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小心貴族と竜の姫  作者: 衣谷強


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第七話 近付いて、離れて その五

「キーヤ嬢、ルビナ嬢と随分打ち解けたみたいだね」

「そうだな」


 夕食の後、居間の長椅子で寛ぐラズリーの言葉に頷く。

 ルビナとキーヤは談笑し、本の面白い所を教え合っていた。

 とても良い傾向だ。

 ……口づけとか余計な話が無ければ。


「さっきまでべったりだったのに、急に離れられて寂しいかい?」

「そんな事は無い」


 二人はスフェンさんに言われた通り、私の側にすり寄る事を控えている。

 それ自体は本当に有り難いのだけど、


「……」

「……」


 時折こちらに、何かを待つ様な目を向けてくるのはどうしたもんだろう。

 少しすると、ちょっとがっかりした顔をされるのも困る。

 勿論ルビナにもキーヤにもそんなつもりは無いんだろうけど、何だか責められている様な気分になるんだよ!

 何とか空気を変えたい。……そうだ!


「キーヤ」

「はい!」


 ちょっと! 嬉しそうな顔をして寄って来ないで!

 待て、を解かれた犬みたいな様子だけど違うから!


「明日の国王陛下との謁見だが、キーヤも共に来て欲しい」

「え、謁見……!? 私が、ですか?」

「あぁ。ルビナとキーヤが仲睦まじい様子を見れば、キーヤのお父上も喜ばれるだろうと思ってな」

「何て温かい心遣い……! ありがとうございます!」


 あ、うん。そんな涙ぐまれると心が痛い。

 軍務大臣に成果を早めに認めさせて、キーヤを家に帰したいって私の都合だからなぁ。


「ラズリー。問題無いか」

「うん。良い考えだと思うよ。陛下も安心されるだろうしね」


 そう。ここで何らかの成果を示さないと、陛下が心労で倒れかねない。

 それにルビナが私以外の人ともよしみを結べる事を示せれば、新たな友人作りにも希望が見えてくる。


「では明日に備えて、風呂を済ませて寝るとするか」

「あの、ディアン様」


 ルビナがいつの間にか近くに居て、何か言いたそうに私を見つめてくる。

 何だ? 明日の事で確認したい事でもあるのだろうか。


「……今夜も一緒に眠ってもよろしいでしょうか……?」


 何でそんな事今更確認を……?

 って、あ! スフェンさんの話が効いてるんだ!

 あっぶない! 当たり前に受け入れかけてた!

 ここは改める好機だ!


「いや、もう王都に来て随分経つ。そろそろ別の部屋で休む様にしよう」

「……分かり、ました……」


 目に見えて落ち込むルビナ。


「……っ……」


 何かを言い出そうとして、口をつぐむキーヤ。


「……」


 責める様な、諦める様な目を向けるラズリー。

 え、あれ? 私何か間違った事言った!?

 誰も私の提案を望んでいない事が伝わり、少したじろぐ。

 いや待て待て待て! 恋人でも夫婦でも無い男女が同じ寝台で寝る事自体が間違ってるんだって!


「スフェンさん、キーヤの為に用意した部屋は使えますか」

「……はい。用意はしておりますが……」


 困った様な顔をするスフェンさん。

 ……やっぱり厨房での話は、淑女の振る舞いと言うより、恋の手管だったのか……。

 ならば尚の事、この好機を逃す訳にはいかない!


「私はそちらで休みます。支度をお願いします」

「……承りました」


 スフェンさんにそれだけ頼むと、私は荷物を取りに居間を後にした。

 ……きっとこの選択は間違いじゃないと信じて……。

正しいかどうかはいつだって多数派が決めるものだ。


読了ありがとうございます。

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