決断8
「え? こうですか?」
首を傾げながらも、カルディアは濡れた手を前掛けで拭ってから差し出してきた。
その手を取り、私はまっすぐにカルディアの目を見た。
「あなたはイデルを助けるために尽力すると心から言えますか?」
「それは……ええ、もちろん。できるかぎりのことは致します」
カルディアがそう答える瞬間、私は彼女の手の甲にかるく口づけた。言葉の真偽を確かめるために。
そうして垣間見えた真実に、私はしばし言葉を失った。
私がトルナード男爵に毒を盛ったのではないかと疑われているときから私の無実を信じてくれ、妙に親切にしてくれると思ったら──。
「あなた、お兄さまのまわし者だったの?」
「え……、なぜ……」
今度はカルディアのほうが言葉を失っていた。
「サエウム伯爵の呪いの噂を広めたのもあなただったのね」
すべてお兄さまの指示で。
そういえば、私が男爵を毒殺した犯人だと疑われたとき、トルナード家の家令がお兄さまのことを何か言っていた気がする。モリフ家の資産を狙っているとか何とか。
あのときはとんだ被害妄想だと思ったけど、まさかほんとうにお兄さまが絡んでいたとは。
お兄さまの目的と真意までは分からなかったけど、カルディアの言葉に嘘はなく、イデルを助けようとしてくれている気持ちは真実だった。
「ありがとう。疑ってごめんなさい。改めてイデルのことをよろしくお願いします」
微笑んでカルディアから手ぬぐいを受け取ると、イデルの額に浮かぶ汗だけぬぐってから、私は部屋をあとにした。
サエウム伯爵の呪いの噂を広めたのはカルディアで、それを指示したのはお兄さまだった。
だけど、お兄さまが男爵の毒殺まで指示したとは思えない。カルディアの胸にも、それを示唆するような思いはまったくなかったし、そもそもお兄さまならもっと上手くやる。わざとらしく羽舞草を残すなんて無駄なことをするはずがない。
目的は分からないけど、カルディアがサエウム伯爵の呪いの噂を広めたのと、男爵の毒殺はおそらく別件だ。
なにはともあれ、カルディアがお兄さまについている人間だと分かったのは大きな収穫だった。
イデルはお兄さまのお気に入りだから、そのお兄さまについているカルディアにならイデルを任せても大丈夫だ。
あとは、誰がイデルに夜狐の実を使わせたのかを知ることができれば。
……いや、でも。
果たして本当に、今それを突き止める必要があるのだろうか。
ふと立ち止まって考える。
夜が明けたらきっと、私はおばあさまの監視つきで、強制的にブリアールに帰らされる。
あのおばあさまにかかれば、家令の戯言なんて相手にもされないどころか、レールティ家の名誉を不当に傷つけたとか言って、逆におばあさまのほうが家令を縛り上げかねない。
おばあさまがいれば、私は簡単にバーン城を出られるだろう。そのときにイデルもいっしょにブリアールに運べば、もう命を狙われる心配はないはずだ。ラウラスだって──。
そういえば、ラウラスは大丈夫だろうか。ちゃんと処置してもらえているだろうか。
少し様子を見に行ってみようかと思ったちょうどそのとき、誰かにぐいと袖を引っ張られた。




