↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
67/123

062_ドワーフ ⑤

 霊峰ホール山シリーズ完結です。

 キリが悪かったので、長めな感じになっていますよ。

「たかが地虫の一匹、俺たちが捻り潰してやるっ」

「フフッ、こんな簡単な仕事ってなかなかないわよねぇ」


 ブラフマから引いて陣を張る討伐軍から2人の男女が進み出てきた。男は身の丈を越える大剣を背負い、女は節くれだった木でできた杖を持っている。


「……あれ、あの地虫、全然魔力を帯びてないんだけどっ!」

「何か関係あるのか?」


「もー、麻痺や睡眠みたいな状態変化魔法が使えないじゃないっ! うーん、面倒くさいなぁ……」


 女はブチブチと文句を言いながら呪文らしきものを唱えると、長さ5メートルほどの石でできた槍が空中に出現した。


「私はS級魔導師のタリ」

「俺はS級傭兵のガイア」


 ガイアと名乗った男は背中から大剣を抜くと、一気にトップスピードまで加速する。


「ま、ここらでプチッと殺されてくれや」

「じゃあね、ばいばーい」


 駆け寄るガイアを追い越して、石槍(ストーンランス)がブラフマに迫る。ガイアはブラフマが石槍を避けた所を追撃する構えだ。


「弱い奴ほど良くしゃべる」


 ブラフマは唸りをあげて飛んできた石槍を左手で掴む(・・・)と、そのままタリに向かって投げ返した。石槍は飛んできた数倍の速度でタリに向かって飛んで行く。


「ちょっと、聞いてないわよっ! こんなことっ!!!」


 反射的に突き出した両手の先に魔法障壁が発生するのは、流石はS級魔導師といったところか。だが、


「ギャッ!」


 石槍は防御魔法を貫通し、タリの頭半分を削り取って地面に突き刺さった。


「タリッ!!!」

「……余所見をしている余裕があるのか?」


 思わず背後を振り返ったガイアに対し、右手に握り締めた戦斧(バトルアックス)を振りかぶるブラフマ。


「くそっ、だがそんな武器が俺の宝剣に敵うと思ってるのかっ!」

「まったく、よく吼(ほ)える奴らじゃ」


「っ!?」


 振り下ろされたブラフマの戦斧がガイアの大剣ごと彼の体を真っ二つに切り裂いていく。もはや骸となって口を開かぬ2人には目もくれず、ブラフマは討伐軍をにらみ続けていた。




「よーし、そろそろブラフマさんの所に行ってみるか」

「はーい。バルチの新しいハンマー、楽しみだねぇ~」


「おう、そうだな~」


 新しく作った罠を畑の周りに設置していた八十雄は、周囲を警戒していたバルチに声をかけた。太陽は大分傾き、影も長くなっていた。


「おう、八十雄。そろそろ行くのか」

「ああ、もう約束の時間だからな」


 一緒に作業していたドワーフたちも顔を上げた。彼らも八十雄から動物を捕らえるための罠や動物除けの道具の作り方を教わり一緒に設置していたのだ。


「……今夜も宴会だ。この時間じゃラントスまで帰れんだろう。今夜も泊まっていけ」

「良いのか? 一応、テントもあるから行ける所まで行って野宿しようと思っていたけど」


 ハンッと鼻で笑いながら、ドワーフは可哀想な者を見る目を八十雄に向けた。


「お前なんぞブラフマさんのついでだ。お前の仕事は、上まで行った時にブラフマさんを宴会に誘うことだ。首に縄をつけても連れてくるんだぞ」

「あ~あ~、分かったよ。それじゃ行ってくるからな」


 どうせ戻ってくるならわざわざ荷物をまとめて行くこともないと、八十雄とバルチは手ぶらで片道一時間ほどの山道を登って行くのだった。




 ホール山を訪れた初日に通った道を八十雄とバルチは手をつないで歩いていた。一般的には険しい山道も、2人にとっては散歩と変わらない。途中で落ちている綺麗な石や変わった形の石をお土産に拾い集めながら歩く姿は楽しそうだった。


「あ、じーじ。もうちょっとで到着かも」

「そうだな~」


 残り少なくなっていた山道を登りきると、ブラフマの住んでいた山小屋が目に飛び込んできた。山小屋についている大きな煙突からは、僅かに煙が上がっている。


「こんにちはー、約束どおり八十雄とバルチがやってきましたよ~」

「こんにちは~」


 ドアをノックしながら八十雄とバルチが声をかけると、ゆっくりと扉が開いていく。そして中からブラフマがバルチのハンマーを持ちながら現れた。


「……確認してみろ」


 バルチは、ずいっと差し出されたハンマーを両手で握り締めた。八十雄の目にはハンマーの色がやや黒ずんでいることと、一回り大きくなっていることしか分からなかったが、


「あれ、前に比べて凄く重くなっているかもっ!?」


 ブンブンと素振りをしているバルチが素っ頓狂(とんきょう)な声を上げた。


「ハンマー長くなってるし重たくなってるから、バルチ、振り回されちゃうっ」

「そうか? じーじには上手に扱っているよう見えるけどなあ……」


 戦いの素人である八十雄にはどこが問題なのか良く分からないが、バルチ的には大問題のようだ。


「……ちっこいの。お前さんはもっともっと強くなりたいのだろう? だったら、その重さに慣れて自分のものにしろ。そうすれば、今までの3倍は強くなれる。ハンマーも以前に比べてかなり頑強にしてある。そのハンマーを壊せる奴などそうそういないはずだ」

「ちっこいのじゃないって言ってるでしょっ! バルチって名前があるんだからっ」


「そのハンマーを使いこなせるようになったら名前で呼んでやる。2年後にもう一度ここまで来い。それまでには使いこなせよ」

「分かったよっ、バルチとおじさんの約束だからねっ」


「ああ分かった。それじゃあな」

「あ、ちょっと待ってくれよ」


 用件が済んだとばかりに小屋の中に入っていくブラフマに八十雄は声をかけた。


「何だ」

「いやさ、下の連中が宴会やるからブラフマさんを連れて来いって言うんだよ。どうやってもつれて来いって言うもんでさ、悪いけど付き合ってくれないか」


 頼むと両手を合わせてお願いする八十雄を無言で眺めていたブラフマは、部屋の中から一本の蒸留酒を持って小屋の外に出た。


「待たせたな」


 それだけ言うと八十雄たちの返事を待たずブラフマは麓の集落に向かって歩き出す。それを見て八十雄とバルチは慌てて後を追いかけるのであった。




 連日の宴会は大いに盛り上がった。集落の中心に大きな焚き火がたかれ、肉や野菜が次々と調理されていく。八十雄も自慢の腕を振るいドワーフたちが見たことも無い料理を次々と作り出していった。その中にはバルチが愛してやまないうどんも含まれている。


 ブラフマが持ち込んだ蒸留酒は凄まじいまでのアルコール度数で、間違いなく火がつく代物だったが、それを水のようにドワーフたちは飲んでいく。八十雄も進められた酒を一気に飲み干したが、酒がのどを焼きながら降りていくその感覚を感じたと思ったら、目を回してぶっ倒れてしまう。


 慌てて駆け寄るバルチにドワーフの奥さんは黄色いかんきつ類の果物を手渡し、果汁を飲ませるように教えてくれた。これはドワーフ族に伝わるアルコールの対処薬らしい。


 笑い声が響く中、バルチが絞った果汁を八十雄の口に落とすと、機械仕掛けの人形のように八十雄は目を覚ました。


「ギャーッ、何かしらねぇがスゲェ目がしみるうぅぅ」

「じーじっ!?」


 覚醒した八十雄は目を押さえながら地面を転がりだした。そして、それを見ながら笑い出すドワーフたち。


 その夜は、いつまでも笑い声が途絶えなかった。




 翌朝、八十雄が目を覚ましたのはまったく知らない家の広間であり、八十雄の周りには10人以上のドワーフたちが雑魚寝していた。昨夜の記憶は途中から途切れ途切れで、どうにもはっきりとしない。


「ま、いっか」


 どうやってこの家に連れてこられたのかさっぱり分からないが、分からないことを考えても仕方が無い。諦めが早いのも八十雄の長所だ。


 爆音のようないびきをかくドワーフたちを起こさないようにして腹をかきながら部屋を出ると、見覚えのあるドワーフの奥様が八十雄に頭を下げた。台所と思わしきところでは先に起きていたバルチが朝ごはんを貰っていた。


「じーじ、おはよう。お酒は大丈夫?」

「おう、おはよう。もう大丈夫だ。それにしてもバルチは早いなあ」


「こんなにうるさいと、バルチ、眠れないよ」


 バルチは扉を閉めても響いてくるいびきに顔をしかめ、眉を八の字にして眉間にしわを作っている。八十雄はそのしわを優しく揉みながら、バルチの体を優しく抱きしめた。


「ごめんなさいね、男たちはお酒を飲むとみんな凄いいびきだから。でも、それだけ嬉しかったのよ。みんな」


 八十雄に朝食を出しながらドワーフの奥様は笑っていた。


「嬉しかったって何が?」

「だって、八十雄さんってあれでしょ? 女神様の使徒様でしょ?」


「ああ、そうだけど?」


 焼きたてのパンをモグモグと食べながら、八十雄は肯定した。


「私も最初は気がつかなかったんだけど、八十雄さんが初めてこの集落に来た夜、女神様が夢の中に立ったのよ。ううん、私だけじゃないわ。この集落中のドワーフたちの夢の中に立ったのよ。そこで色々女神様が話をなさってくれた。私たちは見捨てられた種族と思っていたから本当に嬉しかったわ」

「……そんなことがあったのか。ラントスに帰ったらアルヴェちゃんに感謝しないとなぁ」


 朝食が終わって物足りないバルチのお皿に、自分の料理を分けてあげる八十雄。いつもの光景だ。


「でもね、私たちが本当に嬉しかったのは別のことよ」

「えっ?」


 バルチの口を拭いていた八十雄は驚いてドワーフの奥様に目を向けた。


「八十雄さんは使徒様であることをおくびにも出さず、本当に私たちのために尽力してくださった。何の見返りも求めずに……。私たちにとって人間族は恐ろしいものだったのに、あなたは本当に良くしてくれた。男たちも最初はあなたのことを疑っていたけど、あなたの心が分かって、人間族の中にもあなたみたいな人がいるって分かって、それが嬉しかったのよ」

「そ、そんなこと言われちまうと照れくさいな」


 面と向かって褒められることなんてまず無い八十雄は照れて、顔を真っ赤に染めていた。


「あと、ドワーフの集落に来るならもう少しお酒に強くならないとね。毎回、潰されちゃうわよっ」

「……精進します」




 朝食が終わり、顔を洗った八十雄は荷物をザックに詰め始めた。元々たいした荷物も持っていなかったので荷造りも直ぐ終わる。


「じゃあ、ラントスに戻るか」

「おーっ!」


 ガッツポーズでピョンピョン跳ねるバルチと手をつなぎ借りていた小屋を出ると、集落中のドワーフが小屋の周りを囲んでいる。


「八十雄さん、お弁当を作ったから持って行って下さい」

「お姉さん、ありがとう。バルチ、嬉しいっ」


「あ、何かすみません。ありがたく頂戴します」


 朝飯をご馳走になったドワーフの奥様が手渡してくれた弁当を八十雄とバルチはありがたく受け取った。


「色々世話になったけど、これでラントスに戻るよ。本当にありがとうな」


 深々と頭を下げる2人をドワーフたちは無言で見つめている。


「それじゃ、またな」

「またねー」


「……ちょっと待て」


 その時、1人のドワーフが八十雄たちの前をふさぐ様に進み出てきた。


「ブラフマさんはもう帰ったから、儂から渡してやる。これを受け取れ」


 そう言いながら差し出してきたのは盾と槌がペンダントヘッドにデザインされた銀製のネックレスで、ちゃんと2人分あった。


「……これは?」

「これはドワーフ族に伝わるネックレスだ。これさえつけていれば、世界中のドワーフがお前たちに力を貸してくれるはずだ。見たところ獣人族のネックレスもしているようだが、このネックレスも常に肌身離さずつけていろ。いいなっ」


 フン、とドワーフは不機嫌そうにネックレスを八十雄に押し付けた。


「何かすまないな。色々気を使わせたようで」

「……あの小屋はあのままにしておく。いつでも来い」


「ああ、わかった。必ずまた来るよ。約束(・・・)する」


 バルチと自分の首にネックレスをかけると八十雄は改めて集まってくれたドワーフたちを見渡した。


「みんな、本当にありがとう。今度来る時はスゲエ美味い酒を持ってくるから楽しみにしていてくれよな」


 八十雄とバルチが手を振っても、ドワーフ族はブスッとした顔のまま突っ立っているだけだった。それでも、八十雄から見て豆粒くらいに小さくなっても、誰一人としてその場から離れなかった。


 ドワーフ族は、八十雄たちの姿が完全に見えなくなるまでその場から一歩も動かず見守り続けていた。


 20年目にして始めて集落を訪れた人間族と猫人族のちょっと変わった友人を、姿が見えなくなっても彼らはずっと見つめていた。




 ブラフマ対討伐軍の戦いは異様な展開を見せていた。討伐軍はブラフマを討ち取ることを諦め、【負けない】ための戦法に切り替えたのだ。


 討伐軍は軍を10余りの隊に分け、24時間休みなくブラフマに攻撃を仕掛け始めたのだ。もちろんこんなことをしても、この屈強なドワーフを倒せるとは思っていない。そもそも、矢や剣が当たっても、一筋の傷すら与えることが出来ないのだ。こんな状態で倒せるはずが無い。


 だから戦い方を変えた。勝てない代わりに、休息も食事を摂る時間も与えない方針にしたのだ。


 このまま時間が経過すれば、莫大な人的被害と切り替えにあのドワーフは一時撤退するしかなくなる。そうしたら橋頭堡(きょうとうほ)を作り、がっちりと防御を固めればいい。


 理由は分からないが、あのドワーフは最初の場所から一歩も動くつもりが無いようだ。傭兵と魔導師のS級コンビと戦った時も、一歩も動いていなかったし。


 ようやく見え始めた勝機に、指揮官の青年貴族はようやく1つ、吐息をついた。今の今まで生きた心地がしなかったが、もう大丈夫だ。後は何とかなる。


 今夜は久しぶりに眠れそうだ。




「グレシオス様、非常事態ですっ! 起きてくださいっ!!!」


 指揮官幕舎で寝ていたグレシオスは、外からの叫び声で目を覚ますと、剣だけを掴みテントの外に飛び出した。


「どうしたっ、何があったっ!」

「ドワーフが、鉱山のドワーフ2000名が武装蜂起しましたっ! そして、あのドワーフが……」


 伝令も相当慌てているのだろう。ハァハァと荒い息をつきながら、ただ背後の闇の中を指差すだけだった。


「おい、あのドワーフがどうしたというのだ。しっかり報告しろっ!」

「決して動かなかったあのドワーフが、鉱山のドワーフたちの蜂起と共にこちらに動き出しましたっ! すでに前線部隊は壊滅状態です。おそらく、戦死者は3000名を超えましたっ!」


 その報告を受けた瞬間、若き指揮官は腰を抜かしへたり込んだ。この戦が終わった瞬間だった。それも、万を超える軍がたった1人のドワーフに敗北したのだ。


 グレシオスが非凡だったのは、この後直ぐ全軍に撤退命令を出したことだ。勝てないならばいかにして被害を抑えるか。敗戦時こそ将としての素質が問われるのである。


 一夜が明け、グレシオスがホール山の麓でバラバラに逃げてきた討伐軍をまとめた時、総兵数は8000を切っていた。


「これより、中央軍駐屯地まで退却する。糧秣についてはすでに伝令を出してある。心配するな。では進むぞ」


 明らかな負け戦だが、自分たちの駐屯地に戻ることになって安堵のため息を吐く兵士たち。それにまぎれてグレシオスも大きく息を吐いた。




 この戦いで今まで無名だったドワーフの戦士ブラフマは、S級傭兵とS級魔導師を倒し、更に王国軍を撃退した戦果を称えられ、ギルド会館から【超越者】の証であるノーランクの傭兵(戦士)として称えられることになった。


 またあらゆる矢や剣や槍を素手で弾き返すその戦いっぷりから、【鉄の腕】と呼ばれるようになる。


 彼はそのままホール山に住み着き、鉱山のドワーフたちと共に暮らすようになった。


 王国はそれ以降、ホール山に軍を送る事はなかった。


 貴重なS級の実力者を一気に複数失い面子を潰したが、たった1人で国とも喧嘩ができるブラフマを倒せる目算がどうしても立たなかったからだ。




 あれから20年。


 今もホール山に足を踏み入れる人間族は、たった1人しかいない。


 ドワーフ族から送られた首飾りの【本当】の意味を知らないその男は、年に数回、白い毛の猫人と共に山を登る。


 その手に度数のきつい酒を抱え、友に会うためにやって来るのだ。




 読んで頂き、ありがとうございました。


 2015 3/19 誤字を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。