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誘われた側は


 自然に目が覚めた。窓から差し込んでくる光は、ない。私はベットから起き上がってカーテンを開けるけたけど、そとは暗い。雨の音もしない。

 しょぼしょぼする目で時計を見ると、まだ六時前だった。


 寝よっか。


 五時台に起きるなんてありえない。少なくともあと一時間は寝る。そう誓って、私は再び布団の中に潜り込んだ。けれど、五分たっても、十分たっても、眠れない。……理由はだいたいわかっていた。


 なお君のせいだ。


 本人に言ったら、とんだとばっちりだといわれるだろうけど、私からしてみればそれ以外に理由が見当たらない。今日の昼のことが、頭から離れない。

 自分で選んだ進路のせいで、なお君とはしばらく会えなくなるのだ。今日会うのが、最後になるかもしれない。

 そうと考えただけで、大げさじゃなくって胸が張り裂けそうなのだ。


 私は自分の進む進路がなお君とは別の道なことは、ずっと目を背けてきた。

 お互いが進路を決めたころには、まだ別々の道に行くことは先のことだと思ってた。入試が目の前になると、一緒に帰ったりもしたけれど、受験の方に一生懸命で他のことを考えている余裕なんてなかった。だけどこうやって余裕が出てきたとき、頭の中に浮かんでくるのはなお君のことばっかりだった。


 このままじゃいけないと思っていた。自分の想いを伝えられないまんま、離れ離れになるのはあまりにも辛かった。だけど、とっかかりを作れるほど、私には経験も、勇気もなかった。だから昨日、食堂の前で偶然なお君と会って、話をして、誘ってもらって嬉しかった。優希ゆうきしゅんじゃなくって私を選んでくれたことが嬉しかった。


 でもそのせいで、昨日は寝れず、朝もこんなに早く起きてしまった。しかも、せっかくの早く起してもやることがない。部屋の片づけは合格発表の次の日に終わらせたし、春休みの計画も概ね立てた。


「あ、そうだ」


 何をしようかしばらく考えて、図書館で借りてきた本がリビングの机に山積みになっている野を思い出した。よし、午前中は読書で決まりだ。

 双と決まればやることは早いほうがいい。朝ごはんや着替えをして、それから昼に着ていく服を選んでもまだ七時半で、案外楽しむことができそうだった。

 コーヒーを淹れ、たまたまあったクッキーをお皿に乗せて自分の部屋に持っていく。殺風景になってしまった勉強机にそれらを置いて、読もうと思って読めていなかった本を持って椅子に座った。


 昔から本は好きだった。高校には入ってからは月に一冊読むかどうかだったし、三年生も夏休みが終わるとめっきり読まなくなってしまっていたけれど、小学や中学では、それこそ休み時間のほとんどは本を読むことに費やしていたし、家出することもほとんどが読書だった。本を読むのは楽かった。初めは小説ばかり読んでいたけど、政治とか、経済の本も読みたいなと思うようになっていて、今は初心者向けの経済の本を手に持っている。


 本は時間を忘れさせる。


 二冊目――こちらは恋愛小説――を中頃まで読んだとき、スマホが鳴った。いいところなのに、と思いながら画面を見と発信者のところに『なお君』とあった。

 時計を見ると十一時半。もうこんな時間になってたのか。

 私は驚いて、そして慌ててスマートフォンを取った。


「もしもし、みお?」

「う、うん」


 なお君の声は、少し震えていた。理由は、考えるまでもない。結果は結果として受け止める覚悟はあったんだろうけど、やっぱり、その時になってみないとわからないことはあるんだと思う。


「今日のことさ……昼からって誘っておいて、昼ごはんの事まだ決めて無かったよね?」

「まあ、確かに……」

「お昼、一緒に食べに行こうよ。十二時に迎えに行くから」

「う、うん」

「じゃあ、またあとで。定期券忘れないでね」


 それで、電話は切れてしまった。ずいぶん早口で、結果のことはあえて口にしなかったというようにも思えた。なお君が言いたくなければ無理にさっき聞く必要もないことだけど。






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