門の内側3
「あ、あの、アモル伯爵夫人。じつは私たち、薬草を探しているのです。アモル伯爵夫人のお屋敷にならあるかもしれないということを耳にしましたもので、無礼を承知でお伺いしたのです」
ラウラスのことは気になるけど、とにかく今は薬草のほうが先だ。イデルが一刻を争う状態で待っているのだから。
「あら、無礼だなんて。思いがけないお客さまで、久しぶりに私、とてもわくわくしていましてよ。お茶をする時間はおありかしら?」
それは明らかに奇妙な言葉だった。
「あの……失礼ですが、夫人は人嫌いだと……」
「まあ」
ほほほと、扇で口もとを隠しながらアモル伯爵夫人は朗らかに笑った。
「人が嫌いどころか、好きですよ。門番がすぐに人を追い返すからそのような噂が流れているようですけどね」
「ですが、門番にそのように指示をしているのはアモル伯爵夫人では?」
「いいえ、違いますわ。あの門番は私の夫から遣わされている者で、夫から指示を受けているのですわ」
んまあ……。
妻を家から追い出しただけでは飽き足らず、会う人間まで制限しているとは、アモル伯爵というのはいったいどんな最低男なのよ。夫人になにか恨みでもあるのかしら。
「それで、お時間はございまして?」
「あの、大変申し訳ありません。先を急いでおりますもので……。せっかくのお誘いをお断りするのは心苦しいのですが」
「気になさらないで。勝手を言ったのは私のほうですもの。薬草をお探しなのでしたよね? ──ラヴァン、念のために温室の鍵を持ってきていただけますか」
「はい、すぐに」
アモル伯爵夫人の後ろに控えていたラヴァンが打てば響くように応じる。
「百薬園はこちらですわ。ついていらして」
そう言ってアモル伯爵夫人が踵を返す。
ちらりとラウラスのほうを見ると、その表情はまだ硬いままだった。
心配になって小声で名前を呼ぶと、はっとしたように何度か瞬きを繰り返し、そうしてようやく私を見て微笑んでくれた。
「申し訳ございません。ぼんやりしてしまいました。まいりましょう」
ああ、これは嘘の笑顔だ。
ラウラスの笑顔にも嘘がある。その事実は私をうつむかせるのに十分だった。
内心では私を嫌悪しながら、偽りの笑顔で平然と私に接していた人たち。
ラウラスもそうなの?
ほんとうは今が初めてじゃなくて、私が気づかなかっただけで、今までにも作り笑いを浮かべていたことがあったのかな。
……あって、当然よね。人間だもの。そんなにいつもいつも笑ってばかりいるわけがない。
私はラウラスにとって雇い主の娘だし、きっと無理に笑って付き合ってくれていたことだってあっただろう。私には本当のことなんて言えないものね。
目頭が熱くなって、私はぎゅっと唇を噛みしめた。




