063_独立宣言 ①
PVが99万アクセスを超えてしまいましたっ(゜w゜)ノ
おそらく、今日で100万PVを超えますので何か考えてみようかしら。
八十雄たちがラントスに戻ると、僅か数日の間に街の雰囲気は一変していた。
毎日のように各国から使者が現れては、細々(こまごま)とした事を町の役人たちと決めていく。中には八十雄と会いたい者も多くいたが、そのほとんどと八十雄は会おうとしなかった。高貴な身分の方たちとの中身の無い会合より、市井の中で汗にまみれて仕事をすることを優先した形だ。
約束の女神の休日まで1ヶ月を切ると、街の中は祭りの雰囲気に染まっていく。そして、独立宣言を行う八十雄ガーデンの学園の校庭では、粛々と開催準備が進められていた。
相変わらずここは場所だけは良い。見渡す限りの平原である。そこを八十雄は整地し、周囲を段差式の足場で囲んでより多くの人が参加できるように準備を進めていた。
警備はギルド会館に一任することにした。そもそも、名目上ではラントスは現在も公国に占領されたことになっている。そのため、街の警備隊以外、戦力らしいものを持っていなかったのだ。
ギルド会館は傭兵ギルドや魔導師ギルド、そして冒険者ギルドを中心とした戦える者たちから、過去の実績を重視し専従者を選び出した。実力よりも信用度を優先し、新参者より古くからラントスを本拠地にしている者をより重要度の高い場所に配置していった。
各国の首脳部は多くの敵を抱えている。爆破テロ的に自らの命を使ってでも、ランゴバルト王国の国王を殺したい者など星の数ほどいるのだ。もちろん、公国に悪意を抱く敵も多い。紅蓮帝を殺しさえすれば、公国など一気に滅んでしまうのだから。
今回、そんな重要人物をゴッソリ招待したのはラントス側である。だから、何としても絶対にテロなど起こさせてはならないのだ。
ノサモも今回の防衛任務に力を貸すことになった。最も重要な最終防衛ラインで。
その横にはノサモに稽古をつけてもらってからメキメキと力をつけてきたマルゴと、ノサモの現役時代の知り合いたちが集まっていた。彼らは辺境の町カドロからラントスまで、何故か観光にやってきて、そのまま割りの良いバイトに応募してきたのだ。
現在、もっともS級冒険者に近いと言われている彼らの名声は、武に生きる世界にいれば誰もが知っている。抑止力としてはこれ以上のものはないだろう。
ノサモはこのお節介でお人好しな仲間たちに苦笑いしか浮かばなかった。
「よーし、みんな集まったな? それじゃグラスを持ってかんぱーいっ!!!」
「かんぱーい♪」
「……乾杯?」
女神の休日を明日に迎えたこの日、ノサモの妹ノニの宿屋にある和室っぽい大部屋で20人以上の人が大きな掘りごたつに足を入れていた。また、コタツの上に置かれた幾つかの鍋からは湯気が立ち上り、良い匂いが辺りに漂っている。
すでに完成し営業を始めていたノニの宿屋は当初の予定を遥かに超えた規模の建物になっていた。その大きさは交易都市ラントスでも1、2を争うほどに。
その理由は八十雄の弟子たちが担当した部分についてどんどんアイデアを出していったため、最初の規模に収まらなくなってしまったからだ。八十雄には当初の図面通り進めることもできたが、彼も『お、こっちの方が良いんじゃねぇか?』と思ってしまったのだからしょうがない。
そもそも、建築代金だって元からタダみたいな値段なのだ。こうなってしまったら誰も止められる人はいなかった。
ノニたち一家がラントスについた時には、宿屋の余りの大きさに開いた口が閉じなくなっていた。
もちろん、人手もノニ一家だけでは足りなくなってしまい、厨房や裏方などで多くの混じり者たちが働いていた。彼らは真面目で働き者であり、不平不満は一切漏らさず、いつもニコニコ笑っていた。自分たちを1人の人間として扱ってくれることに心から感謝していたのだ。
ノニたちも初めてバルチと会った時からも分かるように、異種族であっても一切差別はしなかった。そういう考えすら思い浮かばなかった。
世間には混じり者である彼らに悪感情を抱いている者も多くいたが、ノニの宿屋は最初から混じり者たちが働いていることを公にしていたので、そういう者たちは最初から足を運ばない。
そして宿に泊まった者たちは口を揃えてこう言うのだ。『ラントスに来た時は、また必ずここに泊まる』と。
お客様に感謝し快適に過ごしてもらおうとする気持ちは黙っていても伝わってくる。そしてここには美味い飯と快適な部屋と、八十雄が直々に監督した最高の風呂が揃っていた。これで値段も良心的となっては、流行らない訳が無い。
八十雄たちがいるこの部屋は、彼がどうしても作りたかった【宴会用の大広間】であった。コンセプトは、【大人数で酒が飲めて、そのまま横になれる部屋】である。八十雄にとって夢の部屋だ。
八十雄がその部屋に招待したのは、またありえないメンバーだった。
まずはノサモの冒険者時代の仲間たちであるA級冒険者たち。その内の何名かは八十雄も名前は知っていた。酒場で噂話が囁かれるほど有名であったし、ギルドで噂話を聞いていたバルチが何度も嬉しそうに話しかけて来たからだ。
現に、バルチは冒険者たちの中で紅一点であるカイノの隣に座ってブンブン腕を振るいながら興奮気味に話をしている。猫人族は優れた狩人だが、何故か弓術だけはみんな下手だった。バルチもその例に漏れず、弓だけは八十雄にすら劣ってしまう。そのため、弓術の達人で世界一の腕前と名高いカイノの事をバルチは以前から尊敬していたのだ。
余りに興奮しているバルチは、顔を真っ赤にしながら何度も同じ事を繰り返しているのだが、カイノは微笑みながら聞いてくれている。そして、それを見たバルチは更に顔を赤く染めるのだ。
もちろん、ノサモ本人と今や一番弟子となったマルゴも部屋の中にいた。ノサモは昔の仲間たちと危険な人物がラントスに紛れていないか確認しており、マルゴはその側で静かにしていた。
他にもラントスで八十雄と関係が深い大工ギルドのマテバやドリスの姿もあった。そして、最も上座に近い席にはランゴバルト王国国王アレクシオ=ランゴバルトと、ラグナス公国国王ラギオス・アリシールド、それに宜子皇国皇王雫香祁梓とその後継者、雫香祁桂の姿があった。
敵国の国主が1人の護衛もいない状況で顔を突き合わす異常事態の中、アレクシオを除いて誰も酒を飲もうとはしなかった。こんな状態で酔っ払ってしまっては何かが起きた時に対処できないと考えているんだろう。
アレクシオだけは賑やかな部屋の様子を楽しそうに眺めながら、平気で酒を飲んでいたが。
チラッとその様子を目にした八十雄はおもむろに席を立つとコタツの上にある土鍋のふたを取った。一気に広まる食欲をそそる匂いに最初に反応したのはバルチだった。
「じーじ、じーじ。これは何の鍋なの?」
「それかー、これはなー、じーじが苦心の上でようやく作り上げた八十雄式カレー粉を使ったカレー鍋だっ!!!」
「お~っ! 凄いおいしそうっ! じーじ、早く早くっ」
「おう。ちょっと待ってろよ」
そう言いながら部屋にいる全員の視線を集めながら八十雄はバルチから受け取ったお茶碗の中に湯気立ち上る鍋料理を盛っていく。バルチの尻尾はビンビンに立って天井を指していた。
「ほれ、熱いから火傷するんじゃないぞ」
「は~い、いただきますっ」
猫舌のバルチは、箸で摘んだ肉にフーフー息を吹いて少し冷まし、ぱくりと一口。途端にクリクリした目を幸せそうにして笑った。
「じーじ、凄い美味しいかもっ。バルチ、気に入っちゃったかもっ」
「そーか、そーか。まだまだ沢山あるから腹いっぱい食えよ?」
グリグリとバルチの頭を撫でながら八十雄も優しく目を細めた。そして、近くにいた人の茶碗を受け取ると、みずから料理を盛っては渡していく。
「ここはラントスだ。自国に戻れば厳しい業務や政敵もいるだろうし、命がけで戦わないといけないことがあるのも分かっているけどよ、せめてここにいる間だけはそんなことを忘れてもいいんじゃないか? 美味い飯と酒があるんだしよ、難しい顔してたって勿体ないぜ」
「……出崎殿、1つ聞いてもよろしいか?」
口を開いたのは雫香祁桂だ。彼は酒どころか、箸にすら手をつけていない。
「おう、何でも聞いてくれ。ここは酒の席だ。無礼講でいいんじゃないか」
「では遠慮なく。私の聞いた所ではあなたはこちらの冒険者とは始めて顔を合わすと聞いた。それなのにどうしてそんな態度を取れるのだ? 殺されるかもしれぬと考えたりしないのか?」
桂の向けた視線の先ではノサモの旧友たちが酒を飲んでいた。冒険者である彼らはいずれも武器を携帯していたし、八十雄もそれをとがめる気はさらさらなかった。なぜなら、冒険者が武器を携帯しているのは当たり前のことだし、当たり前のことに文句を言うのはお門違いだからだ。
だが、桂と同じ事を考えていたのはほかにも何人かいたようだ。ラントスの幹部職員の何名かとラギオスに雫香祁梓も真剣な目で八十雄を眺めていた。
ノサモやマルゴにA級冒険者たち、それにアレクシオやマテバ、ドリスといった面々は用意された料理や酒を遠慮なく楽しんでおり、桂の話題にはわざと気がついていないふりをしている。
「それじゃ俺もはっきり言わせて貰うけどよ、お前、器がちっさい男だな~」
「なっ、無礼であろうっ」
「だから、無礼講って言っただろう? まあ聞けよ」
その間も八十雄は鍋料理を配っていき、今は全員の前に湯気を上げる料理が置かれていた。当然のように箸をつける者と一切手をつけない者に見事に二分されている。八十雄も自分でよそった料理に箸を入れ、ばくっと口に放り込んだ。
「やっぱ、俺の料理は美味いわ。みんなもそう思うだろ?」
「はい。私も自国ではこんなに美味しい料理を食べた事はありません。本当に美味しいです」
そう言ったのは王国のアレクシオだ。
「なあなあ、お代わり貰ってもいいのか?」
そう言いながら席を立ったのはA級冒険者のうちの1人だ。
「ああ、どんどんやってくれ。料理ならまだまだあるからよ」
八十雄の言葉を待っていたようなタイミングで宿屋の従業員である交じり者たちが、湯気を立てる新しい鍋を何個も運んできた。彼女たちの衣装は日本の旅館で女中たちが着ている様な和服に近い衣装だった。
実は、これも好評だったりする。お客様からも、そして従業員からも。
「俺は別に特別なことをしているんじゃない。知り合いが集まったんだから、美味い飯と酒でも飲まないかって誘っただけだ。それで何故殺されるんだ?」
「一度も会ったことがない連中と護衛もいない席で、一緒に酒を飲むその神経が分からない。奴らはみな武器を携帯しているのだぞ? 危険とは思わないのか」
白米をかき込んでいた八十雄は、初めて桂が言いたいことが理解できた。
「はぁ、ようやくお前さんが言いたいことが分かったよ。言っとくが俺はこの状況を危険だなんてこれっぽっちも思っていねぇ。だってさ、そうだろ? どこが危険なのかさっぱりわからねぇ」
「だから何度も言っている。始めて会う連中と一緒に酒を酌み交わすその迂闊さを私は問うているのだ」
「確かによ、俺はこの冒険者連中とは始めて顔を会わすけどよ、そんなことはないって心から信頼しているぜ? だってよ、こいつらはノサモのことを心配してわざわざ来てくれるような連中だ。ノサモが信頼していることも分かる。だから大丈夫だ」
「私には分からない。何故大丈夫なのかっ」
「だからよ、俺はノサモを信頼してる。ノサモは大丈夫だ。絶対に。だったらよ、ノサモが信頼しているこの連中も大丈夫だ。だってよ、俺が信頼しているノサモが信頼している連中なんだぞ? それだけで安心して命を預けることができる。だからこいつらの前では酒も飲むし酔っ払って眠りこけるかもしれねえ。だけど大丈夫だ。ノサモが信用している連中だからな」
「そんなばかなっ、そんな理由で命をかけられる訳がないっ」
拳を握り締める桂の前で、ラギオスと梓も茶碗を取り料理を口に運んだ。
「……アレクシオ殿が言っていたように、美味いな」
「確かに」
その奥ではバルチとA級冒険者たちが先を争うように鍋料理を食べていた。
「人を心から信じられない奴が他人から信用されると思っているのか? 桂、お前はもっと人の心を信じてみろ。今のままじゃお前はダメだ。成長しない」
「人の心……」
「そうだ。まだ若いんだ。もっと悩んで考えてみろ。そして時々、小うるせぇ爺がいたって思い出してくれれば良い」
それだけ言うと、八十雄は自分の前の料理を一気に食べ始めた。古い考えの日本人である八十雄は、出された料理は全て食べなければならないと考えているのだ。
「よーし、飯が終わったら八十雄さんご自慢の露天風呂に連れてってやるからよ、ここで前後不覚になるほど酔っ払うんじゃねぇぞ。ちゃんと女湯と別れているから、悪いんだけどカイノさんはバルチの面倒を見てもらって良いか? つか、お前ら飯ばっかり食ってないで俺の話を聞けっ」
湯から上がり身支度を整えた一同が玄関に並んでいる。冒険者たちはこのままこの宿に泊まるが、各国首脳はラントスの中にそれぞれ割り振られている宿泊施設に戻り、街の幹部たちは自宅に戻ることになっていた。八十雄も自宅に戻ることになっていたが、何か帰るのが面倒くさくなってきたのでこのまま泊まっていくことにした。
その周囲には従業員たちが見送りに来てくれていた。皆ニコニコと笑っており、預かっていた荷物を渡してくれていた。
「今夜の代金は俺が払っといたから気にしなくていいが、もしさ、ここでのもてなしに感謝の気持ちが少しでもあるならば『チップ』をこの子らに渡してくれないか?」
「チップ、ですか?」
チップがどういう意味か分からないアレクシオが困惑した顔を八十雄に向ける。
「何だ、チップも知らないのか。チップってのはよ、色んなサービスについてありがとうって気持ちをこめてお金を渡す文化だよ。感謝の気持ちを素直に表す方法だ」
「なるほど、それは素晴らしい文化ですね」
「八十雄さん、私たちはお給金だけで十分感謝しておりますから」
「そうでございます。皆様もよろしければまたお越しください。心から御持て成しさせて頂きますので」
頭を下げる従業員たちに小さく頷いたアレクシオは、懐から大きな宝石を取り出した。
「これは、最近交易を開始した西方の小国から送られてきた宝石です。これ「バカ野郎っ」」
八十雄はまだ話している最中の王国国主の尻を蹴り上げる。
「これは使徒様、一体私が何をしたというのですか」
「何でチップが正規料金の何百倍もするんだよっ。お前は少し一般常識を勉強し直して来いっ」
八十雄は懐から自分の財布を取り出すと、数枚の紙幣を取り出し女中の手に握らせた。
「今日は本当に楽しい時間を過ごせた。みんなのおかげだ。後で旨い物でもこれで食べてくれ。もちろん、ここにはいない厨房の人も一緒にだぞ」
「すみません、八十雄さん。いつも感謝しています」
たくっ、これだから世間知らずは、とブチブチ文句を言いながら改めてこれから帰る一同を見渡し、八十雄は大きく頷いた。
「それじゃ、みんなも気をつけて帰れよな。外には護衛も待っているから寄り道しないで戻るんだぞ。特にアレクシオは」
「分かっていますよ。それでは皆さん、お先に失礼します。明日はよろしくお願いしますね」
1人1人帰っていく面々を確認し、八十雄は声をかけていく。ぶっきらぼうで乱暴な物言いだが、何故か悪い気はしなかった。彼は自分の心を偽らないし、率直な思いを言葉に乗せているのが誰にも分かったからだ。
飾らない言葉は人の心を打つ。
それは人の上に立つ者にとって大きな力だった。案外八十雄は統治者として優れた資質を秘めているのかもしれない。
読んで頂き、ありがとうございました。




