決断4
「お父さまには、ほんとうに会いたいとは思わないの? 都にいるんでしょう?」
ちらりと窺うように視線を向けると、ラウラスは口もとだけで笑った。それは何かを嘲笑っている表情にも見えた。
「シュリアさまは今、この国でどのような庭園が流行っているかご存じですか?」
「さあ、あまり専門的なことは分からないけど、王宮の庭園みたいなやつでしょ? 噴水があって、刺繍花壇があって、刈り込んだ柘植がたくさんあるような」
都にあるブリアール侯爵邸もそんな庭園だ。流行にのったのか、私がまだ小さい頃に改修していた記憶がある。
「そのとおりです。すべてが緻密に計算し尽くされ、一年中変わらない緑と石の造形物に囲まれた庭。私の父がつくった、時の流れない庭です。先代の国王は父のつくるそういう庭を愛したそうですが、私はいまだに理解できませんし、嫌いなのです。うつろう季節を頑なに拒む庭園なんて、私は見たいとも思いません。でも、父にとっては季節のうつろいこそが不要なものなのです。時の止まった庭園は、おそらく父の姿そのものなんでしょう。ですから、私は父に会いたいとは思わないのです。会ったところで、お互いに不快な思いをするのは目に見えていますから」
突き放すような言葉とは裏腹に、はるか遠くを見つめるラウラスの瞳が寂しげに見えたのは、私の気のせいだろうか。
「私はブリアール城の庭園、好きよ」
かけるべき適当な言葉が見つからなくて、ふとそんなことを囁いていた。
季節の花に彩られた、自然を模した庭園。
日々表情を変えていくブリアール城の庭は、新しい発見と喜びに満ちている。
「私もブリアール城の庭園が好きです。ブリアールの庭は誰であっても存在を受け入れてくれる。あそこにいると、私もこの世界の一員だと思えるんです」
たしかに緻密に計算され尽くした造形美を誇る庭園の中では、人は異物でしかない。ラウラスの心の隙間を広げこそすれ、埋めることはしないだろう。
ほんの少しでいい。私もラウラスの心の隙間を埋める存在になれればいいのに……。
うるさく騒ぐ心臓は、いつの間にか心地良い音楽を奏でるように穏やかになり、冷たい風が吹きつけるなか、けっきょく私の手は湖を渡りきるまで、ラウラスの手に重ねられたままだった。
舟が岸に着いたのは日が暮れてからだった。
私たちは馬を連れているので、先に他のお客たちに降りてもらってから、最後に舟を降りた。
岸のそばはまばらに木が生えているだけの何もない場所だったと記憶しているけど、それでももう先に降りた人たちの影を見つけるのがやっとというくらい周囲は暗くなっていた。
バーン城までの道はちゃんと覚えている。あまり速く馬を駆ることはできないけど、道に迷う心配だけはないはず。
念のために通った道を思い返していると、まったく予想だにしていなかった衝撃が全身に走った。
「ラウラス!? 何なの!?」
いきなり抱きすくめられて何ごとかと目を剥いたのも束の間、ラウラスの体がずるずると沈んでいく。
すぐさま嫌なにおいが鼻についた。血のにおいだ。
「ラウラスっ!?」
ちょうど彼の右の二の腕あたりに何か細長いものが刺さっているのが見えた。
「なんで矢が!?」
あわてて視線を走らせるけど、周囲に人影らしきものは見当たらなかった。




