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迷い子たちの冒険  作者: やす。


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第一話 迷い子の堕天

 ここは、インド洋の外れ。クリスマス島近海に造成された人工島、アンカー・アイランド。空へと伸びる軌道エレベーター「天梯」を、地球に“固定する”ためだけに造られたこの島は、観光地でもなければ、楽園でもない。

国家と企業の思惑、技術者たちの労働、そして巨大構造物の維持管理という、極めて現実的な理由のために存在している。

 海とコンクリートと鋼材に囲まれたこの場所に、天梯関連の技術者として招聘され、現在の八木太一と中島退助は暮らしていた。

 当初は太一のみが、単身で中核技術者として赴く事で、内示が出たのだが、「いまさら離れて暮らすのは偲び無い。」と、退助が宇宙開発機構に「俺にもなんか仕事無いか?」と、直談判した事で二人揃って、この島へとやって来る事になった。

 開発機構も最初は、木星圏の英雄としての働きのある彼に対して、「天梯」関連公団の上級ポストを用意したのだが、「椅子に座ってるだけは性に合わん。」との本人の意思で、退助の処遇は島と天梯基部を繋ぐ、乗合通勤ヘリのパイロットという事に、落ち着いた。「とにかく空を飛べる。」と、本人もこの仕事を、いたくお気に入りのご様子だ。

 太一も、そんな退助の気持ちを、喜びと共に素直に受け入れ、二人は赤道直下のこの地で、穏やかな「第三の人生」をスタートさせる事になった。



1. 


 播種船団が地球圏を離れてから、三か月が過ぎていた。街はもう、その話題を口にしなくなっている。ニュースも、特集も、熱狂も、すべて次の出来事に上書きされ、人類が恒星間へと種を撒いたという事実だけが、静かに記録の中へ収まっていた。

 宗像 (みなと)がそのニュースを、アーカイブで何度も見返していた頃。津崎 (わたる)が「もう見飽きた。」と笑っていた頃。

 その当事者であるはずの二人は、驚くほど穏やかな日常を送っていた。真新しいコンドミニアムの一室。高層階の窓を開ければ、赤道直下の風が強く入り込む。

 ある日曜日の午前中、太一は小さな卓上端末を分解して、黙々と配線をいじっている。退助はキッチンで湯を沸かしながら、背中越しに言った。

「まだ直らないのか、それ?」

「直ってる。直ってるが、気に入らんだけだ。」

「十分だろ、それで。」

 湯気が立ちのぼる。二人の会話は短く、緩く、そして長年の癖のように自然だった。

 もう命を狙われる理由もない。もう追われることもない。もう守るべき船団も、地球圏の外へ消えている。本当に、すべてが終わったはずだった。

 太一の手が、ふと止まる。窓の外へ視線を向けたまま、言った。

「……なあ。」

「ん?」

「さっきから、同じドローンが三回、上空を横切ってる。」

退助は、急須に湯を注ぐ手を止めない。

「この辺、配送ルートだろ?」

「配送ドローンは、あんな高度で旋回しない。」

 少しの沈黙の後、退助は湯呑みを二つ持って振り返り、窓の外を一瞥した。それだけで、表情がわずかに変わる。

「ログ取れるか?」

「もう取ってる。」

 太一の指が端末の表面を滑る。ホログラムに、飛行ログが浮かび上がる。退助は無言で湯呑みをテーブルに置いた。

 ログを見た瞬間、二人の間に、あの空気が戻る。現場の空気。命のやり取りをしていた頃の、張り詰めた静けさ。

 退助が言う。

「民間機の識別信号だが…偽装だな。」

太一は小さく息を吐いた。

「……まだ、終わってなかったみたいだな。」

退助が苦笑する。

「やれやれ。やっと手放せたと思ったのにな。」

 その時、太一の個人端末が震えた。


着信表示 発信元:宇宙開発機構保安部。


二人は顔を見合わせる。退助が呟く。

「来るぞ。」

太一は通話を開いた。ホログラムに、まだ若い男の顔が映し出される。緊張で表情が硬い。

『宗像 (みなと)と申します。宇宙開発機構保安部所属です。現在、津崎 (わたる)と共に、そちらへ向かっています』

太一は何も言わない。湊は続ける。

『護衛任務です。事情は、対面で説明します。』

 太一は、わずかに口の端を上げた。

「護衛?」

退助が肩をすくめる。

「逆だろうな。」

太一は端末に向かって言った。

「分かった。待ってる。」

 通信が切れる。窓の外では、さきほどのドローンが、もう一度だけ、静かに旋回してから、視界の外へ消えた。

 太一は低く言う。

「退助。」

「ああ。」

 二人はもう理解している。これは偶然ではない。そして、これから起きることも。

 まだ姿の見えない敵。まだ何も知らぬ若手二人。そして、水面下で動き始めている何か。静かな部屋に、張り詰めた気配だけが残っていた。

 玄関のチャイムが鳴ったのは、それから二十分後だった。退助がインターホンのモニターを覗き、短く言う。

「若いな。」

「そりゃそうだろ。」

 太一がロックを解除する。ドアが開くと、きっちりとした姿勢の二人が立っていた。スーツ姿だが、どこか軍人めいた緊張感がにじんでいる。

「宗像湊です。」

「津崎航です。」

 二人はほぼ同時に名乗った。視線は自然と、太一と退助を値踏みするように動く。伝説の当事者。そう聞いては来たが、目の前にいるのは、年齢相応の、どこにでもいそうな中年のおじさんにしか見えない。

 湊の表情に、わずかな戸惑いが浮かぶ。太一はそれを見逃さず、笑った。

「まあ、入れよ。立ち話する内容じゃないんだろ。」

 部屋に通され、四人はテーブルを囲む。湊が端末を展開し、ホログラムを立ち上げた。表示されたのは、地球赤道上空に伸びる、一本の細い線。

「軌道エレベーター《天梯》です。」

退助が、低く口笛を吹く。

「なるほどな。」

湊は続ける。

「三日前、《原生圏》による声明がありました。天梯を“人類による宇宙侵略の象徴”と断定し、破壊を示唆しています。」

航が横から補足する。

「具体的な手段は不明ですが、内部からの協力者がいる可能性が高いと。」

太一の視線が、わずかに鋭くなる。

「内通者か。」

「はい。そして…。」

湊が一瞬だけ言葉を選ぶ。

「播種船団妨害工作の真の阻止者が、お二人であるという情報が、原生圏側に漏れている可能性が高い。」

退助が笑った。

「やっぱり俺たちか。」

湊は真顔で頷く。

「彼らにとって、お二人は邪魔な存在です。天梯への工作の前に、排除対象になると判断されました。よって、本日付けで我々が護衛任務に。」

その瞬間だった。

退助の視線が、ふと窓の外に向く。遠くのビルの屋上に、不自然な光の反射を見つける。

「伏せろ!!」

反射的に叫ぶ。

 次の瞬間、窓ガラスが内側へ弾け飛んだ。衝撃波。耳をつんざく破裂音。テーブルが横倒しになり、ホログラムが乱れる。

 湊は何が起きたか理解するより先に、床に押しつけられていた。太一に抱き抱えられ、庇われていたのだと気づくのに、数瞬ほどの時間が過ぎる。航は咄嗟に壁際へ転がり、拳銃を抜いている。

 退助は、すでに窓の外を見ていた。煙の向こう、向かいのビルの屋上。

「狙撃だ。非致死性だが、当たると大ケガだな。」

ガラス片が床に散らばる。

湊は息を詰めたまま言う。

「な、なぜ分かったんですか?」

退助が短く答える。

「音だ。爆ぜ方が違う。」

航が無線を開こうとする。

「支援を…。」

「いらん。」

太一がやんわりと言い切る。

「今のは、挨拶だ。本気で殺すつもりなら、最初の一発は頭に来る。」

 湊は、まだ事態を飲み込めていない。だが、目の前の二人は、まるで昔の現場に戻ったかのように、冷静に状況を分析している。

 太一が振り返る。

「宗像!」

「は、はい。」

「これで分かっただろ。護衛なんて、意味がない。」

退助が笑う。

「逆だ。お前らが、俺たちに付いてこい。」

 航の口元が、わずかに上がる。湊だけが、言葉を失っていた。伝説は誇張だと思っていた。マスコミが作った偶像だと信じていた。

 だが今、目の前で起きたことは、理屈では説明がつかない。この二人は、襲撃の前に気づき、襲撃の最中に判断し、襲撃の後にはもう次の手を考えている。

 退助が言う。

「太一、ログは?」

「取れてる。発射位置も割れてる」

「よし。行くぞ。」

湊が顔を上げる。

「どこへ?」

太一は当然のように答えた。

「挨拶を返しにな。」


2.


 保安部の車両は無駄な音を立てず、市街地を抜けていった。割れた窓ガラスの処理もそこそこに、四人はすぐに移動していた。襲撃のログはすでに保安部へ送信されている。後部座席で、湊は何度も太一の横顔を盗み見ていた。

 あの爆発の直前。この人は、確実に“気づいていた”。理屈では説明がつかない何かを、目の前で見せられた気がしている。

 運転席の航は助手席の退助と、もうすっかり打ち解けた様子で話している。

「さっきの、音で分かるって、どういう理屈なんです?」

「理屈じゃない。経験だ。」

「それ、いちばん困るやつですよ。」

退助が笑う。湊だけが、まだ飲み込めずにいた。

 やがて車両は、宇宙開発機構保安部の施設へ滑り込む。厳重なセキュリティを抜け、通されたのは上層階の会議室だった。

 扉が開いた瞬間、太一の足が止まる。中に立っていた男が、一礼して二人を迎え入れ、次の瞬間、破顔する。

「八木先輩! 中島先輩!」

その声に、太一の表情が一気に緩んだ。

「……高槻か?」

「ご無沙汰しています。何年振りになりますか。」

歩み寄ってくる男は、湊と航が見慣れている上司の顔とはまるで違っていた。どこか、年若い頃の面影がにじむ。

 退助が肩を叩く。

「偉くなったな、お前!」

「やめてくださいよ。お二人の前じゃ、いつまでもあの頃のままです。」

 湊は、目の前の光景に戸惑う。厳格で、冷静で、無駄のない判断をする上司。それが、こんなにも砕けた笑顔を見せるとは思わなかった。

 高槻が言う。

「種子島の訓練施設で、ずっと後ろを追いかけてましたから。」

その言葉に、太一が懐かしそうに目を細める。

「よく怒られてたな。」

「お二人にですよ!」

笑いが起きる。室内の空気が、一気に和む。

 湊は、その様子を見ながら思う。この人たちは、本当に伝説の当事者なのだろうか。ただの旧知の先輩後輩にしか見えない。

 高槻は表情を切り替え、端末を展開した。

「ですが、再会を喜んでばかりもいられません。」

ホログラムに、《天梯》の全体図が浮かび上がる。

「原生圏の動きが、想定より早い。内部にも、協力者がいる可能性が高い。」

太一と退助は、同時に画面を見る。

 湊と航は、その横顔を見た。さきほどの笑顔が、もう消えている。現場の顔だ、と湊は思った。

 高槻が続ける。

「お二人には、しばらく保安部の管理下に入っていただきます。ここが一番安全です。」

太一は、軽くうなずいた。疑いもなく。かつての後輩を、心から信頼したまま。


3.


 保安部のブリーフィング室は、外界から切り離されたような静けさに満ちていた。厚い遮音壁に囲まれた空間に、ホログラム投影装置の低い駆動音だけが響いている。 そこに並ぶのは、保安部の調査員たちと、太一、退助、湊、航の四人だった。中央には、赤道上空へ伸びる一本の線。軌道エレベーター《天梯》。それを取り囲むように、複数の警告マーカーが点滅している。

「これが現在の状況です。」

調査主任の声は淡々としていた。

「三日前、過激派環境保護団体《原生圏》による声明が、ネット上で確認されました。内容は天梯の破壊。さらに内部協力者の存在が濃厚です。」

 室内の空気が、わずかに重くなる。湊は眉をひそめ、航はホログラムを見つめたまま黙っていた。

 主任は続ける。

「そして、その原生圏によって仕組まれた、播種船団妨害工作における実働阻止者として、お二人…八木氏、中島氏のご両名が、原生圏側に特定された可能性が高い。」

一瞬、視線が二人に集まる。太一は腕を組んだまま、特に動じた様子もない。退助は小さく鼻で笑った。

「やっぱり俺たちか。」

その軽さに、湊は思わず口を開く。

「……お二人が前に出る必要はありません。これは保安部の任務です。」

太一は、湊を見る。

「お前らだけで止められると思うか?」

即答はなかった。航が口を挟む。

「ですが、現役復帰なんて前例は…。」

「前例がなきゃ動かないのか?」

退助の声は静かだったが、部屋の空気を少しだけ変えた。

 主任が間に入るように言う。

「形式上は嘱託です。現場指揮は保安部が執りますが、実務判断にはお二人の助言を仰ぐ形になります。」

太一は軽く頷いた。

「なら話は早い。」

退助が続ける。

「攻撃は最大の防御だ。」

「やられたら、やり返す。」

湊の表情がわずかに険しくなる。

「……危険です。相手は明確にあなた方を狙っています。」

太一は、少しだけ笑った。

「だからだろ?」

二人は自分たちの存在を誇示する事で、黒幕を誘き出そうというのだ。その一言で、議論は終わった。

「では、その方針で進めます。」

そう言ったのは、高槻だった。

ブリーフィングの端に立ち、全体を見ていた男が、静かに結論を下す。

 湊は思わず振り向く。

「部長、それは…。」

「反対意見は理解している。」

高槻は穏やかに遮った。

「でも、無理なんだよ。この人たち。」

一拍置いて、軽く笑う。

「言っても聞かない人だからなぁ。」

 その言い方は、諦めでも皮肉でもない。むしろ、どこか懐かしさを含んでいた。太一と退助は顔を見合わせる。

「ひどい言われ様だな?」

「昔からだろ。」

 室内に、わずかな笑いが流れる。湊だけが、その空気に入りきれずにいた。

「では、お二人には明日より任務に復帰していただきます。」

高槻の言葉で、会議は締められた。航は小さく息を吐く。

「…了解しました。」

 だが湊は、すぐには返事をしなかった。何かが引っかかる。理屈では説明できない、わずかな違和感。

 高槻の判断は合理的だ。太一と退助の実力を考えれば、戦力としては理にかなっている。それなのに。なぜだろう。「守るために呼ばれた」はずの任務が、「前線に戻すために用意された」ように見える。

 湊は、その違和感の正体に、まだ辿り着けない。


4.


 保安部の施設を出ると、空は薄く曇っていた。遠くに、建設途中の軌道エレベーター《天梯》の影が見える。

 航が感嘆するように言う。

「……あれが、天梯。」

退助はそれを見上げ、短く言った。

「相変わらず、でかいな。」

太一はその隣で、何も言わない。湊は二人の背中を見ながら、ふと気づく。この人たちは、もう“準備ができている”。最初から、戦う側の目をしている。そしてそのことが、なぜか少しだけ怖かった。

 四人は同じ車両に乗り込む。次に向かうのは、現場。《天梯》に関わる最初の調査地点。そしてまだ誰も知らない。この移動が、すでに“引き金の一部”であることを。

 天梯の地上基地は、想像以上に「静か」だった。巨大構造物の足元とは思えないほど、整然としていて、無機質で、そして人の気配が薄い。 空へ向かって伸びるはずの圧倒的な存在感とは裏腹に、地上部分はただの巨大な管理施設に見えた。

 四人は、現場保安責任者のオフィスに通されていた。

「ようこそ、天梯地上統括管理区画へ。」

責任者の男は、疲れた顔をしていた。それは長時間労働の疲労ではなく、「常に何かを警戒し続けている人間」の顔だった。

 ホログラムが立ち上がる。地上施設から軌道上ステーションまでの全体図。

「現在、天梯は予定通りに建設中です。ですが…。」

男は一拍置いた。

「内部アクセスログに、不可解な揺らぎが出ています。」

湊が身を乗り出す。

「揺らぎ?」

「アクセス権限の整合性が、一瞬だけ崩れる。外部侵入の痕跡は残らない。だが、確実に“誰かが触っている”。」

航が眉をひそめる。

「物理的な破壊じゃない……。」

太一はホログラムを眺めながら、ぽつりと言った。

「嫌なタイプだな。」

退助は何も言わず、視線だけを天梯のラインへ向けていた。

 責任者は続ける。

「ただし、現場では異常は確認されていません。建設作業も輸送も通常通りです。」

湊が確認する。

「では、今の段階では“予兆”のみ、と?」

「そうなります。」

五人の間に、短い沈黙が落ちる。

 退助が短く言った。

「現場を見るしかないな。」


5.


 四人は地上施設を出て、周辺区域へ向かった。天梯周辺の街は、施設労働者と技術者で構成された新興都市だ。整備された道路、規格化された建物、そしてどこか均質な人の流れ。

 航が周囲を見回しながら言う。

「情報、引き出せるんですかね、これ?」

退助は歩きながら答える。

「こういう場所は、表に出る情報は全部同じだ。」

湊が続ける。

「だから、ズレを見る?」

太一は短く頷いた。

「同じ話をしてるのに、どこか引っかかる奴がいる。」

 湊は一瞬だけ、太一の横顔を見る。理論ではなく経験で話している。それが、少しだけ癇に障る。だが同時に、正しいとも思ってしまう。

 聞き込みは地味だった。施設周辺のカフェ。輸送ドライバー。メンテナンススタッフ。誰も「怪しい人物」を見ていない。誰も「異常」を感じていない。

 それ自体が、逆に不自然だった。航が小声で言う。

「逆に、きれいすぎません?」

湊も頷く。

「監視が行き届いているのか、それとも……。」

退助が立ち止まる。

「いや。」

視線は、通りの端にある配送ドローンの整備区画に向いていた。

「ここは、綺麗すぎるんじゃなくて、“整いすぎてる”。」

太一がその言葉に軽く頷く。

「ノイズがない。」

湊は息を呑む。「ノイズがない街」という表現は、本来なら理想だ。だがこの場合、それは異常だった。

 それでも、何も起きない。影も、気配も、干渉もない。天梯はただそこにあり続ける。巨大な構造物は、何事もないように空へ伸びている。

 航が肩をすくめる。

「……これ、ほんとに何か起きてるんですか?」

湊も答えられない。太一と退助だけが、黙っていた。しばらくして、退助が言う。

「いるな。」

湊が振り向く。

「何がですか?」

太一が短く答えた。

「何もしてこない奴が、一番厄介だ。」

 その言葉の意味を、湊はまだ完全には理解できなかった。だが、胸の奥に小さな引っかかりだけが残る。見ているはずなのに、見えていない。聞いているはずなのに、聞こえていない。

 そして敵は…まだ、姿を見せないまま、そこにいた。


6.


 照明の落とされた天梯地上区画の監視室は、外界とは別の時間で動いていた。壁一面のモニターに映るのは、四人の動き。宗像湊、津崎航、八木太一、中島退助。

 彼らが歩く街路、立ち寄る店舗、交わす短い会話までが、断片的なデータとして並んでいる。その映像を見上げるように、四人の影が椅子に座っていた。

 《原生圏》の幹部たち。誰も声を荒げない。誰も焦っていない。其処にはただ、無邪気な笑みだけがあった。

「来たね。」

声が漏れる。

「これで、二人は動かなきゃいけなくなったね。」

別の影が肩をすくめる。

「宇宙開発機構も、乗せられやすいよね。」

 映像の中で、太一が立ち止まる。退助が視線を巡らせる。二人は周囲の“違和感のない違和感”に気づきかけている。

 それを見て、幹部の一人が小さく笑った。

「ホントこの二人、優秀だよね〜。でも、まだこっちが見てるって、気がついてないみたいだ。」

もう一人が端末を操作する。

「高槻くんからのデータリンクは、正常に繋がってるよ。」

その言葉に、室内の空気がわずかに変わる。

「……やっぱり、あのおじさんもアタマ良いよ。」

「あの人の中にはもう、裏切ってるって意識も無いからね。」

 誰も「洗脳」という言葉は使わない。ただ、当然のように選択された結果として扱っている。モニターの中で、四人は天梯周辺の街を歩き続けている。

 何も起きていないように見える。だが、それは彼らにとって都合の良い錯覚だった。

幹部の一人が言う。

「あの二人を先に殺せって、御前は言ってたけどね。」

別の影が首を振る。

「もったいない、あんなに可愛いおじさん、滅多に居ないよ?」

御影(みかげ)はホントに、太一くんLOVEだよねぇ。」

御影と呼ばれた影は、薄い笑みを浮かべながら、モニターに映る太一の顔を指で撫でる。

「まだ、見られてるってコトにも気づいてくれていないけど、君は念入りに壊して、ちゃんとホントの居場所にもどしてあげるからね、八木太一くん。」

そして、四人の間に沈黙が降りる。

 その言葉の意味を、誰も否定しない。モニターの中で、航が笑いながら店員と話している。湊は少し遅れて歩き、太一の背中を見ている。退助は何かに気づきかけているが、まだ確証に届かない。

幹部の一人が、静かに言った。

「情報は十分に来てるから。あとは、きっかけだけだね。」

別の影が応じる。

「天梯は完成間近だよ。使われる前に何とかしなきゃ。」

そして、最後にもう一人が呟く。

「人間はみんな同じさ。便利さだけ求めて、全部こわす。」

その言葉に、誰も異議を唱えなかった。

 天梯の足元では、四人がまだ“何も知らないまま”動いている。だがその一歩一歩は、すでに記録され、解析され、意味づけられていた。

 見えない監視網の中で、彼らは歩かされている。そして、監視している側は全てを知っている。このままでは終わらないことを。

 むしろ…ここからが、本番であることを。


7.


 天梯の周辺調査は、三日目にして明確な“壁”に突き当たっていた。情報はある。人はいる。だが、線が繋がらない。

 誰もが同じようなことを言い、同じような生活をしている。違和感はあるのに、決定的な異常が出てこない。

 航が小さく息を吐く。

「これ、もう“普通”ですよね?」

湊は即答できなかった。

 太一と退助は、そんな停滞を気にした様子もなく、淡々と街を歩いている。退助は軽く肩を回しながら言った。

「まぁ、こういうのは出る時は一気に出る。」

太一も同意するように頷く。

「まだ“表”に出る段階じゃないだけだろ。」

 湊はその言葉に、また違和感を覚える。“まだ出ない”という前提で動いている。まるで、すでに何かが動いていることを確信しているように。

 保安部の拠点に戻った四人に、高槻は穏やかに告げた。

「向こうも、様子を見ているんでしょうね。」

ホログラムの天梯を眺めながら続ける。

「八木先輩と中島先輩が動いている。それ自体が、ある種の牽制になっている可能性は高い。」

航は素直に頷く。

「確かに、今のところ大きな動きはないですしね。」

 高槻は軽く笑う。

「良い兆候ですよ。」

その言葉に、湊は一瞬だけ反応する。

“良い兆候”。

あまりにも楽観的すぎる響きだった。

 拠点の廊下を歩きながら、湊は小さく呟く。

「……本当に、そうなんだろうか?」

航が横を見る。

「何が?」

「相手が“何もしてこない”ことが、戦略だとしたら?」

航は少し考えてから答える。

「それ、考えすぎじゃないか?」

だが湊は笑わなかった。

 太一と退助は、何も言わず前を歩いている。まるで、何かが来ることを当然のように待っている背中だった。


8.


 その夜から、異変は始まった。最初は些細なものだった。街灯の下に立つ、不自然に長く動かない人影。配送ドローンの進路変更ログに残る、一瞬の空白。施設周辺の監視カメラに映る、“誰でもない人物”。どれも確証にはならない。

 だが、太一は言った。

「来てるな。」

退助も同意する。

「ああ。小さいのがな。」

湊は問い返す。

「小さい?」

太一は短く言う。

「前哨戦だ。」

 その翌日の夕方近く、四人が拠点に戻る途中だった。通りは通常通り。人も多い。異常はない。そのはずだった。

 だが、退助の足が止まる。

「太一!」

鋭い口調で呼び捨て。それだけで十分だった。

 次の瞬間、横断歩道の向こう側から走ってきた配達員が、急激に方向を変える。不自然な加速。人間の動きではない。

 航が叫ぶ。

「太一さん!」

 太一はバックステップで、突進してきた配達員を躱わす。退助が前に出る。衝突の瞬間、配達員の腕から小型の射出装置が伸びる。

 しかしそれが作動する前に、退助の手が相手の手首を押さえ込んでいた。

 乾いた音をたてて、男の関節が外れる。配達員はそのまま崩れ落ちる。周囲は一瞬ざわつくが、すぐに“事故”として処理されていく。

 湊は息を呑む。

「今のは……。」

太一は配達員を見下ろしながら言う。

「奴らの仲間だな。それにしても、この身体能力…?」

航が顔をしかめる。

「一般人に見えましたけど。」

退助が淡々と答える。

「見えるようにしてるだけだ。」

 その後も、似たような事は続いた。天梯への夜間侵入者に、偽装点検員、作業車両への無人の衝突事故、一瞬だけ通信を切る電子干渉

 だがすべての破壊工作は「未遂」で終わる。太一と退助は、淡々とその事件を処理していく。湊と航は、守っているつもりで、実際には「見せられている」側だった。

 航が報告書を見ながらぼやく。

「これ、全部……前触れなのか?」

湊は答えない。ただ一つだけ分かっていた。これは攻撃ではない。「準備」だ。

「もしかしたら、太一さんと退助さんを、削るなり挑発するなりの意図があるのかも…。」

 その夜。拠点の窓から天梯を見上げながら、太一がポツリと言う。

「そろそろ来るな。」

退助も同じ方向を見る。

「ああ。次は小手調べじゃない。」

 湊は二人の横顔を見て、ようやく気づき始める。この人たちは、守られている側ではない。ずっと前から、戦場の中心にいる。そしてその認識が固まった瞬間。物語は、次の段階へ静かに移っていく。


9.


 保安部のブリーフィングルームに、その日も四人は集められていた。壁面のホログラムには、天梯の上層部と地上区画の二系統ログが並列表示されている。どちらにも、わずかな“揺らぎ”が続いていた。

 それは明確な破壊活動ではない。だが、放置すれば確実に拡大する種類の異常だった。

「対応を分割します。」

高槻の声は、いつもと変わらず穏やかだった。

「上層系統の解析には、八木先輩と私が向かいます。内部構造を理解している人間が必要です。」

太一は軽く頷く。

「了解。」

湊がすぐに口を開く。

「待ってください、分断は危険です。」

航も続く。

「戦力を分ける理由が薄いです。再検討を…。」

だが高槻は、柔らかく遮った。

「合理的ですよ。現場の負荷分散としても。」

 一瞬の沈黙の後、太一は特に疑う様子もなく、退助の方を見る。

「地上は任せた。」

退助は短く応える。

「ああ。」

それだけで、役割は決まった。

 移動準備は驚くほど迅速だった。太一と高槻は、天梯上層への輸送モジュールへと向かう。退助、湊、航は地上調査チームとして別行動となる。

 エレベーターハブへ向かう通路で、湊は太一の背中を見ていた。何かが引っかかる。理屈ではない。だが、配置そのものが「作られている」ような違和感。それでも言葉にはならない。

 高槻が振り返る。

「では、行きましょうか。」

その笑顔には、不自然な程に迷いがなかった。

 太一と高槻は、単独の昇降モジュールに乗り込む。扉が閉じると、外界の音は一気に消えた。慣性のわずかな揺らぎだけが身体に残り、モジュールが上昇を始める。

 窓の外に、天梯の構造体がゆっくりと流れていく。高槻が自然な声で話し始めた。

「種子島の訓練施設、覚えていますか?」

太一は視線を外に向けたまま答える。

「まあな。」

「私はあの頃、まだひよっこで…。」

少し笑う。

「よく怒られてばかりでした。」

太一もわずかに口元を緩める。

「そうだったか?」

 会話は途切れない。不自然な沈黙もない。むしろ、心地いい。上昇が続く。

窓の外は、地上の景色から徐々に構造物へと変わっていく。

 高槻の声は静かだ。

「先輩は、いつも無茶をしていましたね。」

「そうか?」

「ええ。でも、その無茶で助けられた人間は多い。」

太一は答えない。

 その代わりに、少しだけ目を細める。過去の記憶が、自然に引き出されていく。懐かしさ。安心感。信頼。そのすべてが、ゆっくりと“正しいもの”として整形されていく。太一の中で、先ほど感じられた不自然さが消えていく。だがそれは、太一にとっての、過去最大の油断であった。

 その頃。退助は天梯周辺の物流区画を歩いていた。湊と航も同行している。だが、空気は明らかにおかしい。データが薄い。ログが消える。人の記憶が曖昧になる。湊が小さく呟く。

「何か……隠されてる。」

航が周囲を見回す。

「でも、誰も気づいてない……?」

退助は足を止めた。

「気づいてないんじゃない。」

短く言う。

「気づかされてないだけだ。」

湊が振り向く。

 その瞬間、退助の表情にわずかな硬さが浮かぶ。

「太一が分断されたのは、偶然じゃない。」

 上層モジュールの中。高槻は太一の横顔を見ている。その目に、迷いはない。罪悪感もない。

そこにあるのは、ただ「処理」という感覚だけだった。

(これでいい)

(最適解だ)

 思考はそれだけで完結している。彼の中に、かつて太一に抱いていたはずの敬意は、記憶としては確かに残っている。だが、感情としてはもう存在していない。

 太一がふと呟く。

「ずいぶん上がってきたな。」

高槻は微笑む。

「もう少しで到着です。」

その言葉に、何の違和感もない。

 地上では、退助が空を見上げる。天梯の中層が、雲の上へ消えていく。その向こうで、何かが進んでいる気配だけがある。

湊が言う。

「これ……本当に調査だけですか?」

退助は答えない。

ただ一言だけ。

「違うな。」

航が息を呑む。

「じゃあ何なんですか?」

退助は静かに言う。

「太一が、上に連れていかれてる。」

そしてその時は、誰もまだ気づいていない。この分断が、偶然でも判断ミスでもなく…。

 最初から、太一を誘い出す為だけに、仕組まれた罠であることに。


10.


 同時刻。地上側は通信が途絶え始めていた。湊が焦る。

「上層と繋がらない……!」

航が操作する。

「ジャミングです。外部からじゃない、内部反射……?」

 退助は空を見上げていた。静かにそびえ建つ天梯。だがその中で何かが起きている。そして、確信する。

「…太一が危ない。」

湊が振り向く。

「行くんですか?」

退助は即答する。

「急ぐぞ!」

 天梯上層階は、地上とはまるで別の静けさに包まれていた。機械の駆動音すら吸い込まれたような空間。白い照明が均一に降り注ぎ、影はほとんど生まれない。

 太一と高槻は一時的に別行動を取り、太一は端末を管制室のコンソールに接続したまま、異常ログの修復を進めていた。

「ここだな……。」

指先がホログラム上を滑る。歪んだ通信経路。意図的に隠されたアクセス痕。その背後に、もう一層「誰かの手」がある気配。

 ふと、背後から声がした。

「順調ですか?」

振り返ると、そこには天梯の現場保安責任者が居た。以前、地上施設で説明をしていた男が、そこに立っている。

 太一は軽く目を細く顰める。

「まだ途中だ。」

男は穏やかに頷いた。

「そうでしょうね。少し、負荷が大きい。」

その言葉に、太一は違和感を覚える。

「負荷?」

 男は答えない。代わりに、ゆっくりと近づいてきた。その足音は、異様なほど静かだった。

 その瞬間、付近の通路の隔壁が閉鎖される。乾いたロック音に続いて、空気圧がわずかに変わる。太一は、即座に端末から手を離した。

「……何のつもりだ?」

 返答はない。代わりに、数人の保安スタッフが管制室内に入ってくる。全員、無表情。全員、迷いがない。

 太一の目がより一層細くなる。

「そういうことか。」

男は静かに言った。

「抵抗は推奨しません。」

太一は短く息を吐いた。

「やれやれ……。」

 次の瞬間、太一は動いた。最初の一人の手首を取り、そのまま重心を崩して掴んだ手首を折る。叫び声を上げて床に倒れる音がした。二人目の接近をかわし、鳩尾に肘鉄を打ち込み制圧する。だが、数が違う。三人目が背後から拘束を試みる。

 太一は背負い投げで振り払うが、その隙に別方向から圧力がかかり、太一は遂に、床に組み伏せられてしまう。押し寄せる、経験ではない統制された動き。

 現場の技術者ではない。訓練された、別のもの。

「プロか!」

太一が呟く。

 その瞬間、細い針状のデバイスが保安主任の手に握られ太一の視界に入る。反応するよりも早く、身体が強張る。太一は反射的に身を捻るが、取り押さえられた彼の身体は動く事が出来ない。そして針は太一の首筋へと射し込まれ、薬液が注入されていく。

 視界が一瞬だけ揺れる。太一は歯を食いしばる。

「くそ……っ」

 意識は重く沈んでいくが、抵抗は続く。しかし、身体の反応速度が落ちていく。腕が重い。視界が遠い。

 最後に見えたのは、保安責任者の表情だった。そこに感情はない。ただ静かな「処理完了」の確認。

 太一の意識が途切れる直前、思考だけが残る。

(退助……)

彼の意識は暗闇へと落ちていった…。


11.


 その頃、天梯上層へのアクセス路に、退助は単独で到達していた。湊と航はまだ後方を走っている、通信は不安定でノイズが混じる。退助はその異常を「感覚」で辿っていた。

「ここだ!」

 扉のロックを解除する。その瞬間、警報が鳴る。

「頼む、間に合ってくれ。」

すでに中は「終わっている空気」だった。警報が鳴り続ける中、上層区画は異様な静けさに包まれていた。

 退助は扉を蹴破るようにして管制室へ入る。そこにあったのは、戦闘の痕跡だった。破損した通信端末。倒れた保安スタッフ。制御系統の焼き切れたパネル。そして…。

 高槻が倒れていた。壁際に崩れ落ちるようにして、動かない。退助は一瞬、足を止める。

「……おい!」

退助は高槻に近づきその身体を抱き上げる。呼吸はある。だが浅い。頭部には鈍的な衝撃の痕。明らかに「制圧された側」の人間の状態だった。

 航が遅れて駆け込んでくる。

「高槻部長……!」

湊も息を呑む。

「何が……?」

退助は低く呟く。

「やられたな。」

高槻の身体を抱きながら、その視線は室内を走る。

太一が居ない!

 制御室の端末が半壊していた。そこに残された断片ログ。


天梯上層系統異常

内部暴走

緊急隔離処理

不明対象の移送


湊が読み上げる。

「これ……事故処理記録?」

航が顔をしかめる。

「戦闘じゃなくて、混乱の中での隔離……?」

退助は短く言う。

「違う。」

その声は低い。

「連れ去られた…。」


12.


 薄い光が、白い天井から降っていた。音はない。風もない。ただ、機械の規則正しい駆動音だけが、遠くで脈打っている。

 太一は目を開けた。最初に感じたのは、身体の重さだった。手足が固定されている。拘束というより、“安定化”に近い圧力。

 視界がゆっくりと焦点を結ぶ。身体は、検査台に寝かされ、右腕には点滴が繋がれている。医療設備にも見えるが、どこか用途が違う。観察と処理のために設計された、無機質な装置。一体、どの位の時間を眠らされていたのだろう?

 太一は小さく息を吐いた。

「……ここは?」

声は、やや掠れていた。

 その瞬間。足音がした。静かな、一定のリズム。太一は横に視線を動かす。そこに立っていた人物を見て、わずかに目を細める。

「……誰だ?」

そこに居たのは、見慣れた高槻の姿だった。

 天梯上層で負傷し、意識を失っていたはずの男。だが今は、何事もなかったかのように立っている。顔には傷も見えない。

 ただ、その目だけが違っていた。以前の“人間的な揺らぎ”が、どこにもない。太一はゆっくりと呼吸を整える。

「生きてたのか?」

高槻は一瞬だけ間を置いてから答えた。

「ええ。問題ありません。」

その言葉は、感情のない事務報告のようだった。

 太一は少しだけ沈黙する。そして、視線を周囲に移す。白い室内。遮断された窓。制御端末。そして、拘束された自分。

「ここは天梯じゃないな?」

高槻は穏やかに頷いた。

「はい。安全な場所です。」

「安全?」

太一の声に、わずかな棘が混じる。

 高槻はそれに反応しない。ただ淡々と続ける。

「外部の干渉から、完全に隔離された環境です。ここであなたは、生まれ変わる事になります。」

太一は一目を見開き、高槻を見つめる。生まれ変わる?何にだ?

 そして眼光を鋭くしながら、太一は低く言った。

「退助は?」

その名前に、高槻の表情は変わらない。

「問題ありません。彼は正しい選択をするでしょう。」

太一は小さく笑った。

「ずいぶん、曖昧な物言いだな。」

高槻はわずかに首を傾げる。

「事実です。」

 その言葉に、感情はない。断定だけがある。太一は拘束された身体を動かそうとするが当然、動かない。だが抵抗は試す。

 高槻はそれを見ているだけだった。止めもしない。嘲笑いも、慌てもしていない。まるで、既に結果が既に決まっている事象を、観察しているかのように。

 しばらくの沈黙の後、高槻が言う。

「あなたは優秀です。」

太一は視線だけを向ける。

「一体、何の皮肉だ?」

「正当な評価です。」

即答だった。

太一は息を吐く。

そして、ゆっくりと天井を見上げる。

「……嫌な場所だな。」

高槻は静かに頷きながら、太一の右腕に繋がれた点滴のラインに、注射器を使い鎮静剤を流し込む。

「すぐに慣れます。」

その言葉は優しさではない。慰めでもない。ただ、手順の説明だった。

 太一は、薬の効き目に抗うかのように、目を見開く。外では、退助がこちらに向かっているはずだ。その確信だけが、まだ思考の奥に残っていた。そしてその確信だけが今、唯一の「自分」だった。太一の視界が、ゆっくりと揺らぎ始めた。

 白い天井が滲み、輪郭が溶けていく。検査台の固定具が、ただの金属ではなく「遠ざかる現実」のように感じられる。鎮静剤が回り始めていた。

 抵抗する力はまだある。だが、それを支える意志の輪郭が、少しずつ曖昧になっていく。太一は歯を食いしばった。

「……ちく…しょう…。」

小さく漏れた声は、自分でも遠い。

 視界の端で、高槻が立っている。その姿は揺らがない。まるで最初からそこに“決められていた位置”にいるかのように。高槻は、その顔を太一に寄せる。表情は虚で、目には光が無い。

 太一は視線だけを向けた。

「お前……何をする気だ?」

高槻は一拍置いてから太一の耳元で囁く。

「必要な処置です。」

その言葉は、あまりにも軽かった。人を前にしている響きではない。作業の説明。それだけだった。

 太一の呼吸がわずかに乱れる。だが、もう身体がついてこない。意識の縁が崩れ始めている。高槻の囁きは続く。

「なに、殺しはしません。」

その言葉に、太一の眉がわずかに動く。

「でも。」

間。ほんの一瞬の静寂。高槻は、まるで天秤の答えを読むように言った。

「今の貴方には、消えてもらう。」

 その瞬間だった。太一の中で、何かが強く抵抗しようとした。だが、それより早く…世界が落ちる。音が消える。光が遠のく。視界が薄れていく。

 残った意識の最後の一片で、太一はほんのわずかに思う。

(退助……済まん…帰れなかった…)

  その思いは届く事も無く、太一の「今」は、静かに途絶えた。


13.


 太一が姿を消した天梯上層での混乱からは、既に三日が過ぎていた。退助たちは、太一が連れ去られたのは、天梯から半径100km以内に点在する、島の一つであろうとの手掛かりを掴みかけながらも、その先に辿り着けずにいた。海上輸送のログは途中で断絶し、衛星画像は不自然な欠損を繰り返す。通信記録は“ある一点”だけを境に、まるで削り取られたように途切れていた。

 湊が端末を見つめながら呟く。

「ここから先、全部“空白”です……。」

航も顔をしかめる。

「偶然じゃないですよね、これ。」

退助は黙ったまま、海図データを見ていた。孤島の候補はいくつかある。だが、どれも確証に欠ける。

 そして何より、違和感がある。

「情報が……薄い。」

退助の言葉は短かった。

「探しても、探しても“手触り”がない。」

湊はその意味を理解しかけて、言葉を止める。まるで最初から、そこに“何も無かったことにされている”ようだった。

 その裏で、高槻は静かに動いていた。表向きには、その身は襲撃時の負傷により、病室に居る事になっていたが、実際には眠らせた太一の側からリモートで、保安部の端末ログにわずかなノイズを混ぜていた。航行許可の再照合。衛星データの優先度調整。通信経路の再ルーティング。

 それらはすべて、表向きは「最適化」だった。誰も気づかない。気づいても、問題視されない程度の微細な調整。だが、その積み重ねは確実に一方向へ収束していく。

 退助たちが“正しい方向”へ辿り着けないように。高槻は端末を見ながら、淡々と処理を続けていた。その表情には迷いがない。罪悪感もない。

 ただ静かな整合性だけがそこにある。


14.


 処置室は静かだった。鎮静剤で眠らされている太一の拘束が解かれ、彼の衣服はハサミで切り裂かれ、その全てが取り除かれていく。

 そして彼は生まれたままの裸体を、検査台の上に静かに横たえていた。次にその身体には、これからの処置に必要な準備が施されていく。全身麻酔がかけられた後、ある薬物と、栄養を体内に送り込む為のラインが両腕から取られる。そして気管には、呼吸を確保する為の挿管が行われ、下半身には、排泄物を回収する為のカテーテルが差し込まれる。

 無防備に横たわるその肉体は、既に第一線を退いていたとは言え、若い頃から十分に鍛えられてきた、がっしりとした筋肉質なものだった。その全身をくまなく黒く、薄く包み込む、光沢の有るラテックス状の、ウエットスーツが着せられていく。

 それは、太一の全身の触感を遮断するだけではなく、処置の過程で、彼のバイタルデータを取る、センサーの機能も持たされている。そして次に、瞼の上から液状の樹脂が塗られ、固められる事で視界が遮断され、耳にも同様の樹脂が流し込まれ、聴覚が完全に閉ざされる。

 その上から、頭部全体をスッポリと覆い、目を出す箇所すらも無いマスクが被せられ、スーツとの境目は、特殊なファスナーでしっかりと、隙間なく結合される。準備を終えた太一の見た目は、既に人というよりも人形めいたものへと変えさせられていた。

 その人形の様な身体は、金属の板に乗せ替えられ、クレーンで吊るされ、処置室に設置されている、分厚い強化ガラス製の、水槽の上へと運ばれ、やがてその中へと、静かに入れられる。一辺が5m程度の正方形で、深さ2m程のその水槽は、太一の体温と同じ温度に、調節された温水で満たされている。

 水槽内では、ウエットスーツ姿のスタッフが待機していて、太一の身体はその水面から数十センチ程度の水深に沈められる、そしてうつ伏せの状態で、四肢を枷とワイヤーに繋がれ、大の字の体勢に拘束された。

 やがて、麻酔の投与が停止され、太一の身体の中には、新たな薬が送り込まれていく。その薬品とは、NQ-47。通称をノクティルと呼ばれている。宇宙環境下での長期隔離実験用に開発された薬品で、外界からの感覚入力が極端に減った状態で投与されると、脳は「入力不足」を補うために内部信号を現実として扱い始め、前頭葉の自己認識領域と、側頭葉の言語認識領域の結合を強める作用を、被験者にもたらす。

 そして太一の脳は、外部から与えられた信号を「自分の思考」と誤認する状態に、変えられていき、恐怖や警戒を司る扁桃体の活動を抑制され、 恐怖よりも「安心」「受容」が前面に出る状態にされていく。長時間下では、自我の境界が希薄になり、新しい認知パターンを抵抗なく受け入れる状態になっていく

 つまり、感覚遮断とノクティルの併用により、太一の脳は、外から与えられた情報を、自分の内なる声として、無抵抗に受け入れる状態にされてしまう。例えその情報が、偽りのものであったとしても。

 ガラス越しに、水槽の内部が見える。その中央で、まるで黒い影のように太一の身体は固定され、わずかに揺れている。

「これが、木星圏の英雄と謳われた男の末路か。」

「敵とは言え、操り人形にまで堕とされるとなると、さすがに哀れみを感じるねぇ。」

コンソールに向かう技術員が、太一を嘲笑う会話を交わす。

 モニターには、脳波、心拍、血中濃度、神経反応等の数値が並ぶ。研究主任が、淡々と告げる。

「ノクティル濃度、安定域に入りました。感覚入力、ほぼゼロです」

別の技術員が、パネルを操作する。

「TNI出力、側頭葉同期。言語野との結合、良好」

TNIと呼ばれるそれは、正式名称を、経頭蓋神経誘導(TNI:Trans Neural Induction)という、インターフェイスシステムである。

 この水槽の中に微弱な電磁パルス発生装置が仕込まれている。このパルスが、側頭葉の聴覚野、ブローカ野(言語理解)、前頭前野(自己認識)を、ピンポイントで刺激する。

 すると脳は、「実際に音を聞いた」のではなく「自分の頭の中に言葉が届いた」と認識する。ノクティルの影響下にある太一は、その声を誰かの声ではなく、自分の内側の声として受け取ってしまう。

 スピーカーは無い。マイクも無い。この部屋から、声が送られることはない。それでも主任は、マイクに向かうように、静かに語り始める。

「フェイズ2、開始。」

装置が、微かな振動音を立てる。水槽内に設置された誘導コイルが、目に見えない電磁パルスを、規則正しく送り出す。

 モニターの脳波に、変化が現れる。

「聴覚野、反応開始。」

「自己認識領域とのリンク、形成。」

技術員が、驚いたように呟く。

「早いな……適応が。」

主任は、画面から目を離さない。

「優秀な個体ほど、この段階は早い。自我が強いほど、再構成もしやすい。」

 水の中で、太一の指先が、わずかに動く。拘束されているはずの身体が、何かに応じるように、微細な反応を示す。

「内部言語生成、確認。」

「外部刺激、不要。完全に内側で“声”を認識しています。」

主任が、満足げにうなずく。

「彼にはもう、聞こえている。」

 誰の声でもない。だが確かに、彼の中では言葉が流れ始めている。それが、彼自身にもたらされる「救い」として。

「扁桃体の活動、低下。恐怖反応、消失。」

「代わりに、快適指標が上昇しています。」

 モニターの数値が、穏やかに安定していく。まるで、安眠している人間のように。主任が、次の段階を指示する。

「人格書き換えプロトコルに移行。」

 その瞬間、パルスのパターンが変わる。今度は、言語野と前頭前野の同期が強まる。

「自己境界の希薄化、進行中。」

「抵抗反応……ありません。」

技術員の声に、わずかな感嘆が混じる。

「ここまでスムーズな例は、初めてです。」

主任は、冷静に答える。

「彼は、すでに委ねている。」

 水槽の中の太一は、微動だにしない。だが脳波は、活発に反応を続けている。外から見れば、ただ沈められているだけの男。だがその内側では、ゆっくりと、確実に、人格の再構成が進んでいる。

「フェイズ3準備。任務情報の刷り込みに入る。」

 主任の声に、誰も異議を唱えない。ここまで来れば、失敗はない。彼の人格はもう、恐怖ではなく、安心と快楽の中で、作り変えられているのだから。

 観察室の空気が、わずかに変わった。モニターを見ていた技術員が、眉をひそめる。

「前頭葉の活動が上がっています。自己認識の反発です。」

主任は、視線を上げずに答える。

「来たか。」

 水槽の中で、太一の指先が、わずかに震える。拘束具の内側で、筋肉が緊張しているのが、センサーの数値から分かる。

「扁桃体の抑制を抜けようとしています。恐怖ではなく、意志の反発ですね。」

 主任は、小さく息をつく。

「優秀な個体の証拠だ。ここが山場だな。」

モニターの脳波に、乱れが走る。

穏やかに整っていた波形に、鋭い棘のような変動が混じる。

「内部言語の流れが乱れています。こちらの誘導に、逆方向の思考が割り込んでいる。」

技術員の声に、緊張が混じる。

「“違う”と認識し始めています。」

 水の中で太一の身体が、暴れるように痙攣を始める。動けるはずもない拘束の中で、それでも全身で抗おうとする気配が、数値としても現れている。

 主任が、腕を組みながら静かに指示を出す。

「TNI出力を上げろ。言語野と自己認識領域の結合を強化。」

装置の低い唸りが、わずかに増す。

「ノクティルの濃度は、維持。扁桃体の鎮静を優先。」

脳波の乱れは、すぐには収まらない。

むしろ、しばらくのあいだ、激しく上下する。

「すごいな……この状態で、まだ自分を保とうとしている。」

 誰かが、小さく呟く。主任は、画面を見つめたまま答える。

「だからこそ、壊す価値がある。」

それから5日程の間、太一は自分を保ち抵抗を続けていたが

やがて、その棘のような波形が、ゆっくりと丸みを帯びていく。

「抵抗、減衰しています。」

「内部言語、再びこちらのパターンに同調。」

水槽の中の太一は、再び静かになる。

だが主任は、その様子を見て、満足そうにうなずいた。

「これが最後の抵抗だ。」

技術員が、画面を見ながら言う。

「完全に委ねる直前の反応ですね。」

主任は、淡々と答える。

「彼は今、自分の意志で、我々の言葉を選んだ。」

 それが、このプロトコルの核心だった。力で折るのではない。恐怖で屈服させるのでもない。自分の内側から、「委ねるほうが楽だ」と判断させる。

 水の中で、太一の脳波は、再び穏やかな形に整う。先ほどよりも、さらに安定して。

「フェイズ3へ移行可能です。」

主任が、静かに告げる。

「これで、彼の準備が整った。」

 人格の上書きが開始され、太一の心は、精神的な快楽の中で、徐々に屈服させられていく。観察室の照明は変わらないのに、モニターの波形だけが、ゆっくりと様相を変えていく。

 主任が、短く告げる。

「人格の上書きを、開始する。」

装置のパルスは、これまでよりも規則正しく、精密な間隔で送り出される。側頭葉と言語野、前頭前野の活動が、きれいに同期していく。

「自己境界の希薄化、安定。」

「外部誘導に対する拒否反応、無し。」

 水槽の中の太一の身体は、もう微動だにしない。だが脳波は、活発に「受け入れ」を示している。

 技術員が、画面を指差す。

「見てください。内部言語の生成パターンが、こちらの信号と一致しています。」

主任が、うなずく。

「彼にはもう、区別する事すら出来ない。」

自分の思考と、与えられている思考を。

 太一の中では、言葉が流れている。それがどこから来るのかを、疑うこともなく。

安心していい。

抗わなくていい。

ここが正しい。

その意味が、心の奥へ、静かに沈んでいく。

 数値の変化が、さらに穏やかになる。

「抵抗反応、完全に消失。」

「受容指標、最大値付近。」

主任はマグカップを片手に、画面を見つめたまま言う。

「ここからは早い。」

 パルスのパターンが、わずかに変わる。今度は、単なる鎮静ではない。新しい連想、判断、認識の「型」が、ゆっくりと脳の回路に刻まれていく。

「任務情報の刷り込み、開始。」

技術員が、淡々と読み上げる。

 水の中で、太一の脳は、もうそれを拒めない。むしろ、空白となった部分に、自然に収まっていく。まるで、もともとそこにあるべきもののように。

 主任が、小さく呟く。

「屈服ではないな……これは。」

技術員が問い返す。

「では?」

主任は、視線をモニターに固定したまま答える。

「彼自身の選択だ。」

 太一の心は、壊されているのではない。形を変えられている。しかも、本人の安堵とともに。

 脳波は、深い安定を示す。長い時間をかけて築かれてきた太一の人格が、音もなく、静かに、ゆっくりと別の形へと変えられていく。だがその奥底に、まだ沈んでいる「元の太一」があることを、数値は示さない。

 今ここにあるのは、与えられた役目を、何の疑いなも無く受け入れるために変えられた、穏やかな心だけだった。

 洗脳のプロセスが、最終段階に進んでいく。観察室の空気は、張り詰めているわけでもないのに、誰も言葉を発しなくなっていた。モニターの数値が、あまりにも整いすぎているからだ。

 主任が、静かに告げる。

「最終段階へ移行。」

装置のパルスが、さらに微細な間隔へと変わる。これまでの誘導とは違い、今度は「固定」の段階に入る。

「人格パターン、安定域に到達。」

「自己認識領域との融合率、98パーセント。」

技術員が、息をのむ。

「もうこれで、書き換えられた人格は、二度と自己認識領域から分離する事が出来ません。」

主任が答える。

「元より、この処置は不可逆なものだからな。」

 水槽の中の太一は、まるで眠っているかのように静かだ。だが脳波は、覚醒に近い明瞭さを保っている。

 主任が、確認するように言う。

「内部言語、どうなっている?」

「完全に同調。こちらの与えた認識を、自己思考として処理しています。」

それは、成功の証だった。

 太一の中ではもう、与えられた言葉が。与えられた役目が。与えられた人格が。最初からそこにあったものとして、受け入れられている。

 主任が、最後の指示を出す。

「任務キーの固定。」

装置の出力が、一瞬だけ上がる。モニターに鋭い波形が走り、すぐに、静かな安定へ戻る。

「完了です。」

技術員の声は、どこか現実味を欠いている。

「彼はもう、自分を疑う事が出来ません。」

主任が、ゆっくりとうなずく。

「疑うという発想そのものが、消えている。」

水の中で、太一の身体が、わずかに反応する。拘束されたまま、指先が、ほんの少しだけ動く。

 それは反抗ではない。命令に応じる準備のような、自然な動きだった。


15.


目覚めた場所は、静寂よりも、さらに深い所だった。

音が無い、という感覚が無い。

暗闇がある、という認識すら無い。

太一は、まず「自分が目を開けているのか、閉じているのか」

さえも分からなくなった。

瞬きをしようとして……できないことに気づく。

瞼が動かないのではない。

自分の瞼がどこにあるのかが分からない。

次に、息を吸おうとする。

肺が動く感覚はある。だが、

空気が入ってくる感触が無い。

それでも、苦しくはない。

喉も、

鼻も、

胸も、

何も感じないのに、呼吸だけは、

どこか遠い他人事のように続いている。

(……生きて、いる?)

そう考えた瞬間、自分の思考だけが、

ぽつんと浮かんでいることに気づく。

体が無い。

いや、あるはずなのに、位置も形も重さも分からない。

手を動かそうと命じる。

動いたのかどうか、分からない。

指先があるはずの場所に、感覚が届かない。

足も、

腕も、

背中も、

顔も、

すべてが、存在を主張してこない。

自分が水槽に沈められていることも、

拘束されていることも、

もう、彼には理解できない。

ただ、自分という存在が、広い何かの中に溶けている

そんな奇妙な感覚だけがあったが、

それさえもやがて、

徐々に奪われていく。

時間の感覚が消えていく。

何時間経ったのか、

何日経ったのか?

それも、もう測る事ができなくなっていた。

思考だけが、頼りなく漂うが、それすらも霞み始めていた。

(ココハ……ドコダ…)

その問いに答える材料が、一つも無い。

暗いのか、明るいのかも分からない。

静かなのか、うるさいのかも分からない。

世界が、存在していない。

やがて、焦りが生まれる。

何かを感じたい。何かを確かめたい。

しかし、何も来ない。

何も触れてこない。

何も返ってこない。

そこで初めて、太一は気づく。

自分は、完全に外界から切り離されている

という事実に。

恐怖が、ゆっくりと立ち上がる。

だがその恐怖すら、体に広がらない。

心の中だけで、じわじわと形を持つ。

叫ぼうとする。

声が出たのかどうかも、分からない。

耳が、何も拾わない。

自分の声すら、届かない。

孤立。

そして絶対的な、隔絶。

そしてそのとき、

どこからともなく、

はじめて「外」からの刺激が訪れる。

それは音ではない。触覚でもない。

だが確かに、

自分以外の何かが、ここにあると分かる。

それは、言葉だった。

直接、頭の内側に置かれるように、

意味だけが流れ込んでくる。

「安心しろ。君は守られている」

太一の思考が、ぴたりと止まる。

初めて触れた「外界」。

初めて得た「反応」。

初めて感じた、「自分以外」。

その存在に思わず、すがりつきそうになる。

恐怖が、ほんのわずか、薄れる。

「呼吸は管理されている。苦しくないだろう」

その通りだった。

「体は固定されている。動かなくていい」

その通りだった。

「何も感じなくていい。ここでは、考えなくていい」

その言葉が、

妙に、心地よく響く。

太一にはもう、気づく事すら出来ない。

この瞬間、

彼の中で、

恐怖の原因であるはずの存在が、

安心の源に置き換えられてしまった事に。

思考が、ゆっくりと形を失っていく。

最初は恐怖を打ち消すために、

その声に耳を澄ませていたはずなのに、

いつの間にか、太一は

その声が現れるのを待つようになっていた。

何も無い世界。

自分の輪郭も、

時間の流れも、

外界の存在も感じられない中で、

ただひとつ、確かなもの。

それが、頭の内側に直接届く「声」だった。

「そのままでいい」

「何もしなくていい」

「ここでは、君は安全だ」

その言葉が差し込まれるたびに、

心の奥で固く張り詰めていたものが、

少しづつほどけていく。

考えなくていい。

判断しなくていい。

抗わなくていい。

それは、任務や責任の中で生きてきた太一にとって、

あまりにも甘美な誘惑だった。

(……ラク…ダ…)

その実感が生まれた瞬間、彼の中で、

自我の境界が静かに崩れ始める。

「君はよく頑張ってきた」

「もう、委ねていい」

委ねる。

その言葉が、心の奥にゆっくりと沈んでいく。

体の感覚が無いからこそ、

心の動きだけが、はっきりと浮かび上がる。

声が語りかけるたびに、自分の内側に、

温かな広がりが生まれる。

恐怖が薄れ、孤独が薄れ、

やがて、声の無い時間のほうが、不安になっていく。

声が来ると、安堵する。

声が語ると、落ち着く。

声に従うと、満たされる。

太一は、もう気づく事すら出来ない。

この世界で唯一「安心」を与えてくれる存在に、

自分の心が、

少しずつ形を合わせ始めていることに。

「何も感じなくていい」

「何も考えなくていい」

「ただ、ここにいればいい」

その言葉に包まれるたびに、

彼の中の「自分であろうとする力」が、

静かに弱っていく。

やがて太一は、

声が指し示す方向に、自然と思考を向けるようになる。

問いを持たなくなる。

疑問を抱かなくなる。

ただ、流れ込んでくる言葉を、そのまま受け入れる。

赤子が、親の声に安心するように。

その状態を、心地よいと感じ始めていることを、

彼自身が、いちばん恐れていなかった。

声は、いつの間にか「外」から来るものではなくなっていた。

それは、自身の思考と区別がつかないほど、

自然に内側へ溶け込んでいる。

「大丈夫だ」

「君は正しい場所にいる」

「ここでの君が、本来の君だ」

その言葉を、太一はもう「聞いて」いない。

自分で考えたことのように、受け取っている。

どこかで、微かな違和感が生まれる。

(チ……チ…ガウ……)

その一言が心の奥底から、途切れながらも、かすかに浮かぶ。

だが、次の瞬間には、

「無理をしなくていい」

「抗わなくていい」

「楽になっていい」

やわらかな肯定が、上から静かに優しく、重なってくる。

違和感は、波に飲まれる泡のように、跡形もなく消えていく。

太一は、必死に思い出そうとする。

(じ……ぶんは…だ…れだ…ったの…か…)

(な…にを……し…てい……たの…か…)

(なん……のた…めに…こ…こ……に…い…るの……か…)

しかし、その問いは、形になる前にほどけてしまう。

代わりに、用意された答えが、すっと胸の中に収まる。

「君は守られるべき存在だ」

「もう戦わなくていい」

「ここにいることが、君の役目だ」

思考が、滑らかに誘導されていく。

疑問を持とうとすると、安心が差し出される。

抗おうとすると、安堵が広がる。

その繰り返しの中で、

抵抗すること自体が、ひどく疲れる行為になっていく。

(だ…だ……めだ……)

その意思だけが、かろうじて残る。

だがそれも、

「頑張らなくていい」

「もう十分だ」

という囁きに包まれるたび、力を失っていく。

まるで、心が柔らかな布で包まれ、

角が削られ、

形を変えられていくように、

太一の心は、ゆっくりと、

しかし確実に変えられていく。

やがて彼は気づく。

(て…い…こう……く……るしい…)

(ゆ……だね…る……らく…)

その単純な選択が、すべてを決め始める。

最後に残った、

「自分であろうとする意思」が、

かすかな光のように揺れる。

その光に向かって、手を伸ばそうとした瞬間…。

「もう、ここにいればいい」

その言葉が、優しく、確実に、覆いかぶさる。

光は、消えるのではない。

静かに、

心の奥底へと深く、

押し込められる。

太一の心の表面は、

穏やかで、

従順で、

安定した形に変えられていく。

その奥底に、

まだ消えていない「本来の太一」が、

小さく、

深く、

閉じ込められたまま。

声は、もう導くものではなくなっていた。

それは、太一の内側に「最初からあったもの」のように、

静かに根を張っている。

疑問は生まれない。抵抗も、もう形にならない。

代わりに、穏やかな受容だけが広がっている。

「君には役目がある」

「その役目は、君にしか果たせない」

その意味は、説明される前から、理解できる気がした。

いや、理解する必要すら無い。ただ、胸の奥に、すっと収まる。

太一の心は、すでに「空白」に近い状態になっていた。

長いあいだ、何も感じず、何も考えず、ただ声だけを頼りに存在してきた結果、

自分という輪郭が、全て消え去っている。

そこに、新しい輪郭が、ゆっくりと描かれていく。

「君は、仲間のもとへ戻る」

「だが、以前の君とは違う」

「それでいい」

その言葉に、違和感は無い。

むしろ、どこか安心が広がる。

戻る場所がある。果たすべき任務がある。

空白になった心に、新たな意味が流れ込んでくる。

それは、かつて任務に生きていた太一の感覚と、よく似ていた。

だからこそ、自然に馴染む。

「疑う必要はない」

「迷う必要もない」

そのたびに、心の表面が、なめらかに変えられていく。

とても深いところに、何か大事なものが沈んでいる様な気がする。

だが、それに触れようとすると、

やさしい安堵が先回りして、そっと覆い隠す。

「触れなくていい。」

「思い出さなくていい。」

ここにある、この穏やかさだけを受け入れればいい。

やがて太一は、

自分が「作り変えられている」という事実さえ、

認識出来ないようになっていた。

それは恐怖ではない。

何かに身を委ね、

形を与えられることへの、

静かな心地よさと喜びだった。

赤子が、親に抱き上げられるままに、身を預けるように。

新しく与えられる人格も、任務も、抵抗なく、心の奥へと染み込んでいく。

深い底に、まだ消えていない「本来の太一」がいることを、

もう、確かめようともしないまま。


16.


 処置室の照明が、ひとつ、またひとつと落とされていく。太一の身体は、じつに10日振りに、水槽から静かに、引き上げられる。そして再び検査台へと拘束され、顔の拘束のみが、まず外される。その後、検査台は垂直に床に起こされ、太一は目を閉じたまま、立たされた姿勢で、検査台に縛られた状態になっている。

 そして、彼は静かに目を開ける。焦点は定まっている。呼吸も脈も安定している。だが、その瞳の奥にあったはずのものだけが、きれいに消えていた。

「反応確認。」

白衣の男が告げる。

「被験者の、人格再構築完了。命令系統、正常。情動反応、基準値内。」

その様子を眺めていた警備員の一人が、鼻で笑いながら小声で呟く。

「これで、木星圏の英雄様もお終いだな。」

太一だった男は、その言葉に何の反応も示さない。

 検査台からの拘束を解かれ、ウエットスーツをも剥ぎ取られた彼は、その生まれたままの姿で、促される事もなくゆっくりと、歩き出す。まだ身体は汗に濡れたまま、雫を床に垂らしながら、迷いなく。

 連行される、というよりも、呼ばれる場所へ、自ら向かっているかのようだった。

 やがて、重い扉の前で立ち止まる。扉が音も無く開く。室内は、静まり返っていた。奥に、一人の少年が立っている。

 その姿を視界に捉えた瞬間、かつて八木太一と呼ばれた男の呼吸が、わずかに乱れた。胸の奥から、込み上げるものがある。理由は分からない。だが、それは強烈な感情だった。

畏怖。

敬愛。

帰依。

 洗脳の過程で、何度も何度も繰り返し刻み込まれた像。絶対的な存在として、心の最深部に植え付けられた人物。

 少年は名前を、御影と言う。彼こそが、太一をこの罠へと陥れた張本人だった。御影は、静かに微笑む。その微笑みに吸い寄せられるかの様に、男は少年の前まで歩み寄る。

「気分はどう?八木太一くん。」

 その声を聞いた瞬間。裸の男の膝が、床に落ちた。それは、新たな名付けの儀式だった。八木太一としての人格を消され、空白の存在となっていた男は、また同じ名前を、自らの所有者により授けられ、太一の外見を持った別の物へと、生まれ変わった。

 その事実を自分でも理解できないまま、視界が滲む。頬を、涙が伝う。胸が、満たされていく。

 ずっと探していたものに、ようやく辿り着いたような、深い安堵。

「……御影様……。」

声が震える。

「お会いできて……光栄です……。」

 その言葉に、室内の誰もが息を呑んだ。かつて木星圏の英雄と呼ばれた男が、人類の未来を切り拓いた「知」の象徴が。

 今は、汗まみれで丸裸に剥かれた、惨めな姿のまま、目の前の子供を信仰の対象として、跪き、喜びの涙を流しながら、その顔を見上げている。御影は優しく微笑みながら、満足げに頷いた。

「うん。処置は完璧だね。」

 太一は、涙を流しながら、深く(こうべ)を垂れる。その姿には、もはや葛藤も疑念も無い。あるのはただ、絶対的な帰依だけだった。

 かつて退助に向けていたはずの、あの真っ直ぐな感情は、いま、寸分違わず、御影へと向けられている。

 そして太一自身は、それを正しいことだと、心の底から信じきっていた。


17.


 静まり返った御影の居室に、柔らかな間接光だけが満ちている。窓は無い。時間の感覚も無い。だがその空間は、処置室とも執務室とも違う、妙に私的な気配を帯びていた。

 低いソファに、少年が深く腰掛けている。そのすぐ前に、立ったまま静かに控えているのは、かつて八木太一と呼ばれた男だった。

 汗に濡れていた身体と、少しだけ白髪の混ざり始めた、短めに揃えられた髪は、儀式の後に清められ、乾かされ、整えられてはいるが、相変わらず衣服の与えられていない、生まれたままの姿で、その古代ギリシャのポセイドン像を思わせるような体躯を、少年に対し無防備に晒す様、命令されている。

 直立の姿勢で、両足は肩幅に開かれ、両腕は頭の後ろ側に組まされている。首から下の体毛は、御影の指示により、すべて取り除かれていた。人格と共に、大人としての性徴の証をも奪われたその姿は、壊されてしまった太一の惨めさを、より一層際立たせている。

 その惨めな姿を、親子以上の歳の差の少年の視線に晒されながらも、彼の視線はわずかに伏せられ、呼吸は落ち着いている。次の命令を待つでもなく、ただそこに居る。

 少年…御影は、その様子を満足そうに眺めていた。

「ねえ、太一くん。」

呼びかけに、男はすぐ反応する。

「はい、御影様。」

声は穏やかで、迷いが無い。御影はくすりと笑い、ソファに預けた身体を起こし、右手を伸ばして太一の一部分を優しく握った。

「ちゃんとここに居るね。どこにも行かないよね?」

「はい。私は、御影様のお側に在る為の存在です。」

 その答えに、御影は小さく息を吐く。嬉しそうに、安心したように。

「可愛いなぁ……ほんと。」

少年の細い指で、自分自身を弄ばれながらも、太一は動かない。ただ、その言葉と、自身への刺激を受け止めるように、わずかに視線を上げる。

 そこにあるのは、強い情動ではない。だが、深く刷り込まれた敬愛と帰依が、静かな光となって瞳に宿っている。

 御影は一通り、固くなっていく太一の感触を楽しんだ後、その部分から手を離した。そしてソファから立ち上がり、太一の正面に立つ。太一のその部分は、主人から受けた愛撫に、固く反り返る事で応えている。見上げられる形になり、太一の目線は自然と御影を追う。

 御影はしばらくの間、その男臭いがどこか整った印象の、これまで生き抜いてきた歳月が、皺として刻まれ始めた顔を、ただ愛おしそうに、じっと見つめていた。

「ねえ、太一くん。前は、誰のこと見てたの?」

問いは軽い。だが残酷だった。

「……記録にありません。」

即答だった。

 御影は嬉しそうに笑う。

「そっか。うん、いいよ。なくていいんだよ、そんなの。」

 右手の指で再び太一を(まさぐ)りつつ、左の掌が、太一の頬をそっと撫でる。冷たいはずの皮膚が、わずかに温度と湿度を帯び、目は虚になっていく。

 太一自身の先端は、徐々に滑りを帯び始め、やがてその身に受けた喜びを、生々しく、むせ返る様な匂いと共に解き放った。

「ほら、こんなに喜んじゃって、ホントに太一くんは可愛いなぁ。」

その先端からの滴りを指先で掬い取りつつ、御影は微笑みながら、呟いた。

「これからは、ボクだけ見てればいいからね。」

「はい、ありがとうございます。」

その一言に、躊躇も揺らぎも無い。

 御影は満足げに頷き、自らも服を脱ぎ捨て生まれたままの姿になると、両腕を太一の腰に回し、その厚い胸板の真ん中に顔をうずめた。身長差のせいで、抱きつくような形になる。そして、解き放った後にも関わらず、なおも固さを失わない太一の感触を、御影は自らの素肌に、直接感じていた。太一の腕は動かない。動かすようには、命じられていないから。

 だが、御影はそれを気にしない。むしろ、その「何もしなさ」が心地よい。

「ねえ、太一くん。」

「はい。」

「ボクのこと、好き?」

ほんの遊びのような問い。

「はい。御影様は、私の神です。」

 御影は、声を立てずに、しかし満足気に笑った。肩が震える。

「神かぁ……。うん、良いね。好きだよ、そういうの。」

御影はしばらく、そのままの姿勢で動かない。時間だけが、静かに流れる。御影は深く息を吸い、自らの嗅覚を成熟した男の匂いで満たす。

 やがて御影は顔を上げ、太一の顔を見つめた。

「中島退助って人、知ってる?」

太一の瞳が、わずかに揺れる。だが、それは意味を持たない反応だった。

「……重要度の低い記憶断片として、保存されています。」

御影は目を細くし、今度は太一の胸板に頬擦りをする。少年の透き通る様な肌の、滑らかな刺激に、太一のそれは固さを増していき、そして、二度目の喜びを解き放つ。

「へえ。」

その様子を満足げに確かめつつ、御影は楽しそうに問う。

「じゃあさ。その人が、君を迎えに来たら、どうする?」

「御影様のご命令に従います。」

即答する。そこに迷いは、無い。

御影は、満ち足りたように頷いた。

「うん。やっぱり、太一くんは完璧だ。」

そして、少年は太一の腕を取り、軽く引いた。

「ねぇねぇ、こっち来て。隣、座ってよ。」

 太一はおとなしく従う。ソファに並んで身体を預ける。宙を仰いだままの太一の部分は、彼の鼓動のリズムに合わせるかのように、脈動している。御影の手が、暫くその先端に優しく触れていると、やがて太一は三度目を解き放つ。

 その様子を御影は瞳を輝かせ、横からじっと見つめる。まるで、大事に集めた宝物を、何度も確かめる子供のように。

「ふふふ…水槽の中で、必死にもがく君の姿もステキだったけど、今がいちばん可愛いよ。」

小さな笑いが漏れる。そして、太一の太い右腕に自分の華奢な両腕を絡めながら。

「やっと、ボクだけの太一くんになったね。」


18.


 柔らかな灯りの下、再び衣服を着けソファに身を預けた御影は、丸裸のままの太一の太ももに、頭を乗せたまま目を閉じていた。

 規則正しい少年の呼吸。その髪に、太一の指先が触れることはない。命じられていないから。ただ、そこに在る。静かな体温だけが、御影を包んでいる。

 不意に、室内の端末が低く振動した。御影は片目だけを開ける。視線も上げず、手元の端末を操作した。

 空間に、通信ウィンドウが立ち上がる。映し出されたのは、高槻の顔だった。頬にうっすらと残る傷跡。だが表情は落ち着いている。

『御影様。ご報告です。』

御影は、太一の太ももに頭を預けたまま、気のない声で応じる。

「んー……なに?」

『中島たちの調査ですが、これ以上の妨害は不自然になります。こちらの動きに気付かれる可能性が高いかと。』

 御影の指が、太一の頬を再び軽く撫でる。

「そっかぁ。」

どこか、残念そうに呟く。

『予定通り、情報のリークに移るべきかと判断します。』

 御影は少しだけ顔を動かし、太一を見上げた。太一は、視線を真っ直ぐ前に向けたまま、動かない。

「ねえ、太一くん。」

「はい、御影様。」

「もうすぐ、退助くんが迎えに来るって。」

「はい。」

声は変わらない。御影は、くすりと笑う。

「ちゃんと、帰ってあげてね。」

「でも、ムリはしちゃダメだからね。ケガとかしない様にね。」

「御影様のご命令通りに。」

そのやり取りを、高槻は無言で見つめている。

 御影はようやく端末に視線を向けた。

「じゃあ、高槻くん。リークしていいよ。バレない程度にね。」

『承知しました。』

「それとさ。」

御影の声が、少しだけ柔らかくなる。

「太一くん、キレイに返したいから。準備、お願い。」

「メディカルチェックなんかで、ボロを出さないようにね。」

高槻はわずかに頷いた。

『了解しました。』

通信が切れる。

室内に、再び静寂が戻る。

御影は、太一の固い太ももに頬擦りしながら、再び目を閉じた。

「太一くんはさ、まだもうちょっとだけ、こうしてようね。」

「はい。」

「すぐ、取りに来ちゃうからさ。」

 太一は、何も言わない。ただ、そこに在り続ける。御影にとっては、それで十分だった。


お久しぶりです。

なんか続きが出来ればなあってコトで、今回は迷い子たちが、帰ってまいりました。まぁ、待ってくださっている方が…居るのか居ないのかは分かりませんが、気長にやってみたいと思っております。

今回は作者の趣味により、太一さんがエロ…もといエラい目に遭ってしまいましたので、年齢制限を設けさせていただきました。あしからず、ご了承ください。


それにしても、こんなコトになって…これからどうなるんだろ。(- 。-;


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