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物語の都合でざまぁ&処刑されるクズ王子、記憶を取り戻して転生し、魔法学校からやりなおす!  作者: 江本マシメサ
第四章 行動――味方を探す

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クズ王子は、保健医に教えを乞う

 ゴッガルドの回復魔法の授業は翌日の早朝から始まった。

 真っ暗な校庭に、私はゴッガルドと立っている。

 カイはいない。惑わし眼鏡について話したら、護衛は必要ないとゴッガルドが宣言したのだ。

 カイは納得せず、私を警護すると主張した。

 ならばと、ゴッガルドが提案する。もしもカイがゴッガルドに勝てたら、同行を許すと。


 カイに戦いなんか挑んで、ゴッガルドは大丈夫なのか。

 ふたりは外に出て、その辺で拾った小枝を剣のように構える。

 一瞬で勝負が付くだろう。そう思っていたが、結果は意外なものだった。

 ゴッガルドがひと息の間でカイを倒してしまった。

 たった一度の〝突き〟だった。カイの握っていた小枝は散り散りとなり、ゴッガルドの圧に立っていられなくなったようだ。

 目の前に小枝を突き出され、カイの負けは明らかとなる。

 ゴッガルドの筋肉は、飾りではなかったようだ。

 さすがのカイも落ち込んだようで、もっともっと鍛錬が必要だとぶつぶつ呟いていた。


 そんなわけで、敵襲でもあったらゴッガルドが私を守ってくれるのだろう。たぶん。


「今日は、回復魔法を使うために、もっとも重要なことを身に着けましょう。それが何か、クリストハルト君はわかる?」

「呪文を早く唱えること?」

「ぶー! 違うわ」

「だったら、回復の効果を可能な限り大きくすること?」

「いいえ、ぜんぜん違う」


 答えはなんなのか。教えるようにと言ったら、ゴッガルドはいきなり上着の袖を捲る。

 腕を曲げ、筋肉を誇張するようなポーズを取った。続けて、信じがたいことを口にする。


「回復魔法を使うために大事なのは、筋肉よ!」

「は?」

「筋肉!!」

「お前、ふざけているのか?」

「大真面目だから」


 この世の深淵にまで届くのではないかと思うほど、深いため息をついてしまう。


「お前に教えを望んだ私が愚かだった」

「本当に、筋肉が必要なのよ。そういえば今日一日、授業がないと言っていたわね」

「そうだが」


 三学年になると、校外授業が増える。国家魔法使いの手伝いをしたり、結界について実物を見つつ学んだり、魔物を討伐したり。ようは、卒業後の仕事を体験するために、希望した場所へ職業訓練を積むのだ。私の将来は国王と決まっているため、校外授業は免除される。警備面で不安があるというのも理由のひとつである。魔法学校や王宮レベルの警備というのはなかなか難しいようだ。

 そんなわけで、私は今日一日フリーというわけである。もちろん、ぼんやり過ごすつもりはないが。自主学習の時間に充てる予定であった。


「一限目だけでいいから、あたしの仕事を手伝ってちょうだい」

「それは、構わないが」


 回復魔法を扱う者として何か参考になると思い、ゴッガルドの働く様子を見学させてもらおうと思っていたのだ。ゴッガルドのほうから提案してくれるとは。ありがたく提案に乗った。


「じゃあ、授業開始の時間に保健室に集合ね!」

「カイはどうする?」

「邪魔になるから、クリストハルト君がひとりできてちょうだい」

「わかった」


 何もしないまま、寮に戻る。ゴッガルドが扉の前まで送ってくれた。

 部屋にカイの姿はない。手紙が置いてあって、寮の裏で鍛錬を積んでいると書いてある。

 まあ、他の騎士もいるし、そのままにしておこう。

 授業が始まるまで時間があるので、勉強の時間に充てる。

 これまでの私は魔法についての勉強を真面目にしていなかった。終わってしまった世界の記憶が甦っても、さほど魔法の知識は増えない。

 魔法について勉強できるのは、魔法学校にいるときだけだ。卒業したら、公務がスケジュールを占領する。

 だから、今のうちに勉強しないといけない。


「――あらあら、勉強家ねえ」

「うわあ!!」


 突然、耳元でゴッガルドの囁きが聞こえたので、椅子からひっくり返りそうになる。


「な、なんだ!?」

「お迎えにきたのよ」

「迎え?」


 懐から懐中時計を取り出す。蓋を開くと、授業開始まであと十分だった。

 どうやら二時間以上、かなり集中して勉強していたようだ。


「授業が始まるわ。早く行きましょう」

「ああ、わかった」


 一応カイ宛てに、保健室にいると書いて残しておく。もちろん、外で私の部屋を警護している騎士にも伝えておいた。


 保健室に到着すると、白衣を手渡される。胸には〝研修医クリス〟と書かれた名札がぶら下がっていた。


「なんだ、この研修医クリスというのは」

「王太子殿下が治療補佐しているとバレたら、保健室が大変なことになるからよ」

「ああ、なるほど」


 惑わし眼鏡をかけているので、他の生徒に正体がバレることはないだろう。


「さあ、忙しくなるからね」

「どうしてわかる?」

「一限目は、一学年が魔法生物学の実験があるからよ」


 その話を聞いて、すぐにピンときた。きっと、今日は魔石カエルの解剖をするのだろう。

 授業開始から十分後、ケガをした生徒がやってくる。

 頬から血を流しており、パッと見た感じ軽傷に見える。

 しかしながら、血を拭ったさいに手に付着した血を目にした瞬間、顔色を悪くさせる。


「魔石カエルの爆発で……負傷、しました」


 そう言って、扉の前で倒れてしまった。さっそく、ゴッガルドが指示を飛ばす。


「クリス君、第一ベッドに彼を運んで!」

「あ、ああ」


 男子生徒は育ちが大変よかった。抱き上げるのにも一苦労する。なんとか寝台まで運んで寝かせた。すぐにゴッガルドがやってきて、男子生徒に治療を施す。


祝福よベネデッタ、不調の因果を癒やしませ」


 頬の傷が一瞬にして塞がっていく。肩を優しく叩くと、男子生徒は目を覚ました。


「もう、大丈夫かしら?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「魔石カエルは気を抜くとすぐ破裂するから、気を付けてね」

「はい」


 男子生徒は会釈し、帰っていった。

 魔石カエルの解剖は、大変繊細な作業なのだ。体内に魔石を持つ稀なるカエルで、魔石と繋がったコアを傷付けたらすぐに破裂する。


 なぜ、一学年で危険な実験をするのかと呆れてしまうものの、魔法学校の伝統らしくもう何百年と続いている授業らしい。


「さあ、これから次々ケガした生徒がやってくるわよ!」

「勘弁してほしい」


 ゴッガルドの言葉通り、解剖を失敗してケガした生徒が次々と運ばれてくる。

 皆、ご丁寧に保健室で力尽きて倒れてしまうのだ。

 そのたびに私が抱き上げ、寝台に寝かせる。ゴッガルドは生徒を励ましつつ、回復魔法をかけていく。

 私の体力は、生徒がひとり、ひとりと運ばれる度に削られていった。


「はあ、はあ、はあ、はあ……!」


 息が上がり、腕も悲鳴を上げている。ここまで筋肉を酷使したのは初めてだ。

 介抱に加えて、軽傷の生徒の回復魔法も担うようになった。

 息が切れている中で呪文を唱えるのはかなりキツイ。


「クリス君、新しい患者さん! 第七ベッドに運んで!」

「はあ、はあ……」

「返事は!?」

「わかった!!」


 九十分の授業が、永遠のように長く感じてしまう。

 チャイムが聞こえた瞬間、救いの鐘だと思ってしまった。

 その場に腰を下ろす私をゴッガルドは見下ろしながら、質問を投げかける。


「クリス君、回復魔法に必要なのは?」

「……筋肉」


 患者を助けるというのは、ただ回復魔法が使えるだけでいいというわけではない。介抱をしなければならないのだ。孤立無援かつ危ない場所にいたら、抱いて移動する必要もあるだろう。

 私のこの貧弱な身体では、カイを助けられないというわけだった。

 まさか、筋肉がここまで重要になるとは。まったく想像もできなかった。 

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