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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
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039_白竜山脈

 これからも、八十雄とバルチをよろしくお願いします。

 白竜山脈。


 ランゴバルト王国と宜子皇国ことここうこくの境にある、2000メートルから3000メートルクラスの山々が連なる天然の要塞だ。その深き自然には灰色狼や、オークにゴブリンを始めとする危険な生物が多く生息している。


 また、めったに人里まで下りて来ないが、飛竜種であるワイバーンの姿も確認できる。半端な気持ちじゃ足を踏み入れることができない危険な場所だ。


 だが、白竜山脈はそれだけではない。


 高価な鉱物資源に貴重な植生。自然は豊かな恵みも与えてくれる。住み慣れたものにとっては、恵みの大地でもあるのだ。


 その山間の隘路あいろを、八十雄とバルチ、それに牝馬のモモが進んでいた。


 白竜山脈は宜子皇国の勢力圏であり、その麓までシーリーたちと旅を続けてきたのだが、別れ際にシーリーはモモを八十雄たちに託してくれたのだ。


 モモとの別れが悲しくて、最後の夜は一晩中八十雄にくっ付いて離れなかったバルチは大喜びでシーリーに抱きついた。普段はクールで通していた彼女が、首筋に抱きついてきたバルチをどうしたら良いのかプチパニックになっている。顔を真っ赤にしてオロオロしているその姿に、八十雄や他の護衛たちも声を上げて笑っていた。


 八十雄は興奮しすぎて尻尾をビンビンに振っているバルチをシーリーから引き剥がし、そのままモモに乗っけると、バルチはご機嫌に鼻歌を歌いながらモモに抱きついた。1人と1頭はこの旅の間にとても仲良しになっていたのだ。


「使徒様、白竜山脈はとても危険な場所と聞いています。本来ならば我々が護衛したいところですが、それでは皇国を刺激してしまう可能性もあります。

 本当に護衛の冒険者を雇わなくてもよろしいのでしょうか? 費用でしたらご心配なさらずとも、我々が……」

「まあ、俺の勘に何も引っかからないし、大丈夫だろ。

 仮に何かあってもバルチもいるし、何より俺たち神護の森で7年も暮らしてきた森のスペシャリストだぜ?」


「そこまで仰るのでしたら、使徒様の言葉を信じることにします。それではお気をつけて」

「おう、マリス将軍にもよろしくな。みんなもここまでありがとう。またな」


「お姉ちゃん、ありがとう。みんなもまたねー」




 道幅が狭く、険しい山道が続く白竜山脈は馬車で通過することができない。そのため交易商人はこの手前の町で足を止めてしまう。この地に王国側から入るのは、山脈で採れる貴重な資源を求める冒険者くらい。そして、その採取物は交易商人たちが買取り、王国や公国の各地に運んで売りさばく。


 そのため皇国の情報は極端に少なかった。人の交流もほとんどない未知の国を目指し、八十雄たちは険しい道を進んでいく。




「バルチー、2人きりで旅するのは久しぶりだなぁ」


 モモの手綱を引く八十雄は、先を歩くバルチに声をかけた。ここ最近は前後を護衛に囲まれての旅だったので、久々の開放感に笑みがこぼれる。


「じーじ、2人じゃないでしょ。もももいるでしょ」


 振り向いたバルチの言葉に、ブルンと鼻を鳴らしてモモは自分の存在を主張する。


「ごめん、ごめん。モモを忘れちゃいけないな。これからは2人と1頭で頑張らないと」


 うんうんと、納得したバルチが再び前を向き歩き始める。鉈を手に道を切り開くバルチはザックを背負っていなかった。この険しい道でモモにまたがる事はできなが、荷物くらいは運んでくれる。


「んー、じーじ、この先に何かいるみたい。ももと一緒にここで待っててね」

「1人で大丈夫かな、バルチ?」


「大丈夫ー、じゃ、行ってくるね」


 そう言うと両手にハンマーを握り締めたバルチは走り出した。あっという間にトップスピードになると、そのまま木の間に消えていく。八十雄は戻ってくるバルチのための準備を始めた。


 取り出すのは皮を剥ぐためのナイフたちと、武器の手入れグッズだ。まあ、刃物と違いハンマーの場合、手入れらしい手入れもほとんどないのだが。


 そうしている間に、前方から獣の吼え声が何度か聞こえてきたが、それがすぐに悲鳴に変わった。バルチが走り初めてから10分もたっていない。


「ただいまー」

「おう、お帰り」


 草むらから飛び出してきたバルチが体をプルプルふって、服や毛についた葉っぱや小枝を落としている。八十雄は落としきれないゴミを払いながらバルチの体に異常がないか確かめていくが、怪我がないようでホッとする。


「バルチ、何がいたんだい?」


 バルチのハンマーを受け取り古布で磨きながら八十雄はたずねた。


「うんとねー、おっきい狼が6匹いて、そのうち3匹倒したよ。残りはどっかに逃げちゃった」


 綺麗に磨かれたハンマーを八十雄から受け取ったバルチは、腰のホルダーに固定すると再び鉈を手にする。


「狼、凄く大きいから、バルチ、持って来れなかったよ。今からそこに行こうー」

「よーし、それじゃ案内頼むぞー」


 女神の祝福を浮けてからバルチの戦闘力は格段に向上していた。ギフトの存在を把握してから、体の動かし方がより研ぎ澄まされているようだ。


 バルチが手に入れたギフトは【身体強化】。これは俗に言う【総合ギフト】と呼ばれる物とは一味違った。


 バルチの【身体強化】は、腕力や脚力などを強化する【筋力強化】に、聴覚や嗅覚などを強化する【感覚強化】、それに、耐久力や各種耐性などを強化する【耐性強化】の効果を合わせたものだ。


【筋力強化】自体、【腕力強化】や【脚力強化】などの複合ギフトで、非常に稀なギフトである。【感覚強化】や【耐性強化】もしかり。ラントスの元ギルド会館長ドリスが持っていた【強靭】も、【耐性強化】の一部に過ぎない。


【身体強化】を手に入れたバルチは、【総合ギフト】を重ね合わせた【総合ギフト】を持っていることになる。つまり、たった一つの【身体強化】を持っているバルチは、一般的なギフト数十個を手に入れたのに等しいのだ。


 ルーシーたちと別れる前に、この山脈で一番恐ろしいのが灰色狼の群れであり、熟練の冒険者ですら命の危険があると説明を受けていたが、我らがバルチさんはその脅威を一蹴した。すでに、白竜山脈に入ってから倒した灰色狼は二桁にのぼり、モモの背中には狼の毛皮がどっさり乗っている。


 狼肉も食べられないことはないのだが、独特の臭みがあって好みが分かれる。鳥やウサギにイノシシなど、他にも食用に適した動物は多くいるし、神護の森で何年も修行を積んだバルチにとって、散歩をするのと変わらない労力で何匹でも獲物を捕まえることができるのに、無理して食べる必要はない。


 バルチが案内した先には3匹の灰色狼が横たわっていた。全て首の骨が折れており、一撃で仕留められているのがわかった。


「バルチ、ちょっと早いけど今日はこの辺で野営にしよう。モモのお世話をたのむぞ」

「はーい、ももー、すぐにお水あげるね」


 バルチがモモにくっついている間に、八十雄は狼の皮を剥ぎ始めた。手馴れた手つきで綺麗にむいていき、毛皮を取った後の中身は近くの藪に放り捨てた。


 剥いだ毛皮を近くの木に引っ掛け手を洗うと、八十雄は料理に取り掛かる。今日は最後の村で買っておいた鶏肉とチーズを火で炙り、それを軽く焼いたパンで挟んだ八十雄流ホットサンドだ。おそらくそれだけでは物足りないバルチのために、イノシシと根菜の煮物も作っておく。


 食事も終わり眠くなってきたバルチを見ながら八十雄はギギの毛皮を取り出すと、それでバルチをグルグル巻きに包み込んだ。温暖な気候の世界だが、山の中で高地にあるこの場所は日が落ちてから一気に気温が落ち冷え込んできた。


 モモは本当に賢い馬のようで、今もおとなしく休んでいる。手綱を木につないでおく必要もなさそうだ。


 かわいい寝息を聞きながら、八十雄は以前買っておいた布と丁寧に下処理をしておいたウサギの毛皮を取り出した。バルチの血縁者たちは雪原地帯で暮らしていたはずなのに、この子は結構な寒がりだ。そのバルチが風邪を引かないように、八十雄は帽子を作り始める。


 ギギの動物避け効果は健在だった。狼の遠吠えが聞こえる中、バルチは一度も目を覚まさず熟睡している。


 その隣りで八十雄は火の番を続けながら、帽子製作に精を出すのであった。




 翌日バルチが目を覚ますと、いつもは先に起きている八十雄が珍しいことにまだ眠っていた。目を擦りながら起きたバルチは、枕元にロシア帽子風のかわいい帽子が置いてあるのを発見した。帽子には切れ込みが入っていて、バルチの耳が飛び出せるようになっている。


 帽子を被ったバルチは歓声を上げそうになったが、八十雄がまだ寝ていることに気が付いて、慌てて両手で口を押さえる。


(もも、しーだよ)


 バルチの気配を感じて目を覚ましたモモに、バルチは鳴き声を挙げないように指を立て、しーっと合図を送る。それを見ていたモモもおとなしくしていた。


 バルチは帽子をしっかりと被ると自分にかけられていた毛皮を八十雄にかけてあげ、その懐で二度寝を始めた。その寝顔はとても幸せそうだった。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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