不審ないなり
「しっ・・・失礼しますっ!1年A組佐倉桜です!天羽先輩いますかっ!」
緊張感で、声の最後の方が小さくなる。
うぅ、聞こえているかなあ。
「なんですか〜?聞こえませーん。」
机に座っている、校則違反の染めた茶髪の先輩が笑気味にそう言う。
他の取り巻きがそれにつられ、こちらをチラチラ見ながら大笑い。
悔しさと惨めさで消えたくなる。
こうなる予想はついていたけどさ。ひどくない?
確かに、1歳年下の後輩が急に、学校の王子様を訪ねにわざわざ来るなんて。
そして、その間に先輩を探す。
・・・いないみたいだ。
『失礼しました』と、言って立ち去ろうとした時。
後ろから、声がした。
「佐倉さん。何か、俺に用ですか?」
「先輩っ!」
後ろを振り返ると、学校のバックを背負った先輩。
寝起きなのか、髪の毛が少し跳ねている。
「で?そっちも何か用がありますか?」
先輩は視線をずらし、さっきの女の子に目をやる。
「いっいや、聞こえなかったから・・・」
「階段の踊り場にいた俺には十分聞こえました。あなた達の笑い声も。」
先輩はかっこよく、そう言いのけた。
そして、冷たい眼差しで睨む。
そんな睨みを食らったその子たちは、魂が抜けたかのように静かになった。
「すみません・・・こうなっちゃって。」
「構わないよ。で?」
「あの・・・今日の放課後、聞きたいことがあります。」
「わかった。」
先輩はそう頷くと、教室へと入っていった。
まだ心臓がバクバクとしている。
これから、もう第二学年棟へは来れないな。
と感じた。
❀*.゜
「佐倉さん、話って?」
体育館の裏。先輩はそう言った。
・・・いや!告白する訳じゃないっ!
いい場所がここしかなかったんだよっ!
私は一人で、誰にも届かない言い訳をしていた。
「あの、最近いなりくんの様子がおかしいんですよ。」
「どんなふうにだ?」
先輩は首を傾げた。
「放課後、一緒に裏世界で影を倒しているのに・・・ここ最近、『桜!一通り倒しといて!冥界に行ってるから!』って言って、どっかに行っちゃうんですよ。で、そのまま私が帰るまで戻ってこない。」
「用事とかではないのか?」
「用事だったら今まで何回かありましたよ。けど、用件は必ず伝えてくれました。」
「まあ、何かあるのは確実だな・・・佐倉さん、しばらくは様子見をよろしく。」
「わかりました!」
そう言ってその日は別れた。
部活をした後、いなりくんのところに行ったけど・・・やっぱり、同じ反応だった。
そして、先輩と会ったことが私にとって大きな問題になることは誰も知らなかった。
ꕤ*.゜
「先輩!いなりくんがもっとおかしくなっちゃいました!」
私は再び、先輩を呼び出した。
前の反省を活かして、すれ違った時、こっそりと伝えたのだ。
「もっとって?」
「放課後、稲荷神社に行ってもいないんですよ!今までは、居たのに。」
「何日前からだ?」
「3日前くらいです・・・もう、どうしちゃったんだろ。」
神社に行っても、シンとしているのは想像以上に寂しいものだった。
裏世界にもいけない。
「・・・じゃあ、調査してみるか?」
先輩はふとニヤリと笑った。
「調査って?」
「いなりの尾行だ。明日は休日。簡単に言って警察ごっこだ。」
「先輩、警察の仕事は?」
「問題ない。最近暇だしな。」
先輩は右手を出す。
手のひらの上で風が渦巻いたかと思うと、幽霊警察の帽子が現れる。
けど、ついている宝石の色がピンク色・・・桜色だった。
「俺の霊力の化身だ。狐が見つかるまで貸しておいてやる。」
「いいんですか!?」
「消えたら教えてくれ。・・・雰囲気って大事じゃないか?」
「はい!」
寂しかったはずなのに、今度は胸が弾む。
“ごっこ“が楽しいのは、全年代共通だと思う。
先輩から帽子を受け取る。
手に取ると、宝石が淡く輝き始める。
「じゃあ、明日決行だ。とりあえず・・・朝、9時に稲荷神社だ。」
「了解しました。よろしくお願いします、天羽巡査部長!」
そう言って、敬礼をしてみせる。
先輩はフッと笑いを漏らすと、軽く敬礼をした。
「こちらこそよろしくお願いします。佐倉巡査。」
❀*.゜
「天羽巡査部長!おはようございます!」
「おはよう、佐倉巡査。」
「どうやって冥界に行くんですか?」
「俺について来い。」
先輩はそう言う。
「・・・え?それだけで、いいんですか?」
「色々とややこしいからな。とにかく・・・これを見ろ。」
先輩は、スマホを出す。
画面には地図アプリが表示されていて、検索部分に『神社』と打ち込まれている。
「これって・・・ここの地図ですね。」
「ああ。で、神社の位置を見てみろ。」
言われるがまま、赤い印のついている場所・・・神社に目をやる。
この村には4つの神社が存在する。
学問の神社、知恵之宮神社。
天気の神社、蒼天雲神社。
平和の神社、久遠杜神社。
そして・・・稲荷神社。
でも、位置に何かあるのかな・・・?
4つの神社に視線をめぐらせるけど・・・全くわからない。
「すみません、わかりません・・・」
「じゃあ、それぞれの神社を線で結んで。」
先輩はそう言って、その画面をスクリーンショットする。
画面にマーカーが表示される。
「こうですか?」
私は画面をなぞる。
最も北にある、知恵之宮神社。
西にある蒼天雲神社。
蒼天雲神社から相当離れた、東の久遠森神社。
で、海に近い南の稲荷神社・・・ん?
私はそう思いながら、指を止めた。
「あの、先輩・・・なんだか綺麗な正四角形になってます。」
「そうだ。」
私が結んでできたのは、完璧な正四角形。
対角と対角が結ばれ、中央に×ができている。
「この中央。なんだと思う?」
う〜ん・・・この辺には・・・あ!
「時計塔!!」
「そうだ。」
12時、夜の5時、朝の7時に鐘を鳴らす時計塔。
それはとても大きくて、この村のシンボル的な存在。
「玄武、白虎、朱雀、そして青龍というものは方角にも関係している。この村には綺麗に4方角に4つの神社が配置されている。」
そこで、先輩は一度言葉を止めると口を開いた。
「すべての種類の霊力が集まったこの場所は・・・冥界への入り口だ。」
「先輩、それってこの村だけですか?」
「いや。他の市町村でも同じ仕組みだ。神社と神社が結ばれた中心に、入り口がある。まあ、これほどできたものは少ないから・・・安全な入り口は少ないな。」
「ここは安全な入り口ですよね!」
「ああ。」
その返事にホッとする。
「まあ、とにかくついてこい。」
先輩はそう言って、スタスタと歩き始める。
私も足を前に出した。
❀*.゜
「ここですね。」
少し灰色になっているけど・・・白色のレンガがつまれた時計塔。
中には入れないようになっている。
とても高いから、山の上からじゃないとその大きさはよくわからない。
「よし・・・ここか?」
先輩は、手でレンガを触る。
そして、ちょうど時計の真裏についた時。
ピカっと一つだけ、レンガが光ったのだ。
そして先輩は、慣れた手つきでレンガを押す。
その周りの壁が少し崩れる。
トンネルの入り口のような形になる。
けど、先はよく見えない。
「これが・・・冥界の?」
「ああ。とりあえず・・・行くぞ。」
先輩は私の手を掴むと、その入り口へと引き込む。
その入り口から一歩踏み出すと、そこはもう知らない世界・・・そう、“裏世界“だった。
「じゃ、今からいなりを探すか。」
「はい!」
私はそう、全力で返事をした。




