ぎこちなさ
「桜!この扉壊せたぞ!」
「え!?ほ、ほんとに壊れてる・・・。」
アイリちゃんの強烈な一言に、耳を疑った。
確かめると、本当に扉が壊されている。
「どうだ!」
「す・・・すごいね。」
色々な意味で。
「人魚のところに吾輩たちは行けばいいのだろう?」
「うん。いなりくんはそう言ってたよ。」
アイリちゃんは、私の返答に数回頷く。
「じゃあ、こっちで合っているな。」
「・・・わかるの!?居場所が!?」
「ああ。吾輩とスイリは霊力が多いから・・・霊力の探知は、得意分野なのだよ。」
アイリちゃんは、ニコッと笑う。
こんな顔もできるんだ・・・さすが9歳。
「まあ、正規ルートではないがな。」
「正規ルートじゃないって・・・?」
「正面突破は流石に危うい。だから、こうやって進んでいるんだよ!」
アイリちゃんはそう言っている途中にも、壁を一枚破壊する。
「ま、まあ・・・。音でバレたりしないの?」
「来るのはどうせ魚だしな。人魚が来たら、万々歳だ。」
アイリちゃんはヌンチャクを構える。
「スイリも武器を手に入れたようだ。いなりたちはどうすると言っていた?」
「スイリくんを助けたら、人魚の方へ向かうって言っていたけど・・・・どう?霊力の探知は?」
私の言葉に、アイリちゃんは首を振る。
瓦礫を除けながら、アイリちゃんは言う。
「人魚の方に気配はない。ただ、一箇所。このちょうど真下。霊力が集中している・・・どうする?」
アイリちゃんは、私の顔を見る。
・・・この下で、いなりくんとスイリくんが戦っているかもってこと?
「・・・私は、このまま行った方がいいと思う。」
「吾輩も同感だ。2人を信じて、先へ進もう。」
アイリちゃんは、私の言葉に数回頷くと走り始めた。
置いていかれそうになって、慌てて私も走り始めた。
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「あーもう!何匹目だよ!」
「そっちは56匹、こっちは53匹目だ!」
「いや数えてんのかよ!?」
いなりがヤケクソで言った言葉に、スイリは魚たちの頭を跳ね飛ばしながら答える。
しかし、2人の間にはどことなくぎこちなさがあった。
「どんどん湧いてくる・・・ああもう!」
いなりは剣を振る。
見事な軌跡を描き、魚を倒していくがキリがない。
次から次へと、通路の奥から魚たちが押し寄せてくる。
「・・・姉さんたちが上にいる。」
「そうなのか!?まあ、一旦ここを片付けて・・・」
「片付けてからじゃ遅い!」
急にスイリは言葉を荒げる。
スイリは、手を握りしめる。
「人魚は・・・あいつは、あの2人じゃ倒せない。」
「・・・アイリでもか?」
「うん・・・僕といなりが行けば話は別だけど。」
「なら・・・こう行こう!」
いなりは、スイリの返事を待たずに、行動を始めた。
スイリの手を引く。
「何をするっ・・・」
「こうするんだよ!」
いなりは跳ぶ。
そして、前足を1匹の魚の頭に乗せる。
スイリは、『なるほど』と呟いてからいなりの勢いとともに跳ぶ。
「走るよ!」
「わかった、いなり!」
いなりは走り始めるが、スイリがいないのに気がつく。
スピードを緩め、後ろを振り返るとスイリが少し遅れて来ている。
(・・・9歳か。年齢だな。)
いなりは、そう思うとすぐに逆方向へ走り始める。
スイリの手を握り、今度は2人で駆け出す。
「どこだ、どこだ!」
「うるさい!さっき言っただろ!上だって!」
「おい・・・どこだっ・・・!?」
状況を理解した魚と、理解が追いついていない魚で、通路はあっという間にパニックになる。
魚の流れもあちらこちらになる。
「・・・所詮、魚だな。」
スイリはそう言う。
その時。
「いた!」
1匹の魚の声が聞こえる。
いなりはふと振り返る。
その言葉を放ったのは・・・いなりと桜を拘束した、あの大きな魚だ。
「落ち着け!奴らはまだここにいる!槍をもて!もう一度言う!奴らはまだここにいる!落ち着いて槍をもて!」
その言葉に、魚の動きが止まる。
少しずつ、パニックがおさまっていく。
「まずいな・・・整備されちゃ、僕らは袋の鼠だ。」
「そうなる前に逃げるんだよ!」
曲がり角まではまだまだ先。
長い一本の廊下にいる2人は、下手すれば本当に袋の鼠だ。
その時だった。
大きな魚が太い槍を持ち上げ、大きく振りかぶった。
「っ・・・!スイリ!かがめ!」
スイリは、何も言わずに小さくかがむ。
元々小さな体のスイリは、屈んだことによってさらに小さくなった。
そして、魚は槍を放った。
びゅうううううう
風を切る音が鳴る。
「・・・・おりゃあああっ!!!」
咆哮と共にいなりは、剣を突き出す。
できるかどうかは五分五分だった。
自分に当たれば、人魚の傷も相まって死に至る可能性もあった。
(止まって・・・くれ!)
思わず、いなりは目を閉じる。
カンッ
いなりの腕に衝撃が走った。
しかし、痛みはない。
槍を、剣の先で止めたのだ。
「よっしゃ!スイリ!急ぐよ!」
「・・・わかった。ありがと。」
「ん・・・今、なんて?」
いなりの耳がひょこっと動く。
最後の一言を、いなりは聞き逃さなかった。
「どうでもいいだろ!急ぐぞ!」
「かわいいな!ツンデレかよ!」
ほんのりほおを赤らめたスイリ。
2人の間から、ぎこちなさはいつの間にか消えていた。
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ばきっばきばきっ
「この扉硬いな・・・ふんっ!あ、ちゃんと壊れたな・・・。」
1人でどんどんと、問題を解決していくアイリちゃんをみて私は呆然としていた。
9歳・・・だよね?本当に?ほんとの?本当に?
「強行突破だね・・・。」
「何を今更!これがいいと言っただろう!」
アイリちゃんは自信ありげに言う。
・・・ほんっとすごい。
そして、瓦礫を掻い潜って再び別の場所に出る。
「・・・ねえ、アイリちゃん。」
「なんだ?」
「ここって・・・どこ?通路の中の。」
私たちは、アイリちゃんを助けた部屋から出て色んな部屋を見てきた。
広い、何もない部屋や、牢屋。
でもそんなのは“普通“だった。
でも、今いるのは・・・真っ黒で、なんだか動きづらくて。
通路っていうよりは・・・水中みたいな。
「・・・桜も勘づいているか。人魚に近づいている証拠だ。」
「ど、どうして?」
「人魚の本拠地?は水中だからな。霊力や誘拐、ここらの牢屋などの創造に使ったオウタの力も、牢屋などでは発揮できないのだろう。」
「・・・だから、アイリちゃんはさっき『人魚が来たら万々歳』って。」
「そうだ。向こうは万全の準備をしてくる。気をつけろ・・・。」
アイリちゃんの言葉は、不気味さを伴っていた。
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「逃げろ逃げろ〜!」
「なんでいなりは楽しそうなんだ!?」
時折飛んでくる槍を掻い潜りながら、2人は走っていた。
「で?アイリと桜の居場所、わかる?」
「おおよそは!」
「で?2人は誘拐されてから何されてたの?」
その質問に、スイリは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そりゃ、いろいろだよ。姉さんが何してたかは知らないけどさ。僕はもう拷問だよ拷問。質問に答えなかったら切り裂かれて・・・まあ、死んでも言わないけどね。」
「・・・お疲れ様です。」
「まあ・・・とりあえず、僕の指示に従って。いいね?」
「従わなかったら?」
「死ぬ。」
テンポのいい返事だった。
「なら従うしかないようだね・・・で?」
「次の角を左。そしたらひたすらまっすぐ行って。しばらく行ったら階段。登ってね。」
いなりは指示に従い、とにかく動いた。
足を動かし、頭を働かせて。
ぐるぐるぐるぐる回るうちに、槍も飛んでこなくなった。
「はい、止まっていいよ。」
「はあ・・・で?ここからどうするわけ?ここ、アイリがいたところだけど。」
息切れをしているいなりに対し、スイリは平然とした顔でいる。
「今のは魚をまくためにやったこと。今から、助けに行くよ。」
「へ!?」
「はい、とりあえずこの階段登るよ。」
「まって・・・休憩!」
「ない。」
冷たく言い放しながらも、スイリはいなりの手を握って階段を登る。
そこには、アイリが開けた穴があった。
「な、何これ・・・。」
「姉さんは、これで大体いつも行ってるからね。わかりやすいでしょ。」
「わかりやすすぎないか!?」
2人は、そんなことも言いながら素早く走っていく。
いなりの尻尾が時々壁に触れる。
小柄な2人は、スイスイと穴を抜けていった。
「よし・・・人魚に近付いてきた。」
「水中・・・そっか。向こうも本気か。」
いなりがそう言った途端、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「スイリ!いなり!」
「スイリくん!いなりくん!あー、よかった〜!!」
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「スイリ!いなり!」
「スイリくん!いなりくん!あー、よかった〜!!」
少し、アイリちゃんと陰で休憩していると、2人が走ってきた。
「いなりくん!大丈夫だった?」
「うん。桜・・・ありがとう!」
「スイリ!よくやった!」
「姉さん・・・今回も派手に壊したね。」
私と守護霊さん、お姉ちゃんと弟くんで各々再会をしている。
いなりくんが無事で、元気でいるのは涙が出るほど嬉しかった。
スイリくんも辛かっただろうに、アイリちゃんに突っ込むぐらい元気なのは、本当に嬉しい!
そして、一段落ついた頃。
アイリちゃんは息を大きく吐いてから、こう言った。
「スイリ、いなり・・・桜も勘づいているだろう。もう、吾輩たちは人魚の近くまで来ている。」
「ああ。大体わかったよ。」
「僕も。」
「・・・私も。」
薄々、何かを感じ取っていた。
霊力を感じ取れるようになったのが少し嬉しくて、少し怖かった。
私たちの言葉に、アイリちゃんは数回頷いた。
「おおよそだが・・・ここから3枚の壁を破ると、人魚のお出ましだ。」
そして、間をおいて言う。
「死んでも恨みっこなし。文句があったら言え。」
「ないね〜、俺は。覚悟なんて決まってるし。」
「僕も。いなりと同意見。」
「あとは桜だが・・・」
「いや、怖いし、恐ろしいけど・・・なんだってできる。使いだもん。やらなきゃ・・・終わらない。」
「だろうね。」
アイリちゃんは、満足そうに微笑んだ。
「ではいくぞ!」
アイリちゃんはそう言って、最初の一枚目の壁を破った。




