第二話 張り詰めたものは綻んで その三
「ディアン様、着替え終わりました」
「あぁ、分かった」
扉を開けて部屋に入ると、一目で高級と分かる寝巻きに身を包んだルビナが、服を持って立っていた。
えーっと、それ私の服、だよな?
何でルビナが持ってるんだ?
「ディアン様、お着替えお手伝いします」
だぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁ!
そんな侍女みたいな事しなくていいんだってばぁ!
私の役に立ちたいという気持ちは有り難いけど、こういう事されるのは気が咎める!
「ルビナ、私はこれまで従者と言う者を持った事が無い。その為、身の回りの事は全て自分でやってきたのだ。なので着替えの手伝いなどは必要無い」
「そう、ですか……」
あぁ、目に見えて落ち込んでる。
前程の強迫的な尽くす気持ちは薄れたと思ったんだけど。
「何をそんなに落ち込む。ルビナはこんな事をしなくても十分私の力になってくれている」
私の首が繋がってるのは、間違い無くルビナのお陰だしな。
「あ、ありがとうございます! ……でも」
「何だ」
「昨日、気を失われたディアン様のお世話をしていた時、今までに感じた事の無い幸せを感じたのです」
何言ってるのルビナ!
「街で私が差し出した菓子を召し上がって頂いた時も、宿屋で麦餅で挟んだ肉を召し上がって頂いた時もそうでした。ディアン様の身の回りのお世話をすると、胸の中が暖かくなるのです」
まずいまずいまずい!
私の世話を通して母性本能に目覚めたのか!?
以前迷子の親探しに力を貸したりしてたから、面倒見は良いなと思っていたけど!
いや、母性ならまだ良い。
これがラズリーの言う通り、恋愛感情だとしたら……!
「ルビナ、人に尽くして喜ばれる事に幸せを感じる、それは素晴らしい事だ」
「はい!」
「それは私だけでなく様々な人に広げていくと良い。それが親善大使としても、成竜の儀にも大きく貢献する事になるだろう」
「はい!」
「だが肌を見せる事は人間の世界では、浴場か看護などの必要な時以外は避けるべきなので、一人で着替える。後ろを向いていてくれるか」
「はい!」
素直に着替えを渡してくれるルビナ。
何とか誤魔化せた様だ。大急ぎで着替える。
「待たせた」
「では寝ましょうか」
寝台に潜り込むルビナ。
反対側から寝台に入る。
うっわ柔らかい!
耐えていた眠気が一気に襲って来る!
大丈夫。広さは十分にある。
端っこに寝れば大丈夫。
ルビナの方を見ない様にして、このまま幸せな眠りに……。
「ディアン様……」
何でそんな切なそうな声を出すんだ!
寝台に入ったばかりだから寝た振りも出来ない!
「どうした」
「あの、手を握っても良いですか?」
あああぁぁぁ! そう言えばそれをどうにかするのを忘れてた!
でももう眠い! 頭が動かない!
「……分かった」
「ありがとうございます!」
伸ばした手をきゅっと掴まれる。
柔らかい、すべすべ、温かい……。
あ、まずい、ちからが、ぬけ、る……。
眠気には勝てなかったよ……。
読了ありがとうございます。




