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お昼は勉強の敵



 教室に帰った僕は、さっきの面接の反省点を見直して、文章にして書いていく。

 頭の中でロジックを組み立てられない僕は、こうして一度書いてみるしかない。

 ノートの左を、自分の考えで埋め尽くしていき、右側にはできるだけまとまった文章に直したものを書き込んでいく。それでも考えがまとまらないときには、別の紙に整理して後でノートに貼り付ける。

 この作業を終えると、化学の問題集を取り出した。一年生の時からずっと使ってきたやつだ。

 もし後期の大学に受かったら、専攻は化学になる。面接試験の中にだって口頭試問で聞かれておかしくないし、去年も一昨年も実際聞かれたらしかった。センター入試や前期入試の時にほとんどのことは頭に入れたけれど、人間は忘れる生き物だ。少しずつでもやっておかないといけない。



 だいたい一時間くらい、化学をやったところで四時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 学校はまだ春の補習中で、しっかり六時間の時間割が組まれている。僕ら卒業生には時間割なんてものはないけれど、十二年間、四時間目が終わったら昼ごはんということでやってきたのだ。区切りがいいということで、弁当を取り出すクラスメイトが何人か出てきた。


 もとより「何人か」しかいないクラスの中じゃ、その何人かの行動で場の空気は変わってしまうのだけれど。


 当の僕にも、和やかなお昼休みの空気に逆らう義理なんかなく、朝に買ったパンの入った袋をカシャカシャさせて、雑談の輪の中に加わった。


「途中騒がしかったよね。どっかの大学、今日合格発表だったんだっけ?」

「ああ、確かあの大学が十時だったと思う」

「十二時からは、あっちの大学の発表じゃなかったけ?」

「あ~あ、もうどっちでもいいからさっさと発表してほしいよなぁ」


 この時期になってしまえば、昼食の時間に交わされる会話なんていつも同じだ。でも今日は、実際に合否のわかった人がいるとかいないとかで少し盛り上がっていた。

 おんなじ部活の子の合否も、今日の午前中にあったらしい。

 受かったかな? 残念だったかな?

 なんとなく、声かけづらくなるよな。

 そんなことを考えながら、僕はパンにかじりつく。今日のパンはコンビニではなくって、ちゃんとしたパンやで買っていた。冷めてるから、コンビニとおんなじかなと思ったけど、やっぱり違った。

 美味しい。


「なあなあ」

「ん? なに?」

「合格発表いつ? 明日だっけ?」

「僕? 明日だよ」

「さっさと教えてくれればいいのにな」

「ん~、数字の羅列の中に自分の番号ないのを見るのって、あんまり楽しくないと思うけど?」

「落ちた前提かよ!! 希望持てよ!!」


 十中八九、僕は落ちてるだろう。どの教科も、見事に空白の回答があった。唯一、化学がほぼできたかな? といったくらいだ。でも、後悔なら試験会場からの帰り道にずっとしていた。だから、今は後期のことに頭をシフトできる。といっても、その持続時間は短いけれど。

 だいたいみんなが各々の昼食を食べ終えたころ。


「あーあ、ねえ、トランプ持ってきたんだけど、やる??」


 お前受験生をなんだと思ってるんだ!!

 なんて声はどこからも上がらない。

 もちろん僕も、やる気満々だった。

 どうやったって流されるさ。今は、前期入試直前あのときみたいな緊張はないんだから。






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