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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
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061_ドワーフ ④

 な、何とか間に合った……。

 戦闘が開始して10分足らずで800名もの王国軍兵士は言葉を話さぬ骸と化した。ブラフマは最初に立っていた場所から一歩と動かず、ただひたすら押し寄せる兵士をなぎ払っているだけだった。


 あらゆる兵士がたった一本の戦斧バトルハンマーを受け止めることが出来ず、まさに草刈場と化していた。


「ええい、歩兵は下がれ。弓兵隊前へっ」


 前衛指揮官の言葉で即座に陣形が変化していく。この辺りは流石は王国軍の精鋭部隊と言ったところか。その間、ブラフマは構えていた戦斧を地面に落とし、様子を見守っている。


 ブラフマの前で4列横隊で整然と並んでいく弓兵隊を見ても、特に変化は無かった。


「撃てっ!」


 弓兵隊指揮官の命令と共に空を埋め尽くす飛蝗のごとく矢が降り注いでも、ブラフマは一切動じなかった。そもそも、防ぐ必要もかわす必要もブラフマにはなかったのだ。


 腕組みしたままの体に無数の矢が当たったが、一筋の傷すら付ける事はできなかった。鋼鉄に当たって弾かれたように、バラバラと弾かれ散っていく。その様子を目の当たりにし、弓兵たちの手も自然と止まった。


「どれ、儂も飛び道具とやらで攻撃してみるか」


 辺りに緊張が走るが、ドワーフは飛び道具なぞ持っていないのは明らかだ。思わず安堵のため息が漏れる。


 だが、真の強者にとって【道具】は【目的】に関係ないことを王国軍はこの場で知るのだ。


 ブラフマは戦斧を右手で掴むと、それで地面に転がっていた赤子の頭ほどの岩を宙に跳ね上げた。全ての兵士の視線が岩に集まる中、ゆっくりと落ちてくるその岩を戦斧のひらで何気・・・なく打ち抜いた。


「ごっ」

「げぇっ」

「うげえぇっ」


 その瞬間、爆散した岩は細かい破片となって王国軍へと襲い掛かった。並の兵士では何が起こったのか認識する間もなく、石くれに鋼鉄製の鎧ごと打ち抜かれバタバタと倒れていく。


 慌てた弓兵隊に所属するベテラン兵士は己の指揮官に目を向けるが、そこで見たのは頭を消し飛ばされた指揮官が崩れ落ちる姿だった。


「ひいぃぃ」


 慌てて視線を前方に向ければ、先の数倍はある大岩を宙に跳ね上げるドワーフがいた。それを見た途端、ベテラン兵士を含むほとんどの兵士が武器を捨て一目散に逃げ出した。




 八十雄たちがドワーフの集落に住み着いてから2日が過ぎていた。


 2人はテントからドワーフたちの空き家へと住処を変え、未だに巡回大工として腕を振るっていた。


 最初の頃は八十雄の後ろは男のドワーフたちがついて回っていたが、今では子供のドワーフたちが面白そうに八十雄にまとわりついている。だが、そこにバルチの姿は無かった。


 バルチはバルチで自分では八十雄の手伝いは大して出来ないことを十分知っていたので、自分の得意分野である狩りに連日繰り出していたのだ。


 20年前からホール山はドワーフたちの縄張りとなっていたこともあり、ドワーフ以外の姿はまったく無く、雄大な自然に囲まれていた。


 背が低くがっちりした体格からも分かるとおり、ドワーフ族は決して狩りが上手いとは言えない。そのため動物を狩るために罠を使用するのだが、それほど効率よく獲物は取れないのだ。


 ドワーフ族たちも生きていく為に自分で畑を耕し農作物を育てていたが、天敵がいない環境で増えすぎた野生動物たちにたびたび畑を荒らされていた。それほどの環境でうずうずとしだしたのが狩猟民族である猫人族のバルチだった。


 バルチは神護の森で小さな時から腕を磨いた凄腕のハンターである。そのキャリアは8年越える、一級線の狩人だ。


 小型のナイフを手にご機嫌な様子で森に入ってから、いくらも経たないうちに仕留めた鹿やイノシシを両手に引きずりながら集落に戻ってくるのだ。


 そして、血抜きなどの後処理は八十雄に任せ再び森に入っていくと、あっという間に新たな獲物を捕らえて戻ってくる。


 最後は八十雄に止められるまでバルチは自分のストロングポイントを存分に発揮するのだった。




「いいか、イノシシはここから刃物を入れて、こうやって、こうやって、こうやるのよ」


 ドワーフ族の奥様方に囲まれながら、八十雄は解体ショーを行っていた。


「内臓も食べれなくはないが、新鮮な奴だけにしとけよ。あっと、この辺に寄生虫がいる奴の内臓は食べないこと。そんな時は肉も良く火を通した方がいいな」


 手馴れた様子でイノシシを解体していく八十雄。バルチが狩りの熟練者であれば、八十雄は解体作業のプロフェッショナルだ。


 その手元を良く見ながら、他のイノシシの解体作業に挑んでいく奥様ドワーフたち。彼女たちも手先は起用なので、ゆっくりと丁寧な仕事で肉をばらしていく。初めてにしては悪くないと八十雄は見ていた。


「あの、八十雄さん」

「ああ、なんか分からないことでもあるのかい?」


 ふと思い出したように、1人のドワーフが作業の手を止め八十雄に顔を向けた。


「どうして、八十雄さんやバルチちゃんは私たちにこんなに良くしてくれるんだろうって不思議で……」


 それは本当に小さな一言だったが、八十雄は何故か泣きそうになった。


「そうか、そうだよな。普通はそう思うよな」


 近くの石に腰を下ろした八十雄に、全てのドワーフ族は作業の手を止め顔を向けた。


「俺は今まで自分の身の回りの狭い世界でしか生きてなかった。だから、ドワーフたちが大変な目に会っている事も知らなかったし、知ろうともしなかった。ここに来たのも、2年前に会ったゴグレグさんとの約束を守るためで、それほど深い意味は無かったんだ。俺は、約束だけは絶対守るって決めているからな」

「……」


「だから、ここに来る前に色々な人から【ホール山に行くのは止めろ】って忠告を受けたんだけどよ、深刻には考えていなかったんだ。だってよ、ドワーフたちが独立したのはもう20年も前のことだし、同じドワーフのゴグレグさんによ、行けって言われていたしな。大丈夫だろうって軽く考えていたんだ」


 ふーっ、と大きな息を吐きながら空に顔を向けた。視線の先には雲ひとつ無い青空が広がっている。


「始めて来た時は結構ビビッタよ。どんどん人が集まってきて、みんな武器を向けているんだからよ。正直、ここで死ぬとは思わなかったけど大変なところに来ちまったって思った。まあ、今回はブラフマさんとこに用事があったって分かってもらえたからみんな引いてくれたけど、俺が観光気分でここに来ていたらどうなっていたか想像するだけで怖いさ」

「……」


「ここで過去に何があったのかは聞いていた。ひでぇことをするものだって思ったけど、加害者の人間族である俺が被害者のドワーフ族のみなさんに対して絶対言っちゃいけない事だ。だってよ、そんなこと言ったらバカにしてるって事じゃねぇか。ドワーフ族がさ、耐えてきた年月や思いや色々なもんをさ、俺なんかが軽々しく口にしちゃいけないんだ」


 石から腰を上げ、お尻の汚れを払いながら、ドワーフたち1人1人を八十雄は見つめていった。


「だから俺は俺に出来る限りのことをやろうって約束したんだ。もちろん、俺のことをラントスで待っている奴も大勢いるからせめてここにいる間だけはな。だから報酬とかそう言うのは気にしなくて良いんだ。俺が俺のためにやっていることだから」

「……約束って、八十雄さんは誰と約束したんですか?」


「あー、そこ聞いちゃう?」


 ガシガシと頭をかく八十雄。これは、彼が恥ずかしく感じている時の癖だ。


「約束した相手は自分自身にだ。他人だとよ、色々な理由をつけたり言葉で誤魔化せたりするけど自分自身は騙せねぇし、誤魔化せない。だからよ、俺は絶対守る誓いを立てる時は自分自身にするんだよ。

 ……ああっ、恥ずかしいこと言わせるもんじゃないぜ」


 顔を赤く染めた八十雄は、スタスタと解体途中のイノシシに向かった。


「よーし、そろそろ休憩は終わりで良いだろう。さっさと解体を終えたら、今度は皮のなめし方と加工方法を教えてやるからな。お前らはみんな器用だから、基本だけ覚えたら自分でどんどん上達するだろうし。そうだ、午後になったらもっと良い罠の作り方も教えてやるから、旦那にも声かけといてくれよ」




 それからも、八十雄は自分が持っている知識や技術を惜しみなくさらけ出していく。また、水平器やかなざしといったこの世界ではオーバーテクノロジーな道具も好きなだけ触らせた。


 いつの間にか八十雄とドワーフ族の間にあった【壁】はずいぶんと低くなっていった。最後の夜はドワーフの男たちと焚き火を囲み、夢や将来のことについて語り合うまでになっていた。


 バルチはちびっ子や女衆に可愛がられ、明日で別れなくてはならないことを寂しがり泣き出す者まで現れた。


 バルチが捕らえた鹿肉を焼きながら、八十雄も久しぶりに飲んだ酒に心まで酔いしれるのであった。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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