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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第四章 学園編 第一部
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068_入試 ③

 書きながら私の高校入試の時を思い出しました。

 私は推薦入試だったので、面接だけだったんです。

「よーし、小僧共。これから合格者を発表するから耳の穴かっぽじってよく聞けよー」


 試験第一日目の全過程が終了し、校庭に並ぶ候補生たちを前にし八十雄は試験者リストを広げた。


 発表を待つ生徒たちは、ある者は自信満々に、ある者は手を合わせ女神に祈っている者もいる。


「名前を呼ばれた者は前に進み出てくるように。このまま制服の採寸を行うからこの後時間を貰うぞ。ああ、名前を呼ばれなかった者はそのまま帰っていいから。

 それじゃ1人目は、チカヤ=シラバイス」

「はいっ」


 ざわめく候補生を割りながら、先ほどの金髪の少女が進み出てきた。


「おう、頑張れよ。で、合格発表は終了だ。他は気をつけて帰れよ」

「えっ」


「ちょ、ちょっと待って下さいっ」

「あぁ、何かあるのか?」


 頭をボリボリかきながら朝礼台を降りようとしていた八十雄を身なりの良い少年が呼び止めた。


「どうして彼女だけが選ばれたのか、選考基準だけでも教えて欲しいのですが」

「あんた誰だっけ?」


 リストと照らし合わせても、200人余全員の顔が頭に入っていない八十雄にはこの少年の名前が出てこない。


「彼は、公国に本拠地を置くマイアール商会会長の孫で、名前はライアルです」


 ライアル少年は高価そうだが品の良い衣服に身を包み、従者などは引き連れていなかった。彼は真剣な顔で八十雄を真っ直ぐ見つめている。


「ああ、教えてやりたいのは山々だけどよ、明日以降も試験があるからそれはできねぇ」

「そうですか」


「その代わりじゃないが、俺から1つヒントをやる」


 再び名簿に目を落とし、書類をざっと流し見てから八十雄は候補生たちに目を向けた。


「俺は、お前たちから本当に俺の学園で勉強したいって気持ちが感じられなかった。だから落とした。そんな奴に食わせるただ飯はないからな。

 逆によ、チカヤだったら俺は出来る限りの協力をしてやりたいって思った。ま、実際にそうするんだけど」

「そうは言いますが、私だって本気でこの学園で学びたいと思っています。彼女だけが特別って事はないはずです」


 そうだそうだと、八十雄とライアルを周りで見ていた連中からも声が上がる。


「はっきり言ってな、俺は初日から来るような連中は余り期待していなかった。どうせ使徒である俺が作った学園で学んだことも経歴の1つくらいにしか考えていない連中ばかりだと思っていたからな。実際、お前たちには全然覚悟が足りないしよ」

「私もここに来る前に、自分の仕事は商会に引き継いできましたし、この2年間は心血を注いで新たな知識を身につける心つもりでしたっ」


 今まで大人しく話を聞いていたライアルも、八十雄の言い分に流石にムッとした表情をしている。


「全然足りないな、そんなのじゃよ。必死さが足りなすぎる。

 お前らの多くは自分がいかに有能でメリットがどれだけあるかさかんに喚(わめ)いていたけど、本気になっている奴ならそんなことを言っている暇なんかないはずだぜ。

 人事じゃないぜ、ライアルお前もだ。仕事を誰かに引き継いできたって言うけどさ、どうせ2年たったら地元に戻って元の仕事を続ける始めだったんだろ? 所詮(しょせん)ここで学ぶ2年間は、お前にとってその程度の価値しかないって事さ」

「……それは」


「他の奴らもそうだ。どうせ将来やることが決まっているんなら2年間を無駄にするこたぁないさ。さっさと地元に帰って準備を始めた方がいい。だから、お前たちは帰れ」


 それだけ言うと今度こそ八十雄は朝礼台から降りていく。その後をバルチと、試験に合格したチカヤが市庁舎職員たちに促されついていく。


 残された候補生たちは何か言いたそうな雰囲気だったが、八十雄の姿が校舎の中に消えるまで誰も声をかけられなかった。




「使徒様っ、これって【グラス絹】ではございませんかっ!?」


 食堂で食事を作っていた混じり者の女性がチカヤの採寸を行った後に持ってきたサンプルの制服を見た途端、彼女は驚きで目を見開きながら大きな声を上げた。


「おいおい、お前は俺の学校の生徒になるんだから、使徒じゃなくて先生って呼んでくれよ」

「ん~? じーじはじーじだよ?」


 おばさんたちから貰ったクッキーを食べながら、バルチは不思議そうな顔をしている。


「そうだな~。バルチにとって俺はじーじだな~」

「ん~」


 グリグリと顔を八十雄のお腹に擦り付けながら甘えるバルチ。いつまでたっても仲良しの2人である。


「そうではなくて、この制服のことなんですがグラス絹を使っているではないですかっ!?」

「へぇ~、そんな名前なんだ。この艶々の生地」


「はい、八十雄さん。確か王国や公国ではそのように呼ばれていたと思います。皇国でしたら、川蝉絹とか言われていたと思いますけど」


 光の加減で一見黒にしか見えない制服だが、間近に寄れば濃い緑色をしているのが分かる。


 その手触りは非常に滑らかでしっとりと吸い付くようで心地が良い。また汚れにも強く、大抵の汚れであれば濡れた布で拭くだけで落とせてしまう。生地は丈夫で破れ難く、学生服に使う生地としては最上級であろう。


「先生っ、でもこれ一着でいくらするのかわかっているんですかっ!?」

「さあ、よく知らないけれど、そんなに高いのこれ?」


「いえいえ、そんなにしないですよ、八十雄さん」


 相変わらずニコニコしながら、食堂のおばさんは話している。


「グラス絹がまだ高価だかった時は、私たちの一族は定住地を持たず旅を続けながら、不安定な生活の中で絹を織っていました。ですが、今はここに腰をすえ八十雄さんから頂いた高性能な機織機も使わせて頂いております。今でしたら以前の何十倍もの速さで絹は織れますし、もし売りに出してもそんなにしないんじゃないかと思いますよ」

「これでもわたくしは世間のことを知っている自負がございますが、グラス絹が市場に出回っているなんて聞いたことがございませんが……」


 恐る恐るといった様子で女性用の制服とその上から見につけるマントを受け取ったチカヤは、丁寧な手つきで身に着けている。


「それはそうですね。私たちは他の仕事をしながら空いている時間を利用して絹を織っていますが、それらは全てラントス郊外で使用されているんですよ。学園の制服やここで働く事務員さんの服装に、ノニさんの宿屋の従業員さんの服だったり。ともじゃありませんが、市場に出せるほど余裕があるわけではありませんので」

「ま、そう言うこった。別に料金を払えって言うわけじゃないんだから、チカヤが気にする事はないぜ」


 だがその言葉はチカヤの頭の中から素通りして零れ落ちていた。その頃の彼女は初めて触れたグラス絹の虜になり、心あらずの状態でポーっと顔を赤らめ固まっていたからだ。




 初日は200人を越えた入学希望者も、2日目以降は50名前後に落ち着いていた。候補生の内訳も貴族や商人の子弟など富裕層から町人や農家の倅といった一般家庭にウェイトが移っていた。


 最初の頃は見ることが出来なかった異種族もボチボチ姿を現し始めたが、流石に彼らの覚悟は重く胎が据わっている。


 八十雄としても生徒同士で対立させたり、それを煽るつもりは微塵もないが、自分と違う価値観の生徒たちと過ごすのは貴重な経験になるはずだ。少なくとも八十雄はそう信じている。




 そんな中、八十雄は一風変わった少年に出会う。彼からは人なら誰もが持っているはずの『欲』がほとんど感じられなかった。


「俺の名前はザザです。家の仕事が農家なので苗字はありません」

「なるほど。確かに田舎の方だと苗字がない奴も結構いるな。それでザザはこの学園で何を学びたいんだ?」


 ザザ少年はここで少し考え込む様子を見せた。それは言葉を取り繕うとか、上手い事を言おうとかそういう事ではなく、自分の中の気持ちを整理しているように感じた。


「俺の家は農家です。爺さんの爺さんも農家でした。おそらく俺の孫の孫も農家です。そのことはどうでも良いんだけど、どうしても俺には分からないことがあって、それを知りたくてここまで来たんだ」

「それで、『分からないこと』って奴はなんだ?」


「俺の家では、量は取れないけど味が良い白小麦と、味はいまいちだけど手がかからず病気にも強くて量も沢山取れる黒小麦を作っているんだけど、領主様にはいつも税として白小麦を収めて、家では黒小麦だけを食べているんだ」

「ああ、そういう事もあるかもな」


「だから俺は知りたいんだ。どうすれば農家の俺たちも白小麦が食べれるかって事を。だって、俺は白小麦を作った本人が食べれないってのは間違ってると思うんだよ。それにこのままだと、俺の孫の孫も今の俺と変わらず黒小麦を食べているはずだから何とかしたいんだ」


 なるほどと、少年の言う事は八十雄にも理解できた。


 確かに、自分たちの親が作った白小麦をどうして育てている張本人が食べれないのか、その親を一番近くから見ている息子ならではの疑問かもしれない。


 この少年は誰もが当然と見逃していることを疑問と感じることができ、更にその先まで見通す感性を持っている。これは素晴らしいことだと八十雄は思った。


 何故なら、普通の人が普通と感じていることに対し疑問を持てる人間でないと、未来を変える事はできないのだから。


 何かしらの知識があればそこから抜け出せるいい策が搾り出せるかもしれないが、彼らの村では私塾に通ったり見聞を広めるような余裕もなかったのだろう。


「お前が感じている疑問もその考えも分かった。ただ、その問題の答えはここで2年間学んだ所で何も出ないかもしれないぞ? それでもお前はかまわないか?」

「それはしょうがないよ。俺だって5年以上考えてたけど答えが出なかったんだから。その時はどうすれば良いのか、その時に改めて考えるよ」


「おう。それじゃお前はここに残って2年間考えてみろ。聞きたいことがあれば回りの奴に何でも聞けば良いし、試したいことがあれば何でもやってみればいい。とりあえず、飯と寝るところは用意してやるから色々試してみろ」

「俺、合格ってこと? ありがとう。とりあえずここで頑張ってみるよ」




 このザザ少年を含む、八十雄自ら選んだ16人の少年少女に各国からの推薦者4名を加えて、出崎学園の第一期生が出揃った。


 入学試験を受験し合格した者たちは全員寄宿舎に入り、逆に推薦者4名の内3名はラントス市内のホテルに部屋をとって、寄宿舎に入ったのは公国から来た1名だけだった。すでに生徒間で温度差が出始めていたが、八十雄はあえて放っておいた。何故なら、その方が面白くなりそうだったから。


 八十雄は自宅でコタツにあたりながら学園生活について思いを馳せていた。出来るならば実りの多い2年になるように、くいの残らない2年になるようにしてやりたい。


 紙に向かって何やら書き込んでいるそんな八十雄を見ながら、その傍らでバルチは楽しそうに笑っている。


 じーじが一生懸命に頑張っているのは、バルチにとって当たり前のことだから。


 そんな時は、必ずいい結果になることをバルチは知っていたから。


 だから、バルチは安心して笑うことができるのだ。


「じーじ、学校って楽しそうなところだねぇ」

「おう、じーじが作ったんだから楽しいぞ。ただ、バルチはまだ小さいからな、入るとしたら来年だな」


「わー、バルチも来年なったらじーじの学校に行けるの? バルチ、今から楽しみかもっ」

「じーじもバルチと一緒に勉強できるの楽しみだよ。だからさ、他の生徒も楽しめるようにしなくちゃ。そのためにも色々と準備をしないとな」


 そう言いながら、紙面とにらめっこを続ける八十雄であった。





 読んで頂き、ありがとうございました。

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