37.期日前投票殺人事件2
俺と大曲先輩は、書類仕事をしていた。
事件は毎日起こる。だが、事務処理は事務員に任せておけばいい、というのは、普通の会社の場合だ。
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
辻・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
溝内健児・・・生活安全課課長。
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午前10時。捜査一課。
俺と大曲先輩は、書類仕事をしていた。
事件は毎日起こる。だが、事務処理は事務員に任せておけばいい、というのは、普通の会社の場合だ。
例え、何日遅れようと、検察に回した後の事件の総括は随時やっておかねばならない。
今はPCでデータを作成するが、事件の資料は、デジタル化する前から、記号番号で整理される。戒名ない通称は、捜査員が分かり易いように命名されるが正式名ではない。
「嫌な事件でしたねえ。」と、思わず隣の大曲先輩に言ってしまった。
「どの事件?どれも嫌な事件だったよ。」
「『期日前投票殺人事件』です。」
「ああ。娘が宗教に走って、『期日前投票』が原因で喧嘩になって、婆さんは殺されてしまった事件だな。胸くそ悪かったな。」
その時、課長の席の前の電話が鳴った。
捜査一課には、35の係がある。
だが、課長の開光蘭子の一存で、直属のチームが、いつも間にか出来てしまった。
昨夜、「何で?」と尋ねてみたら、「体を許した相手だから、大曲とお前を重用している。心を許せ。」と、言われてしまった。
「はい。捜査一課ですけど・・・。」
受話器を持ちながら、蘭子は俺達を見た。
「生活安全課から回ってきた。『期日前投票』でも揉めていた高齢者が行方不明になった。担当したいよな?」
「「よ、喜んでー。」」と、俺と大曲先輩は唱和してしまった。
本来は、捜査一課は、「事件が発覚してから」動く。
この場合。事件や事故とは断定しづらい。
普通は、取り合わない。
だが、蘭子のカンは、事件だと断定している。
整理は、お預けだ。
午前10時半。生活安全課。相談室。
溝内課長が、相談者の市民を紹介した。
書類を見ながら、大曲先輩が尋ねる。
「志賀さん。行方不明ということですが、同居されていない?」
「ええ。本人が、未だ歩けるし、と言うので。で、電話の直通ダイヤルに、私どもの電話番号を登録して、受話器を取って、登録番号で呼び出せるように母には教えていました。それと、『電気ポット安否確認サービス』を利用しています。郵便局の『みまもりでんわサービス』利用しています。ああ、申し遅れました。私、単身赴任で名古屋で勤務しています。実家から、私の自宅までは5キロくらいですが、妻も働いておりますので。」
「期日前投票、と言うと、先日の集議院議員選挙でしょうか?揉めていたとか。」
「ええ。恥ずかしながら、妹が10キロ先の市に嫁いでいる妹ですが、宗教関係の団体が押している政党の為に年中活動しています。それで、しつこく母に迫り、『票の確保』の為に期日前投票所に連れて行ったんです。そして、白票で出したらしいんです。電話で笑っていましたけどね。それが、一昨日、『電気ポット安否確認サービス』が不在になり、家の電話も留守番電話になっているんです。妻に様子を見に行かせたら、ポットも、家もカラで、留守番電話には、『みまもりでんわサービス』の受信だけ。妹に連絡取ろうと電話したら、こちらも留守番電話。思い切って、有給休暇使って、上京しました。」
正午。食堂。
「取り敢えず、行って来い、その家に。婆さんはPC使うのか?」
「いいえ。スマホも持っていません。」と、俺は蘭子に応えた。
午後1時。志賀家。
押し入れを確認していた大曲先輩は、布団を子細に見た。
「眩目。鑑識、呼べ。」
午後2時。
井関さん他、鑑識課が徹底的に調べ始めた。
「流石、課長の元カレだ。凄い観察力。」と言う井関に、「井関さん、『凄い観察力』って素晴らしい褒め言葉です、感謝します。」と、冗談を受け流して礼を言った。
布団は敷き布団、掛け布団共に敷布が無かった。
詰まり・・・。
台所の床下収納から、智子が這い出てきた。
「父さん、見つかったわ。酷いオンナね、ホシは。」と、大曲先輩に智子は、あるものを渡した。
「大曲君、決まりだな。さあ、プラス何点かな?ニン!!」と言い、井関さんは笑った。
午後5時半。『親子殺害事件』本部。
取り調べを終えて、蘭子が報告に来た。
「ホシは、志賀雅人の妻、春子。春子は、志賀氏の母きよみと、妹の喜代子が揉めているのを止めようとして、揉み合う2人は転倒、始末に困って、床下に隠した。そして、血痕の付いた、母きよみの布団の敷布を持って帰った。洗濯したが、簡単には落ちなかった。何度も洗ったが、と話していた。秋野くんの話では、真っ白だったそうだ。志賀氏も気づかなかったとか。自白が終って、『憑き物が落ちた』顔をしていたそうだ。尚、喜代子は若い頃、頭の手術をしていて、母親も脳梗塞の経験があった。大曲が見抜いた通り、寝具は万年床だった。」
午後7時。眩目家。
「何度洗っても落ちない、なんて、『マクベス夫人』みたいだね。ところで蘭子。大曲先輩は何点?」
「プラス10点って、メールしておけ。大曲は昔、万年床だった。押し入れにしまうのが面倒だったから。私に言われて、悪い習慣は直った。それで、真っ先に押し入れを確認したんだ。」
「そうか。喜代子さんが脚悪いことは、志賀さんから聞いていたし・・・悪い習慣・・・あ。」
「真吉。子供が生まれたら、いい家庭作ろう。その前に・・・。」
滅多にエプロン着けない蘭子は振り返り・・・。
俺は、唾を呑み込んだ。
ー完―
※『みまもりほっとライン』は、象印マホービンのサービスです。
「通信機能」をもった電気ポットを毎日使うだけで、離れて暮らす親の生活をそっと見守ることができる「安否確認サービス」です。
※「みまもりでんわサービス」は、お客さまへ毎日お電話(ナレーターの自動音声)で体調確認を行う、郵便局のサービスです。 毎日同じ時間帯にお電話し、お客さまがその日の体調に合わせて電話機のボタン1~3のいずれかを選択して回答し、その内容をご家族などにメールでお知らせするサービスです。
※以上は、ネット検索の結果ですが、現在は変っているかも知れません。
※『マクベス夫人』に関しては、シェイクスピアの『マクベス』を参照して下さい。
クライングフリーマン




