親父さんの愛から始まる朝
おにぎり。目玉焼き。お味噌汁。それと季節の野菜の浅漬け。
それが冬のねぐらの定食屋でいただく朝ごはんである。
これは大体全部親父さんが作っていて、キリヤくんが仕入れにいっている間にさっさっと作ってしまうのだとか。
わたしはその間に起きて、身支度をしているので、二階から降りてきた時には既には配膳準備をしているところだったりする。
「親父さん、毎日同じ朝ごはんだけど、何か思い入れとかってあるんですか?」
少し待てばキリヤくんが仕入れてきた魚を焼くこともできる。
なんなら前日に翌日分の仕込みをして終わってもいい。
なのに、几帳面にご飯を別に炊いて、味噌汁も作り、目玉焼きも焼いて。浅漬けだって朝に作る。
その理由を知らないので聞いてみたんだけど、キリヤくんが目を伏せるのが見えた。
「うちの朝飯はかかぁが作ってくれていてな。
複雑な料理は苦手だったが、これなら作れるからと言って聞かなかった。
新婚の頃からずっと、朝飯はこれだった」
「ほうほう」
あれ、そういえば。
「おふくろさんはいないですよね。どうして?」
「エリナを産んだ時に体調を崩してな。治りきらずにエリナが二歳くらいの時にぽっくり逝っちまった」
やっちまった!?
あわあわしていると、親父さんは渋く笑んだ。
「それでもエリナはかかぁの顔を覚えてやがるんだぜ。すごいだろう」
「それは確かにすごい」
「自慢の娘と自慢の嫁さ。
成長する度似ていくが、作れる料理の数までそっくりになりそうで俺ァ怖いよ」
シャッシャッと砥ぎ石で包丁を研ぎながらしみじみ語るものだから、どうお返事したらいいか迷ってしまった。
エリナちゃん、台所に入らないもんな。
というか作る機会ないもんな。
「おうキリヤ、お前も朝飯の味は覚えておけよ。
ウチの朝飯は子々孫々これでいい。
ま、うまい分にはいいが、献立は変えるな」
「分かってるって」
「いつか客が増えてもこれなら仕込みの時間が増えても作れるからな。
そういう意味でもあの朝飯はいいもんなんだから」
翌朝の朝ごはん。
お味噌汁が少し違って、その理由はキリヤくんが緊張顔で作ったから。
温かみがあるほっとする味というか、家庭的でありつつもちゃんとお店の味でもある味わいだった。
「握り飯は塩加減が命だからな。
そこは生きてくうちに変わるもんだからお前の匙加減を覚えろよ」
「分かった」
「お父さん、わたしはー?」
「お前は嫁にいく前に教える。
ま、まだまだ覚える段階にねえってこったな」
ひどーい!とふくれっ面をするエリナちゃん。
まだパリっとしているノリは、一度火であぶっていると思う。
いつもの程良い塩加減のおにぎりは、エリナちゃんとキリヤくんのお母さんが作っていたころの味と同じだろうか。
浅漬けは同じ味だろうか。
なんとなく。
なんとなくだけど、お母さんの作ってくれる朝ごはんの味というものが、前世のものでしかない遠い味が恋しくなった。
それをまだひもじいと勘違いした親父さんが、そっとおにぎりを一つくれて。
キリヤくんは目玉焼きの黄身入り部分をちょっと割ってお皿に置いてくれたんだけど。
センチメンタルぶち壊しやないかい!!




