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訪問者8

「いまだに当時の王位継承問題はクロガル公とオプスクリー公の二名で争われたことになっていて、公的には三人目がいた事実はない。だが、裏でこんな話があった。前王の息子がひそかに存在している、と」


「えっ。なにそれ。もしかして三人目の候補者っていうのは、前王の隠し子か何かだった可能性があるってこと?」


「おそらくな」


「そんな……。それが本当なら、正統な王位継承権を持ってるのは、その人ってことになるじゃない」


「そうだな。事実なら、アモル伯爵は裏切ったサエウム伯爵を恨んだろうし、邪魔に思っただろうな。前王の血を引く息子が存在するとなれば、クロガル公を王位につけるのは難しいというか、ほぼ不可能になるからな」


 たしかに土壇場で裏切ったなら、サエウム伯爵はアモル伯爵にとっては許しがたい存在だったろう。三人目の候補者も邪魔だったはず。

 そして、現在の国王はアモル伯爵が推していたクロガル公で、アモル伯爵は国務大臣だ。

 王位継承争いで誰が勝者だったかは明らか。


 しかも、サエウム伯爵は亡くなっている。政敵のオプスクリー公による暗殺という形で、とても都合よく。

 さらには、そのおかげで同時にオプスクリー公も失脚している。


 よく考えたら、犯人を捕らえて処刑したのはアモル伯爵だし、火を放ったのも含めてアモル伯爵の自演だったことは十分に考えられる。

 これは……サエウム伯爵暗殺の真の黒幕はアモル伯爵だとも考えられる?

 だとしたら、トルナード男爵夫人に羽舞草の毒を盛らせたのも……?


 だって、そうよね。サエウム伯爵が前王の息子かもしれない人物を担ぎ出そうとしていたなら、自白剤を使ってでも聞き出したいことなんていくらでもあったはずだもの。


 だけど、いったいそこにミリッシュがどう関わっているというのだろう。


「さて、犯人は誰だ?」


「えっ?」


 一瞬、何を言われているのか分からなくて、きょとんとお兄さまを見つめてしまった。


「おまえ、俺をなめてんのか? おまえはサエウム伯爵とは面識もないし接点もない。権力闘争に興味があるわけでもないだろ。俺は最初に訊いたよな、おまえを毒矢で狙ったやつの心当たりを。そこからおまえはわざわざ話を何度もサエウム伯爵に持っていった。それは知りたいことがあったからだろ? 俺に何を隠してる?」


 うっ。さすがお兄さま。まったく油断ならない。

 これ以上何かしゃべったらボロが出そう。

 いや、私の言動からお兄さまが核心に迫るほうが早いかもしれない。


「レールティ家の人間に手を出して、ただで済むと思われたら困る。きっちり片は付けさせてもらうぞ。何ならイデルに訊いてもいいが?」


 まずい。やっぱりイデルも疑われてる。


「あ、あのっ、お兄さま! 私もまだ事態がよく呑み込めてないの。この件はしばらく私に任せてくれないかな。大丈夫。うやむやにするつもりはないから。おねがい」


 ほんとうはお兄さまが動いたほうが、私がうだうだ調べるよりずっと早く事件の真相に辿りつくんだろうとは思う。だけど、お兄さまは敵と見なした者に対して容赦がないから。

 ミリッシュのことも、名前を出したとたんに問答無用で狩り出して罰することは目に見えている。それは避けたい。

 私はミリッシュに何があったのか、ちゃんと知りたい。

 ミリッシュは私の大事な友人だもの。


「さて、どうするかな。おまえは何かにつけて考えが子供っぽくて甘いからな」


「そんなこと……! ないとは言えないけど……でもっ、これは私がちゃんと解決したいって──」


「そうか。犯人はおまえと顔見知りか」


 う……っ。お兄さまが相手では、喋れば喋るほど墓穴を掘っていくだけの気がしてきた。

 もうこれ以上は何も悟られまいと、口をつぐんでうつむく。


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