表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

20.セレーネの行方


ウーガダールは、米国で言えばペンタゴンが丸ごと、第3艦隊とともに移動するようなものです。

他国にとっては脅威にも映りますから、その所在は特段言及されません。

最近は動くことが多くて隠すのも大変です。


 ローレンスからのメッセージを受け取ったメルファリアは、ケイトリン・ロイド少尉が出迎えのために連絡艇から降りるのを待たずに自ら乗り込んだ。軍事要塞には似つかわしくない装いのまま、メルファリアが連絡艇のハッチに手を掛けてリサを手招きする。

「リサ、急いで」


 大きめのトランクケースを持つリサは、格納庫の弱重力にもたついてメルファリアに手を伸ばした。

「申し訳ありません、姫様」

 大急ぎで、荷物を無選別に詰め込みすぎたかもしれない。リサよりも大きく見えるトランクケースは、その見た目以上に重かった。それでもなんとか連絡艇に飛び込むと、メルファリアがドアを閉めてロックを掛けた。


 そこまで急かした覚えのないロイド少尉はやや面食らったが、特に文句はないので取って返すように連絡艇を発進させることにした。

「ではこちらにお座りください。手荷物はココへ」

 これから向かう旨をプロミオンに連絡すると、ローレンスもその早さには驚いたようであった。


 §


 フェイザーという強烈な装置を内包したまま、火星の人工衛星セレーネが動いた。行先はまだ明らかでないが、それでも様々な情報と状況から、惑星ノアを狙っている可能性は高い。仮に狙われれば、惑星ノアは被害を被るどころか、惑星そのものが消滅してしまう事態すら考えられる。

 そういったことを、アリスが状況を整理して、メルファリアに説明した。


 より大きく動揺したのはリサの方で、惑星ノアの消滅に慄いたのをメルファリアがなだめることになった。そのせいか比較的冷静なままだったメルファリアに、今度はレオンがあらかじめ頭を下げてお願いをした。

「惑星ノアが気がかりとは思いますが、ここは堪えて、セレーネの行方を調べることに協力願えませんか?」

 何もせずに待機を要請するより、メルファリアに対しては何かしらの助力を乞うのが良いと考えたからだ。


 落ち着いているならば、メルファリアは飲み込みが早い。iフライト適性の決して高くない自分がこれから惑星ノアへと向かったところで、無駄に多くの時間を費やしてしまう事になるだろうとは認めざるを得ない。ならば自身はセレーネの捜索に注力し、その対処については、ローレンスとレオンに託すことになろう。

「わかりました。なんとしてもセレーネの行き先を突き止めましょう」


 メルファリアは直ちにスピンクスへの情報提供依頼を指示し、ローレンスには軍の持つ情報へのアクセス許可を依頼した。並行してアストレイアを呼び出し、ラーグリフと同じドックへの移動を命じた。

「わたくしは私なりに探してみます。それぞれ連絡は適時に、という事で良いですね?」

 レオンもローレンスも、間を置かずに頷く。


「それからレオン」

「は、はいっ」

「太陽系では激しい戦いもあったとの事ですが、無事で何よりです。ですがまだお疲れさまと言う訳にはいきません。引き続き、惑星ノアの為に宜しくお願いします」

「もちろんです。(メルファさんの為に)精一杯頑張ります」


 メルファリアは自分から歩み寄ってレオンの手を取った。なので、そこにリサの付け入る隙は無い。

「無理はしないで、と言えないのが心苦しいところです」

「そのお気持ちだけで、俺はアンドロメダ銀河にだって行けます」

 メルファリアはジョークだと思ったかもしれないが、レオンは割と本気だった。セレーネを止める為なら、iフライトレートの記録更新だって望むところなのだ。


 §


 プロミオンにはメルファリアとリサの専用室があり、普段は全く使われないが、アメニティ用品などがそのまま置かれている。もちろんのこと、レオンが触れたりはせずに管理はリサに一任してあり、今回のように訪れた機会にメンテナンスをするが、戦闘があるとやはり散らかったりするものだ。


 それを見てメルファリアはリサと共に後片付けを行い、戦いの激しさを想像もする。リサが持ち込んだトランクケースから幾つかを入れ替えてすますと、アストレイアから移動完了の連絡が来た。

「ここで少し息抜きをと思いましたが、待たせてしまっては落ち着きませんね」


 二人はアストレイアから遣された連絡艇に乗り、簡単な挨拶のみで慌ただしくプロミオンから去っていった。スピンクスのエマリー女史からは予想外の速さで返信があり、情報の受け取りの為に出向かなくてはならない。ウーガダールの近くにデータマイナーを呼び寄せるのは躊躇われるからだ。


 メルファリアを乗せたアストレイアはポイントαからも離れ、とはいえ1光年も離れないデルフィ近傍の宙域でスピンクスと落ち合う事となった。なんてことはない、スピンクスはそのデータマイニング活動の一環でデルフィ近傍を航行していたのだ。



 人類域でも指折りの過密航路に寄り添って、価値あるデータを掘り起こそうとするのは、データマイナーにとっては至極当たり前の通常運転である。そこで得た手掛かりからアタリをつけて、更なる情報を求めて各星系や宙域へと飛び、そしてまた探る。


 のだが、メルファリアはしばしば現在得ている情報を、荒い篩にかけただけで丸ごと買い取ろうとする。データマイナー側としては仕事が楽ではあるが、存在価値を幾らか割り引かれているようにも感じるのだ。メルファリアに悪意がないのは分かっているが。


 そんなわけで、スピンクスのリーダー、エマリー・グリーンウェル女史は、具体的にどんな情報が欲しいのかをメルファリアに聞いてみることにした。人も物も往来の激しいデルフィ近傍でリアルタイムに得られる情報は膨大で、欲しい情報をスクリーニングするならそれこそデータマイナーの出番だろうし、上客に対して存在価値を改めて示すには良い機会だ。


 対するメルファリアとしては、それでもセレーネの行方を、などと核心的なことは言えない。そこで、まずは関連のある人物の行方を望んだ。容疑者と言ってもいい。


 当然のことながら、UNに個人認証登録が済んでいる個人であっても、プライバシーにかかわる情報は極力公開されない。いつ、どこにいたのか等はセキュリティを突破するか、さもなくば断片的な情報を繋ぎ合わせて推理することになる。個人認証登録をしていない人物であれば、追跡するのはより困難だ。


 メルファリアが行方を捜す、容疑者の名前は、ノーマ・フオン。

 スピンクスは、彼女の容姿に関する情報を徹底的に調べ上げ、精密な3Dモデルを作り上げた。そして、クラックせずに覗けるカメラ、公開されている画像などを追い、近似したサンプルの位置情報をトレースして無理なく繋がる可能性の高い複数の人物を抽出した。


 そのうち有力なサンプルの一人は今、デルフィにいることが判明するが、中心都市オリンピアのとあるカフェを訪れた記録が複数日にわたり確認されていた。

「そういえば、いつかミリセントで声を掛けられたのもカフェでしたね……」

「姫様、もしかして?」

「デルフィならばすぐそこです。早速、確かめに行きましょう」

「やっぱり、そーなりますよね」


 すぐそことは0.1光年ほど離れているが、アストレイアならばオリンピア近郊の地上ステーションまで直接降下できる。自分に出来ることなら躊躇わず自分でやる。リサの主はそういう人だ。VIPにしては活動的で、誤解を恐れず言えば警戒心や猜疑心やらが不足している。リサだけに限らず、レオンやローレンスなども気を揉むのはメルファリアのそういった所なのだが。


 確かめに行くのはオリンピアの中でも官公庁街にあるカフェだから、周囲の治安は比較的良好だが、それでもリスクはある。メルファリアに対しては調査への助力を依頼した手前、引き止めるわけにもいかないので、ローレンスの副官ケイトリン・ロイド少尉が護衛として同行することになった。女性同士という事もあるし、おそらく確実に、レオンよりもその任務に向いている。


 §


 レオンはローレンスと共に対セレーネ作戦の検討を進め、ラーグリフはその間に傷ついた表面艤装のメンテナンスを行うことになった。アパラジータとの撃ち合いの際に直撃弾は無かったが、偏向拡散しきれないビームの飛沫が至る所に焦げ目を作っていた。高熱に炙られて破損したセンサーポッドも、幾つかは交換が必要だ。


 一方でメルファリアからはスピンクスの得た情報が丸ごと送られてきて、捜索と対策の両面から解析が進められた。セレーネを見つけたとしても、大規模電磁波照射装置フェイザーにどう対処するか、はかなり悩ましい。


 計画通り、超新星爆発時に放つガンマ線バーストに匹敵する威力なら、狙われて撃たれた瞬間にこちらが消し飛んでしまう。光速で飛来する電磁波を探知しても回避する暇はないし、盾にできるものなどもない。


 だから、撃たせてはならない。


 幸いに、セレーネの実態は大出力ガンマ線照射装置フェイザーそのものであることがほぼ確定した。アパラジータをコントローラーとして中枢に据える形も計画通りのもので、ならば性能諸元も計画の内容から大きくは外れまい。


「正面から近づくと、簡単に消されちまうな」

「そもそも、異文明の進撃を待ち構えて、邀撃・殲滅するために計画されたものです。大きさもアレですから、機動性は最低限度ですが、だからこそ護衛用の火器は多く載せています」

「懐に飛び込めばなんとかなる、ってわけでもないか」


 フェイザーはガンマ線バーストを再現するため、大型のバニシングリアクタを多数搭載している。その余りある出力は、電磁波照射装置だけでなく各種兵装を駆動し、重層的な防護機構をも備えている。


「要塞には要塞を、と大昔の誰かが言っていましたが」

「誰だよ」

「ウーガダールを、か?」

 アリスの突飛な言葉にしかし、ローレンスは否定せずに腕を組んだ。


 ウーガダールもまた、移動できる要塞ではある。ラーグリフのみでどうにかなるとは思わないが、たとえウーガダールがあっても確実な勝機は見えない。

 出撃準備は整えつつも、決め手に欠く状況を覆す妙手はまだ見出せていなかった。



アリスは大昔の言葉をよく口にします。

人類の情報がデジタル化されて以来の様々な言葉が記録されていますから仕方ないのです。

しかたないのですよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ