クズ王子は、早朝から筋トレをする
寮に戻ると、カイの姿があった。
「クリストハルト殿下、おかえりなさいませ」
「ああ。ただいま戻った」
「フレーミヒ先生のところにいらっしゃったのですね」
「こき使われていた」
研修医と偽って保健医の仕事を手伝わされていたと話すと、カイは目を見開いて驚いていた。
「お前は鍛錬をしていたのか?」
「はい。その、フレーミヒ先生に負けてしまい、鍛錬不足を痛感してしまい」
「まあ、あまり無理はするなよ」
「はい」
ひとまず、私がゴッガルドのところで回復魔法を学んでいる間、カイは鍛錬に集中するらしい。振り切った真面目人間なので、徹底的に鍛える可能性がある。カイがゴッガルドみたいにムキムキになったらかさばって困るので、そこまで頑張らなくてもいいと言っておいた。
「これから校外授業が増えるから、ゴッガルドのところにいる時間も増えると思う」
「承知しました」
オーガと戦うことを想定したら、カイの鍛錬は決して無駄なものにはならないだろう。今の期間は、互いに高めることに時間を費やすことにした。
そんなわけで私は早朝、毎日ゴッガルドと筋肉を付けるためのトレーニングを積んでいる。
まず、早朝の激しい運動は身体に負担がかかるというので、寝起きの状態で食事を食べるように命じられている。
なんでも、朝起きてすぐの人体は水分が抜け、体内を流れる血はドロドロの状態らしい。そのためしっかり水分を取り、朝食を食べ、しばし休んでから校庭にやってきている。
ゴッガルドのもとへやってきた時点で、太陽は顔も出していない。つまり、夜明けと共に私の朝は始まっているというわけだ。正直かなり眠い。
「こんなに朝早くからやらなくともいいのに」
「あら、異世界の皇帝は朝の三時に起床して、五時から執務を開始していたらしいわ」
「そんな生活を続けていたら、早死にする」
「八十六歳まで生きたらしいわよ」
「大往生ではないか!」
超人と同じ扱いをされても困る。だが、体力や筋肉が付くまでこの生活を続けるつもりだ。
入念なストレッチを終えたあと、トレーニングを開始する。
「じゃあ、今日も軽いジョギングから始めましょうか」
「ああ」
軽いジョギングというが、ゴッガルドの走りは私の全力疾走と変わらなかった。
「ふふふ、クリストハルト君、あたしを捕まえてみなさーい」
「無理だ!!」
走り込みのあとは、腕立て伏せ、それから腹筋、屈伸運動――日替わりのメニューをこなしていく。
太陽が顔を出すころに、だいたい終了となる。
「お疲れさま。はい、今日のプロテインよ」
「……ああ。ありがとう」
ゴッガルドがドロドロした液体を差し出してくれる。これは〝プロテイン〟といって、トレーニングで傷ついた筋肉の回復、成長を促す飲み物らしい。
牛乳に粉末のプロテインを混ぜたもので、ドロドロしていて、味も独特なため飲みにくい。
「頑張れ、頑張れ」
「ぐうう……!」
これを一日二回、トレーニング後と就寝前に飲んでいる。
なんでも人は寝ている間に成長が促されるらしい。そのため、寝る前にプロテインを飲むと筋肉がより付きやすくなるようだ。
「この生活を続けていたら、あたしみたいな強い身体になるからね!」
「お前みたいに、暑苦しい体型にはなりたくない」
「まあ! お師匠様に対してなんて酷いことを言うのかしら!」
「自分の身体を鏡で見て、なんとも思わないのか?」
「完成されているわ、としか」
ゴッガルドは慈愛に満ちた瞳で、私を諭すように言う。
「クリストハルト君、この世には、筋肉があるだけで解決できることがたくさんあるのよ」
「たとえば?」
「自分で決めたことを周囲が止めようとしても、簡単に振り切れるの」
「ただの力技ではないか!」
ただ、筋肉はないよりあったほうがいいだろう。ゴッガルドのようにムキムキになるのはごめんだが、ほどよい筋肉を付けるのはいいのかもしれない。




