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精霊王になりまして  作者:
旅の始まり
44/55

◆カナリアとアルヴィス


 

 

 物心ついたばかりのころ、私は間違いだったのだとお父さんは言った。

 

 美しい金の翼は使族でも重要な意味を持つのに私は飛べなかったから。

 出来損ないだとお母さんに吐き捨てて。


 なんで鳥の獣人のお父さんが金の翼に拘っていたのかは知らない。珍しい色だって言うこともお母さんが教えてくれたんだ。

 

 「お母さん…ごめんなさい」

 

 捨てられ、追い出された路地で泣きながらどれだけ謝罪してもお母さんが私のせいで捨てられた事実は消えなくて。

 

 

 私がいなければお母さんはあんな死に方しなかったんだ。

 

 私が水を飲みに行こうと言わなければ死ななかった。

 私がお母さんを殺したんだ。

 

 「カナリア、カナリアのお母さんはどうして今そばに居ないの?」

 

 私が。

 

 

 『死んだから』

 

 「…」

 

 『私が水を飲みに行こうって連れ出したから、私が出来損ないだったから』

 

 だから。

 

 お母さんは死んでしまい、私は人の形すら無くした。

 

 「…やっと、少しだけわかったんだベルグ」

 『はい、我が主』

 「僕は遅すぎたんだね」

 『そんなことはございませんっ!そんなことは…』

 

 ベルグが必死に何かを言っている。それでも彼は何も言わずギルドに向けていた足を別の方向へと向け始める。

 

 私だけがわからず、私だけが混乱している。

 

 

 『わたし、なにか』

 

 したの? また。誰かを傷つけたの?

 

 彼を。優しく守ってくれた彼を。

 

 「約束を守るよ、君は元に戻す、そしたら僕を憎んでいいよ、遅すぎたんだと怒っていいよ」

 

 もっと早く大人になるべきだったと彼は言う。変な話だ早くなろうとしてなれるものでもないのに。

 

 それでも彼は申し訳そうに謝る。ベルグは苦しげに唸るだけで。私に何も教えてくれない。

 

 どうして謝るの?

 

 

 どうして、恨んでいいだなんて言うの?

 

 あなたは私を助けてくれたのに。


 

 ──────────

 ──────

 

 アルヴィスさんが足を止めたのは、街から少し離れた大樹の下だった。ローアルという名前がつけられたその大樹はどれだけ土地が涸れようとも葉を落とすことは無かった。その大樹にアルヴィスさんは優しく触れたと思えばその体から青い光が溢れ出す。

 

 思わず彼の肩からベルグの背へと飛び移り唖然とその様子を見るしかなかった。

 

 『主…』

 

 悲痛そうなベルグの言葉が聞こえていないのか、(やが)て祈るように彼は大樹へ頭を預ける。

 

 青い光は風もないのにふわふわと漂い、彼のフードを落とした。

 

 数日しか共にいなかったけど。彼がフードを外したのは初めて見た。美しい勿忘草色の髪は青い光と踊るように揺らいでいて。

 

 イタズラするかのように彼の髪を遊ぶ光は飽きたのか、大樹へぶつかり融け消える。

 

 「アラーシュトは恵まれているね、まだ生きている精霊樹があるんだから、これからもっと美しい緑が広がっていく」

 『せい、れいじゅ?』

 

 聞き慣れない単語に目を白黒させていれば彼はゆっくりと私に視線を戻した。

 

 ラピスラズリの様な美しい瞳はどこか遠くを見通すように。柔らかに細められる。

 

 「黙っていてごめん、遅くなってごめん、僕はアルヴィス・サークフェイス…水精霊王だよ」

 『………え?』

 

 

 

 

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