064_独立宣言 ②
休日で一話書きあがったので、投稿しました。
完全休養日って素晴らしいっ!
アレクシオはやラギオスたちと別れた後、結局八十雄はA級冒険者たちと夜を徹してのドンちゃん騒ぎに突入してしまった。
それぞれの冒険者の武勇談や失敗話から得た教訓など、酒を酌み交わしながら興味深い話は尽きなかった。
特に八十雄が興味を引かれたのはカイノの昔話だった。彼女の父親と兄も有名な冒険者で、その剣の腕は広く知れ渡っていたそうだ。当然のように彼女も最初は剣を取ったが、どうしても父親のようには成れなかった。
自分には才能がないと絶望し、冒険者を辞めようとしたその時、彼女に弓を進めてくれたのは、ずっと側で見守り続けてきた兄だったそうだ。最初は才能溢れる兄に反発し、弓を勧める兄を毛嫌いしていたカイノも、最後には説得を続ける兄に折れ、一度だけの約束で弓を握ったところ、『私の生きる道はこれだ』と直感したらしい。
それ以降、精進を重ねたカイノは、今では父親と兄の名声を抜き世界一の弓術士として名を知られるようになったという。
そんな彼女は、誰にでも素直に対応できる心と、誰よりも深い懐を持っている八十雄に驚いたそうだ。それには多くの冒険者も同意した。
女神様の使徒であるにもかかわらず、八十雄は初めて会った自分たちにも礼を述べて頭を下げ、更に、宿の従業員たちにすら頭を下げていた。そう思えば、三大国の後継者にも間違えている時ははっきりとそう告げるし、更には三大国の国主の尻を蹴り上げてすらいたのだ。
冒険者たちの目に映る八十雄は、誰よりも公平で誠実だった。彼には、身分とか、生まれとか、種族とかいったものは、一切関係ないようだった。それが素晴らしくもあり、また、恐ろしくもあった。なぜなら人は自分が理解できない存在を恐れるように出来ているからだ。
だから、そんな八十雄が自分たちのことを信頼してくれると言った時は本当に嬉しかった。
冒険者と言っても、所詮は何でも屋でしかない。自分の腕前を売り金を稼ぐ日雇い労働者なのだ。
そんな彼らだからこそ、信頼には信頼で答えなければならないことを知っている。
信頼には信頼を、恩には恩を返す。それこそが冒険者の流儀であり、ここにいるのは、みな一流の冒険者なのだから。
酒を酌み交わし、バカっ話を続けながら、冒険者たちは明日の成功を固く心に誓っていた。
酒ビンが転がる大部屋で、八十雄は目を覚ました。二日酔いで痛む頭を生暖かい物体が包んでいる。そっと掴んで頭から話すと、それはよだれを垂らして眠り込んでいるバルチであった。
明け方まで一緒に騒いでいたはずの冒険者たちの姿もなく、大広間で寝ていたのは八十雄とバルチの2人だけだった。
「か~っ、完璧に寝過ごしたな……」
酒臭い息を吐きながらボリボリと頭をかく八十雄。完全に寝坊した時の、何とも言えない嫌な感覚があるがやっちまったことはどうしようもない。
窓から差し込んでくる日差しの強さから、今日行われる式典までほとんど余裕はないかもしれない。とりあえず、最初にやらなくてはならないことだが……。
「お~い、バルチ、そろそろ起きないとやばいぞ~。つか、完全にやばいぞ~」
「……バルチ、もう食べれないかも。カイノちゃん、バルチの代わりに食べてぇ」
「これはダメだな……」
未だに夢の世界から戻らないバルチを抱え、八十雄は食堂に向かった。八十雄は重要な仕事がある日ほど、朝飯は必ず食べることにしている。
『腹が減っては戦ができぬ』そう、今日はこれから八十雄にとって大きな戦が待っているからだ。
式典開始まで30分を切った頃、八十雄はバルチと手をつないでメイン式場である学園校庭に姿を現した。頭はぼさぼさで無精ひげは伸び放題。吐く息は酒臭く、服装も昨日と同じで、しわだらけになっている。
ラントスの幹部たちは余りの体たらくに言葉もない様子だったが、いまさら支度をしている時間もない。『ぐぬぬっ』とうなり声を上げながらも、何とか文句は飲み干した。
姿がなかったA級冒険者たちの姿もこの会場の中で確認できた。7人のA級冒険者は黒で統一された衣装に身をまとい、貴賓席に最も近い要所を固めている。
今回、警備員はその用務や重要性で任務や配置場所が分けられているが、その仕事内容によって支給された制服の色が定められており、黄色→赤色→青色→黒色の順でより重要な箇所に配置されている。
もちろん、見た目で威圧する必要がある箇所には大柄な男の警備員を、一般のお客様と接する機会が多い箇所には若い女性の警備員を配置するなど、きめ細かいフォローもされている。
今回の警備計画の総責任者であるノサモと、その伝令を勤めるマルゴは例外的に白い制服を身にまとい、貴賓席近くにある八十雄の近くに控えていた。足が悪いノサモは用意されていた椅子に腰掛けていたが、マルゴは一本の日本刀のように、身動ぎ1つせず佇んでいる。
そんな2人の横で、八十雄は大いびきをかきながら眠りこけ、人見知りなバルチは八十雄の服を掴みながら固まっていた。
会場にはぞくぞくと式典の見学者が集まってくる。式典を開催するに当たり、多くの王侯貴族たちから参加したい旨の親書が送られてきたが、その全てに対して八十雄は、『見学したいなら一般席でしろ。ただし、個人的な護衛は警備の問題で会場に入れないからな』と返事を送り返した。
そもそも、今回の貴賓席は三大国の国主のための3席しか用意されていないのだ。そのために、宜子皇国の後継者である、桂すら貴賓席に最も近いとは言え、一般席にしか座れないのだから。
流石にその状態で文句を言ってくる者はいなかった。
すでに、一般客用に用意した席はほぼ満席となっており、更に会場に入ろうと文句を言っている者もいたが、ギルド会館の美人職員たちが上手く対応していた。もしこれでも引かず、相手が女であることで図に乗ってくる相手には、A級冒険者でもっとも大柄な『怪力の』ロドスが相手をすることになっている。
「おい、八十雄っ、そろそろ起きろ」
「んぁっ」
鞘がついたままの剣で、マルゴは眠り続ける八十雄の頭を一発叩いた。ザワザワ騒ぎ出す一般席の観客たちを無視し、マルゴはもう一発、八十雄の頭に剣を落とす。
「いってぇっ」
「もう一発、いくか?」
無表情で剣を振り上げるマルゴ。更に騒ぎ出す観客たちと対照的に、警備員たちは静かなものだ。
「いや、もう十分だ。ありがとう、マルゴ」
「そろそろ始まるからな。迷惑をかけるなよ」
それだけ言うと、マルゴは自分の指定席に戻って直立不動の体制に入る。
八十雄は緊張して固まっているバルチの頭を優しく撫で、自分の膝の上に抱きかかえた。すると、緊張で筋肉が硬くなっていたバルチの体から次第に力が抜けていくのが感じられた。
「だいじょうぶだ、バルチ。緊張したり困ったことがあったら、じーじを見てれば良いからなっ」
「うんっ」
すっかりリラックスしたバルチを、自分の席にくっつけるように寄せた椅子の上に座らせた。
さあ、間もなく式典が始まる。
「それでは、ご来賓の皆様をご紹介します」
女性ギルド職員の落ち着いた声が魔道具を通して会場中に響き渡る。
一般見学者やラントスの関係者、そして八十雄とバルチが立ち上がり拍手をする中、紹介を受けた三大国の国主たちが入場し、それぞれの席に着いていく。昨日の宴会の効果が会ったのか、昨日まであった険しい空気はそこにはなかった。
拍手が止み、一般見学者を含む全員が席に着いたのを見計らって八十雄はスピーチ席に向かって歩き出す。薄汚れた服装で無精ひげの生えた顎をしごきながら、音声拡大効果がある魔道具の前についた。
「あー、どうも。光と自由、そして平等の女神アルヴェの使徒である出崎八十雄だ。昨日はちょっと深酒しすぎてこんなありさまだけどよ、勘弁してくれよな。
そいじゃまず最初に、ラントスの街づくりのために寄付してくれた世界中の皆さんにお礼を申し上げる。そのお金で立派な学園やこの郊外の開発が行うことが出来た。心から感謝する。記念碑と高額寄付者の名前をつけた記念樹も植樹してある。良かったら帰りにでも寄ってくれや」
ここで会場から笑いを取りながら来賓席に目を向け、1人1人と目線を合わせながら頭を下げる八十雄。国主たちは昨日と違い、それぞれ国を代表するに相応しい気品のある装いをしていた。
「そんな訳で突然だけどよ、ここで最後の来賓を紹介させてもらうぞ。つうわけで、やってこおいぃっ!!!」
その瞬間、式典会場を優しい光が埋め尽くす。その中をアルヴェが泳ぐように顕現した。
「あるちゃんっ!」
「はい、バルちゃん」
ぴょんと飛びついたバルチを抱きかかえ、アルヴェはバルチが座っていた椅子にそのままついた。アルヴェの体からは燐光がほのかに舞い、辺りは神聖な雰囲気に包まれた。
驚愕で声が出ない一同に囲まれながら、バルチはアルヴェに抱っこされ、両手でフニフニといつものようにおっぱいチェックに勤しんでいる。
「あるちゃん、またおっぱいが大きくなってるかもっ!」
「うふふ、今度また一緒にお風呂に入りましょうね」
初めてアルヴェを見るラギオスや雫香祁梓は硬直し、2度目のアレクシオは、真っ赤な顔をしながら溢れる鼻血をハンカチで押さえていた。
「あれ、本物の女神様じゃないのか?」
「……なんか光の粒が舞ってるし、本物なのか」
ざわめき始めた会場をの様子を静かに眺めていた八十雄は、『パン』と一度手を叩いた。
「はーい、こちらに注目。それじゃこれから大事なことを言うからな。目はアルヴェちゃんでも良いから、耳はこっちに向けてくれよ」
水差しから水を直接がぶ飲みする八十雄。こう見えて彼も緊張しているようだ。
「これから3件の重要提案について発表する。そいじゃ、まず1件目だ。
我ら交易都市ラントスは、今日この時刻を持ってラギオス公国より独立する。そして、今後のラントス代表はこの八十雄が勤める予定だ。これについては公国にも王国にも話は通してある」
いきなりの爆弾宣言に会場中の視線は貴賓席に集まったが、アレクシオもラギオスも集まった視線に大きく頷き、八十雄の発言に肯定を返した。
「それじゃ、第2の案件だ。
ラントスはただ今を持って、『永久中立都市』であることを宣言する。この世界じゃ聞きなれない言葉だと思うけどよ、簡単に言えばあらゆる争いを放棄し、あらゆる争いに介入しないって意味だ。更に俺は、ラントスが独立しても独自の兵士は持たないつもりだ。だってよ、戦争するつもりはないんだから、そんなもん常備していたって金の無駄だしな」
今まではどちらかというと興奮や好意的なささやき声が聞こえてきた一般席から、今度は不安や心配の色が濃いざわめきが聞こえてきた。近くの者たちで心配そうに相談する姿があちらこちらで見かけることができる。
それも無理もない。何故ならラントスは今までは公国に占領されておりその庇護下に置かれていたのが、その傘の下から独り立ちしなくてはならないのに、武力を放棄すると八十雄が言い出したからだ。
「……まあ、心配するみんなの気持ちも良く分かるが、ちょっと考えてみろよ。今のラントスに兵を向けるって事はどういうことなのか、シンプルにな」
そう言う八十雄の視線の先には、ニコニコと笑っているアルヴェの姿があった。
「なあ、アレクシオ」
「何でしょう、使徒様」
名前を呼ばれたアレクシオは椅子から立ち上がり、真剣な視線を八十雄に向けた。
「今までの話を聞いていて、今後王国はどういるつもりだ? 答えられる限りで良いから、教えてくれないか」
「はい。我らランゴバルド王国は使徒様の宣言を全面的に支持します。
そのためにまず、王国の中央方面軍は規模を縮小し、各方面軍に分配もしくは兵士の解雇を行います。王国は、ラントスが『永久中立都市宣言』を撤回しない限り、攻め込む事はないとお誓いします。
また、ラントスに攻め込む勢力を我らが認知した時は、女神様に対する敵対行為とみなし全力で排除します。細かい所はこれから国に帰って検討しないといけませんが、大筋は今申し上げたとおりの内容になるかと思います」
「ありがとう。とまあ、こういう訳だからそんな心配することはないと思うぞ。極一部のとち狂った奴でも出ない限り、まあ大丈夫だ」
次第に収まっていくざわめきが完全に止むまで八十雄は静かに待っている。
「よーし、みんなが落ち着いたところで最後の案件だ。
俺がラントスで最も力を入れていきたいのは教育だ。この世界は余りにも教育って奴を軽く見てる。舐めてるとすら言えるかもしれねぇ。だから来年からラントスでは6歳児を対象に義務教育を開始する」
「義務教育って何だ?」
「……わっかんねぇ」
再びザワザワ騒ぎ出す一般見学者。
「義務教育について説明するから良く聞いてくれよ。この後ろにある建物も俺が造っている学校だが、ラントス市内にも同じように施設を今年中にいくつも造る。そこでな、ラントスで生まれて数えで6歳になった子供は全員集めて一年間文字や計算、一般常識を教えようと思ってる。もちろん、授業料は一切取らないし生徒には昼飯も出す。これについてはラントスから予算を出して推し進めることは、もう決定している。それが義務教育だ。そして、優秀な生徒がより高度な勉強をしたいって言い出した時は、ラントスが補助金を出して専門的な勉強もさせてやる。俺は種族とか生まれに関係なく、全ての子供に『機会』を与えたいと考えている」
「金が掛からないんなら、まあ良いんじゃないか」
「ああ、飯まで食わせてもらえるんだから」
「よーし、納得してもらえたようだな。もちろん、6歳以上の子供でも希望者は学校に来てもいいぞ。ただし義務教育を受けられるのは、ラントスもしくは近郊に住んでいる子供限定だ。何て言っても、ラントスの税金で学費を賄うんだからな。無制限に受け入れることはできない。
俺からの提案は以上だ。これらのことについてみんなは、賛同してくれるかい?」
一般席に座っていた者たちが次々に立ち上がり、拍手で賛同していく。会場中が立つ者と拍手で埋め尽くされる中、アレクシオをはじめ3人の国主たちも立ち上がった。
「ランゴバルト王国アレクシオ=ランゴバルトです。使徒様のご提案、承認させて頂きます」
「ラグナス公国ラギオス・アリシールドだ。私も承認する」
「宜子皇国雫香祁梓も承認する」
一層盛り上がる一同の視線を八十雄は両手を広げて集めると改めて口を開いた。
「ありがとうな、みんな。ラントスがより良くなるように俺も出来る限りの努力をすることを約束する。そいじゃ最後に俺から1つだけ宣伝させてもらうぞ」
そう言うと八十雄は背後にそびえる新校舎を指し示した。
「この校舎では約180人の生徒に義務教育を実施する予定だ。だが、それとは別に20名の特別クラスを編成する。対象年齢は12歳から15歳程度。教育期間は2年を想定している。もちろん、学費や食費も一切無料。そしてこの20名についてはラントス近郊出身者という制限を外し世界中から生徒を募集する。求める人材の条件はただ1つ、『本気で学びたい気がある奴』だけだ。面接を行って見込みがない奴や、勘違いしている奴は貴族だろうが容赦なく落とすし、本気な奴はどんな種族だろうが関係なく迎え入れる。その生徒については俺が責任を持って育てるし、卒業した後も何か問題があればいつでも相談にも乗る。ま、そういう訳だからよ、世界中に宣伝してくれよな」
八十雄は、再び水差しに直接口をつけると、ガブガブ水を飲み干した。
「そいでよ、一応この校舎は各国からの募金で作られた訳だから三大国には推薦枠って奴を設定しようと思ってる。公国と皇国は1つ、王国は2つだ。まあこれは、どっかのバカ国王が想定を遥かに超える金額をぶち込んできたからな、その意趣返しだと思ってくれ。まあ、ワイルドカードの1枠は、主席を取った学生の出身国に与える予定だから、開校3年目以降はどうなるかわかんねえからな。
そいで入学試験予定日は2月の上旬を考えてるけど、詳細についてはギルド会館を通して発表しますんでよろしくな」
異様に盛り上がる会場をゆっくり見つめながら八十雄は何度か頷いた。一部、真剣な顔つきで思考の渦に沈んでいる者もいるが、まあ上出来だろう。
ここまで来るのに10年以上の月日が必要だったが、ようやくスタートラインに立つ事が出来た。
ニコニコ笑うアルヴェの視線を受けながら、武者震いが止まらない八十雄であった。
読んで頂き、ありがとうございました。




