第三章 初めての未来
これで完結となります!
その後は、ブライアンの言った通り、トントン拍子に事は進みました。
彼は魔力持ちである事を隠すのをやめ、本来の黒い髪に戻り、色付きの眼鏡を外し、身なりを整えました。
すると、ずっとモブだったブライアンは学園一の人気者になりました。その上、今まで作っていた発明品の魔道具の特許を取得して、あっという間に学生起業家として世間に名を轟かせるようになりました。そして颯爽と侯爵家を訪れました。
ブライアンは私の父親にある提案をしました。すると驚いた事に父親である侯爵は、それをあっさりと了承したのでした。
今の王太子は前世とは違い、学園の勉強も帝王学も熱心に取り組んで、国王陛下や重臣達の信頼を得るようになっていました。
男爵令嬢も学園の勉強だけではなく、私からのお妃教育や淑女教育に励み、三年生に進級する前に我が侯爵家の養女となりました。
そして私はというと、男爵令嬢にお妃教育を施しながら、ブライアンが発明した魔道具を使って、せっせと諜報活動をしていました。
ほら、私には前世に、無意識のうちに策略にはまり毒杯を飲まされたという、苦過ぎる過去がありますからね。少しはやり返してやらねば気がすみませんもの。
そしてついにあの運命の卒業式の日がやって来ました。
ダンスパーティーの始まる直前、卒業生とその両親、そして王族を含む来賓の前で、王太子が言いました。
「この場を借りて、皆に発表したい事があります」
会場がざわざわし始めました。
王太子のすぐ後ろには近頃王太子の周りをストーカーしていた子爵令嬢が、両手を胸の前で組んで、顔を紅潮させています。
「この度私とフローラ侯爵令嬢との婚約が円満に解消になった事を発表します」
「「「えええっー!」」」
学園の講堂の中は驚きの声が上がりました。確かに子爵令嬢がうろちょろしてはいましたが、王太子と私はとても仲睦まじい様子を見せていましたから、そりゃあ驚くでしょう。
私は来賓席にいる王弟殿下にチラッと目をやりました。
彼の口角が上がるのが見えたので、私も扇子で口元を隠して同様に口角を上げたわ。
「私は新たに私の横に立つ侯爵令嬢と婚約をする事になった。彼女が優れた女性である事は皆も知っていると思うが、既に后教育も進んでいるので、心配はしないで欲しい。
そしてフローラ侯爵令嬢も新たに、宰相のご子息である大魔法使いのブライアン伯爵令息との婚約が整った事も合わせて発表させてもらう」
「「「ワアァ・・・!!」」」
講堂の中は思いがけない発表に騒然となった。特にブライアンを狙っていた多くの女性達が悲鳴を上げました。
そして王弟殿下はそんな馬鹿なと呟いて立ち上がりましたが、姪である王女の呟きを耳にして固まりました。
「酷いわ、お兄様ったらご自分達の事ばかり。ついでに私達の婚約の事も発表してくださればいいのに…」
そうです。王太子殿下の妹姫様も私の弟と婚約したのです。王家と我が侯爵家は家族ぐるみで交流しておりましたが、いつしか二人は思い合うようになったのです。
そしてその二人の恋の橋渡しをしていたのが、あのかわいい黒猫でした。
普通に考えれば私の父親が私と王太子の婚約破棄を簡単に認めるはずがありません。王家との繋がりが欲しいのですから。
しかし、その繋がりは私ではなくても良かったのです。
そして新たにこの国の右腕と称えられる宰相と縁が結ばれるのですもの、父親がブライアンとの婚約をすんなり認める筈です。
もっとも、今後父親には王家に対して、余計な口出しなど一切させるつもりはありませんが。
王弟殿下は、自分が王族の重要事項決定の際、蚊帳の外に置かれていた事実に気付いて真っ青になっていました。
私は今日の日の為に、せっせと王弟殿下の悪事やら不正の証拠を集めて、それを国王へ提出していたのです。
度重なる浮気も問題でしたが、それが合意ならまだしも、他国から密輸した薬を使って相手を思いのまま操っていた行為は犯罪です。見逃せません。
その上、その薬を用いて王太子を廃嫡させて、自分がその後釜に座ろうとしていた事は国家反逆罪と呼べるほどの大罪です。
自分に付いていた影にもその薬を使用していたのですから、言わずもがなです。
まあ、王家の権威にも影響するので、このような場所では断罪しませんけれどね。
それに彼が何故そんな野望を持ったのか、その原因を私は王家には伝えませんでした。
前世とは違い、彼との関わりを避けていたので、彼のストーカー行為を知っている者は私と黒猫くらいしかいませんでしたので、態々報告する必要はありませんでした。
それに、彼の行為がたかだか一人の侯爵令嬢を自分のものにする為だったと知られたら、私が王族を誑かした悪女だと言われかねないではありませんか!
そうそう、何故私と王太子と元男爵令嬢があの王弟の魔の手から逃れられたのかというと、ブライアンが防御魔法をかけていてくれたからです。
「前世の時は気付くのが遅くて、君を守れなかった。だから今回は準備万端で事に臨んだんだよ」
王太子との婚約が解消され、その後でブライアンと婚約が新たに結ばれた二ヶ月前に、彼にこう言われました。
なんと、彼も生まれ変わっていたのです。いいえ、彼が私を生まれ変わらせてくれたのです。
私があっさりと自分の人生を諦めてしまったというのに、彼は最後まで諦めずに藻掻き続けてくれたのです。そして禁書である魔導書を見付け出したのです。
それなのに、私は彼の問いかけに、
「もう、生まれ変わりたくはありません。メンドーなので・・・」
と言ってしまったのです。
その時の彼の気持ちを思うと申し訳なくて切なくて、胸が苦しくなります。
そして、諦めずに再び私のためにやり直しをしてくれた彼にただただ感謝です。
「勝手に君を生まれ変わらせてしまった事に罪悪感がなかったとは言えない。
だから、君が以前のような残酷な目に遭わないように準備をしていた。それに、精神的にきつかったけれど、最終決断は君に任せるつもりだった。君の人生だから。
でも、君は自分の意志で以前とは違う道を見い出してくれた。あの入学の日、保健室でそれを知った時、僕は本当に嬉しかった」
彼は初めて私の前で涙をこぼし、私を強く抱き締めてくれました。
王太子の発表が無事に終わった後、彼につきまとっていた子爵令嬢が王宮騎士達に王城へ連れて行かれました。
彼女は自ら王弟殿下に接近されたようですが、意図的に王太子に近づいたわけではないようなので、被害者だという事が証明されるでしょう。そしてそうなれば、もはや彼は逃げ切れないでしょう。
やがて講堂に音楽が流れ出しました。いつの間にか、ブライアンが私のエスコートをする為に横に立っていました。
今日も烏の濡れ羽色の艷やかな髪に夜のような神秘な黒い瞳が素敵でぞくぞくします。
「せっかく生まれ変わったのに、再び君のように美しくて気高くて、優しい女性と婚約破棄するなんて、アレは本当に愚かだな。前世よりは幾分ましだけど」
王太子以上に美しく品位があり有能な婚約者が、不敬な発言をしました。私は一礼をして彼の手を取って踊り始めながら、ニッコリと微笑みながら、同じく不敬な事を言ってみました。
「あの方が愚かだったので、私達は婚約出来たのですよ。ですから、今回は、過去の復讐はやめて、運命の人と結ばせてあげたのですよ。
私は、貴方と共に生きられるだけで幸せですから、そのお裾分けですわ」
「君って、本当に気前がいいね!」
ブライアンは目を細めて幸せそうにフローラを見つめると、彼女を思い切り抱きしめながら、大きくクルリとターンをしたのだった……
結局王弟殿下は、王位継承権だけではなく王族の資格を奪われ、王家直属の荒れた山岳地帯にある荒れた古城に幽閉されました。
王弟妃には何の落ち度もなかったので、今後の人生設計を自身で選択する自由を得られました。
彼女は自ら子供共にこの国に残る事を選び、一代限りの女子爵として王家の直属の土地を貸与されました。
彼女は王族とはその後も良い関係を続け、領地経営と子育て、そして母国の隣国と交流に尽力しました。
時々王都に戻って来ると、フローラや王太子妃達とお茶会をしましたが、彼女はとてもいきいきしていて、夫がいなくなってからの方が幸せそうでした。
読んで下さってありがとうございました。
異世界恋愛モノのテンプレ要素をみんな突っ込んでみました。
同じ目的で、別に連載中の作品があるので、こちらも読んで頂けると嬉しいです。
ただし、この作品との関連は全くありません。
「社交だけを求められた白い結婚でしたが、何故か王宮の夜会でお古のドレスを着ろと命じられました。私の侯爵夫人としての評判はガタ落ちですが、これって契約結婚の意味ありますか?」
https://ncode.syosetu.com/n3286hb/