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アイドルなんて嫌いです!  作者: 式神 影人
17/19

ベッドルーム

投稿日 H27.12/22



「……紅梨…なの?」


 鬼堂家の手に落ちたであろう以上、電話の主が本人である可能性は低い。そう考えた夢乃は慎重に言葉を紡ぐ。そしてそれは正解だった。


『よお、久し振りだな』


 声の主はやはり鬼堂夏彦だった。威圧的でも尊大でも無く、登校時のような軽い挨拶。身構えていた自分が愚かに思える程に。

 だが決して気を許すこと無く冷静に対応する。


「紅梨は…無事?」


 この問い掛けに電話の向こうの口調が変わる。


『ぁあ?アイツなら俺の隣で寝てるよ。どういう意味かは説明しないでも解るよなぁ?』


 「クッ…」と歯噛みしながらも夢乃は平静を装う。


「…こんな真似をして、本当に櫻坂と神名代に敵に回すつもりですか?」

「あ〜、そういや宣戦布告してたっけ。まあいいや、お気に入りの“玩具”を取り返したいならいつでも来いよ、招待するぜ。ウチのモンにも言っとくからよ」


 そう言って電話を切った後、わざわざ御丁寧に住所と地図を貼付したメールを送ってくるなど不遜にも程があるというものだ。


 現在時刻、午後9時12分。

 このまま感情に任せて突るなど愚の骨頂。そもそもこれ以上深夜の行動は両親が許さないだろう。夏彦の目的が紅梨の命で無い以上、焦る必要は無い。ただ身体であったなら既に手遅れかもしれないが…。

 もし夏彦が紅梨を餌に戦を仕掛けてくるつもりならば相応の準備も必要だと判断し、夢乃は帰宅の途についた。







 ――時は数時間ほど遡り、午後2時の鬼堂別邸。


「放してください!ここは何処なんですか!?」


 宅配業者を偽った何者かに拉致された紅梨はそのまま車に押し込められ見知らぬ館へと配送された。


「ヨォ、よく来たな。まぁ上がれよ」


 大きく堅牢な鉄の門扉をくぐり、辿り着いた玄関の中で出迎えたのは気安い口調の夏彦だった。


「どういうつもりですか夏彦くん!何でこんな……」

「アハハ…、まぁいいじゃん。オイ、コイツにアレを……」


 「畏まりました」と頭を下げ、紅梨の両腕を抱えるように何処かに連れて行こうとする。この者たちが男性であれば紅梨は容赦無く“抵抗”出来たであろうが、困った事に夏彦以外拉致した者も含めて全員が女性なのだ。

 しかも皆、二十歳前後の若くてスタイルが良い。肘に押し付けるように伝わる柔らかさに本来なら鼻の下を伸ばす処だろうが、逆に微かな苛立ちを感じたのは紅梨がかなり女性に偏り始めている証拠だろう。


(何コレ?夏彦くん、こんな美人なお姉さん達に囲まれてるとか?巫山戯てるの?あのドスケベェ!何て羨まし……くないな。何で?)


 じゃあ何に自分は苛立っているのか、紅梨がその原因を突き止める余裕は無かった。






「ちょ…夏彦くん。何だよコレーーーーーッ!?」


 バンッ!と勢い良く開け放たれた扉から現れたのはメイド服姿の紅梨だった。連れて行かれたのは衣装部屋。そこで本職のお姉さん達に抵抗する間もなくあっという間に下着まで脱がされ、このメイド服を着させられたのだった。

 その際、ジュニアサイズのメンズ服を着た女の子だと思っていたメイド達は「あら?」と紅梨の身体の違和感に気付き、着替え終わった姿を見て、「あらあらあら〜」と驚嘆の声を挙げたのだった。



「おおッ!?似合うぞ、紅梨。マジカワイイぜ」


 言うやいなや手にした一眼レフを駆使し、あらゆる角度から目にも留まらぬフットワークでシャッターを切り続ける。

 そんな仕えるべき少年をメイドの女性達は「嗚呼、ナルホドネ〜」と得心のいった生暖かい目で見詰めていた。


「…ちょ…ヤダ…駄目ッ」

「ハハハ、別に恥ずかしがる事は無いだろ。そのパンツだって俺が用意したやつで、紅梨自身のじゃ無いし」

「恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ、馬鹿ッ!!」


 撮られまいと身を捩る度にヒラヒラと舞い上がるミニスカートの裾を必死に押さえながら逃げようとするも即座に回り込まれてフラッシュがたかれる。


「これまで散々俺の秘蔵コレクションを台無しにされたからな。その補填はさせて貰うぜ!」

「煩い!この変態。ボクなんか撮って何が嬉しいんだよ!?」

「紅梨がコソコソ撮るなって言うから堂々と撮ってるんだけどな」


 二人のメイドは思った。「いや、からかい甲斐が有り過ぎでしょ」と。と、同時に何故夏彦が自分たちに手を出さないかも理解した。性行為よりパンチラやオッパイ…それ以前に好きな相手をからかって気を惹こうというお子様なのだと。

 (初等部か!?)と心の中でツッコミながらもまだ毛も生えてないツルペタに負けるのは女として納得いかないとも思うのだった。


(ああもう!これ以上夏彦くんのペースにのまれてたまるか)


 恥ずかしがらせたいなら恥ずかしくなくなればいい。そう考えた紅梨は精神をルージュ=ペァへと切り換えようと決意する。


「(ボクはルージュ…ボクはルー…)…ッニャアアアァァァーーーーーッ!?」


 自分に暗示を掛け、視られる事が前提であるアイドルのルージュ=ペァに切り換わろうとする瞬間、物凄い勢いでスカートが捲り上げられた。


「な…何するんだよ。こんな事、今時初等部で…も…」


ゾクッ…


 振り返った紅梨が目にしたのは凍えるように冷たい目で睨め付ける夏彦だった。


「お前…いま何しようとした?」

「な…何って?」


 それは裏社会を生きる者の姿だった。答えを間違えれば即座に殺されかねない程の威圧的な眼差しに身が竦む。


「折角久し振りにダチと会えて楽しんでるのに偶像アイドルなんざ引っ張り出してシラケる真似すんじゃ無ぇよ!」

「あ…」


 乱暴に一眼レフをベッドへ投げ捨てるとゆっくりと紅梨の側に近付いてくる。


「…ッザケんじゃ無ェーーッ!」


ビリッ!

 夏彦はメイド服の胸元を掴むと引き裂くように擦り降ろした。


「い…嫌アアアァァァーーーーーッ!!!!!!」


 露出させられた上半身を抱き締めるように隠し、身体を丸めて座り込む。


「遊びは終わりだ。コイツを風呂に入れて俺の部屋へ連れて来い」





「……ぅ…ぅう……」


 浴室内にシャワーから流れるお湯が弾ける音と紅梨の嗚咽が響く。

 言われるがままに身を清めるしかない事が悔しいのでは無い。夏彦の言葉の意味を理解し、これから我が身に振りかかるであろう屈辱が哀しいのでも無い。自分の浅薄さが情けないのだ。

 夏彦は久し振りの再会を喜んでいて、自分に対する態度は紛れもなくいつもの友人だった。

 なのに自分はそれに気付かずに友人以外になろうとしていた。

 いつもならあの後、「いい加減にしろ!この馬鹿ーーーーーッ!」とお仕置きをして終わりだった。それがお決まりの二人であり、コミュニケーションだった。夏彦はそれを望んでいたのだ。

 出迎えた時から鬼堂家の当主では無く、気安い態度だったのはそう暗示していたからだ。

 例え立場は敵対する家系の者となろうと俺達は友達だと教えてくれていたのだ。

 考えてみれば紅梨を拉致するだけなら配下の男衆を寄越した方が確実だったろう。荒事に慣れた強面達だ。いくら抵抗しようと苦もなく完遂していただろう。

 しかしやって来たのは女性がたった二人だった。宅配業者を偽ったのも穏便に済ます為に違いない。鬼堂の名を出せば間違いなく扉を開けずに警察を呼んでいただろうし、事情聴取の名の下に息の係った者が連れ去り、大事になるのは確実だった。

 あのまま以前のように接していれば何事も無く帰れたかもしれないのに自らそれを閉ざしてしまった。

 紅梨は身体の泡と涙を一緒に流し去りタオルで拭ったあと、バスローブを纏って夏彦の部屋へと向かったのだった。



ガチャ…


「……ッ!?」


 紅梨の視界を塞いだのは白い男物のYシャツだった。


「それを着ろ」


 投げ付けた本人は不機嫌そうに顔を背けている。思えば学校で着替える時もクラスの男子達を率いて決して見ないように背を向けて気遣ってくれていた事に改めて気付く。


 重い沈黙が部屋を支配して聴こえるのはバスローブの衣擦れの音だけだ。


「お…終わったよ」


 立ち上がった夏彦は紅梨の肩を掴み、立ち位置を入れ換えるとベッドに向けて突飛ばし、のし掛かるように覆い被さってきた。


「い…嫌ッ!」


 押し退けようと突き出した手を掴まれ、ベッドに抑え込まれる。


「おとなしくしてろ。いいなッ!」


 紅梨は瞼と口をギュッと閉じ、身を固くする。そしてゆっくりと夏彦の顔が近付き、ベッドはギシッと軋みをあげた……。











「・・・・・・・・・何コレ?」


 紅梨はついさっきまで我が身に起きた事を思い返す。


1:無理矢理服を脱がされる

2:セミヌードを見られた上に突き飛ばされる

3:シャワーを浴びて戻ると投げ付けられたYシャツを着るよう命じられる

4:突き飛ばすようにベッドに押し倒され、覆い被さるようにのし掛かられる

5:「・・・」←今ココ…。


 いや、自分で言うのもナンですが一応覚悟はしましたよ、そういう事されるんだって…。シャワーも無意識に念入りに洗っちゃいましたしね。

 でもね、いざとなったら怖くて、身が竦んじゃって動けないんですよ。なのにボクの気持ちなんて無視してYシャツを引き裂いて、抵抗出来ないように押さえ付けて、叫び声を挙げられないよう口を塞がれて無理矢理……。


 ……って、考えてたんですけど。寝やがりましたよ、コイツ!それはもう無防備に無邪気な顔で。

 左手でボクに腕枕して、右手は腰の辺りに。向かい合うように抱き締められてますよ。


(ボクは抱き枕か!?)


 どうせ聴いてはくれないだろうけど、(初めてなんだから優しくして欲しいなぁ)とか(せめて避妊具くらい着けてくれないかなぁ)とか考えてたボクの方がエッチな人みたいじゃないか。

 今までの前振りは何だった訳?いや、期待してたんじゃ無いよ。ただボクの決死の覚悟を返せ!っていうか…。

 嗚呼もう、全てボクの髪を撫でるこの手が気持ちいいのが悪いんだ。大体、顔に胸板を押し付けてくるから息苦しいじゃないか。何で何気に結構筋肉質なんだよ。ボクなんかどれだけ頑張ってもちっとも付かないのに…。いい匂いさせんな…。



 ハッキリ言って肩透かしを喰らった八つ当たりだった。「俺のモノになれ」とか「正しく使ってやる」とか、明らかに人権や尊厳を無視した尊大な態度をとり、服を投げつけたり、突き飛ばしたりと粗雑で乱暴な扱いを受けたのだから泣こうが喚こうが蹂躙されると思うよね?

 髪を掴まれて口を強引に開けさせられたりとか…。


「………」

「………えっ!?」

 

 どうやら思考が口から洩れ出てしまっていたようだ。耳まで真っ赤にした夏彦が可哀想な子を見る目でドン引きしていた。


「えっと……いつから?」

「あまりティーンズ向けのファッション情報誌を真に受けない方がいいと思うぞ」


 十代の女子向けに刊行されている情報誌は割と過激で生々しい記事が掲載されている事がある。

 いつ何処で初体験をしただの、男子という生き物の特徴だの、キスから性行為の仕方や、果ては基礎体温からの危険日管理方法やピルの使用法についてまで書かれているのだという。

 その記事の真偽は兎も角、性に目覚め始めた女の子に対し過剰なまでに興味を煽っている場合がある。男子が漫画週刊誌で有り得ない世界を馬鹿みたいに読みふけっている間に女子は数段上の世界を視ているのだ。そんな話題に取り囲まれた紅梨の思考が暴走しても仕方がないだろう。


「…っていうか、お前ってそういう趣味なのか?」

「ば…馬鹿ッ!?そんな訳あるか!この変態!痴漢!強姦魔!!こっち視るな!!」


 慌てて背中を向けるように身体を反転させる。紅梨としては恥ずかしくてまともに顔を会わせられないので良策だと思ったのだが直ぐに愚策だったと知らされる事となる。両脇腹から腕を差し込まれ、引き寄せるように抱き締められたのだ。


「ちょ…コラ!何処を触って…」


 身を捩って脱け出そうとするも耳許で囁かれた言葉で動けなくなってしまった。


「…良かった。櫻坂から取り戻せて」


 夏彦くんは母様がUPしたボクの動画の人気に乗じてアイドルに仕立て上げて利用していると思っていたらしい。

うわ…ムズ痒……

頑張れ、夏彦。逆に掘られるなよw

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