第75話 ログと鍋と団欒と──冬の庁舎は予算でぬくぬく!
王都に冬がやってきた。
気温は下がり、吐く息が白くなり、庁舎のログスキャナーが結露でエラーを起こすレベルの寒さだ。
「……というわけで、暖房費が足りません」
記録庁の会議室にて、俺──高野一朗は、懐炉を握りしめながら呻いた。
「エラー続出。電熱魔石も予算切れ。ユグの“焚き火舞”も限界」
「それ、舞うたびに床焦げてるし」
「床はログじゃないのでセーフだと判断していた」
「いやアウトだよ! 法的にも物理的にも!」
葵が震えながら淹れた温かいハーブティーで少し落ち着いた俺たちは、緊急対策として“庁内あったか計画”を策定した。
──その名も『記録庁・鍋でぬくぬく運動』である。
「ということで鍋、作ります」
「ログ庁が? 真顔で鍋を?」
「公共鍋です」
公的資金で鍋を作る。それを庁舎中央の談話室に置き、誰でも自由に食べられるようにする。
「食費……いや、文化交流費にできるな。予算帳のスミに“団欒支出”って書いておけば……」
「また新しいカテゴリ生まれたー!!」
かくして、葵・クラヴィス・ユグを巻き込んで、記録庁初の鍋イベントがスタートした。
鍋第一号:記録風呂ふう・薬膳ぽかぽか鍋(効果:体温+3℃、眠気-5%、やる気+2段階)
「……これ、完全にRPGのバフ鍋じゃない?」
「いや、効果は本当。記録スキルでデータとってるから」
鍋第二号:魔導ミルクとホワイトキノコのまろやかシチュー鍋(効果:全ログ対象者の発言に“柔らかみ”が追加)
「え、なんか皆の話し方がやたら丸くなってない?」
「ログに“ふわふわ語尾”が混入し始めました」
「……すごいけどなんか怖いよ!」
市民たちも鍋の香りに誘われて自然と庁舎に集まり始め、今や毎夕刻には大行列。
「記録庁って、あったかいねえ……」
「前はお堅い役所かと思ってたけど、これなら相談もしやすいわ」
その日、俺はこっそりログ帳にこう書き記した。
『今日の記録庁:人と情報と、湯気が混じる』
──情報は冷たくない。人の暮らしの中に、熱も笑いもある。
その夜、クラヴィスが言った。
「冬季限定のイベントか? 鍋の記録量が通常時の3倍だ」
「それ、むしろ庁内史上最多イベントなんじゃ……」
そしてユグは、鍋に合わせて“記録ダンス(煮込みVer.)”を考案し、踊りながら湯気で蒸されていた。
「ぽかぽか記録♪ はふはふ記録♪ 記録は愛で煮込もうね〜♪」
「……踊りながら汗だくだし、まるでサウナ」
記録とは、冷静な作業でありながら、時に人を熱くする。




