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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第四章 学園編 第一部
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069_オリエンテーション

 本日2話目の更新です。

 100万PV用にSSでも書こうと思ったのですが、いい小話が思いつかなかったので先を進めました。

 これが、むいむいクオリティーです。

「みんな、入学おめでとうっ!

 ちびっ子クラスは1年、特別クラスは2年間、悔いのない学園生活を過ごすことを期待して、挨拶とさせてもらうぞ。

 これから各担任の先生の指示に従って教室に入るように。良いかな?」

「「「はーいっ」」」


 校庭に並ぶ新入生たちを見渡しながら最初の挨拶を行った八十雄に、ちびっ子クラスの生徒たちは元気に挨拶を返してきた。子供たちはお揃いの黒い帽子を被り、その帽子にはクラスによって色分けされたラインが入っている。


 元は街の寺子屋の経営者や、商人ギルドからスカウトしてきた教師役たちが、担当する生徒を名簿で確認しながら自分の教室に案内していく。1クラス20名ほどの少数クラスで、文字の読み書きや簡単な計算、そして一般常識を一年かけて学んでいくことになる。


 八十雄としては勉強も確かに大切だけど、大勢の同級生と一緒に生活する中で相手を思いやる気持ちとか、感謝の気持ちを学んで欲しいと願っていた。


 八十雄が朝礼台から降りて向かう先には、黒い制服を着た20名の特別クラスの生徒たちが待っている。


 男子は学ランに近いデザインのスボンと長袖上着、少女は膝丈のプリーツスカートにセーラー服に似た上着を着ており、それに腰下丈の黒地のマントを身につけていた。


「それじゃ、俺たちも教室に向かうぞ。そこでこれからの予定やこの学園の規則なんかを説明するからな。遅れずついて来るように」


 きっちりした黒服集団をいつもの作業着姿の八十雄が率いる姿はシュールとしか言いようがない。


 一足先にちびっ子たちは一番大きい本校舎に入っていったが、八十雄たち特別クラスが向かったのはその隣にある第二校舎だった。


 その建物は部屋数が8個程度しかなく、事務室や八十雄の私室である学園長室の他には特別クラスの教室と空き教室しかなかった。


 当たり前のように下駄箱で上靴に履き替える八十雄の後におっかなびっくりで続く生徒たち。その上履きも混じり者の被服職人たちが作り上げた一級品だったりする。


 特別クラスの生徒たちは、八十雄を先頭に2階の端にある教室に入っていく。その教室の引き戸の上には、『A-1』の木札がかかっていた。


「ほれ、机に名札があるから自分の席に座れ」


 黒板の前にある教壇につきながら、いつもの様に八十雄は頭をかいている。


「先生、俺字が読めないんだけど……」

「おっ? ああ、悪かったな。ザザは後ろのその席だ。ナチャはその空いてるところが自分の席だから覚えて置けよ」


 教室の後ろで立ち尽くしていたのは、農家出身のザザと孤児だったナチャだ。彼らは今まで教育らしい教育を受けてこなかったので、自分の名前すら書けないし読めないのだろう。


 この世界の識字率は50%に満たない。そう考えれば、ここにいる生徒たちは比較的恵まれた環境で育ってきたことが分かる。


「よし、全員席に着いたな。それじゃ俺から自己紹介するぞ」


 八十雄は背後の黒板に『出崎八十雄』と大きく書いた。


「俺は出崎八十雄、この学園の学園長であり、女神アルヴェの使徒って奴だ。これからは学園長でも先生でも何でも好きに呼んでくれ。

 それじゃ早速、この学校の規則を説明するからしっかり聞けよ」


 そう言いながら、生徒たち1人1人に一冊のノートと数本の鉛筆を手渡していく。


「このノートと鉛筆はお前たちが好きに使って良いぞ。足りなくなったら新しいのをやるから、どんどん言ってこいよな」


 全員にノートが渡ったことを確認し、八十雄は黒板に事前に決めておいた学園の校則を書きながら説明を始めた。


「1つ、人として常に正しい行動を取れ。

 1つ、自分がやったことに責任を持て。

 1つ、制服またはマントは常に見にまとう事。

 1つ、あいさつはしっかりやれ。 以上だ」


 八十雄のイメージにそぐわぬ達筆な文字で黒板に学則4ヶ条を書き上げると、生徒たちの多くは目をパチパチとしばたたきながら驚いている。


「先生、質問しても宜しいでしょうか」

「おう、何でも聞いて良いぞ。お前らは生徒で俺は教師だからな」


 ピシッと手を伸ばし発言の許可を求めたのは、王国からの推薦生徒の1人、リチャード=マイケルソン13歳だ。彼の父親は王宮に勤める近衛騎士でリチャード本人も次代のエースとして将来を嘱望(しょくぼう)されているらしい。


 もちろんこの情報元は王国から来たシーリー外交官である。


「私にはこれでは余りに規則として不十分に感じました。学園の名誉や誇りを守るために、もっと厳しく校則で律する必要があると感じています」

「なるほどなぁ。そんな真面目にリチャードに俺から最初の質問だ」


 八十雄は教壇の上から身を乗り出すようにしてリチャードを見ている。


「お前さんが望むように、『人を傷付けてはなりません』って校則があったとする。その前提で考えてくれよ?

 ある日の放課後、この学園に抜き身の武器を持った男たちがいきなり侵入してきた。校庭にはちび共が数人遊んでいてその様子には全然気がついていなくて周囲に大人たちの姿もない。助けを求めようとも間に合いそうもない状態で、さあ、お前はどうする?」

「もちろん、年少者たちを守りますっ」


「当然、相手の無法者たちはお前に武器を向けるよな? それはどうするんだ?」

「……私も剣を抜いて対抗します」


「ま、そういう事だ。だから校則なんて最低これだけは守ってくれよってものだけで良いんだよ。後はお前たちが感じて判断して行動すれば良い。その結果、何か問題が起こったらおれたち大人が責任を取る。そういうもんさ」

「……」


「いよっし、校則の説明が終わったところで学園生活を送る上でのルールを説明するぞ。これはお前たちがこの学園の生徒である以上、強制的に従ってもらわなければならないことだからな。忘れんじゃねぇぞ」


 八十雄は用意してあったプリントを生徒たちに配っていく。そこには学園生活を送る上での細かいルールが記載されていた。


「ザザとナチャは何が書いてあるのか分からないと思うけど、その紙は大切に取っておいてくれよ? それじゃ、最初から説明していくから分からないことが在ればその場で質問するように。

 まず、第一に、出崎学園の生徒であるうちは親の身分は一切関係なく、全ての生徒を平等に扱う。

 生徒たちは、食事も掃除も洗濯も自分の事は自分で行うこと」

「……出崎先生、俺は今まで一度も洗濯や掃除はしたことが無いのですが、俺も自分でやらないといけないのですか?」


 手を上げながらそう発言したのは、王国からのもう1人の推薦者であるロイド=ガロイドだ。


「そうだぜ。洗濯も便所の掃除もてめぇの世話はてめぇでやるんだ。みんなも覚えておけよ。ここにいる間は親とか国とか、そういうものを持ち出すんじゃねぇぞ。それはお前たちが自分で手に入れた物じゃない。人から与えられた物だ。『本物の人たち』からすれば、スゲェ恥ずかしいことなんだからな。

 ただし、自分の力だけで手に入れた物はどれだけ誇ってもいい。それだけは覚えておけ」

「先生がそう仰るのでしたら、従いましょう。失礼しました」


 ロイドは上げていた手を静かに下ろした。


「第二に、この学園生活で必要となる物は全て支給する。

 制服が止むを得ない理由で破れたら交換するし、体が大きくなって着れなくなっても新しいサイズの奴を用意する。

 飯や寄宿舎の代金も学園持ちだし、必要な勉強道具もこちらで用意する。有名な講師を呼ぶ代金やその他諸々も学園が出す。ここまではいいな?」

「はい」


 これは生徒を募集する際に条件としてあげていた項目なので特に質問も出なかった。


「それじゃ第三の項目だ。出崎学園の特別クラスの生徒はこの世界で流通している全ての通貨は使うことが出来ない。

 制服やマントを身につけている限り、学園が認めた専用通貨【円】以外は使用してはならない。

 この項目を破った者は、いかなる処罰も甘んじて受けなくてはならない」


 バサッと読んでいたプリントを教壇の上に置いて、八十雄は生徒たちの顔を見渡した。驚愕(きょうがく)で固まっている生徒もいれば、ケロッとしている者もいる。


「じゃ、これについて何か質問があるか?」


 今まで立っていた八十雄であったが、教師用の椅子を教室の隅から運んでくると、その上にドカッと腰を下ろした。多分、この項目を生徒たちが消化するのに時間がかかると思ったからだ。


「先生」

「お前は皇国の隆道だな。何か質問か?」


 真っ先に手を上げたのは、皇国の若き職人見習い隆道だ。


「今、自分たちが持っているお金はどうなるのでしょうか。それに、初めて聞く【円】と言うお金ですが、どうやって手に入れればいいのでしょうか」

「ま、当然そこは気になるよな。それじゃ順番に説明していくぞ。

 まず、お前たちが持っているお金だけど、その制服を着ている間はどうしても使えない。そういう仕組みに俺がした。だから諦めろ。この中にはラントス市内に宿をとってる奴もいるようだけど、他の宿泊手段を考えるしかないぞ。寄宿舎に入るのが一番手っ取り早いけど、野宿するって言う奴がいるなら止めないぜ。ああ、あと大使館には泊まれないからな。事前にそういう約束になってるし、国許の許可も取ってあるから、お前たちがどれだけ言っても無駄だ。俺の言葉が信じられなかったら後で自分で試してみろ。

 あと、【円】についてだが」


 そこで八十雄は懐にしまってあったカードを取り出した。一見、冒険者ギルドや大工ギルドで発行しているギルドカードによく似たカードである。色は黒塗りで表面に生徒たちの名前が書かれており、それを生徒たちに配っていく。


「これは学生カードって奴だ。お前たちが出崎学園の特別クラス生であることの証明をしてくれるカードだから、常に身につけて失くさない事。上着の胸にカードを入れるポケットがあるから、使い終わったらそこに入れる癖をつけとけ。

 それでそのカードにはもう1つ重要な効果があるから良く聞けよ?」


 八十雄も生徒たちが持っているのと同じカードを取り出した。


「お前たちはまだ子供でどこのギルドでもまともに相手にしてはくれねえ。もちろん、実力を示せば違うだろうけど世間はそんなに甘くないから、自分が思うようにはいかないだろう。そこでこの学生カードの出番だ。

 こいつがあれば、どのギルドでもE級クラスの仕事の中でお前たちが出来そうな仕事を紹介してくれる。冒険者ギルドでも魔道具ギルドでも商人ギルドでも、どこでもだ。そこで働けば報酬として【円】がもらえるってわけよ。

 ただ、注意しなければならないことが幾つかある」


 生徒たち全員の視線が集まる中、八十雄は指を1本立てた。


「まず、この【円】はラントス市内では自由に使えるが外の世界じゃ使えねぇ。なんかの時、外に出る機会もあるだろうからさ、俺たち教師がいたら声をかけてもらえればいいんだけど、1人の時もあるだろうから、その時は事前に俺に声をかけろ。一筆用意してやるから、それがあれば何とかなるはずだ」


 それだけ言うと、八十雄は2本目の指を立てた。


「もう1つは、学生カードでいくら仕事をしても昇級しないってことだ。つまり、いつまでたってもE級の仕事しか出来ないし、報酬額も上がらないって事。なんて言ったって、『見習い扱い』のままだからな、それはしょうがねぇと諦めろ。

 ただ実績を重ねて力を示せば、ギルドの方から入会の誘いが来ると思う。そしたら給料も上がるし昇級も可能だ。ま、実力社会ってことだよ」


 八十雄は3本目の指を立てた。


「最後に学生カードで請け負った仕事の結果は、成功だろうが失敗だろうが全て記録されちまう。そして、俺は学園の責任者としてその全てを見ることができる。

 ま、自分で稼いだお金についてはどこで何に使おうが自由だ。たまには甘い菓子を食いたい時もあるし、可愛い服だって欲しいだろ? 休みの日まで制服を着ろとは言わないからさ、その辺りは自由にすればいい。学園を去る時にまだ持ってたら、望む国のお金と交換してやるから心配するな。

 それとお前たちが元々持っている金は大事に取っておけ。心配なら学園で預かっといてやる。ねこばばとかはしないからな。ああ、それと貴金属についても換金できないようになっている。ここまで分かったら返事」

「はいっ」


 中学生の年頃の生徒にとって理解しがたい話だったのか、難しい顔をしている生徒が多い。少数だが、こちらの言い分を理解した上で力強く頷いている者もいれば、まったく何も考えていない様子の子もいる。


「後は細かい決まりしかないから勝手に目を通しておいてくれ。ザザとナチャについては、後で事務のお姉さんが説明してくれるからな。

 お前たちもいきなり無一文じゃ心細いだろうから、1人1万円ずつお金を渡していくから自由に使ってくれ。レートは他の国の通貨とまったく同じで1対1だから、後で試しに使ってみろ」


 八十雄は教壇の中から事前に用意しておいた金貨が入った木箱を取り出した。金貨が200枚も入っていればそれなりの重さになる。


「よし、それじゃ1人ずつ受け取りに来るように。失くすんじゃないぞ」


 順番に金貨が10枚入った小袋を受け取っていく生徒たち。だが、孤児院出身のナチャは受け取った小袋を持ったまま困った顔をしている。


「どうした、ナチャ?」

「ナチャ、お金の使い方、知らない……」


 気が弱く大人しいナチャは、集まった視線が恥ずかしいのか俯いてしまった。


「そっか。でもなここは学校なんだから、お金の使い方もゆっくり覚えていけばいいんだ。文字の読み書きだって、計算だって、今からやればいいんだよ。

 それに、俺はナチャの凄いところをいっぱい知っている。だから少しも心配していない」

「うん……。ありがと、先生」


 ニコッと笑うナチャの頭を、八十雄はバルチによくやるようにグリグリと撫で回した。


「ナチャ、お金の使い方分からないから……。分かるようになるまで、大事にとっておくね……」

「ああ、ナチャの好きにすればいいよ。先生は信じているから」


 チョコチョコと小動物のように歩いて自分の席に着くと、早速小袋を開けて金貨の枚数を数え始めた。その金貨はバルチがデザインしたもので、猫の肉球がモチーフになっている。見た目も可愛くアルヴェもお気に入りだ。


 ナチャの他に金貨を数えている生徒はいない。俺のことを信用しているか、本人の前で金貨の枚数を数えることが失礼になると思っているんだろう。


 カチャカチャ音を立てながら、ナチャは何度も何度も金貨の枚数を数えている。最後には納得したのか、小さく頷くと金貨を元の小袋の中に入れ、上着の内側の隠しポケットにそっとしまい、ほっと小さく一息ついた。


 この子は、まだお金の使い方を知らないかもしれないが、お金の『本当の意味』は分かっている。だから大丈夫だ。信じられる。


「それじゃ、これからの授業について説明するぞ。午前中は一般常識や高度な計算を教えてやる。ああ、ザザやナチャは最初は普通に文字や簡単な計算を覚えるところから始めような。

 午後からは基本的に自由だ。希望があれば何でも言って来い。出来る限りの協力をしてやる。もちろん、ギルドで働きたいってのもありだ。ほい、ここまで分かったら返事」

「はいっ」


「おう。1人で話し続けるってのも虚(むな)しいからよ、人が話している時は相手をしっかり見てちゃんと返事をすること。

 それじゃ最後の連絡事項だ」


 八十雄は部屋の隅からカレンダーを取り出すと黒板の真ん中に貼り付けた。このカレンダーも八十雄が考案し、商会ギルドを通して売り出している。先の予定も書き込めて使ってみると便利だと非常に評判がよく、売れ行きも好評だった。


「あー、今日が4月1日だから、今日から4日後の4月5日から2泊3日で林間学校に行くぞ。

 やることは、みんなで湖がある所まで行って、そこでキャンプをしながら親睦を深めるってことだ。学校が用意するのは主食の米か小麦と塩、後は食器と鍋にテントくらいだと思ってくれ。着替えは用意しておくから、それ以外に必要な物はお前たちで調べて用意するか学園に要求すること。そのために今渡した金を使ってもいいし、自分で稼いでもいい。ああ、それと……」


 八十雄はカレンダーの4月5日を赤ペンで大きく囲み、その下に赤文字で『出発』と書き込む。


「4月4日の朝、誰とグループを組むのか聞くからそれまでに林間学校で一緒に行動するメンバーを決めてくれ。最大で1グループ4人までだ。俺もバルチと2人で参加するし、もちろん、1人だってかまわない。

 これで学園側からの通達事項は終わりだ。この後はお互いに自己紹介でもして、終わったら帰っていい。引越ししないといけない奴もいるだろうし、早く終わった方が良いだろ」


 早速、無言で視線を飛ばしながら主導権争いを始める生徒たちを、八十雄は楽しそうに眺めていた。





 読んで頂き、ありがとうございました。

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