功を繰り返し人は成長していくのだが、時として自分の命すらチップとしてかけなくてはならない事態が発生することがある。


 八十雄が日本で猫を救うため道路に飛び出したように。


 そして学園の生徒たちも、今後の人生どころか命らすかけなくてはならない選択を迫られていた。




 余りにも重い選択肢にほとんどの生徒は黙り込んでしまった。自分1人だけの命ならまだ分かるが、自分以外の仲間の命までかけなくてはならないこの状況に、簡単に返事ができるほど覚悟を固めている者はいないからだ。


「まあ、多少悩むのはいいけどよ、早めに結論を出さないとどっちつかずの状態で敵と対峙しなくちゃならない最悪の事態になるからな」


 八十雄たちを含めた全員で結論を出しているのは3人。もちろん、八十雄とバルチ、それにマルゴだ。


 八十雄とマルゴは『知っていた』ので、何も心配していない。


 バルチは何も聞いていなかったが、林間学校初日の時点で違和感に『気づいて』いたようだ。学園を出発してからすぐに背後を振り返っていたし、三角の耳をレーダーのように立てながら常に違和感のある方向に注意を払っていた。


 それが2日目の夜間から急に警戒態勢を取らなくなったのだ。おそらく、違和感の正体に『気づいた』バルチが、警戒する必要がないと判断したのだろう。


 20名いる生徒たちの中で『それ』に気づいている者はいない。唯一、猟師志望のテイカーだけが何かおかしい事に気づき始めている。山の中で猟師のせがれとして野生動物を相手にしているテイカーだけあり、勘や直感といった分野では力を発揮する。


「先生。僕は助けるべきだと思います」


 ほとんどの生徒が沈黙し頭を下げている中で、ビシッとひときわ小柄な生徒が手を上げた。


「困っている者には手を差し出すのは、人として当然のこと。僕も、先生のように困っている人には手を差し出せる人間になりたいと思っています」

「キース、お前の言いたい事は分かった。優しいお前らしいな。でよ、具体的なプランは何かあるのか? 下手したらここにいる全員もただじゃすまないかもしれないんだぜ?」


 キースと呼ばれた少年は、首を左右に振る。


「残念ながら僕には戦う術がありません。ですがここであの馬車を見捨てたら、僕は自分のことを一生許せないでしょう。それに僕は先生を信じていますから何も心配していません。だって、僕たちがどのような選択肢を選んだとしても、全力で力を貸してくれるんでしょう?」


 この言葉に今までうつむいて考え込んでいた生徒たちが一斉に顔を上げた。


「先生、俺も助けてあげたいっ!」

「私も助けて欲しいっ」


「何とかしてあげてよ、先生っ」

「先生っ!」


 キースの言葉を皮切りに、思いの丈を口にしていく。彼らもみな、八十雄なら何とかしてくれると信じているのだろう。


「分かった、分かった。それまで言われちゃしょうがねぇ。俺が何とかしてやるよ」




 八十雄は生徒たちはそのままにして、バルチとマルゴを引き連れて道路に戻った。八十雄とバルチはいつものように手を繋いだままである。


 道路の先からは2頭立ての馬車が必死に走っているが、馬は目が血走り、舌は大きく口から飛び出し、荒い息を吐いている。馬については詳しくない八十雄ですら限界が近いことが見受けられた。


「早く、早く、逃げるんだ。直ぐ後ろから盗賊が来ているぞっ! 草原の中に身を隠してやり過ごすんだっ」


 御者台に座った40がらみの男性が八十雄たちに気がつき、大声を上げた。自分の方が明らかにピンチな状態なのにかかわらずである。基本的に、善人なのであろう。


 そうこうしている間に馬の方が一足先に限界を迎えてしまう。商人がどれだけ鞭を入れても大きく舌を出したきりで動こうとはしなかった。


「俺たちより、あんたの方が逃げた方がいいんじゃないか? 荷物を捨てていけば見逃してもらえそうなもんだけど」

「……それができたら苦労はない。ここで荷物を捨てたら俺に残るのは借金だけで、結局破滅するしかないんだ」


「そうかなぁ、命を落とすよりはましだと思うけなぁ」

「それより、あんたらは逃げなくていいのか? まあ、もう手遅れかもしれないが」


 商人の視線の先には、20騎以上の馬に乗った盗賊らしき男たちが集まっている。その内の約半数は弓を背負い、残りの半数も剣や斧などの武器を携行していた。


 顔の表情まで確認できる距離で相手は騎乗で人数も多い。とても逃げだせる状況ではなくなっていた。


「ああ。俺たちはあの盗賊を何とかするためにここに来ているからな。ま、逃げるつもりなんか最初からないんだけど。ただ、戦闘だけは避けられそうもないから、馬車の中に身を隠しておいてくれよ」


 八十雄と商人がのんきに話していると、盗賊の頭目と思しき男が前に進み出てきた。立派な片手剣を抜き放ち馬上の人であるが、その所作に隙は見当たらない。武人としてそれなりの修練は積んでいるようだ。


「ようやく止まったか。どこのどいつだか知らないが、余計なおまけまでいるようだな。とりあえず、身包み脱げば痛みを感じないように一撃で殺してやるが、抵抗すればなぶり殺しだ。ああそれと、そこの女は置いていけ。多少年は喰っているが、奴隷商に持ってけばそれなりの値段はつくだろうしよ」


 抜き身の剣で自分の肩を叩きながら、馬上からにやけた顔で八十雄たちを眺めている。周りの盗賊たちも圧倒的に自分たちが有利なのを疑わず、げらげら笑い声をあげいた。


「盛り上がっているところ悪いけどよ、俺は出崎八十雄ってんだ。一応、ラントスの領主みたいな奴をやっているもんだよ。

 俺から言いたい事は1つ。今すぐ抵抗を止め縄につくなら、命だけは助かるように約束してやる。一応、ここもラントスの領地だからな。それ位の発言力は俺にもあるからよ」


 この林間学校で伸びた無精ひげをバルチと繋いでいるのと反対の手で撫で擦りながら話す八十雄に対し、盗賊たちは爆笑で答えた。

「おいおい、今の状況が分かってんのか? 何が『命だけは助かる』だ。笑わせるぜっ」

「今、出崎八十雄って言ったよな? こいつ、女神の使徒って噂だぜ。捕まえたらたんまりと身代金をふんだくれそうだな」

 ゲラゲラと腹を抱えて下品に笑う男たちには目も向けず、バルチに対して最大限の注意を払う八十雄。だがそんな八十雄に反して、バルチはのほほんとした顔で、八十雄と繋いだ手をブラブラと振っていた。


「……バルチさん。とってもリラックスして楽しそうだけど、どうしたの?」

「ん~? だって、このおじさんたち、全然怖くないんだもの。バルチが怒らなくても、大丈夫でしょー」


 ふぁ~、とあくびをしながらバルチは暇そうにしている。周囲を馬に乗った男たちに囲まれ、武器を向けられているにもかかわらず、まったく恐怖は感じていないようだ。


「そこの女と獣人の子供もそれなりに腕が立つようだが、俺たちだって元はそれなりに名が売れていた傭兵団だ。この人数差の末上、俺たちは馬に乗っている。諦めてお前が人質になるってんなら手荒な真似はしないでやるぜ?

 ただ、抵抗するってんなら話は別だ。腕の1本や2本なくったって人質にはなるんだからな」

「八十雄、確かにこの男たちの中に見た覚えがある奴らが何人か含まれている。ラントスを中心に活動していた評判のあまり良くない傭兵団に所属していたはずだ。まあそんな奴らだから仕事が干されて、知らないうちに消えていたけどな。Bランクの人間が何人かいたと思うが、よく覚えていないな。

 そういえば、最近ラントス近郊で傭兵崩れが悪さしているのが問題になっていて、ギルド会館が懸賞金を出しているはずだぞ」


「あ~、そんな奴らだったか。悪りぃ、命は助けてやるって言ったけどよ、あの約束無しで。お前たち全員縛り首確定っつうことでよろしく」


 八十雄が手のひらを顔の前に立て『悪りぃ』と軽く頭を下げると、頭目を始め盗賊団は一気に激昂した。


「おいお前らっ、この男以外は皆殺しにしろっ! 商人も忘れるなよっ!」

「「「おうっ!」」」


 流石は元傭兵団。頭目の号令1つで一斉に動き出し、構えた武器で攻撃を開始しようとしたが、バルチを含めた3人は落ち着き払ったものだ。


「今から慌てても駄目だよね。バルチ、もう分かってるんだから。本当に危ないことや怖いことに気がつかないと、手遅れになっちゃうんだから」

「お嬢の言う通り、お前たちは今から何をしても手遅れだ。精霊呪縛ドライアードルーツ


 どこからともなく響いてきた男の声が呪文をつむぐと、草原の草木が急激に伸びて馬たちの足に絡みついた。


「ちくしょう、何だこれはっ!」

「どっかに魔法使いが隠れてやがるのかっ」


 役に立たなくなった馬を乗り捨て周囲を警戒する男たちの目に映ったのは、何もない空間からにじむように現れた弓を構える女弓術師だった。


「まったく、何が『それなりに名が売れた』だ。呆れてため息しか出ないぞ」


 水平に構えられた弓から放たれたのは、10本の矢だった。その全てが立ち往生して動けない馬たちを避け、盗賊たちの右肩を打ち抜いていく。


 彼女はそれを確認するまでもなく、次々に矢を取り出しては盗賊に向けて射っていった。


「ギャッ」

「ちょっ、やめっ」

「ヒィ~~ッ」


 矢を射る毎に響く叫び声。中には仲間を盾にして逃げ出す盗賊も現れたが、その前に立ちふさがったのが巨大なグレートアックスを構えた大男だった。


 ドスンと巨大なグレートアックスを地面に突くと、逃げ出そうとしていた男は腰を抜かしてへたり込む。そこを地面から伸びてきた草木が体にがんじがらめに絡み付いていく。


「おい、これは一体、どういうことだっ!」


 僅かな時間で、馬に乗ったまま動かなかった頭目を除き、全ての盗賊は拘束されていた。頭目が乗っている馬の足もツタで絡み取られ、いくら手綱を引こうともまったく動けない状態だ。


「バルチ、GO!」

「っ!? お~~っ」


 ぽ~っと様子を見ていたバルチだが、八十雄の号令で一瞬びくりと体を震わせると弾丸のように飛び出し、勢いそのままに盗賊の頭目に飛び掛ったのだ。




 八十雄がバルチの特徴として挙げるのは、その愛くるしさと純粋な心だが、更に1つ追加するとしたらその敏捷性だろうか。全力疾走時の最高速度もさることながら、そこに至るまでの加速性能にこそ驚きがあるのだ。


 バルチはまったくの停止状態から、わずか3歩目でトップスピードに到達する。その状態から直角に曲がることも出来るし、2メートル以上も飛び上がることも可能だ。またどれだけジグザグに動いたとしても、まったくスピードが落ちることもない。


 八十雄の知る限り冒険者の中にこのような動きが出来る者はいなかった。最初は猫人族の種族特性かと思ったが、どうやらそうでもないようだ。


 八十雄がバルチにその辺りのことを聞いてみたところ、『だって、ビュンと追っかけないと、獲物に逃げられちゃうでしょ? ウサギだってキツネだって急に曲がるんだから、バルチもそれについて行かなくちゃならないんだよー』と、腕組みしながらちょっと偉そうに説明したものだ。


 そんなバルチが僅か10メートルほどの距離を一瞬で踏破するのに、頭目の男はまったく反応できない。


「バルチキック~」

「うげぇっ」


 バルチがいくら小柄といえども、薄い鉄板が入った皮製の装備と2つのハンマーの重量を足せば、総重量は30キログラムを超える。その塊が地表からロケットのように飛び上がりつつ放ってきたプロレス技で言うところのドロップキックをまともに受けた男は、面白いように吹き飛ばされ地面に落ちると、ピクリとも動かなくなった。


 こうして最後の最後に訪れたまねかれざる客は、沈黙するのであった。




 学園の生徒一行に、目的地がラントスだと言う商人(商人の馬も休ませたら回復した)に、今まで魔法で姿を消し影から護衛していたA級冒険者のカイノ・スカー・ロドスの3名もこれ以上隠れている意味がなくなったので八十雄たちに合流することになったのだが、その後は何も問題なく学園に到着した。


 盗賊たちはラントスの警備隊に引き渡され、A級冒険者の3名とマルゴに今回の仕事に対する報酬に追加で、盗賊たちに掛かっていた報奨金が支払われた。


 ちなみに、盗賊の頭目を倒したバルチにも報奨金が支払われたが、バルチは賞金首というシステムがよく分かっていなかったらしく、不思議そうな顔をしていたのが印象的だった。


 盗賊たちが乗っていた馬も報酬の一部として譲り受けたが、冒険者たちは格安で八十雄に譲ってくれたので、そのまま学園に隣接する牧場に預けられることになった。それに伴い、他のギルドに預けられていたバルチの愛馬『モモ』も学園の牧場に戻ってくることになるのだった。


「良かったな、マイト。これで次の林間学校には馬で移動することが出来るぞ。選択肢が広がったな~」

「……それはそうですが」


 嬉しそうな八十雄に対して、生徒たちの表情はどうにも納得いかない様子だ。


「おいおい、商人も含め全員助かったのに、何が不満なんだお前たちは」

「だって、先生は魔法で姿を隠していた冒険者たちのことも知っていたんですよね? だったらあんなに緊迫した状況で、あんな質問をしなくても良かったのにと思ってしまうのは当然だと思います」


 何だそんなことかと、笑う八十雄。


「だから何度も言っているだろう? 俺はビビリの小心者だから、打てる手は何でも打っているって。そう思って諦めてくんな」

「……」


「明日の学園は休みだからな、しっかり休めよ。だからって、明後日の学園は遅刻すんじゃねぇぞ」


 それだけ言い残し、バルチと手をつないだ八十雄は久しぶりの自宅に帰っていくのだった。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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