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CREATE LEGEND  作者: 星月夜楓
第二章 UNKNOWN
19/22

第十七説 市人焔

前回のあらすじ

突如、UNKNOWNの一人、ナンシーが転入生としてやってくる。やたらとユナに執心しているようだが、現状実害はない。しばらくは様子見をしようと決めたのであった。

 六月。ナンシーが学校に来て、一週間が過ぎた。特に奴が来て変わった様子はなく、馴染むようにクラスに溶け込んでいた。


「結〜ちょっと問題わからないのだけど」


「あー、この問題はね……」


 今はユナ以外にも話しかけ、友達を増やしている、と言ったところか。現状、害はない為、ユナの監視をしつつ、俺は俺でやるべき事をやる。


「おーい、今日も兄貴のところへ行こうぜ。最近忙しそうだしよ。無間郷の事もあるが、まあ大丈夫だろ」


 放課後、秋彦が兄貴……市人焔の手伝いをしないかと誘ってきた。最近、建築業界はこのところ工事が増え、忙しくなっている。猫の手も借りたいという状況だ。


「そうだな。無間郷は四獣に任せるとして、兄貴を手伝うか……」


 ちらりと横目を見る。やはりナンシーがユナを誘っている。ここは、俺の分身で監視しておくか。


「そうと決まれば行こうぜ!時間に余裕が無いんだしよ!」


 こっちはこっちで、秋彦は兄貴が好き過ぎるんだよな。


 早速、兄貴の元へ赴いた俺達は仕事内容を聞く。


「おうお前らか。よく来たな。それじゃ、早速仕事を手伝って貰うとするか」


「ってぇぇ⁉︎この量を買って来るんですか⁉︎」


 渡されたメモ用紙には大量のコンクリートブロックと木材と生セメント、砂、砂利。それからメッシュ。


「これは何度か往復が必要だな……」


「てか、お前ら免許あったっけ」


「俺は特例で持ってますが、氷山は持ってませんね」


「ああ、そっか。若いのには力仕事をさせようと思ったけど……いや、まあ積込してくれるから大して運ぶ事はないんだけどな。そしたらまあ二人で行ってくれや」


「でも、それってどこに行けばいいんですか?」


「ホームセンターでいいぞ。てかホムセンの資材見たことないんか?」


「いやあ自分そういうとこ行ったことないもんで、はは……」


 秋彦は所詮箱入りでしかないからな。庶民の生活はあまり知らないのだ。


「まあ氷山はともかく俺に任せてください。では行ってきます」


 ダンプに乗り込む。


「うえ、煙草くさ……」


「文句言うな。手伝いたいって言ったのは誰だ」


「……だよな。よし、やるかぁ」


 近所の資材館がある大型ホームセンターを検索し、そこへ向かう。


「ダンプの運転って難しいのか?」


「慣れないうちは恐らく。俺はもう慣れた」


「……さすが全てを熟す奴だな。俺も頑張らないと」


 くだらない話をしているうちに到着。


 まずはホームセンターそのものを知りたいそうで、生活館の方に行く。


「あまり時間がないが……大丈夫だろう」


 中に入ると、秋彦は目を輝かせる。


「何でも揃ってるな!」


「何でもはない。生活に必要なものだけ。お前の好きなゲームは置いてないし、何でも屋でもない」


「なんだ……置いてないのか……」


 いや、お前、現存する全てのゲームを所持しているだろう。九割が積みゲーではあるがな。


「とはいえ、ここは皆の生活基盤だ。困ったらここに来ると良い。特に災害時にはな」


「ああ、知っているぜ!ゾンビパニックになったらまずホムセンだったよな!」


 こいつの現実と虚構の見境の無さには少し困りものだな。


「……それはともかく、台風や地震、水害等だ」


「身近にあるものといえばそういうものか。お前と一緒にいるから縁がなかったが……民間人は大変だな」


「そうならないようにするのも俺達の役目だ」


 結局のところ、今流通している商品の元を辿れば、俺の管理下の会社に繋がる。当然、このホームセンターも管理下にある。全員に必要な分だけ行き渡る在庫量を確保し、販売する。最も基本な事ではあるが、最も難しい。


「そうだったな。さてと、満足したし、栄養ドリンクだけ買って資材の方に行きますか」


 資材館では、必要なものを伝えて、ささっと会計を済ませる。どうやら全部積込みをしてくれるそうで、俺達の力はどうやら不要らしい。


「この人達これ毎日やっているんだよな……サービスの域超えてないか?」


 これも仕事の内だからといえばそれで終いだが、確かに接客に加えこの力仕事。中々難しい仕事だな。人手が不足すれば回転しないだろう。


 積込みも終わり、帰る。


「いやー楽させてもらったな」


「だが帰ったら次は俺達が下さなければならない。終わったらまた往復するし、中々忙しい事になりそうだ」


「げっ……そりゃそうか。全部手積みかぁ……」


 正体が既に兄貴に知られているとはいえ、必要以上に能力を使うつもりはない。現場は兄貴だけではないからな。人間らしく振る舞うとしよう。それがいくら非効率であったとしてもだ。……やれやれ、人間は実に非効率な生物である。


 現場に戻ると、何やら黒服の男数人が兄貴を囲っていた。


「オイゴルァッ!誰の許可貰って建ててんだオルァッ⁉︎」


「……」


 黒服の一人が兄貴に詰め寄る。


「あに……っ⁉︎」


 危険だと察した秋彦は前に出ようとするが、俺が制止する。


「何故止める……」


「良いから黙って見ていろ」


 それだけしか俺は言わなかった。


「おいおいおいおいオイ何黙ってんだアァァン?」


「このシマはウチらのもんだ。許可無しにやろうってのは随分と肝っ玉が据えているみたいだなあ、ァ?」


「こいつぁスジが通らねえってもんですわ」


「ちゃんと通すとこ通してもらわねえといけねえって事よ。なぁ」


 みかじめ料を払えという事か。それとも。


「ぉぉ、丁度ええとこにおったわ。おいガキャァッ!」


 懐から銃を取り出し、俺達に向ける。まずいな。面倒な事になった。


「うぇ、まじかよ……」


 まだ力を使ってはいけないのかという秋彦の視線を受けるが、首を振る。相手は屑といっても差し支えはないが、力を使うと俺達も同じ地に堕ちるだけだ。


 だから、待つ。彼の言葉を。


「……分かりました。これで許してください。今回は俺が悪かったです」


 人質を取られた事で、兄貴は頭を下げ、金を出した。


「そうそう、これで良いんだよ」


「ふっ、命拾いしたなぁガキ共。このお兄さんが賢うてよかったなぁ」


「……ッ」


 何もさせてくれない秋彦はかなりフラストレーションが高まっている。同感だ。だが、一度ここは耐える。


 金を受け取った事で満足した黒服の男達はその場から去った。


「……ああ、良かった。お前達が無事で」


「そんな……俺達のせいで兄貴の金が」


「良いんだよ……別に。ムカつくけどよ、俺みたいな半端者はああいう奴らに搾取される運命(さだめ)にあるんだ」


「そんな……」


「頭下げて金出せば大人しくしててくれるならそれで良いんだ。誰も死なずに済むんだから」


「そんなの、格好悪いじゃないですか。なんで戦わないんですか」


「……それは違うぞ秋彦」


「え?」


「俺達がいたから兄貴は頭を下げたんだ。その強さを、お前は考えた方がいい。本当の強さってやつは拳などではない。如何なる状況において適切な処理を行う事だ」


「そうかよ。でも……俺は嫌だね。こんな胸糞悪い終わり方なんか絶対に」


「……ああ、そうだな。今の時点ではこれが正しい。そしてこれからは俺達の番だ」


「何をするつもりだ?」


「申請してもらうんですよ、兄貴。俺のシマで無許可に事務所を開く連中に」


 俺のシマとは即ち全世界の事である。MPCに奴らの事務所を特定させる。


「行くぞ秋彦」


「よくわからんが、ぶちのめすって事で良いんだよな」


「兄貴はここで待っててください」


「お前達の事はよく分かっているつもりだ。だけど、無茶はするなよ」


「ええ、無茶はしませんよ。無茶はね」


 事務所は数百メートル先、すぐそこにあった。それにしても、この事務所の周りは閑散としているな。どこもかしこもシャッターで閉まっている。いや、今はそれどころではない。早速乗り込む。




「さっきの男の顔見たか⁉︎」


「ギャハハハ‼︎ありゃ傑作だわ‼︎」


「今日は最高だぜ‼︎パーっと飲みに行くかァ!」


「お楽しみのところ失礼」


「⁉︎」


「お前ら、さっきのガキ共……」


「あ?どした?迷子か?帰ってママのおっぱいでも飲んでな」


「おいおい笑わせんなよ!」


「……そうだな、あまり笑わせないでくれ」


 あまりの下らなさに思わず失笑ものだ。


「あ?」


「お前達の言ったことそっくりそのまま返してやるよ」


「『このシマはウチらのもんだ。許可無しにやろうってのは随分と肝っ玉が据えているみたいだなあ、ァ?』」


 秋彦がボイスレコーダーを取り出し、先程の台詞を再生する。


「何の話だ。てめえナメてんのか‼︎」


「お前らこそナメているのか?この俺を誰だと思っている」


「は、知るかよンナガキがよ」


「後藤財閥会長兼社長、後藤千早だ。お前らこそ、俺のシマで何を勝手な真似をしている」


「は、後藤財閥?んなもん都市伝説に決まっているだろうが‼︎」


 再び、銃を向けてくる。やれやれ、やはりこうなるか。これだから脳が足りないものは。


 兄貴とは太陽と海王星の距離並みに遠い存在だ。


「俺に無許可で事務所を開設。しかもやっている事は近隣の迷惑行為と来た。善行を積むなら、好き勝手にやった事を目を瞑ってやっても良い。だが、お前達のやっている事は人の皮を被ったケダモノだ。それを、俺が許すとでも思うのか?」


「はっ、許すも何もねえ!それがこの世界のルールってもんだろ!」


「ダブルスタンダードだな。無許可でやって良いのなら兄貴もお前達に無許可でやって良いはずだ」


「くっ……うるせぇ!てめえら二人ともまとめて始末してやる!おいお前ら‼︎生きて帰すなよ‼︎‼︎」


 これで殴り合いに発展したか。


「死ねやガキィィィッ‼︎」


 だが、俺はこの屑共に手をかけるほど暇はない。


不可侵絶対権限(アブソリュートオーソリティ)


「ッ‼︎ガァァァッ⁉︎なんだ、何が起きている‼︎体が動かねえ‼︎ウォォォォォ何かに無理矢理抑えられている⁉︎」


 この能力は、人間を相手であれば誰であれ強制的に這い蹲らせる事が出来る。できれば使いたくない。これは支配の能力だからだ。だが、こいつは屑だからな。話が違う。


「伏して己の無力さを、無意味さを知れ。そして、罪をその身を持ってして償え」


「クソガァァァッ‼︎」


「……まじかよ……智覇彌の奴あの能力使うとかガチギレかよ……」


「さて、この辺りが良いか……。おい、自分達がどういう立場にいるか分かったか?」


 奴らの目の前にしゃがみ込み、能力を解く。


「クゥッ……か、勘弁してくれ……な、な?」


 一人はそう言うが、別の一人は違った。


「てめえみたいなガキの言う事なんか聞くかよボケが!」


「そうか」


 まだ反抗的な態度を取る奴が突っ込んできたので、背中から一本触手を生やし、奴の体に巻き付け壁に激突させる。


「ひっ……ゆ、許してください‼︎」


 そしてもう一人は外へ逃げようとする。だがしかし。


「おい、あっちは満足してるかもしれんが、俺はあいつ以上にキレてんだからな」


 秋彦が扉の前に立ち、通せん坊をする。


 結局のところ、秋彦に全員全身くまなく打撃を受け、気絶してしまった。


「やれやれ、やりすぎだ」


「あの能力使う奴には言われたくないね。……金も回収したし、兄貴のとこへ報告しないと」


「ああ、そうだな」


 だがその前にやる事がある。こいつらの抹消だ。存在している以上また同じ過ちを繰り返す可能性は大いにある。


「Lochen Nr.08」


 消去の能力の一つ。今、この瞬間こいつらがこの世界に存在したという事実を消し去った。こいつらがいたという記憶を保持できるのはタイムレスのみ。つまるところ、知っているのは俺と秋彦二人だけになる。


「消したから事務所もお金も連鎖的に消えたか」


 事務所が消えたせいか、床が抜け、地面に放り出される。が、俺は知っていたので難なく着地。秋彦はふらふらになっている。


「ウォッ⁉︎いや〜びっくりしたわ。殴ってスッキリはしたけど……何か腑に落ちない終わり方だな」


「能力の存在を知られるわけにはいかないからな」


 これで兄貴が金を奪い取られたという事実も無くなる。屈辱の記憶も。


「さあ帰ろう。兄貴はきっと俺達が急にいなくなって焦っているはずだ」


「そ、それもそうだな。兄貴、今すぐ行きまっせ!」


 ところで、この事務所が消えた事で街は賑やかになったのを感じる。搾取しすぎて尽く店が潰れていたみたいだな。シャッター街が復活し、いや復活という表現はおかしい。街の住民は最初から潰れる事なく平和に過ごせているのだ。


「おう一号二号どこに行ってたんだ?」


 一般人代表の焔兄貴は勿論、この反応である。


「あーいや、あーまあえっとですね……」


 秋彦が口ごもっていると兄貴は察した。


「皆まで言わなくていい。きっと、何かやったんだろ。それが何なのかわからんが、きっと世界の為にやってくれたんだと俺は信じてるぞ。さ、疲れただろう。仕事の前に一本奢るぞ」


「良いんですか⁉︎じゃあ俺は炭酸で」


「一号は?」


「俺は結構です。……いや、折角ですし、珈琲でも」


「うん、それで良い。奢られる時は奢られてろ。飲んだら仕事だぞ〜」


 人間特有の奢り奢られは俺にはあまり理解できないが、それでコミュニケーションが生まれるというのなら甘んじよう。


「ウィッス!」


 気合いを入れた返事をした秋彦だったが、この後すぐヘトヘトになるのは言うまでもない。


「こ、コンクリートブロック重すぎ……何であの人平然と四個持ちしてるの」


「握力を鍛えれば出来るさ。ただ単純に重いというのはある。一個大体十キロだからな」


「そういうお前は四個持ち出来るのかよ」


「当然。能力を使うまでもなく。ただまあ今はただの高校生を演じるので二個持ちだ」


「へいへい。流石ですわ。……ちょっと体力戻ったしやるぞ」


 そう言って、やっては休みの繰り返しをしていた。


「ところで、よく無償でこんな事引き受けてくれるな。本当にお金は良いのか?」


「ええ、勿論。俺の人件費は他に回してください。俺は貴重な現場体験できるだけでありがたいわけでお金目当てではないのですよ。それに、兄貴の役に立つのなら尚更です」


 俺にお金等必要ない。俺はお金を回す側なのだからな。


「そうか……なら、そうさせてもらおう。これで一旦全部下ろしたか。あと二往復は必要だな」


「え、二往復⁉︎これを⁉︎もう日が暮れてしまいますよ⁉︎」


 ヘトヘトになった秋彦が悲鳴をあげる。


「まあ明日俺がやっておくからお前達は帰んな」


「あ、そっか……そうだよな」


「ですが、兄貴もちゃんと休んでくださいね」


 最近定時で終わっているのを聞いて安心していたが、どうやらまだまだ仕事の虫だな。


「必要分はな。じゃ、お疲れ様」


 過労で倒れない事を祈りつつ、俺達二人は現場から離れた。


「あーあ、絶対あいつらのせいだって。時間無駄に喰ったしよ」


「過ぎた事を気にしても仕方がない。……もう夕暮れだ。また明日な、秋彦。俺は少し無間郷を見て帰るとするよ」


「……ん、分かった。俺は帰ったらマッサージしてもらおうっと」


 筋肉痛で明日休んでもらっても困るし、そうした方が良いだろう。


 無間郷へのゲートを開き、中を覗くと変化は見られなかった。まだ、襲撃はなさそうだ。


 ナンシーの奴が何か動き出すまで恐らく来ないのだろう。分身からの情報も問題はなかった。今はただユナと一緒にいたいだけなのだろうか。最後の思い出作り、とかそういう類いの可能性がある。今後も十分に注意し、奴の監視を続ける。


「あ……お土産でも買っていくか」


 最近、夕食をまともに食べた記憶がないので何か美味しいものでも買って帰ろう。そうと決まれば今すぐ行動だ。

次回予告

学校。それは社会の縮図である。例え世間では小さなものであったとしても学校では大きなものである。世界ではたかが知れた実力であったとしても学校では名誉となる。


次回、クラスメイト


小さき事でも全力で向かえ。

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