第27話:不正アクセス検知(アラート)と、システム管理者の侵入
第7話と第10話に☆が付きました!!
頂いた挿絵ありのマークとなります。
「……すごい。火の揺らぎも、風の指向性も……すべてがディスプレイの上の数値とプロセスの配分通りに変化していく……ッ!」
観測拠点の検証スペース。
エリシアは新アセット──炭素繊維調のフレームに多面体クリスタルが組み込まれたデバッグデバイスを構え、感動に肩を震わせていた。
彼女が軽く指先を滑らせ、思考のパラメータを「祈りの文脈(APIヘッダ)」から「主観の補強」へと動的に傾けるだけで、一切の詠唱を挟むことなく、空間に極めて高密度な火炎の球体や、澄み切った風の刃がノータイムで描画される。
「精霊への長大な懇願など……最初から不要だったのですね。ジェイ様が示されたのは、世界に満ちる理そのものをダイレクトに書き換える『神の言語』……! あなた様は、精霊をも従える理の超越者……ッ!」
「いや、だから違いますって。単に無駄なヘッダを削ってダイレクトにAPI叩いてるだけですから」
俺──ジェイ・ロンこと黒木勉は、ホログラムモニターの前でハァと深いため息をついた。
(だめだ……完全に『神の威光を授ける絶対の賢者様』みたいなフィルターで固定化されてる……!!)
脳内で大学生時代にノートへ書き殴った黒歴史(中二病設定)が鮮烈にフラッシュバックし、胃のあたりがキュッとなるような激しい恥ずかしさに悶絶する。
俺はただ、彼女の魔法構築に潜んでいた冗長な処理をリファクタリングし、手元の『凡者の小道具』でキャッシュ機能を組み込んだインターフェースをビルドして渡しただけなのだ。
「あーあ☆ ジェイくん、またお姉さんに崇拝されちゃって顔真っ赤じゃんー☆」
部屋の隅のソファで、ルリがポテトチップスをパリパリと貪りながら茶々を入れてくる。
「異世界の住人なんて、大雑把な社会的常識を同期してるだけの低レイヤーな存在なんだからさー☆ 直接プロトコルをルート書き換えされたら、そりゃ『神の奇跡』にしか見えないってー☆」
「ルリ、お前は少し黙ってスナックを食ってろ。……さて、エリシアさん、各種属性のパラメータ応答速度のログは取れたので、今日のデバッグは──」
俺が言葉を締めくくろうとした、その瞬間だった。
──ピィィィィィン!! ガガガガガガッ!!
観測拠点の空間全体に、これまで聞いたこともない甲高い警告音が激しく響き渡った。
「なっ……!?」
デスク周辺に浮かんでいた幾何学模様のホログラムモニター群が、一瞬にして禍々しい深紅へと染め上がる。
視界を埋め尽くす大量の朱色のテキストログ。
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`[FATAL_SECURITY_ALERT] External System Interrupt Detected.`
`[WARNING] Unregistered Root Protocol Patch Applied in Node: Elysia_Lilac`
`[CRITICAL] Physical Constant Desynchronization in Local Instance.`
「な、なんですかこの赤き光は……!? 敵の襲撃……ッ!?」
エリシアが新アセットを構え、蒼白な顔で周囲を警戒する。
俺は即座に光のキーボードを連打し、割り込み信号(INT)のスタックトレースを追いかけた。
「外部からの高レベル割り込みコマンド……!? バカな、この観測拠点は完全にローカルのプライベートネットワークとして隔離(サンドボックス化)していたはずだぞ! 一体どこからアクセス権限を通過して……!?」
冷や汗が背中を伝う。
本番環境に影響を与えないよう、徹底的に安全第一で構築したはずの検証環境だ。そこへ、セキュリティの壁をまるで存在しないかのように突き破って入力されてくる圧倒的な『上位権限』のログ。
「あー……ジェイくん☆」
それまで呑気にコーラを飲んでいたルリが、ストローを鳴らすのをやめ、珍しく真顔──どこか「あーあ、ついに来ちゃったか」と言いたげなジト目で画面を見上げていた。
「ルリ! お前、このログの送信元が分かるか!? ファイアウォールを貫通してきてるぞ!」
「いやー、だって貫通するに決まってるじゃんー☆」
ルリはポテトチップスの袋をテーブルに置くと、髪をファサと揺らして肩をすくめた。
「だってそれ、世界のメインサーバー……いわゆる『創世の女神様』のトップ管理者アカウントからのセキュリティ監査だもん☆」
「……は?」
「ジェイくんがさー、異世界人(エリシアお姉さん)のバイナリに直接アクセスして、無詠唱化とか動的スロットリングとかの『未登録チートパッチ』をローカルで当てちゃったでしょー?☆」
ルリは朱色に明滅する画面を指差し、呆れたように告げた。
「この世界の物理エンジンって、社会的コンセンサスで動作してるのね☆ なのに、レガシーなプロトコル(祈り)を完全に無視して直接APIを叩くノードが誕生しちゃったから、世界システムのセキュリティ監理局が『悪質なコード改ざん(チート行為)』として検知しちゃったの☆ で、直々にガサ入れ(緊急監査)に来るっぽいよー☆」
「運営の……突撃ガサ入れだと……!?」
俺は激しい頭痛と胃痛に頭を押さえた。
ただの魔法構造の解析と、効率的なリファクタリングを行っただけだぞ!? なぜそれが「世界システムに対するチートパッチの不正適用」として運営監査まで発展するんだ!!
「くっ……! 応答コードを送信してアクセスを拒否──」
「無駄無駄ー☆ 相手はこの世界のルーツを作ったオリジナルの管理者なんだから、アクセス拒否のポート自体を強制開放してくるよー☆」
ルリの言葉が終わるより早く──。
ギギギ……ッ、ズズズズズ……!!
観測拠点の空間中央、強化ガラス調デスクの真上の空間が、強烈な物理的圧力を受けて激しく歪み始めた。
大気が軋み、光が折れ曲がる。
幾何学的な四角形に切り取られた空間の亀裂から、見たこともない極彩色の光(高密度なシステム管理者権限の干渉光)が溢れ出し、部屋全体の魔素密度が跳ね上がる。
「つ、強い……ッ!! なんという高絶で尊き神威……ッ!!」
その圧力を肌で感じ取ったエリシアは、全身をガタガタと震わせ、耐えきれずにその場に両膝をついた。
「あ、あり得ません……! この空間を包む圧倒的な理の威圧……! 間違いありません……創世の神話に謳われる、世界の創造主……『女神様』のご降臨です……ッ!!」
エリシアは新アセットを床に置き、祈るように額を床へ擦り付けて平伏した。
(嘘だろ……マジで降りてくるのかよ……!?)
俺は冷や汗を流しながら、歪み続ける次元断裂の光を仰ぎ見た。
光の亀裂がゆっくりと広がり、その中心から、あまりにも圧倒的な存在感を放つ「人型のシルエット」が静かに姿を現そうとしている。
本番環境(この世界)のトップ管理者──「女神」。
ローカル環境でチートまがいの最適化パッチ(ルート書き換え)を回していた個人デバッガー(俺)の元へ、ついに世界の運用運営からの「緊急監査」が牙を剥く。
「はぁ……頼むから、BAN(存在消去)のアカウント停止処分だけは勘弁してくれよ……」
俺は激しい胃の痛みに耐えながら、光の中から降り立ちつつある「管理者」の姿を、固唾をのんで見つめるのだった。




