おひるごはん
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じゃあ、そういうこともある。
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なお君が迎えに来てくれたのはきっかり十二時半だった。そのまま駅まで自転車で言って、電車に乗って学校のある駅まで行った。理由は簡単で、そちらの方が遊ぶ場所が多いからだ。地元にもそういうば場所は無いことはないけれど、そういうところはやっぱり町の方が多い。
駅からは、商店街に入った。学校の方向とはちょっとだけ違う道を歩いて、なお君は徒歩で十五分くらいの店に連れて行ってくれた。通学路から少し外れたところとはいえ三年間も通えばちょっと寄り道にと遠回りをすることもあるから、何度か前を通ったことはあったけど、実際に入ってたのは初めての店だった。
店内は木で、吹き抜けの二階に大きな窓が付いていて、日の光だけでもかなり明るい造りになっている。よくなお君が知ってたなぁと思えるほど、良い雰囲気の店だった。
でも、周りにいるのは若いカップルばっかりで、少し恥ずかしかった。もちろん、心の隅に、私たちもそうだったらいいのにという気持ちはあるんだけど。
「何がいい?」
空いた席に向かい合って座ると、なお君がメニューを渡してくれた。開いて中を見てたけど、ある意味では「案の定」という感じで、ちょっとお高い。
「あのさぁ、なお君。大学生予備軍のお財布事情くらい把握してないと、モテないよ?」
それを言うと、女の子にお金を出させる約束をした時点でどうかと思うけど、それは気にしない。というか、シックな空気が店内に漂っているのを感じた瞬間に、ちょっと小突いてやるべきだった。
「え、っと……。そのことなんだけど……」
なお君が、少し目を逸らす。
「どうしたの? まあ、私がおごるって言ったんだけら良いんだけどさ」
「いや、そうじゃなくって」
そうじゃないとはどういうこと?
あ、もしかして
「ここにきて、やっぱり値段的に申し訳ないから店を変えさせてくれって……」
「ミオ」
困惑顔が、いつもみたいな仏頂面に代わっていた。怒っている証拠だった。
「澪」
「はい……」
ここは素直に返事をする。じゃないとえらい目に合うのは、人生の八割を一緒に生きてきた付き合いでわかる。
「人が話してる時にいらないことは言わない。いい?」
「はい……」
「よろしい」
とりあえず、一安心。
「じゃあ、本題」
「う、うん」
こっちも戸惑っているけど、なお君も戸惑っているみたいだった。どう切り出せばいいか、わからない。みたいな。でも、それも束の間で、すぐに意を決したようにこちらを向いた。
「今日は僕がおごる」
ん? と思って、「あ、そう」と答えそうになったけど、数秒して、それが何を意味しているのか分かった。
「合格していたの?」
「うん。なんか、受かってた」
なお君が、照れくさそうに笑っていた。
私は、必死で自分を押さえつけた。おめでとうと、やったねと、叫びそうだった。もし、隣で聞いていてら、勢い余って抱き着いてしまっていたかもしれない。
「だから、今日は僕が出すよ。日頃の感謝も込めて」
にっこりと、なお君が笑った。
嬉しかった。
多分、なお君が思っているより、私はなお君の合格を喜んでいる。
そのくらい、うれしかった。
「とにかくさ、そういうことだから早く選ぼうよ。お腹すいたでしょ?」
「うん」
なお君とメニューを見比べたりしながら、何を頼むか考える。案外時間がかかって、結局一番安いオムライスに決めた。なくんは遠慮するなと言ってくれたけど、そんなにお金を使わせるわけにはいかなかった。
二人で食べたオムライスは、美味しかった。
勘定を終わらせて店を出てから、なお君が言った。
「今日、やっぱり夕方まで付き合って」
「いいよ」
反射的に、答えは出ていた。
「ちょっと歩くけど、いい?」
「どこにでも、私は付いていくよ」
言っておきながら、少し恥ずかしくなった。
「顔赤いけど、大丈夫?」
でも、こんな時に、こんな事を何食わぬ顔で言ってしまうから、この人はズルいのだ。
「わかったよ。春だけどさ、まだ寒いじゃん? 手、つないでもいい?」
私が答える前に、なお君は少し強引に私の手をつかんだ。
「バカ!!」
「放した方がいい?」
「…………繋いで」
ああ、もう。 こっちの気も考えないで……。




