代償13
ミリッシュは病気だったのだろうか。
だから、急に叶わない片恋は諦めると言いだしたのだろうか。
それとも、身内が病気? ミリッシュに家族はいなかったはずだけど……。
「ラウラス、その狐のなんとかっていうのが何か分かる? それって、ほんとうに心臓の薬なの?」
「狐の手袋のことでしょうか? それでしたら、たしかに心臓の病に使われる薬草ですよ。こちらの奥さまがお買いになった紅花山査子も心臓の病に使われるものですが、効果は緩やかで持続的です。それに対して、狐の手袋は即効性が高いものですね。正確にはもっと細かな違いはあるのですが。それがどうかされましたか?」
「うん、ちょっとね……。そういえば、肝心の私の薬は手に入ったの?」
「はい。あと、いちおう赤鐘草がないかも尋ねてみましたが、やはり南方の珍しい植物なので無いとのことでした」
「そう……。仕方ないわね」
「あちらに喫湯店がありましたので、そこでお湯をいただきましょう。そろそろ急ぎませんと、舟に乗り遅れてしまいます」
何度も頭を下げつづける母娘と別れて、私たちは喫湯店に向かった。
喫湯店はまさに白湯を飲む店なのだけど、代金さえ払えば持ち込みでお茶も飲める。
綺麗な水というのは貴重なもので、貴族であればお茶を飲んだりするけど、それでも食事のときまでお茶を飲んだりはしなくて、日常的に飲むのは葡萄酒や林檎酒がほとんど。庶民に至ってはお茶を飲む習慣なんてない。
この国では美味しい白湯やお茶を飲むというのは、ある意味で贅沢の象徴でもあるのよ。
喫湯店では、ラウラスが薬草師から入手してきた薬草で手ずからお茶を淹れてくれた。
「これ、生姜……?」
「はい。生姜に加密列の花、茴香、甘橙の果皮、薄荷が入っています」
「これで効くの?」
「お疑いですか?」と、ラウラスが笑う。
「最悪、生姜を摂るだけでも違いますよ。舟に乗っている間も何度か飲めるように、瓶もひとついただいてきました」
そう言って褐色の小さな陶器瓶を取り出してみせるラウラスの声は落ち着いていて、いつもとなんら変わった様子はなかったけど……。
私のお嬢さまにあるまじき奇行の数々──とくにさっきの飛び蹴りと、その……一瞬とはいえ抱きついたことについてどう思っているのだろう。
表情や声、態度などからもラウラスの心の内がまったく推し量れなくて怖い。そもそも普段からラウラスは穏やかに微笑んでいて、あまり感情を見せない人ではあるのだけど。
本心なんて知りたくないと思うくせに、知りたいと思ってしまう自分が矛盾していて嫌になる。
言葉が喉もとで引っかかって、息苦しかった。
「さあ、お嬢さま、まいりましょう」
ラウラスは酔い止め薬を入れるためにもらったという陶器瓶の首に巻かれていた紐を切り、それで手早く髪を結んだ。
けっきょく私は包帯代わりのラウラスのリボンが巻かれている左手を握りしめ、黙って頷くしかできなかった。




