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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第二章 放浪編
30/123

025_戦士の儀式 -3-

戦士の儀式シリーズ完結です。

 女神の祭壇が設置された中央広場で、八十雄は狼煙のろしが上がるのを待っていた。


 戦士の儀式は挑戦者と立会人の2人組みで行われ、獲物であるギギを挑戦者が1人で狩れば、成功となる。


 八十雄の周りには約40人の猫人の戦士が集まっていた。彼らは狼煙が上がり次第、その場所にそりを引き、駆けつける役割を請け負っている。そのそりにギギを乗せるのか、挑戦者を乗せるのかは、現場に着くまで誰にも分からない。


 八十雄はいてもたってもいられず、少しでも情報がないかと広場まで来て、落ち着きなく歩き回っていた。


 周りの猫人たちも口には出さないが、うっとおしそうにしている。


『おい、八十雄。少しは落ち着け』


 見かねたアリスが声をかけた。


『バルチについているのは族長だ。そうそう事故は起こらないだろう』

『おいおいおい、そうそうってことは、稀にはそういう事も起きるってことじゃないのか?』


『……まあ、そうだな』

『あー、どうしよう。バルチが怪我したらどうしよう。

 なあ、アリス。俺どうしたら良い? 今すぐ助けに向かった方が良いかな』


『今すぐ口を閉じて、座ったら良いと思うぞ』

『あー、くそ。どうすりゃ良いんだ、俺は……』


 あ゛~と、言葉にならない声を上げながら、地面の上を転がり出す八十雄。付き合いのあるアリス一家も流石に相手をしきれなくなって、見て見ぬふりを始めた。


 太陽は天高く昇り、昼食の時間が迫っていることを知らせる。


 広場の猫人たちは、各々持ち込んだ食料を食べ始めた。いつ狼煙が上がるか分からないため、食事もこの場で行うのだ。


 当然、八十雄に食欲は沸かず、狼煙が上がるであろう方向を眺め続けていた。メリスが気を使い差し出したナトの団子も、一口かじっただけで、まったく食が進まない。


『私は心配していない。大丈夫だ』


 トリスが団子を口にしながら、そうつぶやいた。


『あの子は判断力もあるし、頭も良い。無理だと思ったら引き下がるだけの勇気もある。

 大丈夫だ。事故はおこらない』

『本当に、ほんと~に、大丈夫かな?』


『無論だ。バルチに直接手ほどきをしていたのは母様かあさまだぞ。間違いが起こるはずはない』

『えぇっ、アリスに面倒見てもらってたの?』


『ああ、バルチの修行が終わり、私の時間が空いていた時に、少し見ていただけだ。

 理解力も高く、教え甲斐のある良い生徒だった。少なくとも、私の2人の娘より才能はある。

 お前も自分の娘を信じて、少しは落ち着いたらどうだ』

『そう言われると返す言葉もないけどさ、理屈じゃないんだよ』


 握っているナトの団子を無理矢理飲み込んだが、味はまったくしなかった。


『バルチは俺のすべてなんだ。怖い思いをしていないか、痛い思いをしていないか。そう思っただけでいても立ってもいられねぇ。

 あーーっ、何か心配になってきたっ! バールチーッ!!!!』




 初めての狼煙が昇ったのは、それから約30分後だった。木々の間から昇る白いすじを八十雄が発見したのだ。


『何か出たぞ』と声を上げると、広場にいた猫人の1人が近くの大木に凄い勢いで登っていく。直ぐに木の上から甲高い笛の音が鳴り響いた。


 それを合図に猫人たちは動き出す。グループの中から5人がそりを引きながら狼煙の上がった地点目指して走り出したのだ。


 アリスたちの出番はまだのようで、落ち着いていた。


『ここから狼煙までは1時間もかからないが、ギギをそりで引くとしたら、帰ってくるまで4時間はかかる』

『4時間……』


『儀式の最中はろくに食事も取れない。あの大喰らいのバルチも腹をすかせて帰ってくるだろうな』

『っ!? アリス、悪い。ちょっと用事ができたから、俺、行くな』


『ああ、何か分かったら連絡してやる』


 じゃあな、と声を上げながら走り去っていく八十雄の後姿に、ため息がでた。


『あいかわらず、騒がしい男ですね。母様』

『そうだな。面白い男だ』




 畑へとダッシュで向かった八十雄は、作業をしている知人にあいさつもそぞろで、畑へと入って行く。どうせなら今まで食べたことがない料理を食べさせてあげたい。


(問題は調味料なんだよな……)


 野菜や小麦はエンヤ婆さんたちのおかげで解決できた。猫人たちの村には立派な畑ができており、野良作業に興味を持つ猫人も多く、見通しは明るい。


 また神護の森は地力ちりょくが優れ、何を植えても見事な野菜が育つのだ。


(受け入れられるか分からんが、あれでも作ってみるか)


 腕まくりした八十雄は、目的の野菜を掘り始めた。




 長老から大なべを2つ借り受けた八十雄は、大量の野菜とともに女神の広場に戻ってきた。持っていた大なべをかまどに置くと、近くの井戸で水を汲み始めた。何度か往復しているうちに、トリスとメリスが手伝いを申し出た。


『おー、それじゃそれぞれの鍋に半分くらいまで水を入れてくれ。あと、かまどに火をつけてくれると助かる』

『わかった。他にはないのか』


『ああ、今はそれだけで十分だ。ありがとうな』


 2つの鍋の中に、干しキノコや鹿の燻製肉、魚の燻製を投入し出汁をとる。それに塩と魚醤を入れて味付けは完了だ。


 八十雄は持ち込んだ野菜の皮を剥き、適当な大きさに切ると、ドンドン鍋の中に投入していく。芋やかぼちゃ、にんじんに大根。それに、鳥や獣の肉も一口大に切って入れていく。それだけだと面白くないので、鶏肉を叩いて作った肉団子も大量に投入する。


 湯が沸騰しないように火の勢いを弱めつつ、サケマスやザリも最後に投入する。


 後は火の具合を確認しながら、灰汁あくを取り除いてやれば良い。猫人たちには【灰汁あく】という概念がない為、それは八十雄にしかできない。


 一段落着いたところでうどんうちを開始する。取り出したのは、八十雄の畑で取れた小麦を、これまた自作の石臼でった物だ。塩と水を適当に加えながらこねていく。一玉終えたら、もう一玉。更に追加でもう一玉。


 広場中の猫人たちが見詰める中、ひたすらうどんをこね続ける八十雄。さすがに、うどん玉が10個を越えると声をかける者がいた。


『おい、八十雄。そんなに作ってどうするんだ? 祭りでも始めるのか?』

『儀式の挑戦者や立会人は、ろくに飯も食ってないんだろう? 腹空すかかして帰って来たら可哀想じゃないか。

 俺はこんなことしかできないから、せめて美味いもんでも食わしてやりたくてな。

 それに、お前達も食うだろう? 俺の故郷の料理だが、旨いと思うぜ』




 八十雄が料理を続ける間にも、次々と狼煙は昇っていった。戦士の儀式は日没で終了し、ギギを狩れなかった者は来年以降に再挑戦となる。


 八十雄も調理自体は終了し、後はうどんを茹でるだけになっていた。野菜や肉が詰まった鍋は弱火であぶられ、コトコトと音を立てていた。


 日はだいぶ傾き残り時間も少なくなったが、アリスたちを含む15名の猫人はまだ広場に残っていた。つまり、3人の挑戦者は未だにギギと戦っているか、探しているのだ。バルチは今頃何をしているのかと、青い空に思いをせた。


 その時、1人の猫人が立ち上がった。鋭い眼差しで森の中に一瞥いちべつくれると、あっという間に木に登る。


『戻ってきたぞ。ギギを引いてる』


 木の上の男が森の中を指差すと、それを合図に5名ほどの猫人が走っていく。しばらくして、そりの上に乗せられた巨大な獣を引きながら、猫人の一団が戻ってくる。その中に、白い毛並みの猫人を見つけ、八十雄も駆け出した。


 そりを引く綱を手に歩いていたバルチも、八十雄に気が付くと綱から手を離し駆け寄ってきた。


『バルチ、怪我は大丈夫? 痛い所とかない?』

『バルチ、大丈夫だよ。怪我してないよ』


 バルチを捕獲した八十雄は体中を確認し、服に破れた箇所がないことを確認すると、ふーっと大きく息を吐く。


 皮の上着は汗でしめり、ブーツはかなり痛んでいた。体に怪我はなかったが、激戦の痕がはっきりと残っていた。


『バルチねー、じーじと約束したから怪我しないように頑張った。一度も触られないで倒したっ!』

『そうか~。バルチは約束を守る良い子だな~。さすがは、じーじの自慢の娘だ』




 その後は八十雄も加わってギギを集落まで運んだ。本来であればここで解散となり、後日、それぞれの立会人から新しく戦士となった者に、戦士の証である首飾りが渡される。そうして挑戦者たちは、はれて戦士を名乗ることが許されるのだ。


 ゴトスたちもご他聞に漏れず、一度解散しようとしたのだが、それに八十雄は待ったをかけた。


『ほとんど飯も食ってないって聞いてたから、飯を用意しながら待ってたんだ』


 とたんに、くぅ~と、バルチのお腹が可愛く鳴った。汗で濡れた服を着替えてくるように言うと、凄い速さで走って行った。


 状況が飲み込めていないゴトスを座らせ、八十雄はうどんを茹で始めた。直ぐに戻ってきたバルチも、身を乗り出すように見つめている。


『よーし、完成だ。八十雄特製のうどんと寄せ鍋だ。たんと召し上がれ』

『わ~い』


 どんぶりを受け取ったバルチが歓声を上げた。




 その後、次々に戻ってくる猫人たちにも食事は振舞われた。


 今回、戦士の儀式に挑んだ若き猫人は8名。そのうち成功したのは4名で、3名は怪我を負って途中で棄権し、残りの1名はギギと会うことができなかった。幸いなことに、怪我を負った者も後遺症が残るほどではないらしい。


 八十雄が振舞った料理を食べながら、挑戦が成功した者は喜び、失敗した者は涙を流していた。感情を余り表に出さない猫人族が泣く姿を見て、八十雄もこの儀式にかける若き猫人たちの気概に心を打たれ、思わず、もらい泣きをしてしまった。


 立会人を勤めた戦士たちはどこが良かったか、また悪かったかを具体例を挙げながら説明した。他の戦士たちも積極的にアドバイスを与えた。挑戦に失敗した者も、成功した者も、真剣に話を聞いていた。そして、来年以降の戦士の儀式で大きな力にするのだ。




 戦士の儀式の当日、集落に残った者で料理を作り挑戦者たちを労わるようになるのは、これが始まりだった。


 宴会には儀式の参加者や協力者だけでなく、戦士を目指す若き猫人たちも参加できるようになり、生きたアドバイスを聞けるようになったのだ。それが戦士の質を高め、来年以降、戦士を目指す若き猫人たちの血肉となるのだった。




読んで頂き、ありがとうございました。

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