038_女神降臨
これからも、八十雄とバルチをよろしくお願いします。
ランゴバルドの大神殿。その真実の間にバルチを抱えた八十雄は立っていた。
バルチは半分眠ったままで、八十雄の首筋に顔を押し付け眠そうにしている。
八十雄の立っているその場所は真実の間の中心部だ。そこには窓にはめられたステンドガラスを通して柔らかい光が降り注いでいた。
部屋の壁際にはランゴバルト国王たるアレクシオや、王の妹、それに彼女の一人娘で国王の姪にあたる3歳の少女がいた。王族以外では、この国の神官長や大神官に、ここまで護衛してくれた護衛隊長とシーリーの姿もある。ちなみに、シーリーたちは八十雄が特別に呼んでいた。
お腹一杯で気持ち良さそうに寝ているバルチを起こすのはかわいそうだが、優しく背中をポンポン叩き、覚醒を促した。
「バルチ、バルチー。お昼寝のところごめんなー」
「……ん~、じーじぃ?」
コシコシ目を擦りながらバルチは目を覚ました。周囲をキョロキョロ見回して、自分が何処にいるのか把握しようとしているようだ。
「これからアルヴェちゃんを呼ぶから、起きられるかな?」
「えっ!? あるちゃんここに来るの?」
八十雄の一言で、ウトウトしていたバルチは一気に目を覚ました。
「バルチ、あるちゃんに会うの、楽しみかも」
待ちきれなくなったのか、いつもより強い力でバルチは八十雄に抱きついた。
「よーし、それじゃ今からアルヴェちゃんを呼ぶぞ」
バルチを左手一本で抱えなおし、右手を握り締めると天に突き上げる。
「カモオォォンッ!!!」
その瞬間、辺りは清浄な空気に包まれた。
部屋一杯に舞い散る光の粒子の中で、女神様が厳かに降臨したのだ。
アレクシオの目の前で光の欠片が集まって、1人の女性を形どった。光が徐々に弱まると、1人の女性が現れた。
瞳は碧眼でほのかに輝くロングの金髪をしており、その身は神々しい装束に包まれている。
一目で神気に圧倒され、自然と膝を折っていた。見渡せばアレクシオを含む全ての王国人は膝を付き、涙をこぼしている。
この機会を用意してくれた使徒様には感謝の言葉もない。流れる涙もそのままに、アレクシオは祈りを捧げた。
「あるちゃんっ!」
八十雄の腕からジャンプしたバルチが、アルヴェの胸元に吸い込まれていく。
「バルちゃんっ! 久しぶりっ」
ポフッと、バルチを胸で受け止めたアルヴェが嬉しそうに笑っている。バルチもいつものようにアルヴェの首筋にくっ付いて楽しそうに笑っていた。
「あらあら、バルちゃん、ちょっと重くなったかしら」
「んー? あるちゃんもおっぱい大きくなった?」
アルヴェは何もない空間に光る椅子を作り出すと、そこにバルチを抱えたまま腰掛けた。バルチはその手でアルヴェの胸をモニモニと触っている。
ランゴバルドの国民全員が跪き涙を流す中、アルヴェとバルチは失われた時を取り戻すかのようにスキンシップをとっている。
……八十雄の目から見て、王国側とアルヴェ側の温度差は凄まじかった。
「よう、アルヴェちゃん。元気だったか」
「お久しぶりですねぇ、八十雄さん。私は元気でしたよっ」
小さくガッツポーズとるアルヴェ。だが、その姿は……。
「あれお前、背がでかくなってない? 胸も、そのなんか……」
「フッフッフッ。八十雄さん効果で私のランクが上がり、そのおかげで成長したのですっ!」
7年前には少女の面影を色濃く残していたアルヴェが、今では成熟した1人の女性になっていた。
「今では私の管理者ランクも、63柱中、54柱まで上がったんですから」
エッヘンと胸を張るアルヴェ。姿形は変わってしまったが、その本質は昔となんら変わらないようだ。バルチも久々のアルヴェに甘えて離れない。
「今日はアルヴェちゃんにお願いがあったんだけどさ。バルチに祝福を授けて欲しいんだ。ずっと旅してたからまだ受けてないんだよね」
「なるほど、分かりました。お安い御用です。それではバルちゃん、ここに立ってもらえますか?」
「はーい」
バルチはアルヴェの言うとおり、真実の間の中央部に立った。その正面にアルヴェが立ち、先ほどとは打って変わり真面目な顔をしている。
本来であれば神殿に所属する神官が祝詞を唱え女神から祝福を受けるのだが、その女神本人が儀式を行うなど前代未聞である。
「ではバルちゃん、目を閉じて楽にしてくださいね」
「うん」
バルチは心持ち上向きになり目をつぶる。アルヴェはバルチの額に手をかざし、ただ一言『祝福を』と唱えた。
注目が集まる中、バルチの体は柔らかい光に包まれる。これは、ギフトが発現した証だ。
「バルちゃん、おめでとう。ギフトを手に入れたようですよ」
「んー? それって凄いのかな?」
神殿のことを理解しているか怪しいバルチは、何が起こっているのか良く分からないようだ。
「そうですね、バルちゃんが手に入れたギフトは【身体強化】。それも、かなり効果が高そうです。
これは、八十雄さんを守るのに大きな力となるでしょう」
「わー、やったー」
アルヴェの言葉を聞いたバルチは、嬉しそうに飛び跳ねていた。
「女神様、よろしければ、お1つお聞かせ下さい」
この国の神官長が額を地面に擦りつけながら、口を開いた。
「女神様は、自在に【ギフト】を授けることができるのでしょうか。もしそうであれば、どうした判断基準でギフトは授けられるのでしょうか」
「あー、それね。確かに勘違いしそうだけどよ、ギフトとアルヴェちゃんは関係ないぜ」
「それは真でございますか、使徒様」
「ああ、間違いねぇ。ギフトはアルヴェちゃんが授けるんじゃなくて、この世界から与えられてるはずだ。
アルヴェちゃんだったら追加でギフトを与えることができるかもしれねぇが、そんなことはしねぇよ」
アルヴェも微笑んでいる。
「その通りです。わたくしは誰でも平等に見守っています。誰かを特別扱いしたりはしませんよ」
「これは失礼致しました」
神官長は恐縮した様子で壁際まで下がっていった。
「そうだ、アルヴェちゃん。この人がランゴバルトの王様でアレクシオって言うんだけど、ご先祖様が使徒だったらしくてさ、分かる?」
八十雄は未だに膝をついたままのアレクシオの手を引き立たせると、アルヴェの前まで連れて行く。当のアレクシオは緊張で首まで真っ赤になっており、まともに視線を合わせることもできない。
「はい、ガブリオレさんのことですね。ちゃんと覚えていますよ。
ガブリオレさんは平和な国を作ろうと頑張っていました。今のランゴバルト王国は多くの戦でたくさんの血を流していますね。とても残念なことですが」
「女神様、それは……」
「でも、どうするかは地上に住む貴方たちが決めることです。ですが、わたしはいつでも見守っていますよ」
「はい。肝に銘じておきます」
アルヴェはニッコリ笑いながら、小さく頷いた。
「八十雄さん、わたしはそろそろ帰ろうと思います。また、ラントスでお会いできるのを楽しみにしていますよ。
バルちゃんの元気な顔も見れましたし、安心して戻れます」
「そうか。急に呼んじまって悪かったな」
(ずいぶんとお澄ましモードだけど、どうしたんだ?)
(わたしにも、イメージというものがあるんですよ)
バルチをアルヴェから受け取る時に小声でそっと尋ねたら、思っていたより現実的な答えが帰ってきた。
「バルチ、アルヴェちゃんとお別れだ。でも、またすぐに会えるからな」
「あるちゃん、またね。バルチのこと忘れないでね」
再開してすぐの別れにバルチも寂しそうで、八十雄の体にしがみついて離れない。
微笑みながら宙に昇っていくアルヴェは天井付近で光の粒子に変わると、一瞬部屋の中を照らし静かに消えていった。
「使徒様、大変貴重な経験をありがとうございました。このアレクシオ、女神様の言葉をしっかりと心に刻み、精進いたします」
「こちらこそ世話になったな。王国から攻め込まない限り公国は攻めてこないから、それだけは安心してくれ」
城門の前でアレクシオと八十雄は握手をする。
「バルチもね、あるちゃんと久しぶりに会えて嬉しかったよ。でもね、ご飯はおしゃべりしたり、もっと楽しく食べた方がいいと思うな」
「これは小さな聖女様。ご忠告、ありがとうございます」
うんうんと、偉そうに頷いているバルチを掴みモモの背中に乗せ、八十雄もモモにまたがった。
「それでは2年後、今度はラントスでな」
見送りの人たちに手を振りながら、八十雄は城外で待つシーリーたちと合流した。
八十雄はアレクシオに頼み、宜子皇国までの護衛をシーリーを含む30騎まで減らしてもらったのだ。
残る三大国はあと1つ。
モモの上のバルチはご機嫌だった。
読んで頂き、ありがとうございました。
2015 2/7 下記の通り修正を実施
祖先 → 先祖
使途 → 使徒




