洋菓子屋さんのお悩みは?
とある街に立ち寄った時、ふと甘いものが食べたくなって商売相手にいい店がないかと聞いてみたところ、露店街の入り口にあるスズメの看板を出した店がいいと教えてもらえた。
なので行ってみたところ、そこは洋菓子屋さんと呼ぶべき感じで、この大陸では一般的なヨーロッパ風の街並みによく似合っていた。
ドアを開けるとからんからんとベルが鳴って、焼き菓子の入っているのだろう袋がずらりと並んだ棚と、厨房に続くのだろう扉と、会計台前にいるお嬢さんが見えた。
「いらっしゃいませ。初めてですか?」
「はい」
「今日のお勧めはナッツ入りのクッキーです。
炒ってから割ってあるので香ばしいですよ」
「わ、おいしそう。
とりあえず十袋ください」
おいしくないわけがないものをお勧めされたならそれをまず買う。
旅の間とお土産用も。
それとは別で何がいいかな~と色々聞いている内に、カウンターのお嬢さんがほうとため息をつく。
「どうかしました?」
「いえ、最近味に変化がないんじゃないかと気になっていて。
乾燥させた果物やナッツで変化を出しているつもりなんですけど、生地そのものの味はどうしようもないってお兄ちゃんも悩んでて」
「ほうほう」
商売の香り!
わたしはすかさず収納からカカオパウダーとチョコレートを出してみた。
「お客さん、これは?」
「まあまあ味見を。粉の方はちょっと舐めるだけでも味が分かりますよ」
この二組は、医療大国の手前の国の名産品である。
ここからひと月は掛かる上に、パウダーはギリギリ保つかどうか、チョコレートは劣化確定なので多分この辺にないんじゃないかと思ったけどやっぱりね。
お嬢さんは怪訝そうな顔をしながらも小指をパウダーにそっとつけてから一口。
「これは……!」
「生地に混ぜたら味が変わると思うんですよね」
「こ、こっちも……」
ちなみにミルクチョコレートなので甘いぞ~。
「あまぁい」
「おいしいでしょう?この辺までは普通の収納だと来ないものだなぁと思って」
「お客さんちょっと失礼。お兄ちゃん!?ちょっと来て!!」
叫びながら表の看板をくるんと変えた。
あ、閉店しちゃうの!?
その後。
厨房から出てきたお兄さんは私の出したカカオパウダーとチョコを味見した瞬間それらをひっつかんで厨房に戻ってしまった。
双子ちゃんだったんだね。
流行り病でご両親が亡くなられて一年、なんとか評判は保てているけれども……とお嬢ちゃんから聞いて、そりゃ大変だと気の毒になった。
「売りどころを考えていたところの商品なので、このお店が引き取ってくれるならそれはそれでいいかなぁとは思うんですよ。
でも時間停止付きの収納がないと――」
「私時間停止付きの収納持ちです!」
「ワオ偶然」
じゃあ劣化なくこやつらを保管しておけるということか。
「一袋がこれくらいで、原価は銀貨一枚なんですよね」
「じゃあ銀貨一枚と銅貨五枚でどうですか?」
「よし契約」
「じゃああるだけください」
よろしかろうもん。
机の上に置いた分からするすると収納されていくカカオの産物たち。
いいお店に引き取ってもらうね、おいしく調理されるんだよ。
今年はサンプル配布で終わるかもなと思っていた商品を全てお買い上げいただいて、数を確認して、来年の話をしながら清算しようとしていた時――
「できたぞ!」
お兄さんのご登場である。
カカオパウダーを混ぜたと分かる黒い生地のクッキーと、砕いたチョコがぽちぽちとあるマフィンを携えて。
それを食べた時、もうね、久しぶりに味わう味っていうので心がニコニコしてしまった。
甘いチョコと、甘さ控えめの生地のマフィンは最高においしかった。
チョコクッキーもほろ苦さと砂糖の甘みの配分がちょうどよくて、これは牛乳あったらトぶぞ。
どうせなのでクッキーは普通のクッキーと市松模様にしてみたらかじりつく部位で味を調整できていいんじゃないかなあと思って提案したら、そんな考えが!と、驚愕された。
わたしの元いた世界では普通のお菓子だったからそこで驚かれましても。
普通の生地とチョコ生地でぐるぐる巻いてロールケーキみたいにしたのを切るのも見た目が可愛くていいよね。
双子の兄妹はふんすふんすとしながら、来年にはきちんと使いこなしてみせますと言ってくれた。
なのでわたしは来年はもっと仕入れてくることを約束して、お菓子を幾つか追い購入して店を出た。
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行商人さんが旅立って四日後の建国祭。
その日に出す目玉に、お兄ちゃんは新たに入荷したばかりのチョコレートで作る菓子を出すと決めて、まさに今それは飛ぶように売れている。
「へぇ!こんな黒いのが甘いのかい?」
「はい!生地が黒いところは少し苦みも感じますけど、普通の生地と比べてみると味わいの違いに驚くと思います。
牛乳と一緒に召し上がると特別に美味ですよ」
「このマフィンに混ざった黒い粒粒も苦いの?」
「そちらは苦みはほんのわずかで独特の甘さがありますよ。
生地の甘さが控えめなので、粒の甘みをより感じるはずです」
お兄ちゃんはずっと厨房で追加を焼き続けていて、冷ました分から次々に袋に詰めていってくれているけど、追いついてないのが正直なところ。
たまたま来てくれていたいとこに応援を有償でお願いしたので厨房はなんとかなっている。
会計は、まあ、忙しいは忙しいんだけど、波があるから。
催し物の楽団が演奏を始めるとなるとお客さんはすっと引いてそっちにいくしね。
ちょうどそのタイミングで落ち着いたので、ほっと息を吐く。
そうして厨房に行き、牛乳と、切れ端や見た目が悪すぎると弾いたものをお皿に盛って、三人で休憩にする。
「お兄ちゃん、今日の売り上げでチョコレートを仕入れた分全部賄えそう。
今日以降は研究のために使っても問題ないからね」
「おう。どうせならナッツとも組み合わせてみるか」
「何それおいしそ~。味見の時呼んでね」
「いいよ。その時は呼ぶね」
「やっぱり牛乳との組み合わせ最高だね」
「甘みが溶けてくよな」
「ね。いっそ牛乳に粉を混ぜてみたり、チョコレートを溶かしてみたりしても美味しいのかも」
「賄いになっちゃうねえ」
「確かにな。牛乳ごと売りに出す余力はウチにはないし、かと言って素材のまま売るのも行商人に悪い」
わいわいしながら休憩し、また騒がしくなり始めた気配を感じたらカウンターに戻る。
そうして建国祭を慌ただしく過ごして、一日が終わる。
いとこはとっとこ帰宅して、私とお兄ちゃんは疲れ切りながらも親戚が買っておいてくれた屋台の料理を温め直して夜ご飯にする。
串焼肉を齧りながら、お兄ちゃんはしみじみという感じで、運がよかったなぁと言う。
確かにね、と私も返す。
あの行商人さんにこのお店へ行けと言った人に感謝しないといけない。
多分、総合商人のミルトスさんなんだろうけど。
ミルトスさんはうちの両親がまだ生きていたころからうちのお店を贔屓にしてくれていて、面倒を見てくれていた。
うちのお店で扱うナッツは、ミルトスさんが仕入れてきたものを入荷している。
でも多分、ミルトスさんも、チョコレートの存在は知らなかったと思う。
確認はしていないけれども。
だって、あんな凄い商材なら、ミルトスさんはきっと欲しがったと思う。
だから来年は沢山持ってきてくださいね、って行商人さんに伝えたわけで。
この街で、遠い異国の素材を作ったお菓子が流行るのも面白いじゃない?
そしてそれを売るのはウチだけじゃなくていい。
他の菓子屋でも扱われれば、それだけチョコレートを使った菓子で競い合うようになって味も洗練されるだろうし。
観光資源にもなりそうじゃない?
それに。
ミルトスさんがその販売に関わればミルトスさんも儲かるし。
あの行商人さんだって儲かるわけで。
恩返しになるのじゃないかしら。
「明日からも頑張ろうな」
「うん」
私とお兄ちゃんは、疲れてヘロヘロの拳をこつんとぶつけあい、笑った。
二人きりの家族だけれど、頑張ろうね。




