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封印された記憶7

「なんですって?」


 お兄さまがモリフ家の資産を手に入れようとしている?

 そんな馬鹿な。


「あくまで知らないふりをするおつもりですか。それならそれで構いません。私が必ず尻尾をつかんで差し上げましょう」


 このおじさんは真面目くさった顔をして、いったいなにを言ってくれちゃっているのだろう。ない尻尾をどうやってつかむというのかしら。


 よくわからないけど、私が必要以上に疑われているのって、もしかしてお兄さまがモリフ家の資産を狙っていると思われているせい?

 それで私がお兄さまの指示で、夫妻を亡き者にしようとしたとか思っているのだろうか。

 だとしたら、とんでもない誤解だ。


 正直言って、お兄さまは何を考えているのかよく分からない人だから、絶対によその家の資産を手に入れようとすることがないとは言わないけど、そのときはこんな粗雑な方法をとるはずがない。

 お兄さまはたしかに筋肉至上主義の人ではあるけど、頭の中まで筋肉なわけではないのだから。

 そもそもトルナード男爵領は銀鉱が見つかったとは言え、お兄さまのグラースタ伯爵領のほうが明らかに豊かな土地で、貿易の盛んな、この国でも指折りの良港を擁しているのよ。モリフ家の資産なんてまったく目じゃないと思うわ。

 お兄さまもずいぶん安く見られたものね。帰ったらちょっと言っておいてあげないと。


 私を睨んだまま彫像のように動かない家令のおじさんとは対照的に、私は優雅にお辞儀し、さっさとその場を離れると、庭園に出た。

 向かう先は男爵の部屋の下。


勲章菊(くんしょうぎく)……か」


 そこに咲いていたのは、ブリアールの庭園にもある花。向日葵に似た形をしていて、太陽の光が当たらないと開花しない花だ。

 花色は白や赤や紫と、いろいろあるけど、ここに咲いているのは黄色、臙脂色、樺色。

 勲章菊は太陽の出ている間だけ開花して、それ以外は花びらを閉じ、何度か繰り返して咲く。

 朝早い今は、まだ花を閉じているものばかりだったけど、その中で花開いたまま不自然に萎れているものがあった。

 かがんで手を伸ばすと、それは何の抵抗もなく私の手におさまった。


「なるほど、そういうことね」


 男爵の部屋で見たあの花瓶。羽舞草だけ活けられていたのも不自然に思ったけど、それ以上に花の量が不自然だった。花瓶の大きさに対して、活けられている花の量がすごく中途半端だったのよ。


 ラウラスの言うとおり、何らかのメッセージの意味で残されただけの花なら、量なんて関係ないとは思う。だけど、あの量ならきっと隠すことが可能だ。

 勲章菊は羽舞草に比べれば断然大きな花だし、活け方によっては羽舞草なんて簡単に見えなくなる。同じ黄色系統の花なら、よけいに目立つこともないだろう。


 あとから花を入れ替えたんじゃない。きっと最初から羽舞草はそこにあったのよ。犯人はただ、花を抜き去っただけ。

 たぶんこの勲章菊を、窓の外に。


 そして、おそらくそれをしたのは、花の存在を意識していたあの人物──。


「シュリアさま、お探しいたしました。このようなところにいらっしゃるとは」


 早歩きでこちらに向かってきているのは、きのう私に食事を運んでくれ、ラウラスをバーン城に呼ぶことに協力してくれた女中のカルディアだった。


「私に何か用ですか?」


 私の前まで来ると、カルディアはかるく膝を折った。


「さきほど奥方さまがお目覚めになり、シュリアさまにお会いしたいと」


「夫人が私に?」


 いったい何かしら。



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