115.染まったカーネーション
白いカーネーションの束を自転車の前カゴに積んだ女子高生が、帰宅途中襲われた。刺殺された後、長い髪が、ばっさりと切られていた。
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
赤井悦夫・・・機動捜査隊の警部補。
新垣舞・・・捜査四課課長。警部補。
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
午前9時。花屋の外。
白いカーネーションの束を自転車の前カゴに積んだ女子高生が、帰宅途中襲われた。刺殺された後、長い髪が、ばっさりと切られていた。
通行人の通報で、機捜と鑑識がやってきた。
「父さん、死んだ直後に切られてる。」と、智子が井関に言った。
「辻斬り、かな?」と、赤井警部補は、くびを捻った。
正午。捜査一課。蘭子の机に新垣課長が行くのを俺は見た。
食堂。
俺と大曲先輩がカレーライスを食べていると、新垣課長がやって来た。
そして、新垣課長もカレーライスを食べ始めた。
「大曲。ゆるぎ会、知ってるか。」
「山田組系、でしたっけ?」
「今朝のガイシャは、ゆるぎ会会長の娘だ。ボロボロ泣いてやがった。」
「ヤクザも、人の子、ってことですかね。」
「だな。今回は、はなっからウチと合同だ。調査に行くとき、組のモノが渋ったら、私の名前を出せ。」
「了解しました。」
午後1時。捜査一課横の大会議室。『自転車強盗殺人事件』本部。
管理官は、説明を始めた。
「今回のガイシャは、今泉潤子。ゆるぎ会会長大津明の娘だ。組関係の殺人の可能性はゼロではないが、新垣課長の話では、そのセンは薄そうだ。新垣課長。」
「組の親分と言えど、人の親だ。ガイシャは、大津の愛人の娘だ。認知はしたが、普通に育っている。その愛人は去年亡くなった。殺害現場には白いカーネーションが、赤いカーネーションになって散っていた。組は今、抗争中の相手はいない。ポイントは、長い髪を切っていることだ。」
「予断は禁物だが、案外、そのセンかも知れない。無理矢理切った後の髪の毛は、綺麗な黒髪だ。よくシャンプーのコマーシャルなんかで撮影されるような、染めていない、綺麗な髪の毛だ。くせ毛もない。だな?智子。」
「髪は女の命、ホシは、2つ命を奪ったのよ。」
「いや、3つだな、智子。女子高生だが、妊娠していた。」
「取り敢えず、高校に聞き込んでください、辻さん。村松、女子高生と仲良くなってこい。大曲たちは、彼女の自宅と、組事務所。忙しいな。」
午後2時。クルマの中。
「あれ、嫌味にしか聞こえないんだけどな。面倒な方、先に済ませよう。」
午後2時半。ゆるぎ会組事務所。
「すると、大津さん。普段、一緒に暮らしている訳じゃないが、今日が『母の日』だから、一緒に弔う予定だったんですね?じゃ、花屋さんから、ここに向かう途中で襲われた、と。」
「俺のせいで、死んだのかどうか、不安で。あの子は関係ないのに。」
大津は泣き出した。
「あ、新垣課長からお聞き及びと思いますが、ウチの開光課長の犯罪解決率は9割以上です。野球で言えば、シチローとか、小谷みたいなもんです。」
「そうなんですか。よろしくお願いいたします。」
ヤクザに見送られて、俺達はクルマに乗った。
午後3時。潤子が借りていた、アパート。
立ち番の警察官に挨拶して、部屋を見て回る。
「ヤクザの娘にしちゃ質素ですね、先輩。」
「ああ、確かにな。」
PCとタブレットが1台ずつあったので、俺はタブレットを担当した。
「これ、学校からの配布、ですね。あ。」
「どした?」
「カレシの名前は中家伸吾。『身籠もった』って書いてある。」
「学校で書いて、転送したんだろうな。こっちにもある。ただ・・・。」
「ただ?」
「パパ活してたらしい。大津の小遣いじゃ足りなかったのか。副校長って、教頭のことだよな、眩目。」
「今は、そう言いますね。」
「村松に電話してな、手塚副校長は、お子さんは何人いらっしゃいますか?って質問してみろって言ってくれ。」
俺が村松に電話している間、先輩は、コピーを済ませ、帰り支度を始めた。
午後5時半。捜査一課横の大会議室。『自転車強盗殺人事件』本部。
取り調べ室から蘭子、大曲先輩、管理官、新垣課長が出て来た。
新垣課長は、すぐに出て行った。
管理官が説明に立った。
「ホシは、青葉希望高校副校長、田丸信介。中家伸吾と恋仲であることも知った上で潤子と交際、小遣いをやることで手懐けていた、積りだった、小遣いは公金横領。念の為、DNA鑑定も行うが、と2人の課長が迫ると、頽れた。田丸は、花屋の近くで待ち伏せ、辻斬りっぽくにおわせる為、髪を切った。髪は帰宅途上で川に流した。」
「潤子は組長の娘とは知らなかったらしい。知らぬ存ぜぬなら、組に渡そうか?と言ったら、ちびった。葬儀は、組と直接関係のない、潤子の母親の親族で行うらしい。」と、蘭子が言った。
午後7時すぎ。眩目家。
「秋野は、痛い目にあうな。」
「なんで?」
「母の日を知らなかった。GWのどれかだと、本気で思っていた。」
「それで、村松が傷テープ、沢山、秋野くんに渡してたのか。」
「そういうこと。お前のも、買いだめしておいたよ。」
え?
―完―




