表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハルな恋とウラらかな復讐  作者: 春野ひなた
3章 復讐の果てにあるものは……
PR
24/28

24話 ……いいな

 麗が晴の部屋のドアをノックしようとした時。隣の部屋から葵が出てきた。


「何してんだ?」

「あっ、えっと……」


言い淀んでいると、晴がドアを開けて目を丸くした。


「うわっ、びっくりした。どうしたの、2人とも」

「パソコン貸してもらいたくて」

「いいけど、何で?」

「これ」


麗は手を開いてUSBメモリを見せた。


「おまえのか?」

「……お父さんの」


葵と晴はUSBメモリを凝視する。

 晴は部屋の中に葵と麗を入れ、パソコンにUSBメモリを差し込んだ。すぐにウィンドウが開く。2つのフォルダがあり、1つは“大熊組”、もう1つは“麗へ”と名前がついている。


「麗ちゃん、ひとりで見る?」


晴が席を立とうするが、麗は首を振る。


「一緒に見たい」

「いいのかよ」

「……正直、ひとりで見るのはちょっと辛い」


目を伏せる麗の頭を、葵は軽く叩く。


「怖じ気づいてんじゃねえよ」

「そういうわけじゃないけど」

「仕方ねえから一緒に見てやる」


晴はくすっと笑みをこぼす。


「素直じゃないなあ」

「うるせえ。貸せ」 


葵がマウスを奪い、大熊組のフォルダを開く。

 だが、パスワードの入力画面が表示される。


「簡単には開けねえか」


葵はマウスから手を離し、肩をすくめる。


「麗ちゃん、思い付くパスワードない? 例えば、麗ちゃんの誕生日とか、両親の誕生日、結婚記念日、両親の名前とか」


晴に言われたことを麗は全て伝えるが、パスワードは開かない。


 ビーッ、ビーッ、ビーッ。


 突然アラート音が鳴り、画面が赤く点滅し始める。

 晴は顔をしかめ、高速でキーボードを連打した。


「まずい。パスワードを間違えたらウイルスが発生するようになってる」

「大丈夫なの?」


キーボードを打つ手を止め、晴は深く息を吐き出した。


「ふー。セキュリティ強化してあるからなんとか防げたよ。でも、これ以上やると、データが壊れちゃうかも。プロに任せた方がいいよ」


晴はUSBメモリを外し、麗に渡す。


「ありがとう。フクロウさんにお願いしてみる」


晴の部屋を出た途端、玄関から犬の鳴き声と紗季の笑い声が聞こえてきた。

 3人で玄関に行くと、フクロウが紗季に抱きつかれて戸惑っていた。


「母さん、何してんのさ。フクロウさん困ってるよ」


晴が紗季を引き剥がし、フクロウは安堵のため息を吐き出した。


「だって久しぶりだったから。大人っぽくなっちゃって」

「姐さん、相変わらずっすね」

「サクラもこんなに大きくなって。元気だった?」


サクラは尻尾を振って紗季に飛び付く。


「フク兄、仕事で来たのか?」

「姐さんが帰ってきたって聞いたから、挨拶しようと思ってさ」

「ほら、上がって。もうすぐ夕飯できあがるから食べてって」

「いやいや、鹿島一家の団らんを邪魔したくないんで、すぐ帰りますよ」


紗季が緩やかに口角を上げ、三日月型に目を細める。


「いつからそんな生意気なこと言うようになったのよ」

「あ、姐さん?」


フクロウは冷や汗を流し、サクラは尻尾を巻いてフクロウの後ろに隠れる。

 紗季が更に笑みを深くする。

 空気がひりつき、紗季以外の誰もが顔を強張らせる。

 

「あんたを拾ったのは私なんだから。あんたも鹿島家の一員に決まってるでしょ。食べてくわよね?」

「は、はいっ。喜んで」


フクロウは背筋を伸ばして、頭を下げた。


 やっぱり紗季さんは最強だ。

 にしても、紗季さんがフクロウさんを拾ったってどういうことなんだろう?

 

 USBメモリのことを言い出せないまま、フクロウと一緒に夕食の席に着いた。組長は帰りが遅くなるようで紗季の隣の席は空いている。


「あの人の分まで作りすぎちゃったから、たくさん食べて」

「いただきます」 


フクロウは手を合わせ、山盛りの唐揚げに手を伸ばす。


「確かあんたを連れてきた時、葵たちと同じ年だったわよね。あの時は相当荒んでて、手を焼かされたわ。懐かしい」


紗季はふふっと楽しそうに笑う。フクロウは顔を赤くする。


「フク兄がうちに来た時のこと、あんまり覚えてねえな」

「あんたたちが4歳ぐらいだったからねえ。フクは14歳だったかしら。養護施設から抜け出してうちの組員にケンカ売って、ボコボコにされてね。私がうちに連れてきてそのまま引き取ったのよ」

「いつの話してるんすか。俺もう27っすよ」


照れるフクロウを紗季は優しい眼差しで見つめる。


「いいじゃない。いくつになっても、私にとってあんたはかわいい息子よ」

「姐さん……」


フクロウは一瞬箸を止め、すぐに白米をかきこんだ。


 ……いいな。


 麗は漏れそうになる本音を味噌汁と一緒に飲み込んだ。

 “麗へ”と名前のついたフォルダが思い浮かぶ。 

 お父さんからのメッセージだろうか。

 それとも、何か重大なまだ誰も知らない真相が隠されているのだろうか。

 へその辺りから、好奇心と期待感、恐怖心が入り混じったものが、ぞわぞわと這い上がってくる。

 

 フクロウさんなら、きっとパスワードを解析してくれるはず。


 麗は期待の眼差しをフクロウに向ける。


「フクロウさん、お願いしたいことがあるんです」

「麗ちゃんがお願いって珍しいな」


制服のスカートのポケットからUSBメモリを取り出し、フクロウに見せた。


「お父さんが遺してくれたデータが入ってるんですけど、パスワードでロックされていて見れないんです」

「お父さんって……」


フクロウが紗季に目配せをすると、紗季は小さく頷いた。


「全部、知ったんだな」

「フクロウさんも、お父さんのこと知ってるんですか?」

「もちろん。……モズさんは、俺の憧れの人だったから」

「え?」

「裏社会で生きてくって決めた時、解体屋になりたくて、姐さんからモズさんを紹介してもらったんだ。モズさんはすげえ人でさ、弟子になりたかったんだけど、足を洗ったからって断られた。そん時、一回だけ麗ちゃんに会ってるんだけど、覚えてねえよな」


フクロウはどこか寂しげに笑う。思い出せそうで思い出せない。


「俺さ、モズさんの家族を助けられなかったこと悔やんでんだ。だから、麗ちゃんだけは守り抜く、麗ちゃんの願いは何でも叶えてやりたいって思ってた」


フクロウの揺るぎない眼差しに、麗の心臓がきゅっと締め付けられる。


 フクロウさんまで、私を守ろうとしてくれていたなんて……。


「それ、預かってもいいか?」


麗は頷き、差し出されたフクロウの大きな掌の上に置く。


「絶対、パスワードを解析してやる」

「お願いします」


麗は頭を下げ、胸の上で祈るように両手を握り合わせた。



 湿った空気がどこからか流れ込み、澪の首筋にうっすらと汗が滲む。

 革張りのソファにふんぞり返る大熊を前に、澪は微笑を浮かべる。


「鹿島紗季が、戻ってきました。それと、長宮麗を監禁することはやめたようです」

「そうか。モズの娘は取り込めたんだろうな」

「長宮麗はこちらの思惑通りに動いています。鹿島組を揺さぶる駒としては十分でしょう」

「それで?」

「はい?」

「人質だけで終わらせるわけねえだろ」


大熊は鼻で笑い、瞳を針のように細める。


「ガキの遊びじゃねえんだよ。だからおまえのやり方はぬるいっつってんだ」


澪の頬がぴくりと動く。


「長宮麗をどうするおつもりですか?」

「死にたくなるほどの苦痛を与えて少しずつ壊す。泣いて、縋って、それでも誰も助けねえ。絶望のどん底に落とされた人間がどんな顔するか、おまえに分かるか?」


大熊の顔が影に覆われる。

 持ち上げた口角の隙間から覗く金歯が不気味に光る。


「あれはやみつきになる」


大熊の異常な粘着質の悪意が、澪の肌にまとわりつく。背中に嫌な汗が伝う。


「必ず長宮麗を連れてこい。そうすればおまえのやり方を認めて、若頭として扱ってやる」

「……はい。お任せください」


澪は一礼して部屋を出る。

 肺に溜まったべたつく空気を全て吐き出す。


「あんなのが父親だなんて」


唇を引き結び、廊下の窓から暗闇が広がる夜空を見上げる。

 廊下の角から小声で話すくぐもった声が聞こえ、澪は足を止めた。


「……そんな! 金は渡したはずですよ。……は? 手術費は別? ふざけるな!」


柱の影から窺うと、大熊の右腕として長年仕えている猪俣剛が怒りに震え、スマホを握りしめている。


「猪俣さん?」

「お、お嬢!」


猪俣は焦った顔でスマホをスーツの内ポケットにしまいこんだ。


「奥様のご容態、芳しくないみたいですね」

「聞こえてましたか」

「ええ。お金が必要みたいですが、当てはあるんですか?」

「なんとかしますんで。お嬢はお気になさらないでください」


猪俣は頭を下げて澪の横を通り過ぎる。


「私が立て替えましょう」

「……冗談はやめてください」

 

猪俣は振り向き、奥歯を噛み締める。

 澪はふんわりと柔らかい笑みを浮かべ、瞳を三日月形に細める。


「本気ですよ。私、こう見えて資金はたっぷりあるんですよ。これが証拠です」


澪名義の口座残高が表示されているスマホの画面を猪俣に見せる。

 指でゼロを数える猪俣は驚愕の顔をする。一瞬、猪俣の瞳に希望の色が見える。だが、すぐ険しい表情になり、怪訝な眼差しを澪に向ける。


「俺に何を望んでいるんですか?」

「さすが猪俣さん。話が早いわ。私の描く未来にあなたが必要なんです」

「……お嬢は何をしようとしているんですか?」

「私は、皆さんが自分の意思で、自由に選択できる新しい大熊組を作りたいんです。父のように暴力と恐怖で脅すやり方はもう古い。父は自分以外の人間は駒としか思っていません。現に、猪俣さんが奥様のことで悩まれているのに、力を貸すつもりは一切ありませんよね」

「それは……」

「私は奥様の命を助けたい。手術費は条件なしでお貸しします」

「条件なし?」

「ええ。そのうえで選んでください」

 

猪俣の眉間にしわが寄る。猪俣の隣で、澪は囁く。


「私と一緒に新生大熊組を作るか、このまま父と一緒に地に落ちるか」


猪俣は息を呑み、目を見開く。


知者不惑(ちしゃふわく)。道理をわきまえている猪俣さんなら、判断に迷うことはないと信じていますよ」


澪はふふっと微笑み、踵を返す。

 猪俣はスマホを出して画面に映る妻の笑顔に目を落とす。


「……一択しかないだろ」


スマホをきつく握り締め、澪の背中を見つめる。


(まずは1人。ここから大熊組を内部から崩していく)

 

澪の口元が誰にも見えない場所でわずかに緩んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ