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婚約破棄された気弱令嬢リリエラ・ライムブリュレは、選ばれるのをやめました 〜冷酷公爵は静かに立候補する〜  作者: 仁科異邦


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第三十六話 共に歩む、扉の向こうにあなたがいた

光の中に、入った。

最初に感じたのは——音だった。


オルガンの音が、大聖堂の天井まで満ちていた。

次に感じたのは——視線だった。


両側に、大勢の人がいた。

でも不思議と、怖くなかった。

怖いと感じる前に——もっと大きなものが、目に飛び込んできたから。

前方に、あの人が立っていた。


遠かった。

まだ、遠かった。

でも——見えた。

黒い礼装を着て、まっすぐ前を向いて、立っていた。


その姿を見た瞬間——足の震えが、止まった。

不思議だった。

怖さが消えたわけではなかった。

でも——あの人がいる場所へ向かっていると思ったら、足が自然に動いた。


一歩ずつ、進んだ。

父が隣にいた。

車椅子の音が、音楽に混じって聞こえていた。

リリエラは前だけを見ていた。

歩きながら——色んなことを思った。


あの夜会のことを思った。

シャンデリアの下で、名前を呼ばれて、婚約を破棄された夜。

床が揺れるような気がして、でも震えながら声を出した夜。


あの夜がなければ——今日はなかった。

だから——あの夜も、必要だったのかもしれない、と今は思える。

そう思えるようになった自分が、少し不思議だった。


半分くらいまで来たとき——公爵と目が合った。

遠かったのに、目が合った。

公爵の顔が——いつもと、少し違った。

いつも静かな顔をしている人だった。

感情が表に出ない人だった。

でも今日は——何かが、にじんでいた。

うまく言えないけれど。

ずっと待っていた、という顔をしていた。


六年間、窓を閉めていた人が——今日、全部開けているような顔をしていた。

リリエラは歩き続けた。

その顔に向かって、歩き続けた。


祭壇の前に着いた。

父が、リリエラの手を取った。

一度、強く握った。

それから——そっと、離した。

渡す、というより——送り出してくれるような手の離し方だった。

公爵が一歩、前に出た。

リリエラの隣に、立った。


「待ってた」

小さな声だった。

式の音楽に消えそうなくらい、小さな声だった。

「お待たせしました」

リリエラも、小さく返した。

それだけだった。

それだけで——十分だった。


式が始まった。

司祭の声が、大聖堂に響いた。

言葉が続いた。

リリエラはその言葉を聞きながら——隣の人を、少しだけ見た。


公爵は正面を向いていた。

横顔が見えた。

この横顔のことは書かない、と最初の手帳に書いたけど結局、何度も書いた。


これからも、きっと書くだろう。

そう思ったら——少し、笑いそうになったが、式の最中だったからこらえた。


誓いの言葉の番が来た。

司祭がリリエラを見た。

「あなたは——この方を、生涯の伴侶と選びますか」

静かな問いだった。

大聖堂が、しんと静まった。


二百人の視線が、こちらに向いた。

足が、震えていた。

震えていた。

でも——怖くても、言えた。

震えながら、言えた。

ずっと、そうやってきた。

今日も——そうだ。


一度、深く息を吸った。


公爵を見た。


公爵がリリエラを見ていた。


その目が——待っていた。


急かさずに、ただ——待っていた。



「はい、選びます」



声が出た。

震えていたけど——出た。

大聖堂に、響いた。

怖くても、震えても。

この人を——選びます。


公爵の番になった。

「あなたは——この方を、生涯の伴侶と選びますか」

司祭が問うた。

公爵は少し間を置いた。


一瞬だけ——間を置いた。

言いかけて止まってきた人が。

今日は止まらない。



「選びます」



静かだった。

でも——大聖堂の隅まで、届いた。

その二文字に、六年分が入っていた。

言えなかった時間が。


待っていた時間が。

開けてきた窓が。

全部、その二文字の中にあった。


リリエラの目が、熱くなった。

こらえた。

こらえようとした。

でも——一粒だけ、出た。


隣で公爵が、小さなハンカチを差し出した。

式の最中に大勢の前で、さりげなく。


この人は——ずっと、こういう人だった。

受け取って目を拭き前を向いた。


指輪を交わした。

公爵の手が、リリエラの手を取った。

指輪を、そっとはめた。


冷たい金属が、指に触れた。

でもすぐに——温かくなった。

体温が、移った。


これからずっと、ここにある。

この温かさが、ここにある。


式が終わった。

大聖堂に、拍手が響いた。

音楽が戻ってきた。

リリエラは前を向いていた。

隣に、公爵がいた。

「泣いたな」

小さな声だった。


「一粒だけです、格好悪かったですか」

「可愛いかった」

「っ——もう!」

「本当のことだから」

リリエラは少し俯いた。

頬が、熱かった。


「レオンハルト」

「怖かった、震えていましたが」

「でも——言えました」

公爵が少し間を置いた。


「……よかった、ずっと——待っていた。これからは——待たなくていい、ずっと、隣にいる」

「はい」


「一生、な」

「はい!」


大聖堂の光が、ふたりの上に降っていた。

拍手が続いていた。

音楽が、天井まで満ちていた。


選んだ。

怖かったけど、震えていたけど——選んだ。

それが——今日の、全部だった。


こう言うシーン書くのは難しいですね‥。

もっと感動的な感じを目指しましたが難しい‥

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