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小心貴族と竜の姫  作者: 衣谷強


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第四話 突き付けられた武器の名は その五

「お待たせしました!」


 食堂で本の選別を続けていると、ルビナとスフェンさんが料理を運んで来た。

 ……スフェンさんの表情が硬い。

 何だ? 失敗したのか?

 でも止めないと言う事は、命に関わる事は無いんだよね!? そうだと言って!


「わ! 美味しそう!」

「見事だ」

「ありがとうございます!」


 大きく長細い皿の上には、麦餅で鶏肉と生野菜を挟んだ物がずらりと二列に並んでいた。

 見た目は良いな。見た目は。

 それと温かな汁物が、私とラズリーの前に置かれる。

 ほぼ初めて料理をするルビナには丁度良い選択だろう。

 ならばスフェンさんの表情の理由は?


「いっただっきまーす!」

「いただきます」


 覚悟を決めて一口齧る。


「!」


 こ、これは……!


「うん、美味しいね!」

「ありがとうございます。ディアン様、いかがですか?」

「……美味い」

「良かったです!」


 美味いなんて一言じゃ足りない!

 柔らかく焼き上げられた鶏肉に絡む、旨味の詰まった少し甘めのかけ汁!

 それを高級であろう麦餅と新鮮な生野菜が包み込み、柔らかな味と楽しい食感を生み出している!

 ……成程。この鶏肉はラッピス家直伝の味。

 それを挟んだだけのものを料理と言うには、と思うからこそのあの顔か。

 となるとルビナが手掛けたのは汁物。心して飲もう。


「では、今食べていない方の列の麦餅をお召し上がりください」


 ? この二列には何か意味があるのか?

 言われるままにもう一つを手に取り、眺める。

 特に違いはないようだが……。

 頬張る。うん。同じ味だが……?


「右の列が私が手本として作った物。左がそれを見ただけで作ったルビナ様の料理です」

「え」


 ど、どう言う事!?

 初心者だよね!? 経験無いんだよね!?

 それが、見ただけで!?


「いささか自信を無くしますな。下拵えの工夫、焼き加減、かけ汁の調合、長年の積み重ねで得た技術の全てが、教えるまでも無く完璧に再現されたのですから……」


 それであの表情でしたか!

 それはそんな顔にもなりますね!


「ではこの汁物もルビナが作ったのか」

「こちらは二鍋分作るのも無駄になるので、一緒に作りました。……おそらく次はお一人で作れると思いますが」


 文字にせよ、料理にせよ、学習が早いのは良い事だ。

 ただ速度が! 速度がちょっと、さぁ!

 ルビナ自身の力だし、一生懸命やってる結果だから、文句を言う気は無いけど、怖いものは怖い。


「ディアン様、汁物はいかがですか?」

「あぁ」


 竜の恐るべき力は一旦忘れて、匙を取り汁を口に含む。

 うん! 美味い!

 地はおそらくさっきの鶏肉の茹で汁だろう。

 塩をまぶして肉を締めてから茹でる事で、肉の旨味を閉じ込めると共に、茹で汁を汁物の地にするやり方は無駄が無くて好きだ。

 更に沢山の野菜の甘味! 控えめな塩加減!

 それらが調和して、柔らかい味わいに仕上がっている。

 何とも安らぐ味だ。


「美味いよルビナ」

「良かった! ありがとうございます!」


 小さく跳ねて喜ぶルビナ。

 私の世話を焼くのが幸せ、と言っていたから、こう言うのにも喜びを感じるのかも知れない。

 料理なら私だけに尽くすのとは少し違うし、この方向に誘導していけたら良いな。


「もっともっとお料理を勉強して、ディアン様の喜ぶ物を沢山作れる様になりたいです!」

「そうか」


 私の思惑とは裏腹に、ルビナは私へ尽くそうとするのを止める気は無い様だ。

 ラズリーが麦餅をかじりながらにやにやしている。

 スフェンさんの表情は、前半強張り、後半緩んだ。

 私が解放されるのはまだまだ先らしい……。

「胃袋を制す者、恋愛を制す」んっん〜 名言だな これは。


読了ありがとうございます。

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