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親の本棚。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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父の本棚。


 実家の本棚には人が殴り殺せそうな分厚いシリーズ物の本がずらりと並んでいた。


『世界大百科事典』『世界作曲家事典』『世界名作シリーズ』『武者小路実篤全集』『日本古典文学全集』


 両親も姉も大層な読書家なのだと自慢に思っていたのだが、家族は誰一人その本たちを読んだことが無かった。


 昭和のあの家で、本はインテリアだった。


『世界大百科事典』はあると便利そうだからという理由で置いてあり、


『世界作曲家事典』は9歳年上の姉がピアノを習い始めたからという理由で買ったらしい。


『世界名作シリーズ』も姉がそのうち読むだろうと買い、


『武者小路実篤全集』は父が定年退職したら読もうと買ったらしい。


『日本古典文学全集』は日本人だから勉強しなきゃと思ったらしい。


 ケースから出すときペリペリと音のしたその本たちは、ページをめくるごとにも初めて外に出ましたと言わんばかりにペリペリとはしゃぎまくり、幼かった私がめくるまで対して誰にも関心をもたれなかったのだということがよくわかるありさまだった。


 子供のいる家には絵本が何冊かあって、親が読み聞かせをしてくれるものだと知ったのは小学校何年生の時だっただろうか。


 あれだけ重厚な百科事典が並ぶ我が家には、そういや絵本なるものは1冊も存在しなかった。


 読んで欲しいと母にお願いしたら、「あなた聞かないじゃない」と断られたことがある。


 絵本が無かったので『世界名作シリーズ』の1冊を幼い私に聞かせようとしたらしいが、数枚のシブい挿絵程度しかなかったその本にすぐに飽きて、私はぐずったらしいのだ。


 記憶も無いのでずいぶん昔のことだと思うが、果たしてぐずった私が悪かったのか。


 小学生にして深く自省した私は、自分は読書に向かない人間なのだと自覚した。


 図書館に行く、ということすらしない両親だった。


 自宅にこれだけ立派な本が揃っているのに、どうして図書館に行く必要があるのだ?ということらしい。


 親が行かなければ子供も図書館の存在に気づかない。


 本は重くて難しいもので、とても子供の私の手には負えない。


「せっかくすごい本があるのに、この子は全然本を読まない」


 読めないなりに、ぽつりぽつりとある写真や挿絵を解読しようと試みたが、それだけのことだった。


 本は挿絵や写真を眺めるものだった。



 定年退職した父が本を読むことはなかった。


 読まれなかった重い立派な本たちを、父は地元の公民館に寄付しようとしたが、迷惑がられた。


 立派な本はゴミになった。



 定年退職したら読むと言っていた父は、毎日帰りが遅かった。


 仕事ではない。呑み歩いて。


 毎日二日酔いで、休みの日も布団から出て来ず、ずっとテレビを観ていて。


 定年退職してもずっとテレビを観ていた。



 立派な本たちはインテリアで、そのうちゴミになった。



 読んであげればよかったなと思うけど、積読が貯まっている私もしょせん父の子なので、そのうちゴミにしちゃうのかもしれない。

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