門の内側1
カルディアの話によると、アモル伯爵夫人はめったに人を屋敷に入れないということだった。
名のある貴族でも平気で追い返してしまうという。
それもこれも夫からひどい仕打ちを受けて人間不信に陥り、人嫌いになったせいだとか何とか。
おとなしく追い返されるつもりなんてなかったけど、私も門前払いされることは覚悟していた。
案の定、レールティ家の人間だと名乗っても、門番は「帰れ」の一点張りで、話を取り次いですらくれなかった。
そもそも私の格好がとても令嬢には見えないのだから、不審者扱いされても仕方ない部分があるのは否めないのだけど。
とはいえ、こっちだってハイそうですかと簡単に引き下がるわけにはいかない。
大声で喚き立てるような真似はしなかったけど、かなり強い口調でしつこく門番に取り次ぎを迫った。
そのうちに、気の強そうな門番の顔もだんだんと困惑げになっていく。
私が意識して発声すると、お兄さまいわく、「人の意識を奪う声」になるのだそうだ。美しい声で唄う吟遊詩人のようなものと言えばいいだろうか。
それは生まれもってのものではなく、お兄さまに訓練されて身につけたもの。
『いいか。話を聞いてもらいたいときはでかい声を出せばいいってもんじゃない。人が耳を傾けようとすれば、自然と場は静まる。まずは騒がしくても人の耳に入り込むような声を出せ』
お兄さまはほんとうに私を何に育て上げようとしていたのやら……。
私を男と間違えているんじゃないかと思うこともあったけど、お兄さまの教えは意外とどれもこれも役に立っているから不思議なものだ。
今もほら。
「いったい何の騒ぎです?」
私の声が届いていたのか、屋敷の中から一人の青年が出てきた。
一瞬、不覚にも見惚れてしまった。
ラウラスは中性的な美貌の持ち主だけど、その青年はキリリとした男らしい美青年だった。小さな口もとはとても禁欲的で好感が持てたし、なにより理知的な青紫の瞳が目を惹いた。
「ラヴァンどの! 何故……っ。門を開けてはならぬとあれほど言われていますでしょう!」
だけど、門番のほうは青年に見惚れるどころか、あからさまに非難の目を向けていた。しかも、ただの門番とは思えないほど偉そうな物言いだ。
「何故もなにも、あまりに賑やかなのでラエティアさまがそわそわしておいでです。いったいどなたがいらしたのかと」
門番の咎めるような視線にもまったく動じるそぶりを見せず、ラヴァンという名前らしい青年は私のほうに向きなおった。
「こちらへはどのようなご用で?」
「薬草を分けていただきたく、無礼を承知でお願いに参りました。私はシュリア・シガリーン・デュ・レールティと申します」
「レールティ家というと、ブリアール侯爵の?」
「はい。娘です」
青年はしばし目を伏せ、次に私のほうを見たときにはそれまでの泰然とした様子とはすこし違い、ちょっぴり厳しい顔をしていた。
「では、そのご身分を明かすものはございますか?」
「はい」
ここで負けてはならじと即答し、左手を差し出した。その手首には《真実の雫》がおさまっているブレスレットがある。
レールティ家の長女に代々受け継がれるそれには、レールティ家の紋章を刻んだ金のメダルが含まれていた。
その紋章を確認すると、「少々お待ちください」と言い置いて、青年はふたたび屋敷の中へと入っていった。




